第十七話 放課後が甘すぎる
「おい、池木、がんばれよー」
兜のダミ声が聞こえてくる。うるさいな。
この前の音楽の授業では僕は歌う事なかったけど、兜がにやにや見てきた。
兜は歌っていたけど、まあ、うまかったけど、吐息が入ってて男子的にはちょっと気持ち悪かった。
今日はまた僕の歌う番が回ってくるのだ。
それで、兜が声を掛けてきたのだ。うぜええ!
そして、やってきました音楽の時間。
吹井田さんが歌っている。
改めて、ちゃんと聞くと、本当にうまい。
透き通るような声。音程も完璧だしリズムもしっかり取れている。
歌を聴いているだけで気持ちよくなってくるし、歌詞の意味がわかるからか、感情移入もできる。
吹井田さんの歌には力がある気がする。聞けば聞くほど力が湧いてくるような。
吹井田さんは歌い終わると、こちらを向き、嬉しそうな顔をした。
「はい、吹井田さん。とっても素敵な歌声でした。次、池木くん」
そして、僕が歌う番がやってきた。
兜はにやにや笑ってる。
あいつは俺が歌えないと思ってんだろうな。
見せてやるよ。いや、聞かせてやる!
俺は息を吸い込んだ。
「~♪」
自分でもびっくりした。声がめちゃくちゃ出てる!
それに、ちゃんと音が取れてるし、テンポもいい。なんか上手くないか?
出来てる感じがする! 感じだけど!
歌い終わる。
吹井田さんの方を見ると、吹井田さんは驚いた表情をしていた。あれ、何か間違えたかな。
そう思った時、吹井田さんは、今まで見た中で最高の笑顔を見せた。
「池木くん、凄い!」
吹井田さんのその一言で、音楽室中がわあっと盛り上がる。
「池木すげえじゃん!」
「池木君、カッコいい!!」
「池木君の声すごい良いよー!!!」
みんなが口々に褒めてくれる。
嬉しい! 兜は忌々しげにこちらを見てたが、何も言えないようでただただこっちを見てた。ふはは。
僕はその日クラスの合唱部の子に激しめの勧誘を受けて暫く動けず、吹井田さんが『おめでとう』とメッセージを残して先に帰ってしまったようだった。
僕は、
チャイムがなる。
「は~い」
可愛らしい声が聞こえてきたと思うと、「えっ!」という大声が聞こえて、ばたばたばたと音が遠ざかっていく。あれ?
「はいは~い」
ドアを開けてくれたのは、吹井田さんのお母さまだった。
「ごめんねえ、池木くん。いちごはちょっと野暮用でね」
野暮用て。
「中入って」
「あ! いえ! あの吹井田さんのお母様のお陰で今日歌ったら褒められました。ありがとうございました!」
「うん、知ってる」
知ってるんかい!
「つきまして、あの、お礼と言ってはなんですが、ケーキをよかったら」
「うっそ、ありがと! お茶入れるから一緒に食べましょ!」
吹井田さんのお母さまには敵わない。リビングに案内されて、ソファに腰掛ける。
ふわっと甘い香りが漂ってきたと思った瞬間、後ろを振り向くと吹井田さんがいた。
彼女は室内なのに、何故か息を切らせながら、やってきたのだけど、流石吹井田さん、私服もかわいい。
そういえば、前回は制服だったもんな。私服、かわいい。
「あの! ようこそ!」
「あ、うん……お邪魔してます」
「あ! お母さん、キッチンかな。ちょ、ちょっと行ってくるね」
そう言って吹井田さんは去って行って、僕は一人リビングでじっと待ち続ける。
「へえ~、可愛いのに着替えたんだ。香水までつけて(ひそひそ)」
「うるさいなあ」
何か聞こえる気がする。ひそひそ声だから聞こえないけど。
そうこうしている内にケーキと紅茶を持った吹井田さんとお母様がやってきた。
「はい、どうぞ。遠慮なく食べてね。池木くんのケーキだから」
「あ、はい」
なんというか、この娘にしてこの母ありというところか。
そして、ケーキと紅茶を頂きながらの吹井田さんの大絶賛が入り、僕が照れていると、
「あ、紅茶がなくなったわね。ちょっと待ってて」
お母様が席を離れる。すると、吹井田さんがいきなり耳元に顔を寄せて、
「池木くん、今日さ、アレ出来てないじゃない?」
「あ、うん」
「だからさ、一個お願いして良い?」
こんな可愛い私服の吹井田さんのお願いを断ることが出来ようか、いや、出来ない(反語)
吹井田さんが言った事に僕が頷くと、吹井田さんは、
「お母さん、ちょっと出て来る」
「え!? 紅茶は!?」
「お母さん飲んでいいよ! 行こ! 池木くん」
「いってきます(美声)」
そう言って、僕達は吹井田さんの家を出て、一瞬、僕の家に寄り着替えた。
そして、辿り着いたのは、カラオケ屋だった。
吹井田さんがあわあわしてたので代わりに僕が受付をすませた。
「え? 池木くん、あんま歌歌わないって言ってなかった?」
「あー……あのー、折角なので、前、吹井田さんの家に行った後から練習でよく来てて」
あー、これは内緒にしておきたかったのに!
吹井田さんがにまにましてる。
「努力家だねー、池木くんは」
そして、カラオケの部屋に入ると、吹井田さんがいきなり曲を入力し始める。
カラオケににつかわしくない。音楽の授業の歌。
僕が今日歌った歌だ。
「じゃあ! お願いします!」
吹井田さんにそう言われ、僕はマイクを持って、言う。
「『君の為に歌うよ』」
そう言って、僕は今日授業で歌った歌を歌う。
けれど、これは吹井田さんの為に歌う歌。
吹井田さんの為の歌。そう思うだけで心の底から愛しさが溢れてきて、自然と声が出るし、歌詞もスラスラ出てくる。
歌い終わって、吹井田さんの方を向くと、そこには目を見開いて口を手で押さえてる吹井田さんの姿があった。
「え……池木君、またパワーアップしてない?凄すぎない?」
そうなんだろうか。でも、そんな短時間で変わらないと思うけど、違うとすれば、
「吹井田さんだけの為にって考えたからかなあ」
あ、やべ。口に出てた。キモいよね、そんな台詞。
そう思って吹井田さんを見ると、吹井田さんは口を押えていた手を目の方に当てて
「それはズルい! っていうか、過剰摂取だよ! これは!」
なんて言って怒っていた。
「もう! もう! だよ! わたしも言うからなんか台詞頂戴!」
僕は吹井田さんにそう言われ、すぐに思いついたセリフをお願いする。
すると、吹井田さんは笑って、頷いて言ってくれた。
「歌、凄く上手になってたね! 頑張った池木君かっこいい!」
嬉しい。こっちがお願いしたセリフだけど、嬉しいものは嬉しい。
頑張って良かった。頑張りたかった。だって、
「吹井田さんが僕を助けてくれたから、それに、吹井田さんにいいとこ見せたかったから」
……あ、また声に出てた。すると、吹井田さんはまた顔に手を当て、
「もう! もう! もう! わたしがうしさんになったら池木くん責任取ってよね!」
と、わけのわからない怒り方をしていた。
その後、何曲がお互いに歌いあって、お祝いとかいってファーストフードでご飯を食べた。
あれ? これってデートっぽくね?
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