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干支語 寅  作者: 鷹兵衛
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寅 走 2



創造神たちは各々が任された地域で、己の感性を信じ、ありとあらゆる神と生物を生み出した。他の地域で全く見られない特徴を持つ生物などは、その地域の神の趣味が色濃く出たと言っていい。

そんな中で、どの地域においても似た特徴を持つ生物があった。




「こういう機能を持った生物を作りなさい」




原初神からのお達しにはさすがの創造神も逆らえない。

それが自身の収める地域に無用か有用かは関係なく、作れと言われれば作らざるおえず、創造神自ら作ることもあれば、創造神に似た機能を持つ神に作らせることもあった。




「で、人間という種を作ったはよいが、あやつらあり得ぬ速度で発展しておるぞ」


「イイコト、イイコト」


「まさか想定外とは言わさぬぞ…」


「いやいや、想定外ではないよ。それくらいの能力を備えたものを作るように私が言ったんだ」




相変わらず何を考えているのかわからない。いや、何も考えていないのかもしれない。

基本的に無責任なスタンスなので、創造神たちも原初神に命じられてやったことに関しては責任を負いかねるという体を貫いている。

時折自身が創造したものに手を焼いて、責任放棄する神も出てきているらしい。




(こいつから生み出されたんだから、まぁどこかしら似もするか…)




自分にもその要素が全くないわけではない。むしろ結構自分にもその気があるので他人のことを言えた義理ではない。




「しかしあの人間という種はやりたい放題じゃの」


「まぁ、地上に生んだ神みたいなものだからね。機能的に」


「ほーう?」




神を地上に生んだとは、興味深い。

相変わらず見透かしたのか、原初神は困ったように微笑むと、




「彼ら一つ一つの身の内に、神の欠片を入れているんだ。全人口で一柱分くらいになるように調整はしてるけれどね。形や色とかその他機能は創造神たちに任せた」


「なぜそんなことする必要がある?」




創造神でない西の神は、できるだけ原初神や創造神のやることに口を突っ込まないようにしてきた。考えたところで理解できる境地であるとも思わなかったし、知ったところで何かが自分にできるようになる訳でもなかったためだ。

しかし、神と似た存在が、神が管理する地上にいるとなるといよいよ口を挟まずにはいられない。




「答えは、神々である私たちのため!」


「いや…分からん」




理解してくれるとでも思っていたのか、原初神は少し肩を落とすと、唇を尖らせて向き直り、指先をくるくると宙で動かしながら説明し始めた。




「私たちはこの天体から力を得て存在していている訳だけれど、天体の力も無限ではないからその内枯渇するだろう。そこで、神の欠片程度の力を持つ人類の出番だ!」


「取り込むのか?」


「いやぁ物騒だなぁ、さすがは武神」


「守護神でもあるがの」


「物騒な守護神殿でいらっしゃる」


「お前、吾の前以外でそんな風な体でおるでないぞ。お前に夢を見ている神も今となっては多いのだからな」




原初神はカラカラと笑うと、霞のような両手の指を重ね合わせ、顔の前に掲げた。




「祈ってもらうのさ」




片目を閉じて得意げに言う原初神を、西の神はなおも理解できないと言った様子で小首を傾げた。




「祈る?」


「信仰とも言える」


「信仰?あー…、なるほどのう」




ふと合点がいった。

人類が誕生してというもの、神の力は一層増したように思う。その逆で、力を落としたように見える神も現れ始めているが、それは単に、力の増した神が圧倒的になりすぎた結果ともとれる。




「彼らの信仰が私たち神々に還元されれば、有限である天体の力の枯渇に不安を抱くことなくやっていけるというわけだ」


「一応、考えあってのことだったという訳だの」




安心したように一息つく西の神を見てほほ笑むと、原初神は「まぁ取り込むのも一つの手だろうけどね」と付け加えた。これ以上続ける話も無くなった西の神は、思い出したかのように遠方に視線を向けると、一つ伸びをして原初神に背を向ける。




