第十一話 図書室が甘すぎる
今日僕は気合が入っていた。
電話もしたくらいだ。僕から攻めてもいいのではないだろうか。
そう思ったのだ。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」
脳内で『えヴぁーにのれー』と誇張された物真似が響き渡る。のらない。
だけど、今の流れには乗りたい。
そして、放課後、吹井田さんを待つ。
今日は図書室。吹井田さんのリクエストだった。
しばらくすると吹井田さんが来たので、僕は席を立ち、彼女の元へと向かう。
(今日の俺は一味違うぜ!)
吹井田さんの前まで行くと、吹井田さんは顔を赤らめながら上目遣いでこちらを見てくる。
僕はその破壊力のある視線に耐えられず、目を逸らす。
(全然違わなかったぜ!)
いや、駄目だ。勇気を出せ! モブンゲリヲン発進!
「あ、あのさ、吹井田さん……!」
「はい!」
「あ、ちょっと、図書室だから」
「あ、は、はい……」
「えっと……」
緊張する! 図書室の静かさが、音に全集中させられて、凄く敏感になってしまう。
「こ、これ……」
僕は勇気を振り絞って、吹井田さんにある物を渡す。
「え?あ……これって……」
「これ、今日僕がお願いしたい台詞なんですが」
吹井田さんは僕からの先制攻撃を予想していなかったのか、驚きながらその紙を見て、更に目を白黒させている。
「あ、えっと、え?どういうこと?」
「あ、え、そうですね。あのですね、これは本に夢中になっている僕に対してこう言って貰えたら」
「あー、あー、なるほど、うん。わかった。じゃあ、何か本借りる?」
「そう、だね。何借りようかなー」
「あ、じゃあさ、お互いのお勧めの本を借りない。なんか、よくない?」
「良いと思います(美声)」
吹井田さんは天才ではなかろうか。
そんな素晴らしい提案を否定出来るだろうか、いや、出来ない(反語)
そして、僕と吹井田さんは本を探し始める。
いくつか候補を上げて選んでもらおうと僕は本をピックアップしていく。
五冊のお勧めのうち、最後の一冊を取ろうとすると横から手がきて触れてしまう。
ちょっとあたたかいやわらかな手。
「あ、すみま……!」
「えへ」
吹井田さんだった。
「ちょっとこういうのやってみたかったの」
ぐぎゅりゅしあべらどらぐらっしゃあああああ!
か、かわいすぎる……!
え、マジで気があるんじゃないの、この子。そう思わせるその小悪魔技!
だが、陰キャモブリヲンは暴走しない。
吹井田さんは、夢見がち少女さんだから、甘い台詞の延長でこういう空気を楽しんでいるだけなのだ。
「池木くんは、こういうの読むんだねー。流石。ううーん、わたしには難しいかな?」
「あ、大丈夫だよ。タイトル凄い難しそうだけど、その人はラノベくらい読みやすくてテンポいいし、恋愛要素多めだから、それにこの人の書く作品は世界観がしっかりしてて……」
ヤバい。早口になった。吹井田さんがきょとんとしてる。
「ご、ごめん。喋り過ぎた」
「ううん、もっと聞きたいくらい。じゃあ、これ借りてみようかな」
吹井田さんは、その本を手に取ると大事そうに胸の前で抱える。
「じゃ、借りてくる」
「あ、いや、吹井田さんの、お勧めは……」
「あ、そっか、えーと、これを……是非」
渡されたのは、吹井田さんの愛読しているであろう漫画であった。
「これこれ、吹井田さん」
「えへ、良かったら読んで。そして、甘い台詞のお勉強してね」
ぺろと舌を出す吹井田さん。かわいい。
そんな吹井田さんに反論できる僕がいるだろうか。いや、いない(反語)
そして、吹井田さんは受付の所に借りに行った。
僕は、手続きの必要がないので、図書室の奥の方の机に行って、漫画を読み始めた。
流石に、図書委員の前でアレをやる勇気はない。付き合ってると誤解されたら吹井田さんに申し訳ないし。
「お、面白い……!」
吹井田さんの貸してくれた漫画は面白過ぎた。
少女マンガだと思って、ちょっと馬鹿にしてすみませんでした。
ファンタジー要素と現代がしっかりミックスされて滅茶苦茶面白かった。
二話で主人公だと思ってたヤツが死ぬなんて……。
夢中になって読んでいると、肘をちょいちょいと触られる。
横を見ると、吹井田さんだった。凄くジト目だった。かわいい。
「あのね、お勧めしたのはわたしだけど、ほったらかしはひどくない?」
「ご、ごめん……! あの……」
必死で言い訳を探すが、小声の為に近寄ってきた吹井田さんのなんだかいい匂いでこんらんしてそれどころではないんだが。
吹井田さんは、更に近寄って、僕の耳元で。
「もっと、わたしも、見てよ」
そう言った。僕がお願いしてた台詞。だけど、こっちの心構えが出来てなかった。
は?
