第五話 廊下が甘すぎる
次の日の事だった。
教室に入り、席につき授業の準備をしていると、何かカサリと手にあたる感触。
折り畳まれたピンク色の紙。見つけた瞬間キョドる池木翔斗。
バレないようにこっそり開くとそこには吹井田さんからの甘い言葉の指定が。
げべろぐべらどらあああああああああ!
吹井田さんは一体どういうつもりなのか?
視線を送ると、にこーっとした吹井田さん。
いや、にこーじゃないんだわ。
ハードルが急激に上がっている。
吹井田さんに甘い言葉を言うのは構わない。好きだからね!
けど、今回のはハードルが高い!
なんせ、放課後じゃないのだ。タイミングを見て言わなきゃいけないのだ。
僕がそんな事が出来ようか、いや、出来ない(反語)
モブな僕では絶対無理!
一時間目が終わり、僕はトイレに行く。
ヤバい、落ち着かないとすっげえトイレが近い。
トイレから出ると、吹井田さんがこっちに向かって歩いてくる。
だが、吹井田さんはお友達と一緒だ。
僕は吹井田さんのキラキラした瞳を避けながら、教室に戻った。
そして、午前中の休み時間はうまくいかず、お昼休みもうまくいかず……。
吹井田さんの視線が痛い。っていうか、そんなに僕を見てて大丈夫なんだろうか。
「おい、池木、お前吹井田さんに、睨まれてるぞ。どんだけキモがられてるんだよ、お前ー」
流石にみんなも気づいたらしいが、一番厄介な兜が絡んでくる。
肩組んで耳元で囁いてくるな。お前のだみ声は心臓に悪い。悪い意味で。
「え? ああ、そうなんだ?」
「そうなんだ、じゃねえよ。いいか、最近大人しくなったのは褒めてやる。そのまま、息ひそめて過ごせや」
はあ、なんでアイツ、俺を目の敵にするんだ?
まあ、アレ以来なんかされることはほとんどなかった。それでいい。
別にやりたくてやったわけじゃないから。
所詮、モブ、いや、モバー(比較級・当社比)な僕だ。
だけど、吹井田さんとの関係は出来れば続けたい。
アレだけで僕の学生生活は最高になる。
けど、
「じー--------」
今日その関係が終わるかもしれない。だって、今日のは難しすぎるよ! 吹井田さん!
そして、とうとう、放課後前の最後の休み時間。最後のチャンスかもしれない。
ど、ど、どうすれば……。
僕は本日何回目と言うトイレタイム。
手を洗い、深呼吸して、トイレを出る。
うん、ダメだ。
今日は、ダメだ。
諦めよう。
どうせ僕はモベスト(最上級・当社比)だからな。
そう思って教室に戻ろうとしたら、
「池木くん!」
後ろから息を切らした吹井田さんが後ろから声をかけてくる。
ひとりだ。
ここしかねえ!
僕は方向転換して、吹井田さんの方に向かう。
吹井田さんは、さっきまでのジト目はどこへやらニコニコこっちを見ている。かわいい。
さっきまで緊張していたせいで、気づかなかったが、吹井田さんは髪を結んでいる。
ストロベリーブロンドのボブヘアーを纏めている……。
すれ違いざま、僕は、少し屈んで、
「『今日もかわいいね。』でも、髪型いつもと違っててもっとかわいいかも」
めっちゃ早口で言った。
今日の吹井田さんの指令は、
廊下ですれ違いざまに、『今日もかわいいね』って言って下さい
だった。移動教室も多かったし、ちょいちょい一人になってくれたんだけど、全然勇気が出なかった。
お待たせしましたという気持ちを込めてプラスアルファつけさせてもらった。
聞こえたかな?
背後から吹井田さんの友達の菅野さんがやってくる。
彼女はほんと元気だから声が大きい。
「あー! どこ行ってたの? いちごー! どしたー? にやにやしてー」
その声で僕は思わず振り返る。
顔は勿論見えない。けれど、耳が真っ赤なのに気づいて、あふれ出る何かを抑えきれず、僕はそのまま早歩きでその場を去った。
あれ? これ、僕教室から離れて行ってるんだが。
そして、僕は、廊下の端っこまで行って、何かに気付いたような演技をして、教室に戻った。
教室に帰って来れたのは結構ギリギリだった。
慌てて教室に入ろうとすると、入り口前の廊下で吹井田さんが待ってて、
「池木くん、今日もかっこいいね」
ぼそりとそう言った。
僕が思わずそっちを見ると、甘い何かの匂いを残して、もう吹井田さんは席に戻り始めていて、僕は廊下で立ち尽くし、先生に怒られ、みんなに笑われた。
放課後、今日はないよな、と思い、廊下に出ると、吹井田さんが追い抜いて、振りかえり、小さくバイバイして廊下を早歩きで帰って行った。
「バイバイ(美声)」
誰もいない廊下で僕は呟いた。
その日の廊下はなんかすごい柔らかかった気がするんだが、気のせいだろうか。
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