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視えないもノの三ヵta

 少し休憩を挟んでから、オカルト愛好会の部室へ。

 活動実績の残る部活は支援もされやすければ外部からの評価も望める。その実益故に所属人数も多いが、これらがない部活はというと部活が丸ごと幽霊になってしまって目立たなくなる。オカルト愛好会はその筆頭ながら、筆頭なので括りの中では活発という不思議な状態になっている。

 人気投票最下位はネタにされるが、下から六番目くらいはネタにもされない、みたいな状態を想像してくれればいい。

 最初に確認した様に鍵は開いており、『ハクマ』と思わしき何かが扉を塞いでいる訳でもなかった。

「まずは閉まってなくて何よりね」

 評価も支援もない部活に貸し与えられる部室は小さなものだ。昔は放送室の物置として使われていた教室は掃除が行き届いているとは言い切れない。幾らか詰まれた段ボールの中には多くの人にとって無価値なオカルト関係の資料が入っている。棚の中には却下された備品購入申請書があったり、今回の件とは無関係にちょっと面白い。

 学校備品として燭台だの藁人形だの買える訳ないのに。

 先輩の指示を仰ぐまでもなく三人は各々で部室内を捜索しはじめた。目当ては『ハクマ』に関する文書。実益はないと言った手前矛盾するが、今夜に限っては有益すぎて却下された申請も通したくなる。

「因みに、私がハクマについて聞いたのは部長ね。根木正徒ねぎまさとがフルネームだったかしら」

「名前は知ってるわ。これでも生徒会長よ」

 部活動から活動報告だったり、申請なりを受け付ける役割は生徒会長だけの役割ではないと思うのだが、メンバーが俺と先輩の二人しかいないのでその仕事量は過多も過多。最低でも四人は欲しいなと自分でも思う。

 『トイレの花子さん』やら、『口だけ女』やら、『きのこジジイ』やら。知っていたり知らなかったりする情報ばかりまとまっている。多くはこの学校や近辺の噂らしい。ご丁寧に目撃場所まで書かれており、中には意味もなく検閲されている文書まで。

 誰が見るんだよ。

「…………あった。二人共これを」

 草延に群がるように覗き込む。ハクマの資料は何ページかにまとまっている様だ。



「……ちょっと?」



 先輩の責めるような声は、誰に向けられたものか分からない。反応に困って二人して無視すると、更にもう一言。

「話が違うじゃない、草延さん」

 彼女のそんな物言いが伝わる頃には俺達も疑問に思っていた。間もなく答えは出たのだが、だからって、それを気づけというのは難しい話だ。最初からオカルトに精通している必要があった。


『ハクマは怪異としては珍しく昼間にも目撃情報のある存在であり、奴等は二人きりになった状況でのみ姿を現すとされている。目撃情報の多くは目撃者が孤立していた時だ。自分の姿を一度でも見た人間に擬態し、その人を殺す事で人間として溶け込んでいるらしい。高い音が苦手で、聞くと逃げていくらしい』


「……おい。じゃあ擬態してるハクマって」

「……私は、本人に本人の説明を求めたのね」

「鏡というよりは音だったのね。姿が見えないのは二人きりじゃなくなったからかしら。らしいらしいって伝聞っぽいのはしょうがないのかな……でもこれ、どうやって対処するのよ。逃げていくじゃ駄目なんですけど」

「あれがハクマなら、本人はもう死んでいるのでしょうね。本人はもう、居ないのでしょうか」

「波津君も藤里君も消えたから無理でしょうね……消えた……消えた……」

「どうしたんですか? 別に引っかかる様な事じゃないと思いますけど」

「…………なーんか、視えないものばっかりで気に喰わなくなってきただけ。一方的な暴力は生徒会長として看過しがたいわ。こういうお化けって対策があるのが普通だと思ってるんだけど、まさか本当に無いの?」

「…………ちょっと待ってください。じゃあ音楽室の鏡が事前に割ってあったのは、ハクマへの対処って訳ですかね」

「昼間にも居るなら、状況としてはあり得るわね。少なくともその人はハクマへの対処法を知っていた事になるから……愛好会の関係者かしら」

「かー! なーんか別々のパズルのピースを集めてるみたい! 考えても全然かみ合わないのってこんな気持ち悪いのね! 何でこんな合わないんだろ。ハクマの真の性質が分かっても、波津君の最後の言葉と全然一致しないのよね。おかしな言語の使い方をする三人とも繋がらないし、あーもう全然わかんないーーーーー!」

 先輩だけが殊更に喚いているが、気持ちは良く分かる。何もかもが微妙にかみ合わない。別々の物事の情報を集めているみたいで、合わないピースを横に並べても隙間が生まれるから、そこが気持ちよくない。

 いや、俺の場合は不安になる。継ぎ接ぎしようのない情報の連続は、果たして己の行動の意味にも疑いがかかってくる。今までやった事が徒労だったと思うと、途端に全てが面倒くさくなって、生きる気力も失せてくる。

 草延が顎に手を当てて、気になった事をぽつりと呟いた。



「奴等という事は。複数居るのね。それが確認出来るなら、やっぱり視る方法があるんじゃないかしら」



「………………ちょっと、試していいか?」 

























 また、誰も居ない場所に取り残される。

 二人きりという条件を揃えて、再調査だ。俺の推測が正しければ、これで何かが変わるとは思う。ただ、後で間違いなく非難を浴びる。

 湯那先輩の言う通り、これまで集めてきた情報は繋がったり繋がらなかったりする。ただ、情報には鮮度があり、どうしても個人差は生まれてくる。

 分かりやすい所では草延と先輩の情報差だ。先輩は草延の家族が『シニガミ』に壊された事を知らないし、草延は先輩が『死神』である事を知らない。

 今度は鮮度故の個人差。あの時、俺は一人だった。


 鏡の割れていない一階の男子トイレで、壁を背にして入り口を見遣る。緊急回避手段は残ったままだ。そして予想が正しければ、ちゃんと俺を狙ってくれる筈。


 ハクマは一体何を欲しがっていたのか?


 青木田を撃退した後に草延に攻撃をした所から、携帯と考えた方が自然だった。しかしその後で殺されかけたのはやっぱり俺で、そこにはどんな違いがあったのか。

「…………………………」


『かなり前に、たまたま噂で聞いたの。姿形の分からない売人『シニガミ』は、悩みある青少年にのみシアワセを与える。その薬はそのまま『しにがみ』って呼ばれてるわ。服用した人間は幸せになれるとも言われてるし、必ず死ぬとも言われてる。服用したと思われる人物が必ず行方不明になるから成分も不明』


 二つに一つ。正に今の俺の立場その物だ。ここを生き延びなければ死ぬし、役に立たなくても殺される。先輩に殺されるとするならそれでも良いけど、殺されないで済むならそっちの方がいい。


 パリンパリン!


 鏡がひとりでに割れた瞬間、躊躇いを捨て、『しにがみ』を飲み下した。

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