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しにがみ狩り

「私、どうかしてたかも」

 湯那先輩とは生徒会室で合流する運びとなった。と言っても、携帯から連絡を貰った訳ではない。向こうも俺達を呼びにたまたま近くに居た所を鉢合わせた。

 それとほぼ同時に奇声を聞きつけてやってきた先生と遭遇。この状況だと事情を話すに話せなかったが、相手が陸上部という事まで漏らすと、先輩が生徒会に備品を過剰に要求してくることと併せて先生を説得。


「二人は事情を調べようと陸上部の子を捕まえたみたいで、そこでちょっと拗れたみたいです。隠しているのか、それとも本当に知らないのか。知らないなら、誰が陸上部を騙って生徒会に要望書を送りつけてくるのか。どちらにしても二人に非は無いと思います」


 嘘は全く吐いていない。陸上部について調べているのは事実だし、拗れたのも事実。もう現場を見ていたのかというくらい正確な説明に二人して感心してしまった。これが真実に頭を使うという事なのか。

 後日、その子には先生から聞き取りが入るようだが、拳銃の件は言うのだろうか。そうなったら先輩は守ってくれるのか……ともかく、危機は脱した。呼び出されたのはその後だ。改めて合流する意味は良く分からなかったが、俺も草延とは二人で少し話したかった。

「あれ、何だよ」

「実銃」

「そうじゃなくて! ……銃刀法違反だぞ。何で持ってんだよ」

「『シニガミ』を殺す為よ。他の人に使う気はないわ……ええ。今の所はね」

「話がかみ合ってない! は、犯罪だからな! 俺が庇うと思ってるのか?」

「……命が惜しいなら、庇う筈よ」

「………………絶対、撃つなよ。撃ったらお前の事、許さないからな」

「……許さないって言われても困るんだけど」

 俺の許しなんてどうでもいいと言わんばかり。実際その通りで、生徒会役員と言えども権力はまるで持ち合わせていない。長い物には巻かれろという言葉がるように、少しでも権力があったならこの言葉にももう少し説得力が産まれていただろう。

 社会的抹殺なんてとんでもない。

 良心の有無に拘らず、それを実行する力が無いのだ―――




 ―――で、話は最初に戻る。



「どうかしてたって……俺に言わせると、先輩はいつもどうかしてますよ」

 具体的に言うと、自分を『死神』だと言い始めた辺りから。

「急に悪口を言われて困惑してるんだけど、続けるわね。私、『しにがみ』や死んだ生徒について明らかになるまで水面下で動くつもりだった。それは売人の方の『シニガミ』を刺激しない様にする為でもあったんだけど、本気で見つけようと思ったらちまちま捜査なんかしてらんない! どうしてこんな動きにくい状況でのたうち回らないといけないのかって話よ!」

「……会長には、変える方法が思いついていると?」

「ええ。原因は単純。あまりにも受け身過ぎた! だって考えてもみなさい、『シニガミ』が今まで潜伏して自由にやってきてたのは大々的に問題にしなかったから! 考え方が逆だったの、それに気づいたらもう……さっきまでの自分が馬鹿らしくて!」

「八重馬クン。会長は普段こんな感じなの?」

「いやー……普段はもっと慎重だと思う。どうしたんですか湯那先輩。大胆な発想は結構ですけど、実際問題『ハクマ』の時まで噂程度にしか捉えてなかったんですし、今更大々的にってのも難しいと思いますよ」

「ううん、そうでもない! だから全てが間違いだったのよ、九十。同じ土俵で戦ってたら勝てないに決まってる。勝負の基本は自分の土俵で戦う事。そしてこの学校というフィールドにおいて私以上に利を持つ人間は居ないわ。私がこそこそしたかった理由はさっき言った通りだけど、その理由さえなくなれば私も遠慮する必要がなくなる。わざわざここに呼んだのは、二人に一時的に暇を与えようって思っただけ」

「暇?」

「休暇ね。暫く顔を出さなくていいという事かしら」

「そ。具体的には先生に話をつけて住所を聞きだすのよ。死んだ生徒がいつまでも体調不良で片付けられているのは表向きの理由。だから喜んで協力してくれる筈よ。それでまずは電話で様子を聞くの。家族の反応が知りたい訳ね。それ以降は反応次第だからまだ何とも言えないんだけど、どうよ! この案ならこそこそする必要もなくなるわ!」

