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第二回裏生徒会議事録

 本目的は達した。

 後は速やかに撤退するのみで、実際備品がどうのという問題はどうでもいい。『しにがみ』が発見された今となっては些細な事だ。

「一応、成果を聞きましょうか」

 生徒会室に戻った俺達は早々に鍵を掛けて、裏生徒会としての活動を開始。だが放課後の部活が盛んな時期はまだ他の生徒も居るので本格的な活動はまだ開かれない。飽くまで今は生徒会活動の合間で動かしている程度だ。

 草延は部員から聞き取った内容を纏めていた様で、口頭と共にそれを提出する。


「そもそも足りない備品……いいえ、生徒会に提出された要望書に書かれた備品はいずれも不足していませんでした。仮に不足していたとしたらそれは完全主義……例えば、三角コーンが少しひび割れているから、一個使えないくらいの認識だと思われます」

「ひび割れたくらいじゃ使いますよね、うち」

「そうねー。割れて断面になった物を使い続けるのはあれにしてもひび割れてるくらいなら別に使うわね。どうしても気になるならテープでも貼るでしょう。そもそも顧問が把握してないって時点でおかしな話だったけど、これでハッキリしたわね。ちゃんとした提出の仕方をしてないのだってそう。第三者が陸上部を騙ってずっと入れていたのね。それで今年から多くなってるって話はしたわよね。つまりこれは今に始まった事ではなく、前から続いてた……『ハクマ』の話よりも前からね」

 ホワイトボードのタイムラインが更新される。正確には先輩の仕事が俺にバレた日なのだが、草延がいる手前、そうとは言えないもどかしさを感じる。一瞬視線が合ったのもそういう事だろう。


 ―――まあ全部間違いって訳でもないけど。


 『ハクマ』の件で俺達は『しにがみ』の現物を発見した。それは今、俺の胃の中にあるかとっくに消化されているけど、存在を確認しているのと伝聞とでは大きく違う。だから草延も積極的に協力してくれているのだし。

 そして今回も現物を入手した。この事から示される仮説は一つ。

「……誰かが陸上部を調査して欲しかったとか、ないですか?」

「―――それくらいよね、考えやすいのは。実際それで違和感を持てたし。問題はそこにどんな目的があったか」

「素朴な疑問なのですけど。その情報提供者は……『しにがみ』の情報を握ってたのではないでしょうか。だから、自主性のありすぎる会長に調べて欲しかったとか」

「いや、草延。それは考えにくい。湯那先輩はちょっと前までそういう噂としか認識してなかったからな。最初から問題になってて糸口を見つけようと思ってたならともかく。現に『ハクマ』まで判明してない」

「意見箱は私が就任してからそれなりに機能をはたしているわ。それでいて今まで破壊された事はない。意見箱を回収するのは九十の役目だったから、何処かで掠め取られたとか、内通者って線もない。生徒会人手不足問題は新入生でもないなら有名な状態だったし、本当に『しにがみ』について調査して欲しいと思ったら、直接その事を意見箱に入れるべきよ」

 普通の生徒会構造なら、誰かが内通しているかもと人間不信に陥る所を、致命的な人手不足がその問題を回避していた。そこまでは頭が回っていなかったというか、先輩さえ意識していなかっただろう。俺の過重労働にも意味があったのだと思うと報われた気持ちが……


 ない。


「じゃあ陸上部を調べさせたかったのには、別の理由があったという事かしら」

「それも微妙だと思うなあ、意外と単なる嫌がらせって可能性の方がありそうだ。ほら、ミステリーとかだと殺人ってやたら凝ってるけど、実際はカッとなったとかの動機の方が多いだろ」

「あら、九十って現実的な話をするのね。それを言い出したら十か月以上そんな嫌がらせを延々と続ける方が不自然だと思わない? 二月の予算案で陸上部から何も無かったから、今日という日まで取りあってないのに」

「荒らしはスルーするのが鉄則……ネットの良い文化ね」

 うんうんと勝手に納得する草延。一人置き去りにされる俺。だけど誰かに嫌がらせをしようと想像した場合、何より効くのは善意の第三者―――出来れば権力があればいい―――に干渉させる事だ。御堂湯那会長はそういう意味では最高最強の権力者。利用出来るならそれに越した事はない。

 現実は一切取りあってくれなかったので、どんなに我慢強くても半年も同じ状況ならそろそろ別の方法を模索してもいい筈だ。

「…………なんかこれだけだと情報が足りないんで、そろそろこっち側の話題を出しても良いですか?」

「ん。許すけど。ちょっと待ってね」

 先輩は草延に向けて手話で『外を見てきて』と伝えると、彼女は音もなく立ち上がってそろそろと扉の前へ。最小限の音で扉を開けて、きょろきょろと廊下を見渡す。暫くしたら扉がまた閉じて、指で〇マークを作った。 

「で?」

「ハクマ事件のその後ですよ。俺も聞いてますけど、それと合わせて何か思いつかないかなって」

 『ハクマ』の存在を巡った事件で、最低でも波津、藤里、青木田、根木が死んだ。それよりも前に湯那先輩が界斗を殺害したので死者は五人。

 その内波津、藤里、青木田、界斗は体調不良で欠席という名目が続いており、家族がどんな反応をしているかは定かではない。根木は部長が行方不明になったという事でオカルト愛好会は一時的に活動休止を余儀なくされている。ただ聞いた話ではむしろやる気自体は上がっているらしい。お化けは実在する証明だとか何とか。

