第十八話 放課後が甘すぎた
「でね、でね、ようちゃん」
『あのね、いちご、あたしもう砂糖で胸焼けしそうなんだけど……』
電話の向こうのようちゃんが疲れている。
『でもさ、池木、歌上手くなったよね』
「うん! 池木くんすっごい上手かった! かっこいいよね!」
『練習してたんだね』
「うん! 池木くん、すっごい練習したんだって! かっこいいよね!」
『褒めてあげたいね』
「うん! 褒めたよ! わたしが! 喜んでたよ、かっこいいよね!」
『そっかー。うん、そうだね』
「あー、わたし、ほんと池木くん好きみたいー」
『知ってる』
「え!? なんでわかるの!? 超能力者なの!? もしかして、エスパーようだったりする!?」
『エスパーようって何よ?』
ようちゃんは呆れるように聞いてくる。
『まあ、でも、ほんと良かったと思うよ。兜にもお灸据えれた感じだったし』
うんうん、池木くんはほんと良かった。
声も出てたし、音も取れてたし、テンポも良かった。うまかった! かっこよかった!
でも、最初はびっくりした。
うまくなるってお母さんも言ってたけど、急にだもん。
けど、歌い終わって不安そうな目でこっち見て焦った。よかったよって伝えなきゃって。
『池木くん、凄い!』
って言ってた。
そしたら、みんなも褒めてくれて、池木くんすごいでしょーって思った。
でも、ちょっとみんな褒めすぎだった。
合唱部の清水さんなんて男性パートが不足してるからって凄く勧誘してた。
なんか、ちょっと早く帰った方がいいかなって思って、メッセージだけ送って、帰った。
わたし、ちからになったのにな、とか思ってしまった。
わたしはめんどくさい。
家に帰って、リビングのソファーに思いっきり突っ伏した。
お母さんが、覗きに来て、
「池木君、どうだった? うまくなってた?」
とか、聞いてきたから。
「すっごい上手になってた。かっこよかった。でも」
「でも?」
「なんか、みんな、急に褒めすぎな気がして……わたしが一番池木くん応援してたのに」
「あーあー」
お母さんが苦笑いしてた。なんだよう。
そんな感じでソファーでもやもやごろごろしてたら、チャイムがなる。
宅急便かな、と思ってインターフォンで返事をする。
「は~い……えっ!?」
画面を見ると池木くんだった。ほんと焦った。
なんで池木くんが!?
あ、ヤバい! え、うそ!?
「お、お母さん。ちょっとわたし着替えてくる……!」
「え? …………ああ、はいは~い。ちゃんとおめかししてきなさ~い。引き留めておいてあげるから」
ちょっとお母さんがウザかったけど、今はそれどころじゃない。
部屋に速攻戻って、服を探す。
かわいいふく! かわいいふく!
急いで着替えて、髪を梳いて……。
「ちょ、ちょっと香水も使っちゃおうかな。か、帰ってきたばっかりで汗かいてるかもだし」
お母さんがお誕生日にくれた香水。
ちょ、ちょっと使ってみちゃおうかな。
甘い匂いが広がって、なんかいけそうな気がしてくる。
リビングでは、池木くんが一人、ソファに座ってた。
わたしは、慌てて来たせいで乱れた呼吸を整えようとしてた、いきなり池木くんが振り向いてきた。聞いてない!
でも、わたしを見るとじっと固まった。
あ、なにか、言わなきゃ。
「あの! ようこそ!」
「あ、うん……お邪魔してます」
「あ! お母さん、キッチンかな。ちょ、ちょっと行ってくるね」
なんだか、急に恥ずかしくなってお母さんの所へ向かう。
「へえ~、可愛いのに着替えたんだ。香水までつけて(ひそひそ)」
「うるさいなあ」
お母さんがウザい。
でも、その後は楽しかった。
池木くんがケーキまで持って、ウチに来てくれたんだ。
そりゃ、テンションも上がるよね、えへ。
そして、テンションが上がると頭も回る。
あ、そういえば、今日アレやってないじゃん!
