第六話 廊下が甘すぎた
「うえへへへへへへへええええ」
「いちご、キモい」
ようちゃんが酷いことを言う。
でも、まあ、許してあげよう。
だって、
『今日もかわいいね』
って、池木くんが言ってくれたから。
いや、まあ、わたしが言わせたんだけど。
けど! そのあとの、
『でも、髪型いつもと違ってもっとかわいいかも』!!!!!
はああああああああああああああああ!
好きすぎるんですけど!
わざわざアドリブで追加ボイス、助かる~!
そう、わたしはもう無敵状態だ。
だから、何を言われても平気なのだ。
今日は駄目かもなと思ってた。
大体昨日のわたしがうかれすぎていたのだ。
昨日よしよしされて、調子に乗り過ぎた。
ちょっと誰かに見つかるかもなー、見つかっちゃうかもなー、見つかってもいいかなーっと思って、書いてしまったのだ。
廊下ですれ違いざまに、『今日もかわいいね』って言って下さい
なんか昨日の夜はすっごいイメージ出来てて、一人できゃあきゃあ言ってた。
なんかテンション上がって髪もいつもしない髪型にしちゃった。
だけど、冷静になって考えた。それはハードル高すぎでは?
ただ、廊下で言えばいいだけだからなんて思ってた自分を殴りたい。
「いや、出来るわけないじゃん。だって、付き合ってるわけじゃないんでしょ」
お昼休みに事情を知ってるようちゃんに話して呆れられた。
「いや、でも、もうこれは実質付き合ってると言っても過言では……」
「過言だね、過言」
「ええ?」
「だって、別に付き合ってるわけじゃないんでしょ? 好きって言ったわけじゃないんでしょ?」
「言ったもん……」
「台詞でね。池木の事はクラス前から同じだったし知ってるけど、アイツ自己肯定感皆無よ。どうせ、『声だけの関係だろうな』とか思ってるよ」
「ええ!? そんな身体だけの関係みたいな……」
「まあ、それは大分違うけど、でもまあ、似たようなもんか。恋愛感情がない以上」
「あるよ!」
「向こうは知らないでしょ!」
ようちゃんが冷たい……正論パンチが強すぎる……。
「でも……言って欲しいんだもん……」
「アンタの夢見る乙女っぷりは凄いね。……でも、まあ、池木もいちごの大嘘に付き合ってる位だし、まあ、かわいいし、いけるだろうけど、このままがしばらく面白そうだしなー」
「え? なになに? なんて言った?」
ようちゃんが何か言ってたけど、ぼーっとして聞き逃した。脳内反省会し過ぎた。
それから、池木くんがなんとか言えるようにチャンスを探し続けた。
放課後前の最後の休み時間、わたしは最後のチャンスに望みをかけて、休み時間に入って、池木くんが今日何回目かっていうくらいのトイレに行った瞬間、ダッシュで教室を出た。
兜君が何か言ってたけど、急いでたから聞こえなかった。
ごめん、兜君。今は、池木くんが優先。
下の階に下りて、逆側の階段に回り、上がって教室に戻る。
これで、同じ階の人たちはわたしがあっちから来ても不自然に思わないだろう。
それにしても、池木くん今日何回目のトイレなんだろう。
もしかして、わたしと廊下ですれ違う為に何回も? と思ってわたしも毎回廊下を歩いたけど、毎回、スルーされた。
間に合った。
池木くんがトイレから出てくる。
「池木くん!」
思わず声をかけちゃった。
でも、池木君はわたしをみるとこっちに向かってずんずんと歩いてきてくれる。
うわあああああああああ。
うわあああああああああ。
池木くんが近づいてくるんですけど。
隣に来て、あ、やっぱり池木くんって背が高いなあと思ってたら、急に屈んで、
「『今日もかわいいね。』でも、髪型いつもと違っててもっとかわいいかも」
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
言われたああああ! 廊下で言われちゃったああああ!
声、ほんとかっこいい! 好き! え、待って、好き!
これはマズいぞ。
どうしよう。
にやにやが止まらないぞ、どうしよう。
「あー! どこ行ってたの? いちごー! どしたー? にやにやしてー」
向こうからようちゃんが声を掛けてくれる。
ようちゃーん! 聞いてください!
「ようちゃん、大変だよ、池木くんが言ってくれたよ」
「いや、顔見たら分かるし。よかったね。あ、でも、あの病気って池木もなんだよね? なんか言わなくていいの?」
あ! そうだ! 言わなきゃ!
今日は決めてたのに、言いそびれた嬉しすぎて忘れてた。
わたしは慌てて教室の前で髪を直しながら池木くんを待った。
池木くんはぎりぎりで帰ってきた。
なんか曖昧な笑顔で通り過ぎようとする池木くんにわたしはちょっとつま先立ちになって、
「池木くん、今日もかっこいいね」
と、伝えて、急いで席に戻った。
池木くんは立ちっぱなしで、先生に怒られて、注意されてた。
ごめん、池木くん……。
放課後、今日はもうないよね、と思い、廊下に出る池木くんを見る。
でも、せめてもうちょっとだけ。
そう思ったわたしは、池木くんを追い抜いて、振り返って小さくバイバイした。
池木くんは驚いてたけど、その顔もかわいかった。
「うえへへへへへへへええええ」
「いちご、だからキモいって」
ようちゃんがまた酷いことを言う。
でも、まあ、許してあげよう。
甘い気持ちで満たされたわたしは無敵状態だから。
その日の廊下はなんかすっごくふわふわしてた。気のせいかな。うへへ。
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