「さて、インドのブラフマーのところにでも遊びに行こうかのう」


「おや、シヴァのところじゃないのかい?ドゥルガー殿」




茶化すように言われて西の神は目を細めると、溜息をついて言い返す。




「…あれは吾があの時シヴァの妻、パールヴァティーの近くにおったせいで妙な伝わり方をしておるだけで、シヴァと吾は何にもないぞ」


「じゃあ中国の女媧のところには行ってやらないの?白虎殿」


「近からず遠からずな名称をつけよって…ドゥルガーよりマシじゃがの。あと、女媧のところは行きつくした」


「そうかい。…あ、そういえば日本という島国を覚えているかい?」


「ん?んー…」




さっさとこの場から離れてしまおうと地面を踏みしめた最中にそう問いかけられ、原初神に向き直らないまま、西の神は記憶を辿る。

そういえば、大陸の横に沿うようにある島国が、後にそんな名称になるというのをいつぞやかに原初神から聞いた気がする。




「確か吾と同じような顕現の仕方をしたやつらが三柱ほどおったかのう」


「そう!覚えておいてあげなよ、創造神でないのに最初から存在があった仲間なんだから」


「ふん、吾はあいつらと反りが合わんのでな。で、あやつらのおる島がどうした」




今にも跳んで行ってしまいそうな西の神の背中に、原初神はできるだけ早口に言った。




「祭りをやるらしい」


「…祭り?」




跳ぼうとする姿勢をやめて原初神のほうを見ると、原初神は間に合ったと言いたげにわかりやすく胸をなでおろしていた。

西の神は祭りが好きだ。あちこちの祭事に顔を出しては、飲んで歌って舞って暴れる。




「しかし日本か…、日本はのう…」




西の神は露骨に嫌な顔をした。美しい顔立ちが嫌悪に歪むと、妙な迫力がある。

こう表情を歪めるのにも理由があった。西の神は日本に顕現した最初の三柱の神、造化三神と絶望的に反りが合わない。

西の神は顕現してすぐにあちこちの創造神の元に顔を出し、創造神が収める地域ごとに呼び名があるのではないかというほど幅を利かせたのに対し、造化三神は顕現して以降特に何もせず、神として持ち得る概念を抱え込んだまま、そこで静かに座し続け、創造神が顕現するまでただひたすらじっと待ち続けたのだ。

待ち続けた結果は見事実を結び創造神が顕現したが、長くその場所にとどまり続けていたせいなのか、元々の性格ゆえか、外のものを寄せ付けないきらいがあった。人も神も、あの島周辺の海をこえるのは太平洋や大西洋を越えるよりも厄介なのだ。




「しかし日本の祭りとは…乱入できれば面白そうじゃのう」


「乱入せずとも、今回の祭りは観戦型だから参加しやすいんじゃないかな」


「観戦?」


「この天体全域に及ぶすごい大規模観戦だよ。主催は四季神と名乗る神らしい」




そんな神いただろうかと引っ掛かりながらも、大規模観戦とやらには興味が湧く。




「内容は?」


「ずばり、人類と植物以外の獣たちによる徒競走だ」


「…ふむ」


「参加条件もある。観戦したい神は、自身の力のほんの少しを四季神に提供すること」


「なるほどのう」




そういうと、口元を着物の袖にあてがうように隠し、目を細めた。

伊達に創造神と並び類するほど長く生きていない。神々の性格を、西の神は自分も含めてよく分かっている。これが、おおよそまともな徒競走にならないことくらい容易に想像がついた。天体全域に及ぶ祭事が行われなかったのには理由がある。多くの神が関われば関わるほど、世の理を歪ませる結果を生むからだ。




「まともでないのぉ」




そう憂うように眉を下げたが、西の神の口元は、獣の牙をむき出しにして笑んでいた。

四季神という神の存在を見聞きしたことはないが、心から賛辞を贈ってやりたい。神々に条件を与えての祭りなど、中途半端な試合をすれば四季神自身消し飛ばされるリスクを負っている。それでもやると言った祭事の結末など、神々の娯楽に持って来いと言っていい。




「終着点にいち早くたどり着いたものから順番に順位がつき、十二位以上の者には、何でも一つ願いを叶えてやるんだそうだ」


「ふふ、また大きく出たものだの。そんな力の強い神なのか四季神というやつは」


「それが四季神にそんなことを実現できるほどの権能はない」


「…!そうか、それで他の神々の権能を少しずつ借りようというわけじゃの」


「そう、何でも一つというのが厄介だ。神を全員消してくれなんて言われたら、私たちはどうすれば良いんだろうね」


「寄せ集めたとしてもさすがに神々全員消し飛ばすことはできんじゃろう」


「なに、そうなったら私が私の力を持って神々全員消し飛ばすさ」




目を丸くする。

いつもの調子で、いつものように。

この神は自身が顕現し歩いて、今なお交流のある神々を全部白紙に戻すと言っている。おまえに情緒と感慨はないのかと言ってやりたいが、いや、基本的に陽気に見せかけて自分の仕事を淡々とこなすようなやつだったと思いなおした。

神は嘘をつかない、というのが、原初神の口癖であることも今思い出した。




「…ふはっ、ふはははは」




原初神全面協力とは、急に首に手をかけられたようでゾッとする。

感じたことのない背筋が凍るような思いと共に、緊張で胃のあたりがねじれるような息苦しさを覚える。西の神はその感覚に頬を高揚させると言った。




「なんだそれは!面白い!!」




他の神が聞いても、皆同じことを言うだろう。

神の欠片を持つ人類に滅ぼされるのならまだしも、まさか歯牙にもかけていなかった、たかが動物のお願い一つで消されるかもしれないとは。




「じゃあ西の守護神殿も参加ということで」


「ふふふ、いいや、吾は参加せんよ」


「了解っと…、ん?え?」




西の神は笑いすぎて溢れた涙を拭いながら、いまだよじれる腹を抱えつつ原初神を見るともう一度言い直した。




「吾は参加せん」


「えええ!?今完全に参加する感じだったよね?」


「吾は結果だけ聞ければそれでよい。お前に消されるかもしれないし、今後もずっと西の神としてあり続けられるのかもしれない。それを蚊帳の外でハラハラと待っておくとしよう!」




そういうと、長くしなやかな尾を振りながら西の神は原初神をおいてその場から跳び去った。



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