第1話-5
息を切らしつつ、少しボロボロな健が浩市の元へと駆け寄ってくる。
「……はぁ…はぁ………浩市さん、無事だったんですね」
「で、誰の頭を焼きプリンにするって?」
「………ええぇ、聞こえてたんですか!?」
「まぁ、その件は後回しでいいや」
(そのまま忘れてくれないかなぁ)
「その人が?」
「ああ、お前が縛れ」
健は言われるがまま、男の両手、両足を縛る。
守護者のギフトであれば、縛られていようが関係ないので、男は無抵抗だ。
「お前ら、戦闘用のギフトじゃ無いんだろ?」
「え、浩市さん、教えちゃったんですか!?」
「……チッ、馬鹿が………」
「ははは、やっぱりな。俺を殺すより仲間にしないか?」
「……メリットは?」
「1つは誰も得しない相打ちを防げること。ナイフで首を切られりゃ死ぬだろうが、即死じゃない。
2つ目は、俺のギフト『死と平和の象徴』は役に立つし、後2人殺せば進化する」
「待て、進化ってなんだ?」
「知らないって事は、やっぱり初心者か」
男が小ばかにしたように鼻で笑う。
浩市が睨み付け、ナイフを持つ手に力を入れるが、早まった真似はしない。
男もそれが分かっているので、焦る素振りすら見せない。
「10人殺せば、ギフトは1段階進化し、次のステージに上がるのさ。
次は30人、50人、70人殺す事で最終ステージへと到達する。」
浩市は目線を健に送る事で、真偽を問いかける。
健は意図に気づき、うなずく事で男が嘘を言っていない事を伝える。
浩市は考える。
確かに複数出せる鳩は、空からの偵察や、自分達に不足している戦闘力も補える。
だが最も大事なのは、信用できるかと裏切られた際のデメリットだ。
「お前、俺達の事は殺さないって誓えるか?」
「ああ、もちろんさ。俺もそろそろ仲間が欲しいとは思っていたんだ」
健は、今度は左右に首を振る。
男は戦闘系じゃ無いギフトだとあたりをつけていたが、当然ながら詳細までは知らなかった。
そして、浩市の行動は迅速だった。
嘘と分かると、何の躊躇いもなくナイフで男の首を掻っ切った。
「………あ?」
「………え?」
まるで噴水のように血が飛び散る。
男は状況を理解すると、怒りのままに『死と平和の象徴』を出す。
浩市は呆然とする健の腕を引き、木の陰に身を隠す。
男は息絶えるまで、守護者を滅茶苦茶に暴れさせたが、健と浩市に当たる事は無かった。
鳩が消えた後も、浩市は油断せず警戒する。
男の死体が光となって消えた所で、ようやく警戒を緩める。
「……な、なんで殺したんですか?………殺したら、死んじゃうじゃないですか!?」
健は、初めて見る人の死に、感情が落ち着かず、抑えられなかった。
自分でも訳の分からない事を言っていると思うが、問わずにはいられなかったのだ。
漫画や映画なんかで、人が死ぬシーンを見た事ならある。
その時は、リアリティが有るとか無いとか言ってたが、今にして思うと滑稽だ。
本物の死を見た事も無いのに、よくもまあ〝リアリティ〟だなんて言えたものだと。
「お前、ここに何しに来たんだ?」
「………え?」
感情が落ち着かない健とは違い、殺した浩市の方は冷たすぎる程に冷静だった。
「FPSでもやるみたいに、遊び気分で来たのか?
誰かを殺しても、それはゲーム感覚で、自分の手は汚れないとでも思っていたのか?
ここは、誰かを殺し、そいつの願いよりも自分の願いを叶えさせる為の場所だ」
浩市の行動も、その言葉も、この世界でなら正しいと言える。
自分の意思でこの世界に来た以上、人としては正しいかもしれないが、間違っているのは健の方だ。
「…………」
死体や飛び散った血は消えたが、血の臭いまでは消えていない。
健は、これ以上ここに居たくないと、ふらつきながら移動する。
「おい、どこへ行く?」
「………すいません、とりあえず血の臭いのしない方へ」
「ったく、仕方ねーな。臭いくらい慣れろ」
「………できれば、慣れたくないですね」
「死に慣れなきゃ、身体より先に心が死ぬぞ」
「………はい……」
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