わたしは池木くんの耳元に顔を寄せて伝える。お母さんに聞こえるとまたニヤニヤされるから。
「池木くん、今日さ、アレ出来てないじゃない?」
「あ、うん」
「だからさ、一個お願いして良い?」
わたしはわたしの妄想を叶えるチャンスだと思って、思い切って提案してみた。
すると、池木くんは頷いてくれて、
「お母さん、ちょっと出て来る」
「え!? 紅茶は!?」
「お母さん飲んでいいよ!」
最高テンションのまま、おうちを飛び出した。
途中池木くんの家にも寄った。
これでわたしも池木くんの家が分かった。
そして、辿り着いたのは、カラオケ屋だった。
いつもようちゃんがやってくれてたから、よくわかってないわたしがあわあわしてたので代わりに池木くんが受付をすませてくれた。
え?
「え? 池木くん、あんま歌歌わないって言ってなかった?」
「あー……あのー、折角なので、前、吹井田さんの家に行った後から練習でよく来てて」
あー、もうそんな努力して、もう!
池木くんが素敵過ぎてにまにましちゃう。
「努力家だねー、池木くんは」
そして、カラオケの部屋に入ると、速攻で曲を入力。
カラオケににつかわしくない。音楽の授業の歌。
池木くんが今日歌った歌だ。
「じゃあ! お願いします!」
わたしがそう言うと、池木くんはマイクを持って、言ってくれた。
「『君の為に歌うよ』」
うわあああああああああああああ!
うれしぃいいいいいいいいいいいい!
池木くんはちょっと照れながらもしっかりと今日授業で歌った歌を歌ってくれた。
わたしの為に歌を。
えへへへへへへへへへへへへへへへへ。
わたしの為の歌。そう思うだけで心の底から愛しさが溢れてきて、頬が緩んで、大好きって叫びたくなる。
っていうか、うまい。うますぎる。音楽の授業の時よりも。
気付けばわたしは目を見開いて口を手で押さえていた。
「え……池木君、またパワーアップしてない?凄すぎない?」
わたしが驚いていると、池木くんはきょとんとした顔で首を傾げ、あっと何かに気付くと口を開いた。
「吹井田さんだけの為にって考えたからかなあ」
うわああああああああ!
ずるいずるいずるい!
顔あついあついあつい!
「それはズルい! っていうか、過剰摂取だよ! これは!」
甘すぎる! 嬉しいけど、嬉しいが止まらなくなっちゃう!
「もう! もう! だよ! わたしも言うからなんか台詞頂戴!」
わたしが必死にそう言うと、池木くんは思いついたセリフをお願いしてきた。
え?
それでいいの?
思わず笑ってしまう。
だって、
「歌、凄く上手になってたね! 頑張った池木君かっこいい!」
普通に思ってることなんだけど。
そう思って、ニコニコしてたら、池木くんが
「吹井田さんが僕を助けてくれたから、それに、吹井田さんにいいとこ見せたかったから」
うわああああああああ!
ずるいずるいずるい!
顔あついあついあつい!
「もう! もう! もう! わたしがうしさんになったら池木くん責任取ってよね!」
と、わけのわからない怒り方をしてしまった。
その後、何曲がお互いに歌いあって、お祝いでファーストフードを食べに行った。
あれ? これってデート?
って、思いながらおうちに帰った。
「っていうことがあったの~」
『あっまあ……どんだけ好きなのよ』
ようちゃんのその言葉を聞いた瞬間、顔が熱くなる。
どんだけ好きって、それは勿論……。
『でもさ、いいの?』
「え?」
『だってさ、池木君の声が良くて、歌がうまくなったのはクラスのみんなにはバレたわけでしょ?』
「あ」
わたしはその時ようやく気付いた。
池木君が見つかってしまう。クラスのみんなが池木君のことを好きになってしまう。
どうしよう。そんなことになってしまったら。
わたしはその事を考えると、怖くて仕方がなかった。
もし、もしも池木君が他の人の事を好きだと言ったら?
わたし以外の女の子を可愛いとか、守りたいとか、そういった感情を持ったら?
考えただけで泣きそうになる。
「ど、ど、どうしよう!」
『もう告白したら?』
「えー!?」
『まあ、焦った方が良いとは思うよ。じゃあ、おそいし、また明日ね。おやすみ』
告白? するの? 出来るの? でも、うーん。
その日わたしはずっと悶々としたまま、ベッドの中で唸っていた。
そして、次の日、わたしは寝られないまま、早起きして、お弁当を作って家を出た。
凄く早いけど、仕方ない。
そして、見てしまった。
池木君がかわいい女の子と登校している所を。
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