プロローグ4
願いの強い者が必ずしも強いギフトを得るわけでは無い。
だが、強い意思が無ければ、生き残るのも難しいだろう。
この亜空間内にいる者の多くは、誰かを犠牲にしてでも、自らの願いを叶えようという者達だ。
軽い気持ちで入った者や、多少嫌な事があったくらいで人生逆転を狙う者が勝てる程甘くは無い。
健が転んだまま起き上がる事もせず、匍匐前進でもするように距離を取ろうとする。
そんな惨めな健の背中を、プリンのチンピラが容赦なく踏みつける。
「ぐえっ」
「お前、囮か?」
(……そうだ、仲間がいるふりをして誤魔化して逃げよう)
「そ、そ……仲間はいません」
「……」
健の意思とは裏腹に、口から出た言葉は正直な情報だった。
だが、仲間はいないと告げた事で、チンピラの方は逆に警戒を強める。
「お前、どんなギフトを持っているんだ?」
(なんか凄そうなギフトを言って距離を取らせよう)
「ぼ、僕のギフトは……相手の嘘が分かります」
「………」
またしても健の意思とは裏腹に、口から出た言葉は正直な情報だった。
それもそのはず、健だけという訳では無く、一部のギフトにはデメリットが付属している事がある。
「この期に及んでブラフか? ギフト使わねーなら、このまま殺すぞ」
「ひぃぃっ! ほんとなんです、しかもデメリットで嘘がつけないんです」
「俺は既に5人殺している」
「嘘です」
「朝は米よりパン派だ」
「本当です」
「俺は身長が低く、胸と尻のデカい女が好きだ」
「前半が嘘で、後半は本当です」
「俺には兄が1人と妹が1人いる」
「……わ、わかりません」
「あ?」
「ご、ごめんなさい、何故か分からないんです」
チンピラの男は足をどける事も無く、そのまま少しの間考え込む。
「お前の言ってる事は本当のようだな」
「じゃ、じゃあ、このまま見逃してもらえたりなんか」
「あ? 確実に殺せる1点を見逃すわけねーだろうが」
「……で、ですよねぇ」
チンピラの言ってる事はもっともである。
子供だろうが老人だろうが、ギフトによっては強敵になりうる。
戦闘用でないギフトを、喧嘩も出来なさそうな男が所持しているのだ。
ゲームに例えるなら、ボーナスキャラみたいなものだろう。
「お前に選択肢をやる」
「選択肢ですか?」
「今殺されるか、俺の奴隷になって生き残るかだ」
戦えない健にとって、実質選べる選択肢は1つしかない。
だが、健は〝奴隷〟というキーワードに対し、深読みしてしまう。
「い、嫌だ、死にたくないけど、男の相手をするのも嫌だ!!」
「あ?……ば、馬鹿野郎! 気持ち悪い勘違いしてんじゃねぇ!!」
「嫌だぁ、童貞のまま処女を散らしたくないよぅ」
「……もういい、殺すわ」
「あぁ、わ、分かりました。奴隷になりますから命だけは!」
チンピラが確実な1点を逃してでも健を生かしたのには当然理由がある。
それは健のギフトが有益だと考えたからだ。
健単品で考えた場合には、相手の嘘が分かろうが戦闘の役には立たないだろう。
ブラフが分かった所で、そもそも本人に戦闘能力が無さすぎるのだから。
しかし、誰かと組むとなれば話は変わる。
一方的に相手の情報の正否が分かるのだ。
相手が喋れば喋る程、その成否から情報を奪っていける。
嘘が分かるというギフトは、使い方によっては強力な武器となる。
まあ、今の所は健に使いこなせる要素は皆無であろうが。
「お前、名前は?」
「佐藤健です」
「あ? お前が佐藤健なわけねーだろ。鏡見て言え、殺すぞ」
「いや、本名ですよ……そっちも教えてください」
「佐藤浩市だ」
「自分だってチンピラみたいな見た目のくせに、佐藤浩市じゃん!?」
「あ? 俺の名前に文句あんのか?」
「……いえ、滅相もございません。大変素敵なお名前かと」
なんとか今回は生き延びる事ができた健だが、忘れてはならない事がある。
どれだけ生き延びようと、100人殺して願いを叶える権利を得なければ、ここからは出られない。
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名前:佐藤健
年齢:19
性別:男
願い:???
能力:理
《虚偽の判定》
相手の言葉が本当か嘘か即座に分かる。
ただし、これは真実が分かる能力ではない。
仮に嘘でも、その嘘をついた相手が真実だと思っていれば、それは本当だと判断されてしまう。
また、相手が本当か嘘か分かっていない情報に対しては、判断できない。
※デメリットとして、嘘を言えない。
名前:佐藤浩市
年齢:???
性別:男
願い:???
能力:???
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