第九話 電話が甘すぎる
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ツブヤイッターの漫画でありそうなふと糖分欲しくなった時に気軽に読める作品を目指しています。
「池木くん!」
サッカーのあの日から暫くして、僕は吹井田さんに呼び止められた。廊下で良かった。
教室だと何事かとみんなに思われるし、また、兜に絡まれることになる。
「は、はい! なんでございしょうか? 吹井田さん」
「なんで、敬語? へんなの」
吹井田さんが笑っている。かわいい。
吹井田さんは僕より背が低くて、小動物みたいだ。かわいい。
そして、ストロベリーブロンドの髪がとても綺麗でつい見とれてしまう。かわいい。
吹井田さんは笑い終わると、急に真面目な顔になって言った。かわいい。
「重要な話がございます」
いや、吹井田さんこそ喋り方おかしくない?
「最近、やはり、また耐性がついてきているような気がするのです」
「はあ」
「なので、新しい刺激が必要ではないかと」
「はあ」
「なので、今日は放課後のあれはなしにして」
「ええ!」
それはちょっと、悲しい。
「ああ!誤解しないで!あのね、お電話でお話しませんか?今日の夜」
はあ?
でででででで電話!?
僕と吹井田さんが!?
「だめ?」
「いやいやいや!え?いいの!?」
「勿論!だって、電話越しの声ってなんかそれはそれでよくない?」
「はい(美声)」
とってもいいと思います。
「よかったー。じゃあ、連絡先交換しよう」
嘘みたいだろ……僕の人生初の女子との連絡先交換が吹井田さんとなんだぜ……。
僕らはスマホを取り出した。
お互いの連絡先を交換するだけなのに、なんか手が震える。
すると、彼女はクスッと笑って、スマホを近づけてきた。
ああ、近い! 心臓がバクバク言ってるのが聞こえるんじゃないかってぐらいドキドキしている。
「はい、登録完了!」
「あ、ありがとう」
「こちらこそ!」
「……」
「……」
沈黙。微妙な空気が漂う。え? どうしたらいい、これ。
「じゃ、じゃあ、今夜よろしくねー」
そう言うと、吹井田さんは逃げていった。
僕は今ベッドの上で悶絶していた。
うわあああああ! 女子と電話だと! しかも吹井田さんとだと!? やばい!
吹井田さんと約束した時間はもうすぐだ。
放課後ダッシュで帰宅し、スマホの前で正座待機してたら、吹井田さんからメッセージが来た。
その時間を確認し返信し宿題もお風呂も夕食も済ませ、正座待機。
スマホが震える。慌ててとる。
「も、もしもし!」
「と、とるのはや! ……こんばんは、池木君」
「あ、こ、こんばんは」
電話越しの吹井田さんの声。
いつもより大人っぽくて、少し艶っぽい。家にいるせいかな、ちょっと落ち着いて聞こえる。これが噂に聞くスマホから聞く声か……。やばい、すごい緊張してきた。
「池木君、大丈夫? 声上ずってるよ?」
「あ、うん、ごめん、ちょっと、その、電話、初めてで」
「あはは! なにそれ!」
吹井田さんは笑っているようだ。かわいい。
「あはは! あーおかしい! あはは!」
「わ、笑いすぎだよ!」
「だって、電話したことないって、あはは!」
「あ、あー、じゃなくて! あの女の子と電話したのが初めてで」
「え……?」
ヤバい! 引かれてる!?
「あ、あー、そうなんだー」
引かれてるぅうう!
「ふふ、そうなんだー」
笑われてるぅう!
「あ、あのう、もうやりませんか?」
「あ、あー、そうだね。ごめん! で、でもね、今日はね、ちょっと前振りがありまして」
前振り?