かわいすぎるんだが?
真っ赤になって俯いている吹井田さんをじっと見ていると、吹井田さんの方が耐えられなくなったらしく、僕が持っていた吹井田さんの漫画を奪って、ペラペラページをめくり始める。
そして、あるページに辿り着くと、一つの吹き出しを指さしてこちらに見せてくる。
恐らく、台詞の指定。
おんぎゃらでべっそごんぐらちゅれーぎょおおおん!
ヤバすぎる! それはヤバすぎるよ! 吹井田さん!
だが、断れぬ! 僕の指定した台詞もう言ってくれてるから! 先に報酬頂いてるから!
じいっと見てくる吹井田さん。かわいい。
ええい、ままよ!
「『ばーか、お前の事しか見えてねえよ』」
死にてー----!
ばーかはお前だ、池木翔斗!
あああ、言っちゃったぁぁあ!!
「……っ!!」
吹井田さんも、耳まで真っ赤にして固まっている。
そりゃそうだよねー。うん。わかるよ。すごく分かる。
図書室の静かな空間でもう絶対聞こえてるよなってレベルで心臓がどくどくいってる。
っていうか、さっきの声めちゃくちゃはっきり聞こえた。
図書室ヤバい……。
「……あ、えっと、じゃあ、おしまいですね。もう帰りましょう」
「え? あ、はい」
よし! 帰るぞ! 早く帰らせろ! 僕は吹井田さんを置いて、図書室を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待って……」
「なんでしょうか?」
「その、その、もう一回聞かせてもらえない……?」
「へ?」
「あの、よく聞こえなかったから……」
んなわけないじゃん! 図書室だよ! 図書室! 静寂の地よ!?
吹井田さんは何かね、『え? なんだって』って至近距離の癖に言うタイプの主人公なの?
いや、違う。ちゃんと聞こえたうえで要求しているこの子は。かわいい。
吹井田さんの顔を見ると、その顔は今にも泣き出しそうになっている。顔真っ赤。
ああ、もう! かわいい。
僕は吹井田さんの元へ戻り、彼女の手を取る。
「え?あ、あの、ご、ごめんね。それに、好きな子とかいたら……」
僕はごにょごにょなんか言ってる吹井田さんの手を強く握りしめ、目を合わせ、小声で、でも、はっきり聞こえるように。
「ばーか、お前しか見えてねーよ」
「……」
吹井田さんは顔を赤らめ、何も言わず下を向いてしまう。
僕は吹井田さんから手を離し、背を向ける。
「じゃあ、帰りましょう。吹井田さん」
「……はい」
図書室を出て、二人で廊下を歩く。
「あの、池木くん……」
「何でしょう?」
「その……わたしも、君のことしか見えてないよ」
「……そっか」
「はい」
帰り道、めっちゃ無言だった。あれ? ていうか、僕吹井田さんと一緒に帰ってね?
途中で別れ、家に帰り、再び吹井田さんの漫画を開くと、さっきの台詞の後に主人公が『私もキミの事しか見えてないよ』って言ってたのを見つける。
あっぶねええええ! 勘違いするとこだった!
そうか、そうだよね。僕が言ったから、そのお返しで言ってくれたんだよね!?
大変あもうございました!
そんな事でバタバタしてると、吹井田さんからメッセージが届く。
『明日お願いしたい台詞はお弁当が必要なので、お弁当持っていくので食べてもらえませんか?』
はああああああああああああ!?
嬉しすぎて死ぬんだが!?
その夜、脳内吹井田さんの手作り弁当予想大会が繰り広げられ、夢で美味しそうなからあげに潰された。
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