第十五話 音楽は甘くない
今日は音楽の授業。
憂鬱だ。僕はぶっちゃけ、歌が下手だ。
音痴と言う程ではないが、なんというか、ネタにもしづらいくらいの微妙な実力なのだ。
それでも、先生は毎回『池木くんは音程は安定しているから、もう少し頑張ればうまくなる』と言ってくれるのだが……。
ちなみに吹井田さんは歌もうまい。
今もみんなうっとりして聞いている。僕も吹井田さんの方を思わず見てしまう。
吹井田さんと目が合う。吹井田さんは急に咽始め、歌が止まってしまう。
びっくりさせたみたいだ。
僕は慌てて視線を逸らす。
すると、何故か兜と目が合って、さっきまでの綺麗な気持ちが台無しになった。
そして、僕の番。
相変わらずのへたっぷり。声がへにゃへにゃしてしまう。
ちらりと吹井田さんの方を見ると、目が合う。
うう、恥ずかしい……。
歌い終わってそそくさと去ろうとすると、
「おい!池木!お前声いいのに、歌は駄目なのかよー!もちぐされじゃねーか!」
兜がそう言って茶化してきた。
くそっ、こいつマジでムカつく。
しかも、周りの奴らもくすくす笑ってる。
俺は、その場を後にしてトイレに行かせてもらった。
先生の注意に適当に返事する兜のダミ声も腹が立った。
吹井田さんのこちらを見る目がすっごく恥ずかしかった。
はぁ、なんか落ち込むな。
鏡の前で自分の顔を見てみる。うん、普通。どこにでもいるような普通の顔。
声が良くても……。うん! まあ、その程度だ僕は! 気にしないようにしよう!
最近、吹井田さんに良くしてもらって調子に乗り過ぎてた。
音楽室に戻る頃には僕の心は落ち着いていた、んだけど、
「だからね、兜君、人の苦手なものを笑うなんて、わたしも良くないと思う」
吹井田さんが、そう兜に言っていた。
「いや、別に悪気があったわけじゃないんだぜ?ただ、池木のあの歌声はちょっと、な」
「それは言い訳にならないでしょ?」
何故か菅野さんまで僕の、いや、吹井田さんのか。味方をし始めた。
「いや、でもよぉ」
「それに、練習したらうまくなるかもしれないでしょ」
いやいや、吹井田さん、そんないいから。
「いやあ、そうかなあ」
「でも」
「吹井田さん、あなたのいう事はもっともよ。でも、授業を再開させてね」
先生がそう言うと吹井田さんは恥ずかしそうに頷いて、静かになった。
助かった。ありがとう先生!
その後多少のざわつきはあったものの、吹井田さんはあんな陰キャにもやさしいというところに落ち着き、特に問題なく時間は進んでいき、その日の放課後。
僕は何故か、吹井田さんと一緒に下校していた。
今日の台詞と思って残ってたんだけど……吹井田さんは一言『ちょっと付き合って』と言って、帰ろうとしたので思わずついていってしまった。
あれ? なんだか様子がおかしいぞ? どうしたんだろう? 俯き加減に歩く彼女の表情は見えない。
だけど、吹井田さんは急に立ち止まり、少し迷っているようだったけど、意を決したようにこちらを向くと、
「池木君!私の家に来ない!?」
「ええ!?」
唐突にそんなことを言った。
そして、僕は混乱した頭で、彼女について行くことしかできなかった。
家に着くなり、吹井田さんは僕の手を引き、ずんずんと奥へ連れて行かれる。
綺麗なおうちですね。
「お母さん!池木くんの歌聞いて!」
お、お、お母さま!?
