次の攻略対象
※深夜テンションだから許してください
『青薔薇の奇跡~リーンハルト皇国編~』
20代女性から支持率の高いこのゲーム、所謂逆ハーレムもとい乙女ゲームと称される。
庶民のヒロインが光の聖女候補と発覚し国が誇る魔法学園に転入してきたことから始まる1年間の物語。
5人の攻略対象が存在し、ヒロインこと光の聖女候補が攻略対象の1人と結ばれるトゥルーエンドと全員と結ばれるハーレムエンドがある。
さらにはヒロインが誰とも結ばれない場合、誰かが死ぬバッドエンドなんていうのもある。
「俺、ガッツリ攻略対象ってやつじゃん…」
自室でベッドに横たわりながら天井を見つめる。
しかも姉ちゃんの推しキャラとか複雑すぎる。
ただ、残念なことに姉ちゃんの話を聞き流していたせいでざっくりとした内容しか覚えてない。
しかも"俺ルート"
"俺ルート"ってパワーワードすぎる。
確か、"アレン様"は完全無欠の王子様キャラだが、第一皇太子としての期待感と自身の責務に押しつぶされそうになった所でヒロインに救われるという設定だった。
2人はイベントを通してゆっくりと心を通わせ結婚へと至る。
いくつものイベントを経てやっと"アレン様"の"真実の笑顔"というスチルを手に入れた姉ちゃんにニヤニヤと見せられ覚えてる。
「俺、救われんの?」
ただ、"アレン様"の婚約者がヒロインの邪魔をしてくるらしく姉ちゃんがやきもきしていたのを思い出す。
「あれ…俺の婚約者…?」
この世界に来てから1週間、婚約者というワードは聞いたことがなかった。
「ク~リ~ス~」
「どうされましたか?」
「俺って婚約者いたりする?」
「はい」
いたよ。婚約者。
聞いたところによると実は婚約者は毎日家に訪ねてきていたらしい。
暇人か?
ただ、俺の時期国王突貫工事中だった為丁重にお断りしていたとのこと。
「会ってみたいんだけど」
「はぁ、よろしいですが…。言葉使い」
「大丈夫大丈夫、任せて」
「はぁ…。」
興味本位で婚約者とやらに会いたくなってきたが確か姉ちゃんが言ってたのを思い出す。
婚約者は"アレン様"が好きすぎて"アレン様"に近づく女は全員敵とみなし嫌がらせの数々を起こす悪役令嬢ってやつだったはずだ。
「明日、学園でお会いできるようにいたします。」
「ん」
ありがとーと間延びした声で返事するとクリスはまた言葉使いと呟き長い溜息を吐いた。
そんなに溜息吐いてると幸せ逃げちゃうよ?
大丈夫そ??
翌日、俺は早速アイリーンとの場をランチにかこつけてクリスに設けてもらった。
学園の中に王族御用達の庭園があり、そこのベンチで並んで座る女性。
縦髪ロールの濃ゆい金髪にグリーンの瞳。一見するとキツい印象を与えそうな美女ことアイリーン。
クリスお手製のサンドイッチをつまみながらアイリーンを見つめる。
「アレン様!アレン様!お会いしたかったですわ!!」
「ありがとう。私もだよ」
弾丸のように話題を変えるアイリーンに適当に相槌を打つ。
久しぶりに会えた婚約者に嬉しいようだ。
「そういえば、光の聖女候補様が転入されましたの」
「ああ、知っているよ」
「わたくし、あのお方好きじゃないわ」
「そうなんだ。どうしてだい?」
クリスがジッと後ろから見つめてくる。
その視線で分かるぜ…。言葉使いに気を付けろよってことだろ。任せて任せて。
「入学早々、生徒会の皆様を侍らせてまして…信じられませんわ」
「は、はべら?え?」
「はい?」
「そうなんだね」
「そうなんですの!」
聞き慣れない言葉でついつい素が出てしまう。やっっべ。
クリスからお咎めは無いが背後からの視線が痛い。
ただ、このアイリーンはあまり気にならないらしい。
ちょっと面白い。
「生徒会の皆様も婚約者様がいらっしゃるというのに、はしたないわ!」
「…」
アイリーンは見た目通り、気が強いのか語尾がなんか強い。
ただ、話を聞く限り別に間違ったことは言ってない。
婚約者がいるということはそれなりの地位であるということ。
にも関わらず婚約者とは別の女性に鼻を伸ばしているらしい。
まさに付け込まれる隙ってやつだ。
それにぷんぷんと騒ぐアイリーン。
ただ、アイリーンはもう少し黙ってた方が絶対かわいいと思うんだけど。
「アレン様?どうされましたの?」
少し考え事をしていた俺にアイリーンが不安そうに尋ねてくる。
「あぁ…ごめん。アイリーンがかわいいなと思って」
「はぇ!??!?」
後ろに控えているクリスがブッ!と吹き出す音が聞こえる。
え?俺なんか間違った?
婚約者なんでしょ?
