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第三話 勉強が甘すぎる

 放課後である。

 ここまで来たら今日も間違いなくあるだろう。


 僕は、教室で宿題をしながら吹井田さんを待つ。


 吹井田さんはいない。


 まあ、うん、仮に来なかったとしても、ただ、僕は宿題をやってただけだし、全然気にしない。

 終わったら帰るだけだし。


 しかし、今日の吹井田さんはなかなか現れない。

 うん、まあ、帰ったのかな。何か用事でもあって遅れているのかな。わかんないけど。

 仕方ないので、先に一人で帰ろうとすると教室に入ってくる人影があった。

 それは吹井田さんだった。彼女は僕を見つけるなり、近づいてきて言う。


「お待たせ。ごめんね、遅くなって」

「いや、別に大丈夫だけど……」

「待ったよね?」

「い、いや、あの、宿題やってたし」

「宿題? あー、やっぱ池木くんは偉いなあ!」


 何故かキラキラした瞳で見られる。う、眩しい。陽のオーラが……目が! 目がぁああ!


「わたしさあ、今日宿題忘れちゃってたじゃない?」


 そういえば、そうだ。


 今日、吹井田さんは宿題を忘れて先生に怒られていた。

 だけど、泣きそうな吹井田さんと、怒りそうなクラスメイト陣にビビッて先生が折れていた。

 先生がかわいそうだった。


「それで、今日の分増やされちゃって」


 成程、それで職員室に呼び出されていたのか。

 得意なフィールドに持ち込むなんてなんたる策士!


「だから、ヤバいんだよねえ」

「でも、珍しいよね。吹井田さん凄く頭いいイメージはないけど」

「え? ひどくない?」

「いや、でも、宿題は忘れたとこ見たことなかったから。昨日は忙しかったの?」

「え……?」

「だから、昨日はあの後、何か用事でもあったのかなーって思って」

「えっと、あの」


 吹井田さんの様子がおかしい……進化するのか?この子。

 そんなことを考えていると、彼女は少し迷ったような表情をして、口を開いた。


「特に何もなかったんだけどね、なんか昨日は宿題の気分じゃなかったというか」


 姫がおるぞ。吹井田さんそういうタイプだったのか。


 いや、違うな。何か奥歯に挟まったような言い方だ。多分、僕には話せない何か事情があったのだろう。僕がそんな事を考えていると、吹井田さんが僕の顔を覗き込んでいて、


「池木君は昨日、宿題集中して出来たの?」


 不思議な質問。流石不思議ちゃん吹井田さんだ。

 だが、目の前のこてんと傾げた顔。かわいい。


「あ、うん。なんかすごい集中できた」


 嘘である。

 吹井田さんの声が耳に残り悶々としてしまったのを振り払うべく宿題にのめり込んだ。

 ある意味、吹井田さんに感謝したい。あんなに集中した事はなかっただろう。

 ただ、悶々としてしまったという罪悪感が目の前の吹井田さんに土下座をぶちかましたい衝動にかられてしまう。


「あ、あの、吹井田さん……なんか、ジュースとか奢りましょうか?」

「なんで急に!?」


 理由は言えない!


「いや、あのー、なんか二日連続で吹井田さんの可愛い声で甘い言葉を頂いたのでなんか僕だけ得しすぎではないかと」


 学校のアイドルと、モブリンの僕では等価交換がなりたたない。

 それに気付くと僕の脳内で君みたいな勘のいい子はきらいだよと天使の僕を悪魔の僕が56してる。


「そ、そんなことないよ! こちらこそありがとうだよ!」


 ありがてえ、こんなモブモブリンな僕にそのようなお言葉はもったいねえ。


「そ、それより! 池木くんって結構勉強できるよね」

「え、あ、うん、まあ、平均よりは上かな」


 すると、吹井田さんは再び瞳を輝かせて、


「じゃ、じゃあさ! 勉強教えて! ていうか、宿題手伝って」


 ストレート剛速球が投げられた。だけど、まあ。


「うん、いいよ」

「ほんと!?」


 まあ、断る理由はない。

 放課後、かわいい女子と宿題を一緒にやろうと言われ断れる男子がいるだろうか、いや、いない(反語)

 というわけで、ある程度目途がつくところまでの勉強会スタート。


「ここがこうなるんだ」

「おお、わかりやすい」


 僕の説明を聞いて、吹井田さんは感心しているようだ。

 僕の教え方は下手な方ではないと思うのだが、それでも、ここまで素直に聞いてくれる人は中々いない。

 

