竜と玉木の背中
友だちの玉木が宮代橋に行くというので付いて行った。するとそこには体長十メートルもある竜が居座っていた。
「これこれ! これが見たかったんだよねぇ」
玉木が三脚を置いてカメラを構えた。竜はというと、のんびりあくびなどしている。
「なんで宮代橋に竜がいるんだよ」
「今年はここが産卵場所に選ばれたんだろうって」
「誰が言ったの」
「ミミ。テレビに出てる有名人」
「ふ~ん」
日本竜は産卵場所を数年に一度変えることがある。
宮代橋は七十年前に選ばれたっきりだったので、もう選ばれないだろうと言われていた。最近の改修工事で鉄筋の頑丈な橋になったのが功を奏したのかもしれない。
「いつ孵るんだろうね」
「ずっと先さ。たぶん、十年とかそんぐらい」
玉木は写真を撮るのに満足した様子で、こちらを振り返って言った。
それだけの時間があれば、何か変わるだろうか。
玉木の背中を見つめて、声をかけようとした刹那。バサリと羽音を立てて竜が飛び立った。
そのあまりに雄々しい偉容に言葉を無くし、ただ口をポカンと開けて見ているしかできなかった。