吹井田さんのお母様は凄く驚いていたけれど、驚いた顔も美人で、吹井田さんのお母様って感じだった。
いきなりのお母様との対面だったけど詳しく聞くと、お母さんは声楽の先生らしく、
「わたし、くやしいよ! 池木君が馬鹿にされて!」
「ん~、確かに、その物言いは良くないわねえ」
吹井田さんと吹井田さんのお母様が怒っている。怖い……。
でも、嬉しい気持ちもある。
こんな僕の為に怒ってくれる人がいるなんて……。
「えーと、池木くん? どうする? いちごがここまで言ってるし、私もちょっといらっときたから一回無料で見てあげてもいいけど?」
ここまで連れてきてもらって、言って頂いて断ることが出来ようか、いや、出来ない(反語)
「お願いします!(いい声)」
そして、吹井田さんのお母様に歌を聴いてもらう事になった。
僕は吐きそうな緊張を呑みこんで一生懸命歌う。
すると、吹井田さんのお母さんが驚いた顔をして僕を見た。
そして、何かを考える素振りをして、僕にこう告げた。
「悪くはないと思う。というか、良いと思うわ。」
「うん、なんか自信が出てきた感じ」
吹井田さんも笑顔でこっちを見ている。かわいい。
「ああ、うん、まずはね、喉しまっちゃうのよね。自信がないと。それより、本当に物凄くいい声ね。うっとりしちゃった」
「おかあさん!変な声出さないで」
褒められて嬉しくなってると、吹井田さんが怒った声を出した。
怒った声もかわいい。
その後、お母様の提案で、二人で歌の練習をした。
吹井田さんは本当に上手でしかも、一生懸命教えてくれて、とてもかわいくて僕は見惚れてしまった。
そして、お母さまが、
「池木く~ん、いちごをまじまじと見ていいけど、そのまま、どんな風に歌ってるかっていうのをしっかり確認してね。全体の空気を掴んでみて。いちご、急に緊張し始めないで」
そうして、真っ赤になった吹井田さんを見ながら、一生懸命吹井田さんの歌い方を真似した。
「うん、やっぱりね。池木君はあまり音楽に触れて来なかったんでしょうね。いちごの歌に引っ張られたら、どんどん良くなってきたもの。多分、もっともっと歌えば歌う程良くなってくるわよ」
そういえば、歌なんてほとんど歌った事なかった。
歌えば歌う程か……。そりゃそうだよな。歌わなきゃうまくなれないもんな。
吹井田さんだっていっぱい歌ってきたから聞いてきたからこうなれたんだろうな。
そう思って吹井田さんを見ると、吹井田さんはお母様の意見をどう思うか僕が聞いたと勘違いしたようで、
「うん、池木くん凄い上達したよ!すごい!」
「吹井田さんのお陰だよ。吹井田さんが歌うまいから。それに声がすごく綺麗で聞きほれる位で、なんて言えばいいんだろう。天使の歌声って感じで本当に綺麗だった!」
そう言うと吹井田さんはまた真っ赤に固まって。
「あ、ありがと……」
と言ってくれた。可愛いなあ。
「もう、二人とも初々しいんだから」
お母さまが微笑みながら言う。
その言葉に吹井田さんが更に赤くなっていた。
その後、吹井田さんとお母様にお礼を言って家を出る。
吹井田さんはわざわざ外まで出て来てくれて、
「今日はごめんね。無理やり連れてきて」
「ううん! ありがとう! なんかちょっと自信を持てたかも!」
「ほんと!? ならよかったー」
彼女は安心したような顔を見せる。
何かお礼でもしなきゃなと思ったその時、
「あ!」
「ええ!?どうしたの!?」
僕が突然声を上げたせいで、吹井田さんはびっくりして思わず大きな声で反応してしまう。
「きょ、今日ごめん!まだ甘い言葉言えてない」
すっかり忘れてた! そう思って吹井田さんを見ると、にこっと笑って、
「もう言ってもらったよ。『天使の歌声みたいで凄く綺麗だ』って」
「あ……それでよかったの?」
「うん、だって、普通に言ってくれたんだよ。嬉しいし、甘かったよ」
やっぱり僕の台詞はまだぎこちないのだろうか。もっと自然に言えるようにならなきゃな。
「あ、でも、まだわたしが池木君に言えてないね。んーと、じゃあ、」
吹井田さんは可愛らしく人差し指を顎に当てて考えるそぶりをすると、ふわりと笑顔を見せて、僕の耳元に口を近づけた。
そして、囁いた。
「また、ウチに来てね。今度は二人きりでイチャイチャしようね」
そう言うと吹井田さんはシャンプーかな、甘い匂いを残して僕から離れ、
「なんちゃって。どう、甘かった?」
本当に心臓に悪い。そんな笑顔反則だろ。
僕はドキドキしながら、ああ、うん、へへ、と答えるしかなかった。
吹井田さんの家から帰る途中、僕は改めて思った。
僕は吹井田さんが好きなんだ。
彼女の優しい所とか、一生懸命な姿とか、何より、あの笑顔が。
見た目だけじゃない。声から伝わるあのやさしさが。
家に帰り付いたあと、スマホを見ると吹井田さんから、
『池木くんが自信持てて歌えるようになったらカラオケもいこっか?』
そんなメッセージが届いていた。
僕は、吹井田さんのお母様から教えてもらった腹式発声のトレーニングを速攻始めた。
そして、その日から歌の練習をしまくった。
僕は単純だ。
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