アイリーン様は情緒不安定
(最近、アレン様がおかしい。)
金髪縦長ロールを揺らしながらアイリーンは悶々としていた。
王族に次ぐ由緒正しい公爵家に生まれ、5歳の頃に婚約者は時期王たる第一皇太子のアレンと決まった。
実際にアレンに会った時には一目惚れだった。
ただ、同年代であるにも関わらず既にしっかりとした佇まいのアレンに並ぶ令嬢となるように妃教育も早い段階から始めてもらった。
隙を見せないように強い令嬢となるように心がけていた。
そのせいで、周りからは冷血令嬢と噂されるようになった。
言っていることは間違っていないが周りの見る目がそう評価しているぐらいにアイリーンは強くなりすぎたのだ。
いつしか婚約者はのアレンは自分に冷たくなっていったのも知っていた。
可愛げのない自分に呆れているとも思っていた。
1度そう考えるとアレンに目を向けて欲しくて怒られたくてあえて他人の悪口を言ってみたり嫌な自分になってみたりもした。
アレンが向ける感情なら何でも嬉しく感じてしまうのだ。
ベタ惚れってやつだ。
「あ、アイリーン」
「!!」
ひらひらと手を振り優雅に歩いて向かってくるアレンにビクッとしてしまう。
いつもならアレンと目があっても逸らされてしまうというのに
「今日のランチも一緒にどうだい?」
「は、え、あ、はい!」
「よかった。」
サラッと誘ってくるアレン。
実は、先日のランチも生まれて初めてのことだったのだ。
その時はアレンの従者のクリスがアレンとのランチをセッティングしてきたのだが今回はアレンが直接誘ってきたのだ。
アイリーンは最早狼狽えるしかない。
「今日も素敵な髪形だね」
「あ、ありがとうございます?」
「アイリーンは今の髪型も似合っているけれど、他の髪形も似合いそうだね」
「そ、そうですか。例えば何が似合いそうでしょうか?」
「うーん…そうだね。ストレートも似合うと思うよ」
「え」
思いがけない会話に面食らっていたがさらに自分にはストレートが似合う?だと?
好きな人に言われたらそうかもとなるのが乙女心。
「じゃあ、また後で」と手を振りながら消えていった婚約者を見つめながらアイリーンは後ろに控えていた侍女のマリアに言った。
「ランチまでにわたくしの髪を整えて」
「かしこまりました」
長年、アイリーンを横で見てきたマリアはすぐに理解した。
(ストレートにしたいのね…お嬢様…)
なんて健気なのとほろりと出そうになる涙は心で拭いマリアは早速取り掛かった。