「どどどど、どうされましたの!?いつもはこっ、こんな」
「え?本当のこと言っただけだけど…ただ、アイリーンは今のままでも素敵だけど他人のことより私のことだけ考えてれば良いなっては思ったけど」
「ひょえ!?!!??」
正直、女子は他人の悪口言ってるとき不細工だからあんま聞きたくないんだよなー
かわいい子はかわいいこと言ってほしい。お花がきれいとか
高校でよく悪口大会してる女子にそうゆうの良いから俺のことだけ考えろよとかふざけて言ってたらアキラまじキモイとか言われてたっけ
懐かしい。
「わ、わわわかりましたわ。」
「ありがと」
「そ、それではわたくしはこれで」
「ああ、またね」
アイリーンは顔を真っ赤にしてそそくさと立ち去っていった。
アイリーンが見えなくなった頃、クリスを見やると驚いたような表情をしていた。
「アレン様、どうされたのですか」
「え?何が」
「いや、昔はよくアイリーン様が嫌だと嘆いておられたので…てっきり今のアレン様も…」
「そなの?」
「え、あ。はい。まぁ」
歯切れの悪いクリスだが、確かにと思う。
アイリーンは美人だが、言葉がキツいせいで聞いてる方が疲れてしまう。
「あまり会わせたくなかったのですが…まぁ、いいのか…?」
とぼそぼそ呟くクリス。
「かわいいけど確かに俺のタイプではないんだよなー。」
「は?」
「俺のタイプはストレートロングに控えめお嬢様系かな」
「聞いてませんけど」
「今度、アイリーンにストレートにしてみてーって言ってみよ」
「いやいや」
クリスも俺に言葉使いとか言いながら崩れてきてる気がするんだよな。
こっちの方が絡みやすいからいいけど。
とりあえず、そろそろ午後からの授業が始まる時間なので講堂へと向かう。
しかし、ここでどうやら"イベント発生"らしい。
「きゃっ」
「っ!?」
なんとベタな展開。曲がり角で女生徒とぶつかった。
転びかける女生徒の腰を抱きかかえて間一髪のところで顔面から地面にダイブを阻止する。
「ありがとうございます!!」
「アレン様、お怪我はございませんか!?」
「…」
キラキラの笑顔でお礼を述べる女生徒の青薔薇の髪飾り。
(ま、まさか)
クリスの心配声を他所に面倒くささが支配する。
女生徒の後ろから駆け寄る派手な男性陣。
そこには第二皇太子ミハエルの姿もあった。
「大丈夫か!?カレン!」
「もうおっちょこちょいだなぁ」
「カレン…走るのだめ…危ない」
「カレン嬢、お怪我は?」
うお~~。すげ。
確かハーレムエンドは攻略対象全員に囲われる大体円エンド。
全員の好感度パラメーターが最高値で発生するルートだったはず。
姉ちゃんが"アレン様"ルートを攻略後に、違う"アレン様"も見たいという理由で現在攻略中のルートと言っていた。
あとクッソむずいとも言ってた。何が難しいんだったっけ…?
転入2日目で既に5人中4人を攻略した恐れのあるカレンと呼ばれる女生徒を見る。
本当に難しいルートなのか?
「アレンじゃないか。カレンから手を離せ。」
「あ、ああ…」
黒髪の高身長イケメンから睨みつけるように地を這うような声音で言われた。
え、こわ。
急いでカレンを抱えてた手を離してやる。
イケメンの睨みは圧が加わって怖い。
「クリス、この人たちは?」
「生徒会長の方々です。右からレオン様、ロジャー様、グレイシス様、ミハエル様、です。」
クリスに小声で尋ねるとこれまた俺にだけ聞こえる声で教えてくれた。
ミハエルは実は何度か会ったことがあるので知っている。
黒髪高身長イケメンはレオンというらしい。
全員、ゲームのパッケージで見たことある。
確か、ここに"俺"が加わればハーレムエンドってやつだ。
「アレン様!お会いしたっかです!」
「ん?」
「とても素敵ですね…!」
カレンは熱い目線を送りつつ両手を胸の前で握りながら弾んだ声で言った。
後ろのイケメン男子4人組は気が気でない様子でこちらを伺っている。
「素敵ですが…アレン様、もしかして悩んでいらっしゃいますか…?」
「へ?」
「とても苦しそうな、悲しそうな目をされています…。」
(え?え?なにこれ?)
まさかの急展開。確かに悩んでるっちゃ悩んでる。
まじ、どうやったら第一皇太子じゃなくなるかなーとか、楽に生きたいわーとか
とりあえず適当にいつも通りに生きつつ国王様にならないようにしよって実は結論出ちゃったりしてるけど
(もしかしてこれ、"俺ルート"のイベントってやつじゃ…?)
察しの良い俺は分かりますよ。
普通にメインキャラの出会いってイベントじゃん?
でも俺は光の聖女候補に目を付けられたくない。
だってそれこそ国王様へのレールに乗っちゃうってことでしょ?
「ハハ、面白いことを言いますね。」
「笑っていても、それは真実の笑顔じゃないわ…」
「は?え?」
適当に受け流そって思ったら斜め上からの返事。
思わず間の抜けた表情をしてしまう。
やだ、この子怖いわ
「カレン嬢、行こう。兄様は"第一皇太子"です。我々と違ってお忙しい身です。ねぇ、兄様」
「あ?」
棘のある物言いに思わず喧嘩売ってんのかと言い返しそうになるが我慢。
第二皇太子ミハエル。俺の腹違いの弟。
王位継承権を争っているのは分かるけど、毎回嫌味言ってくるんだよなこいつ。
ここでも言っちゃうの君
「アレン様、授業に遅れます。行きましょう。」
「あ、ああ」
クリスが助け舟を出してくれたお陰で「それでは」と優雅に踵を返す。
講堂で向かう途中クリスに「言葉使い」とまた怒られたが、少し違和感を感じていた。
っていうか乙女ゲームって普通2日で攻略対象の大半を攻略できるもんなのか?
乙女ゲームといえど美少女ゲームと同じでイベントを重ねて好感度って上がっていくものじゃないのか?
確かヒロインが転入してから1年間のイベントを経て攻略されていくんじゃなかったけ?
先ほどの会話にしても"真実の笑顔"のワードが出てくるのこんな初っ端なのか?
ただ一番確実なことは一つ
次の攻略対象って俺じゃん?