「ど、どういうこと?」
「あのね、ちょっと電話でお話してから言って欲しい甘い一言なので、その、暫くお話しませんか?」
「ぐふう!」
「ぐふう!?え?だ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……ウチで飼ってるグフがちょっと暴れただけだから」
「そ、そうなんだ……で、どうかな?」
断る理由があろうか、いや、ない(反語)
「全然問題ないよ。」
「ほんと、よかったー。じゃあ、なんのお話しよっか」
その後、僕は吹井田さんととりとめもない話をした。
お互いの家族の事とか、好きな食べ物の話とか、趣味についてとか。
そして、僕は用意しておいた、彼女の名前にちなんで、いちごのスイーツが好きだというトークを切り札として出すと、吹井田さんはとても喜んでくれた。
「あー、楽しい。こんなに楽しくお話できるなんて幸せだなあ」
「あ、あのう、こんな事聞いてよいのか分かりませんが」
「なに?」
「吹井田さんは、その、男子とこういうお話よくされるんでしょうか?」
つい、聞いてしまった。何を嫉妬しているんだ、このクソモブ野郎!
「え? やだ! 誤解しないで! ないない! 初めて! 今日も兜君に連絡先聞かれたけど、うまく断ったよ! いや、断ってくれたよ、ようちゃんが」
「そ、そうなんだ」
「池木君がはじめてだよ」
あれ? 今日僕しぬ? しあわせすぎなんだが?
「そ、そうなんだ……」
「はい……」
沈黙再び。会話が続かない。どうしよう。何か話題を。
「あー、じゃ、じゃあ、そろそろいきますか」
「行く? どこに? 今から会いに来てくれるの?」
「いや、そうじゃなくて! あの、甘い言葉の!」
「あ。あー、そうだねー。も、もう大分時間たったもんねー」
え? 吹井田さん忘れてた?
「えーと、じゃあね、言って欲しいのは……」
え? 吹井田さん、マジで言ってる?
僕は吹井田さんの提案を聞いて固まる。
「そ、それ言うの?」
「だめ?」
吹井田さんそれ反則ー! 声が可愛すぎて脳内吹井田さんが上目遣いで近距離で見てくる。
実際はこんな近づけないけど!
「わ、わかりました」
超絶気障なセリフだ。もうこれはなりきるしかない。
僕はアニメの少女漫画にいそうなやさしげ王子様を思い浮かべる。
そして、
「『辛いな……』」
「え……?」
「『電話越しじゃ、君を抱きしめられないから……』」
4ねぇええええええええええ!
56してくれぇえええええええ!
恥ずか4ぃいいいいいいいい!
悶絶し、吹井田さんにバレないよう転がる僕。
ヤバい、恥ずかしすぎる! 顔真っ赤になってるよ絶対! 吹井田さん引いてないかな!? 恐る恐る、吹井田さんの反応を待つ。
電話越しの吹井田さんは無言で何かばたばたと音が聞こえる。あと、うめき声。
「え! ふ、吹井田さん大丈夫!? なんかうめき声が!」
「あ……あー! 大丈夫! 大丈夫! あの、うめき声は……箪笥の角に小指をぶつけて……」
「それは痛い!」
「うん、すごくいたかったのです」
なんで急に語り口調?
「えーと、もし、大丈夫なら僕のもよいでしょうか」
「うん! なになに!? えへへ」
テンション高いな! 小指ぶつけて壊れてない?
だけど、僕の指定した言葉を聞くと、
「え? それでいいの?」
と、あっけらかんと言われる。
いや、僕としては電話で聞ける言葉でこれ聞けたら嬉しすぎてしねると思ってたんだけど。
「え? うん、是非」
「……そっか、じゃあ、言うね」
僕は、吹井田さんの言葉を待つが。
あれ?
何も言わない。
「ふ、吹井田さん?」
「あ、ご、ごめん! 言うね! 言います! 言います! じゃあ……」
再び僕は吹井田さんのスマホ越しの甘い言葉を待つ。
「今日はね、池木くんの声が聞きたくて電話した、ほんとだよ」
しあわせすぎる。僕の唯一の自慢、声。
これを褒められる、自己肯定感マックス!
しかも、なんだろうか。吹井田さんの演技力上がってない?
すっごくリアルだったんだけど!
「あ、ありがとう! すごくリアルでよかった!」
「え? あ、うん」
「えっと、じゃ、また明日学校で」
「え?」
「え?」
「え?もう終わり?」
何その反応ぉおおお! かわいいんですけどぉおおおお!
「あ、ご、ごめん! まちがえた! じゃあ、終わろうか! ありがとう! お、おやすみ!」
「あ、おやすみなさい」
そして、電話が切られる。なんだ、すごかったぞ……。
ありがとう、グラハムベル、だっけ?
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