詰められる男子高生
※徹夜明けです。やったね!
「おい、聞いているのか」
なぜ、こうなったのか。
考えても思い当たる節しかないのが残念。
俺は現在、ミハエルを含むド派手イケメン4人組に囲まれていた。
クリスは奇跡的にいない。どうしてなの…。
「毎回断るなんて許せません。」
「許せないねー」
「…ん」
お願いお願い主語をお願い♪
黒髪に野性味溢れる顔面が鋭い目つきで生徒会長のレオンが詰め寄ってくる。
身長差もあまり無い為、真正面にイケメンが近づいてくる。
近い近い近い、俺、どこ見れば正解?
「何が言いたいか分からないな」
「分かっているだろう」
そんなアホな。決めつけは良くないっておばあちゃん言ってた。
レオンは、とぼけるなと言いたげに鋭い目つきをさらに細める。
しかし、俺は今アレン様である。
悲しいことに第一皇太子は常に冷静に笑顔を絶やさないらしいぞ。
必死に笑顔を取り繕いながら至って普通に返す。
俺、バスケ部よりも演劇部の方が向いてたんじゃ…?
「…カレンの誘い、断る、ダメ」
ぼそぼそと話すグレイシス。
2mあるんかってぐらいの高身長にハイトーンアッシュグレイの髪の隙間からのぞく瞳。
あ~、なるほどね!そういうことですね!はいはい!
「悪気があって断っているわけではないよ」
「女の子の誘いは紳士なら断らないよね~」
肩まで掛かっているミルクティーの髪を自然と流し、どこか軽薄そうな男のロジャー。
俺、お前、知ってる、タイプじゃない女子の誘い、軽くかわしている。
俺の中のグレイシスがツッコミを入れる。
これが、おまいう案件です。なかなか鋭利なブーメランだが本人は気付いていない。
「兄様は第一皇太子であられますからね。聖女様の誘いは何ということはないのでしょうね。」
やっぱり来たかー!
まだ聖女様じゃないし、聖女候補様だしね!
第二皇太子ミハエル。ミハエルは腹違いの弟といえど、実は同年代である。
俺と同じ金髪ではあるが、母親譲りらしい翡翠色の瞳を向けて嫌味を言ってくる。
笑顔だけど目笑ってないからね。こわ
確かに、第一皇太子で国王待ったなしの俺と第二皇太子は立場が違う。
ミハエルとカレンが結ばれたらミハエルは繰り上がりで第一皇太子になれる。
お兄ちゃん応援しちゃうよ!
(ん?おかしくない?)
ただ、疑問点が一つ。
どうやらカレン狙いの男4人が、揃いも揃ってカレンの誘いを断るなと詰めている状況。
普通だったらカレンから逃げている俺を褒めるべきじゃ?
矛盾してない?
「君たちがどういった心情かは分からないが都合が良いのでは?」
「貴様がカレンの誘いに乗らないせいで毎回貴様の話題ばかり。非常に不本意だがカレンの誘いに乗れ」
えー知らんよ。そんなこと。いい加減諦めろって諭すのが君たちの仕事じゃないの?
というかレオンってなんでこんなに偉そうなの?もしかして王族よりも偉い位があったりする?
「悪いけど本当に予定が入っていて行きたくても行けないんだ。」
「行きたい、ですって…?」
おっと、ミハエル君、これはね、建前っていうやつだよ。お願い、分かって?
ミハエルの笑っていない目が死んだ魚の目のよう。
「アレン様、お待たせ致しました。」
待ってましたー!
ここで、救いの神クリス様。
4人に取り囲まれた俺の背後から現れたクリスに声を掛けられ、ついつい気持ちが緩んでしまう。
クリスを見やると全て理解したような遠い目をしていた。
「では、行こうか」
「はい。」
自然な流れで立ち去ろうとするが「まだ、話、終わってない」とグレイシスに阻まれる。
「みんなここにいたんだね!!探したよ!」
すると、グレイシスの背後から今一番聞きたくない声。
背中に冷たい汗が流れる。
何もやましいことはしていないが、カレン信者と化している4人を見ると断るなよと目だけで訴えかけてきているのが分かる。
「あ!アレン様!お会いできるなんて思いもしませんでしたわ!」
目ざとく俺を発見するなり探していたらしい4人から標的が俺へと変わる。
俺の様子をジッと見つめてくる4人の視線と憐れみを含んだクリスの視線。
お願い、助けてクリス様。
「お会いしたかったの!今からみんなと今度の聖女祭に着ていくドレスを見に行こうって話をしてて―」
「アレン様、お時間です。」
遮るようにクリスが言い放つ。
神は見捨てなかった。
なんのお時間かは分からないけど、クリスの助け舟で溺れずに済んだことが分かった。
あとでめちゃくちゃお礼言う。
「アレン様も、と思いましたがよろしければクリス様もご一緒にいかがですか?」
しかし、ヒロイン強いぞ。
クリスがピクッと頬を引きつらせた。
「カレン、私たちは今から公務があるから行かなければならない。また今度ね。」
「…そう、なんですね」
公務なんてないが、折角クリスが出した助け舟を無駄にするわけにはいかない。
それでは行こうかとクリスに声を掛けて走り出すことなく颯爽と優雅に歩を進めた。
その際にチラリと様子を伺ったが、4人は俺にぐぬぬと今にも言い出しそうな表情をしていた。
カレンといえば、形容し難い表情でなぜかクリスを見つめていた。
「クーリースー!」
「どうされました?」
学園から出て迎えの馬車に乗り込むとアレン様が今にも泣きそうな顔で抱き着いてきた。
肩をぽんぽんと子どもをあやすように撫でる。
記憶の病を現在進行形で患っているアレン様は何も言わない。
むしろ最近の習慣となっている。
「マジでさっきはありがとう」
「マジ、というのは本当という意味でしたでしょうか?」
「そ!」
くしゃりと笑うアレン様。
幼児退行しているような節さえ感じてしまう幼い表情。
馬車に揺られながらアレン様の愚痴を聞いてやる。
端正なお顔立ちでありながら、自分にしか見せないくるくると変わる表情。
未来の国王、大丈夫か?
「イケメンに詰められると迫力やばい」
「い、いけめん…?やばい…?」
アレン様は知らない言葉をよく使う。これも記憶の病の影響だろうか。
様子見を言い渡されている為、刺激はしないように心掛けているが如何せん解読に時間がかかってしまう。
「そういえば、最後カレンちゃん、クリスのこと見てたね」
「そうですか?」
「ん」
はて、カレン様に目を付けられるようなことをしただろうか。
確かに、言葉を遮ったのは対応として間違っていたかもしれないが、負けじと言い返してきた姿を思い出す。
「何かしちゃったんじゃないの~?」
頬を緩ませニヤニヤとするアレン様。
今のアレン様が考えていることははっきりと分かる。
「あわよくば、押し付けようとお考えですか。そうですか。」
「ごめんって!」
わざとらしく目を逸らすと焦ったようなアレン様に、顔には出さないが心の中で笑ってしまう。
従者なのだから別に押し付けたって構わないのに。
ただ、記憶の病を患ってからアレン様とのやり取りが楽しくなっていた。
以前だったら考えられないことだ。
「ご~め~ん~」と平謝りしてくる主に視線を戻し「冗談ですよ」と返す。
見たこともない表情の数々。
どう表現したら良いのか分からないが、自分にとってかけがえのない時間となっていた。