彼女の可愛さが天才的すぎる件。
「倉田、どうすればいい?」
「何がです?」
いつものお昼休み。社内食堂での部署の先輩である大河原先輩のその問いかけに、私はつい反射的にそう聞いてしまって、すぐ後悔した。
この後に先輩が言うのは決まっている。
「俺の彼女......可愛すぎる......」
先輩は自分で頼んだ食事には手をつけず、真剣な表情で私にそう伝えてきた。
またか。今日もまた先輩はあの彼女の話をするのか。
この先輩、彼女を溺愛している。可愛くて仕方ないらしい。
少し分かる気もする。先輩が語る彼女は、聞いている私も可愛いと思う。
先輩は今日もまた彼女の可愛さを語るために口を開いた。
「昨日の事だ。いつもどおり、俺は風呂に入った」
「はあ......」
「風呂から上がると、彼女、どうしたと思う?」
「さあ?」
「ドアを開けたら、背中を向けて座っていたんだ! 声を掛けても反応してくれない!」
「はあ」
「俺が少しの間離れてて、寂しくなって拗ねてたんだよ!」
ダンッと先輩がテーブルを腕で叩きつけた。
「か、可愛すぎるだろ......ちょっとの間、離れてただけなんだぞ? それで拗ねるとか」
悶えているみたいだ。「しかも」と先輩は言葉を続けた。
「その後がやばかったんだ」
「はあ」
「俺は彼女に謝った。土下座して謝った」
「はあ?」
「だってそうだろ? 俺が離れたせいで寂しい想いをさせたんだぞ。罪悪感で一杯だった」
「さようで」
「そうしたら彼女、どうしたと思う?」
「さあ?」
「許してくれて、俺の膝の上に座ったんだ! さらに上目遣いで見つめてきたんだよ!!」
先輩はその時のことを思い出しているのか、打ち震えているようだ。
私もついその様を想像して、それは確かに可愛いかもしれないと思ってしまった。
「か、可愛すぎるだろぉよぉ! 天才! あの可愛さ、天才!」
どんどん先輩の口調がヒートアップしてきた。
「もうやばい! 全部の仕草が可愛いんだ!」
「はあ」
「さらにコテンと頭を預けてきて、無言で見つめてきたんだぞ!? 縋るような目をして! もう俺無理! たまんないだろ!」
分かる。確かにそんなことされたら可愛いよね。打ち震えるよね。
私は箸を止めて、ジトっと先輩を見つめる。
でもさ、先輩。
「先輩......ペットの猫ちゃんが可愛いのは分かりますけど、いい加減、人間の女性に興味持ったらどうです?」
さすがに毎日聞いていると、飽きます、先輩。
けど先輩がきょとんとした顔を向けてきて、これは無理だなって今日も思った。
お読み下さりありがとうございます。
最近、猫の動画を見て、その可愛さにやられている作者です。
空行は1000文字に含まれるか分かりませんが、書いて良かったとは思っています。1000文字にまとめるのは難しいと知れたので、いい勉強になりました。