プロローグ3
ロシアが大規模な軍をブラックゲート内に送った。
愛国心溢れる彼らは、ゲームを終わらせ自国を護ろうと、二度と祖国の地を踏めぬ覚悟で挑んだ。
友の屍を超え、散って行った仲間の想いも背負い、彼らの内の1人が願いを叶える権利を得た。
そう、ここでゲームの終了を願うだけで良いのだ。
だが、彼の口から出た願いはゲームの終了では無く、とても個人的な願いだった。
「ママに……ママに会いたい……」
「その願いを叶えましょう」
彼とて最初は、自分が勝ち残ったら、ゲームの終了を願うつもりだった。
だが、人が人を殺すという行為は、あまりにも人の心を疲弊させてしまう。
もう彼は、まともな精神状態では無かったのだ。
どれだけ厳しく辛い訓練を重ねた軍人でも、人を大量に殺す訓練までは行っていない。
身も心もボロボロな彼は、幼き頃に事故で無くなった母に会いたいと願った。
その願いは叶えられ、彼は涙を流しながらも、心安らかな最期を迎えた。
中国にて、貧しく生活は苦しいが、将来は植物学者を目指す10歳の少年がいた。
父は早くに亡くなっており、朝から晩まで働く母を支える為、少年も働いている。
家事に加え、まだまだ幼い弟妹の面倒も見つつ、空いた時間に寝る間も惜しんで勉強していた。
無理がたたったのか、母が倒れてしまう。
当然、少年の稼ぎだけでは生活できるわけもない。
それどころか、母を入院させる事も治療費や薬代だって払えない。
少年は覚悟を決めてブラックゲートを通った。
少年のギフトは植物を操る魔法で、幼いながらも知識を蓄えていた為、相性が良かった。
時に休んでいる者の首を蔦で絞め、時に致死性の毒を使い、少年は願いを叶える権利を得た。
「母を治す為のお金を、家族が生活に苦しまずに済むだけのお金をください」
「その願いを叶えましょう」
少年が戻ると、母を最上級の病院、VIP待遇の個室に入院させた。
汚れてボロボロな自宅なんかとは比べるのもおこがましい程、広くて清潔な空間だった。
体調が良くなってきた母を確認し、弟妹を抱きしめると、少年は病院の屋上に向かった。
そして、人を殺したという事実に耐え切れなかった少年は飛び降りた。
発展途上国の小さな村に住む14歳の少年がいた。
周囲には小さな川と草木ばかりで、人口も63人ほどしかいない。
早く大人になって、こんな村出て行くんだと心に決めていた。
だが、少年が出て行くよりも先に、国から村人へ立ち退きが命じられる。
ダムだか何だかの為と言われたが、村人達からすればどうでもいい事だった。
大事なのは、自分達の生まれた場所が壊され、二度と戻れなくされるという事だからだ。
少年は、この何もない村の事が好きでは無かった。
街で暮らしたいと思っていたからこそ、出て行きたかったのだから。
もちろん国側もタダで出て行けと言ってるのではない。
村よりも良い環境、稼げる仕事の斡旋まで約束してくれている。
だが、生まれ故郷である村が消えると聞かされた時、感じたのは喜びでは無かった。
それは自分でも驚くほどの怒りであった。
村の事は好きでは無いが、消される事を許容できる程、嫌いでは無かったのだ。
村人達の結束力は固く、全員で反対し抗議もしたが、国の決定は覆らなかった。
見慣れぬ機械が周囲の自然を破壊していく姿に我慢できず、一部の者が暴れた。
しかし、作業員数名に怪我をさせても、こちらは捕まって人が減るが、向こうは補充されるのだ。
少年は残りの者に時間稼ぎを頼み、自らはブラックゲートへ向かった。
野生動物を狩った事はあっても、人を殺した事などは無い。
覚悟を決めて来たつもりでも、手足どころか身体全体が震えてしかたなかった。
だが、襲われて命の危険を感じた事で、少年の中のスイッチが切り替わる。
殺らなきゃ殺られる、狩る対象が動物から人に変わっただけで、やる事は変わらないのだと。
少年は願いを叶える権利を得た。
「俺の村を壊そうとする奴らに死を」
「その願いを叶えましょう」
作業員、監督、依頼した者、計画した者達が不審な死を遂げて行った。
こうして関わる者達が消えていった為、計画は中止された。
関わる事を恐れてだろう、捕まっていた村人も解放された。
少年は村を救った英雄となった。