 我、天啓を得たりと言わんばかりに先輩は胸を張って自慢げに鼻を鳴らした。要は情報戦をやめて、短期決戦に切り替えようとい言いたいのだ。『ハクマ』の一件で不明瞭になった状況を明らかにし、それを元に『しにがみ』を周知させ、情報提供を呼びかけようとそういう算段なのだろう。

 今に至るまで『シニガミ』は尻尾も掴まれずクスリを売り続けたプロのコソリスト。だがもしこの学校に在籍しているなら、相互監視社会の様になるであろう校内では迂闊な行動は出来なくなる。かといって学校に来るのを辞めようものならそれは炙り出されているのと同義だ。


 ―――なんつーか。事故だよな。


 湯那先輩に限った話でもないが、思索を広げる人間は、殆どの場合素晴らしい発想や考えを教えてくれるが、共通して事故を起こす。考察事故。俗に言えばドツボに嵌まった。


『そんな大々的に捜査したら警察が介入して、先輩も死神の仕事出来ないと思いますけど』


 非常に分かりにくいが、ただ文字列だけを見るなら死神は四つ存在する。


 一つは御堂湯那の正体としての『死神』。

 もう一つは『死神』の存在を知った上で本物とは無関係に殺戮を広げる偽物の『死神』。

 そして草延が追っている、売人の『シニガミ』。

 売人が売っている薬物の、名称としての『しにがみ』。


 二つ目と三つ目が同一の可能性は考えてきたが、まだ確定している訳じゃない。ただ、どちらにしても警察沙汰になれば『死神』として誰かを殺す仕事は行えなくなる。効率よく情報を集める為にと頭を悩ませた結果起きた事故だ。

 先輩は携帯の通知に気づいたらしく、文面を見て、苦笑いしていた。「そういえばそうだったなー」なんて独り言が普通に漏れている。隠したいんだかバラしたいんだかさっぱりだ。

「―――こほん。九十からのちょっとしたアドバイスにより、少し案を修正します。大々的に情報を集めるまでは未定として、一先ず犠牲者周辺の状況把握までは行います。それは私が一人で勝手にやるから、終わるまで二人は休暇。これ命令だから拒否権とかないわよ」

「休暇はいいんですけど、非効率ですよ先輩。俺も草延ももっとコキ使ったっていいっていうか。それがいつもの先輩じゃないですか」

「危ない予感がするのよねー……後輩を護るのも会長の役目よ。ほら、分かったら解散ね」

「分かりました。行きましょう、八重馬クン」

「え、おいちょっと草延!」

 今までのブラック労働に神経でも麻痺したか、俺は割と不満を抱いていた。確かに仕事は辛いけれど、先輩に任されるのは頼られている事の証左で、それは嬉しかった。だからどんなに忙しくても何だかんだで収支はプラスという考えだったのに、梯子を外された気分だ。

 一方で草延は不自然に物分かりが良く。俺を引っ張ると速やかに昇降口まで戻って帰路に着こうとする。

「何だよ急に。お前もゴネた方がいいって。『シニガミ』に会う為には手伝った方が良いだろ!」




「会長を調べる絶好のチャンス」




 そう言えば、彼女は湯那先輩にも少なからず『シニガミ』の可能性があると疑っていたのだった。

「八重馬クン。約束は覚えてるわね」

「―――やるけど。やるにしても一緒に調査してた方が良くないかな? どさくさに紛れてみたいな」

「いいえ。ここは素直に言う事を聞いてフリーになっていた方が良いわ。どさくさに紛れるとは言うけど、一緒に何かしているという事は相互監視の状態にあると言ってもいい。リスクがあるわ」

「…………」

 こういう腹の探り合いみたいなやり取りは苦手だ。そういう状況に陥るだけでも頭が痛くなってくる。単なる所属先でも仲間なのだから、信じようという気持ちはないのだろうか。



 ―――乗った俺にそんな事言う資格は、ないか。



 理性と合理と効率は全て違う歯車で動いている。

 先輩を疑おうとするなんて、と思う反面、疑わないといけない自分が居た。『死神』周りの話がまるっきり嘘なら、事はもっと単純になる。単純になってくれるならその方が分かりやすいからという理由で疑う。



 ――――――はあ。



 自己嫌悪はこのくらいにしておいて、切り替えよう。せっかく暇が出たなら、草延との約束もそうだが、もう少し彼女の事を知ってみたかったりする。早い話が仲良くしたい。先に重大な秘密ばかり共有しているけれど、お互いまだ何も知らないだろうから。

 



 

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