「『ハクマ』が偽装をやめて逃げたから、根木に関して言い訳は出来ない……この件はそこから追及して行けそうだけど、これと陸上部に何か関連性があるかって言うと」

「吹奏楽部の鏡の件とか、トイレの窓とかどうなりました?」

「誰も心当たりがないから、迷宮入りよ。ま、変に蒸し返して話の規模が大きくなるとこっちの想定外が起きる可能性があるしね。まあ犯人捜しなんて時間の無駄だし、そっちはいいわ。トイレの窓なんて犯人は九十だし」

「……、関連性、無いとは言い難いんじゃないと思いますけど」

「へ?」

 草延はホワイトボードにタイムラインを加えたが、そのタイムラインはまるで出鱈目だ。ハクマの件と陸上部の件には見た所関連性がないのに、関係性を繋ぐかのように二つを線で結んでいる。

「『ハクマ』事件における行方不明者の客観的な扱い方、及び吹奏楽部の鏡とトイレの破損。これらに関連性がないのは事実ですが、それは私達の間でだけ発覚している事です。鏡も窓も時間の無駄だと言うなら、それを名目にすれば昼も動きやすいと思いませんか?」

「嘘でうまく立ち回るって訳? うーん……私はあんまり上手くなさそう。嘘って辻褄合わせるのに頭使うじゃない。私、自分でも頭の良さはあるって思ってるけど、嘘なんて形のない物に肉付けしてたら何か決定的な事が頭から抜け落ちそう。単なる隠蔽工作なら嘘だって吐くけど、こういう時はあんまり使いたくないわね」

「え? でもその割には湯那先輩―――」

 校内の三人を捕まえる時、明らかに嘘を吐いて動いていた様な。

「あのね、意味があるかないかは重要なの! 名目上でも何でも、ちゃんとやるべき理由があるならそれでいいの。実際、表向きの仕事を隠れ蓑にばかりしないでちゃんとこなしてるから信頼がある訳でしょ。草延さんの案だと最終的な解決は出来そうにないから嘘を吐きたくないの。上手く事を運びたいなら真実に頭を使う事。だからその案、黙認はするけど私は協力出来ない」

 二人の主張と話の進め方を整理しよう。


 湯那先輩は陸上部の一件とこれまでの騒動には関連性がないとし、無理に調べる事は出来ないとしている。

 一方で草延は無関係な騒動を盾に、自由度高く動き回ろうと提案している。


 対立というよりは意見の相違だ。最終的には『しにがみ』に関係のある情報があればいい。事件の概要と中身を見て、一見すると本当に関係性のない物を繋ぐ要素。それは何処だ?

「…………先輩、アレを出してください」

「アレ? ……あ、はい」

 机の上に提出された小袋と、その中にある二つの錠剤。その名は『しにがみ』。俺が服用し、草延の家族を狂わせた元凶。顔を顰める彼女を尻目に、俺はもう一度思考を展開した。


 二つの事件には『しにがみ』が絡んでいる。


 陸上部のあれこれを事件と呼ぶのはおかしいが、便宜上そう呼ばせてもらう。俺達は今日、部室の中からこれを見つけた。同じく『ハクマ』事件では先輩がトイレでこれを見つけた。『しにがみ』に繋がる情報を探すからおかしくなるのであって。『しにがみ』その物がこの二つを繋いでいる要素ならば?

「……『しにがみ』について聞き込みをするのはどうですか?」

「それは……どうなのかしら。勿論、直接的ならそれだけ情報は得やすいけど、『しにがみ』を売ってる奴が校内に居たら警戒させるんじゃない?」

「それでいいんじゃないかなと思います。今日、俺と先輩は部室のバッグからこれを取りましたよね。って事は少なくとも部員の二人はこれの存在を知っている……可能性が高い。まずはそこからです。もしかしたらたまたまバッグに入れられていただけかもしれないですから」

「……つまりこういう事ね。『しにがみ』という言葉に反応して私達に返却を求めてきたら、その人は『しにがみ』についてある程度知っているし、故意に所有していたと分かる。もしかしたら売人の方の『シニガミ』とも面識があるかもしれないわね」

「それいいわねっ。じゃあ早速だけど―――」

「ちょっと。待ってください。言うタイミングを逃したので、ここで提出させてもらいます」

 不自然なタイミング―――話が煮詰まっていたのでどこで切り出しても不自然だが―――で草延はポケットから携帯を取り出した。それはあの日、トイレで拾った携帯。暫定的に波津の物とされていたが、そう言えばこの報告は聞いていなかった。

「中には藤里君からこの薬を受け取ったっぽい記録が残ってて。写真フォルダには―――その。見た方が早いですね」

 携帯を開いて、写真フォルダを広げる。





 中には一万枚の自撮り。





 無表情にカメラを見つめているだけの写真が、それだけ重なっている。連写機能を使えば誰でも出来る事だが、好きこのんでこんな事はしない。真性のナルシストであっても、もっと自分が映えるポーズを取るだろう。

 これはただ、見つめているだけだ。



「それと、本人が未開封だったっぽいから『シニガミ』には繋がりませんが、捨てメアドでこんなメールが届いてました」









『アナタは、シアワセですか?¿」




 

   

  

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