「池木くんの声だとスイスイ入ってくるよお」


 ありがてえ、モブリンキングの僕の唯一の自慢である声がこんなところで役立つなんて。

 僕は、澄み渡る大空に向かって手を合わせ、両親へと感謝の思いを送った。

 ちなみに、ご存命である。


 いかんいかん、吹井田さんの宿題を……。

 と、吹井田さんを見ると、凄く集中していて、まるで何かに取り憑かれたかのようにノートに向かっていた。でも、僕だったら悪霊とかなんだろうけど、彼女のはどこかの英霊の座からやってきたものに違いない。

 その真剣な眼差しは、まさに女神のそれであった。


「できたー!」


 そして、一時間ほど経った頃、吹井田さんは両手を挙げて喜んだ。

 宿題が終わったのだ。半分。あとは、追加分だけだから家でやれば大丈夫だろう。


「よかったね」

「うん、ありがとう。それで、あの、今日の甘い言葉なんですが……」


 ああ、忘れてた。そういえば……さて、今日はどんな気障な台詞を……。

 僕が戦慄して待っていると、吹井田さんはもじもじし始め、


「あ、あのね……今日はね『お勉強頑張ったね、よしよし』って……」


 ちょっと恥ずかしいです。

 が、俺様キャラに比べればまだマシだ。


「分かった。じゃあ……」

「あ、あの! それで、台詞がね、それだからね、あのね……よしよしって動きもつけてくれないかなあ……?」


 うげっぼしゃらああああああああああ!

 それはつまり、我が輩が吹井田氏の頭をナデナデするという事でござるか?


「む、無理無理無理無理!」


 スタンドが発動しそうだ!

 無理に決まってる! 女の子の髪を触るだと! 死人が出るぞ! 勿論僕だ!

 っていうか、僕の手なんかで吹井田さんの髪を撫でたら英霊がさーばんしちゃってやられるのでは!?


 だけど、吹井田さんは納得してくれないみたいで、不満そうに顔を膨らませている。かわいい。


「で、でもお! 今日わたし頑張ったんだよお!? それくらいしてくれてもいいじゃん!」


 いや、僕も頑張ったんですけど。教えたんですけど。いや、罰ゲームではない。

 ご褒美だ。だが、ご褒美が過ぎる。

 陰キャなめんな! 陰キャはな! 因果律を信じているんだ!

 陰キャ如きが女神を触れば、来世はアスファルトで干からびる予定のミミズにさせられるんだ! 絶対そうだ!


「うう~」


 女神が唸っている。かわいい。

 これは埒があきそうにない。

 お願いします、神様。僕の意思ではありません。だから、せめて来世はバッタにしてください!


「分かったから! じゃあ、言うよ?」


 吹井田さんの瞳の輝きがもう太陽だ。キラキラギラギラだ。

 僕は大きく深呼吸をして、覚悟を決める。

 吹井田さんは期待に満ちた瞳で僕を見つめていた。もうキラキラキラキラだ。心臓麻痺しそう。

 その瞳に吸い込まれそうになるが、何とか耐える。

 そして、僕は言いながら、手を伸ばす。


「『お勉強、よく頑張ったな……よしよし』」


 と、そこで、僕の意識は途切れてしまった。

 ということはなく、雰囲気お経をとなえながら心を無にし、頭を撫で続けた。


 おんにゃらあんがー、まんだー、はんにゃーもんにゃー。


「あ、あの……池木くん?」

吹井田さんがー、なにかー、いってんにゃーなにかにゃー。


「あの、もう十分です」


 見れば、僕の手が吹井田さんの頭を往復し続けている。

 あばばあああああ!


「ご、ごめんなさあああい!」


 神様お願いします!せめて来世は、干からびないミミズでお願いします!

 手を放し、流れるように土下座をかます。


「い、いや、大丈夫だよ。いっぱい褒めてくれてありがとう」


 よかった。褒めてる時の行為だと思ってくれていたようだ。

 吹井田さんはそっと自分の頭を撫でて、僕を見た。


「あの、じゃあ……池木くんになんて言おっか?」


 もう今日は十分なんだが。

 だけど、この関係を続けたいのなら、


「あ、じゃあ、お願いしてもいい?」


 僕が吹井田さんに言って欲しい事を教えると吹井田さんは笑って頷いてくれた。

 そして、少しだけ考えるような素振りを見せてから、口を開く。


「池木くんって頭いいんだね? 勉強できる男子ってわたし好きだなあ」


 あれ? 僕の発注と違う。

 僕は『勉強できる男子って素敵だと思うなあ』とお願いした。

 だけど、訂正する必要があるだろうか、いや、ない(反語)


「じゃあね、池木くん!」

「さようなら(美声)」


 そして、僕は吹井田さんに別れを告げて、家へと帰った。

 帰り道は、夢見心地でふわふわしっぱなしだった。

 その日の勉強ははかどった。脳内吹井田さんを鬼リピし続けた。

 ヤバい。吹井田ボイスは魔剤すぎるぜえ! ヒャッハー!

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


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