皇太子は男子高校生
※深夜テンションで書いてます。
整えられた薄い金色が風になびく。
豪華絢爛な校門を抜けて教室へと歩を進めるだけで黄色い囁き声。
「おはようございます。アレン様」
「おはよう」
「ご回復おめでとうございます。久方ぶりですのにお美しさが変わらず流石としか言いようがございません。」
「ハハ、ありがとう。」
にこりと笑顔で返すと頬を赤らめる女子。
大変可愛らしい、可愛らしいしなんなら付き合いたいが、
(なんで、こうなった。)
アレン様と呼ばれた俺は1週間前まで、しがない男子高生だったはずだ。
バスケ部で部活に明け暮れ、なんでかモテるサッカー部と野球部を尻目に女なんて興味ねー俺はバスケがあるからと強がっていた普通の男子高校生。
女子にキャーキャー言われたことは生涯で一度も無かった。
「アレン様、本日は午後から執務がございますので午前の授業が終わり次第うんたらかんたら」
「アレン様がお久しぶりに復帰なさると聞いてクッキーを焼いてみましたの。東方より仕入れてうんたらかんたら」
「アレン様、先日の舞踏会、とても素敵でしたわ、あの衣装の意匠はうんたらかんたら」
ひたすら耳が痛い。
今までの生活で耳慣れない言葉の言い回しにうっとうしいわと耳を塞ぎたくなるが俺こと"アレン様"のいるこの世界はこれが通常営業だ。
1週間前、俺は部活中に友達とふざけて新しいシュートと称して体育館の観覧席から思いっきりダンクを決めようとしたところで足を滑らして頭を打った。
我ながらアホだと思う。
その後、これ何畳あんの?ってぐらい広い西洋絵画でしか見たことない部屋で目を覚ました。
どうやら俺はこの世界の皇太子らしく剣技の訓練中に当たり所が悪く寝かされていたらしい。
目を覚ました俺の傍には金髪碧眼でキツい印象のある美女と金髪碧眼の高身長イケメンが立っていた。
後から知ったが母と父らしい。
つまり妃様と国王様だ。
え、俺の母さんは煎餅食いながら最近太ったのよねーが口癖の恵美子と恵美子に頭の上がらない薄毛の親父の筈なんだけど。
なにこれなにこれ、意味わかんねー
と黙っている俺に金髪碧眼の美女は切れ長の瞳を伏せながら良かったと呟いた。
「どうやら、アレン様は混乱しているようです。記憶の病の可能性もございますので簡単な質疑応答をさせて頂いても?」
「ああ、頼む」
一方で高身長イケメンと医者っぽい二人が勝手に話を進めていた。
「それでは、始めます。」
「あ、ハイ」
「貴方様のお名前は?」
「…斎藤アキラ」
「「「…」」」
一発目から失敗したらしい。
簡単な質疑応答は数秒で終わり、この国でいうところの記憶の病もとい記憶喪失と無事認定された。
「貴方は、アレン・シュバルツ・リーンハルトよ」
「は?は?何?は?」
聞き慣れない自分の名前や国の名前、通っている学校の名前に諸々
分かったことは俺は時期王様らしくリーンハルト皇国の第一皇太子らしい。
凄いことに魔法もあるらしい。
"アレン様"は魔法はもちろん剣技に於いて全てに精通していたスーパー王子様だったらしい。
残念なことに今の俺にはその記憶が全くない。
しかし、一番驚いたのは俺の顔面だ。
偶然鏡の前を通った時に3度見はした。
両親から受け継いだらしい金髪碧眼、優しそうな瞳に小さな顔、さらには高身長ときた。
姉ちゃんがしてたゲームにこんなキャラいた。
いわゆる王子様系だ。
え、もしかして俺勝ち組じゃね?と
人生スーパーイージーモードじゃね?と
しかし、そうはいかなかった。
赤ちゃん並みの知識しかない状態の俺にとりあえず1週間で元の"アレン様"に戻すようにと国王様からお達しがあったのだ。
俺の親父超きびしくね。
それから起きている時間すべて知識と実技の突貫工事が始まった。
"アレン様"になって人生スーパーイージーモードとなめ腐っていた俺はお達しから1日目で人生スーパーハードモードやんけと認識を改めることとなった。
記憶が戻るのを待ってみては?と医者からもアドバイスがあったらしいが、不確実なものに頼ることは出来ないと即却下されたらしい。
そして、俺はとりあえずなんちゃって"アレン様"を演じるところまで行きついたのだった。
「アレン様、久しぶりのご登校ですが大丈夫でしょうか…?」
「ああ…、多分…?」
従者のクリスが斜め後ろから小声で不安そうに尋ねてきた。
クリスは唯一、俺の事情を知っている1人だ。
どうやら王族は隙を見せることは政治的にも狙われやすく常に完璧でいないといけないらしい。
記憶喪失(厳密には記憶喪失じゃない)を悟られると第二皇太子のミハエル派に付け込まれるとのことだ。
俺はそれで良いんですけど。
「言葉使いが元に戻られかけておりますので…」
「ぴえん」
「ぴえん…?」
亜麻色の瞳でクリスが不思議そうな表情で聞き返してくるがスルーする。
「そういえば、本日から光の聖女候補様がご登校されるらしいですよ」
「へー、かわいいの?」
「アレン様、言葉使い」
「ハイ」
"光の聖女"
100年に1度、光の精霊に愛された女性が誕生する。
リーンハルト皇国では、古から崇め奉られている存在だ。
その女性は癒しの力が強く国の食糧事情、戦争諸々で実績を上げ国に富みと繁栄を約束する。
さらにその女性と結ばれた者は恩恵が与えられ同様の力を手に入れることができるらしい。
「正直、俺は関わりたくないかなー」
「言葉使い」
クリスは、同年代で話しやすいせいか、ついつい通常運転に戻ってしまう。
それを窘められつつ、どうしてですか?と聞き返される。
「だって、光の聖女様と結婚したらそれこそ王にならないといけないわけじゃん?王様とかなりたくないし」
「こら!」
不敬ですよ!と小声で怒られた。
怒涛の時期王突貫工事~1週間でアレン様になるまで終われません~で分かったが、リーンハルト皇国は近い将来戦争へと突入する。
その頃には俺か第二皇太子ミハエルのどちらかが国王になっているが、戦争とかしたくないし政治とか面倒だし
光の聖女の恩恵があるといえど戦争を止める手立ては現在のところ、無いのだ。
それだったらミハエルにお願いして自分は王族から身を引いて遠い地で楽に暮らしたい。
かわいい奥さんがいて子供は2人で…
「アレン様、貴方は期待されていらっしゃるんですよ。記憶がないと言っても魔力は変わりませんし1週間であれだけの知識量を詰め込まれて平然とされていらっしゃいますし」
「"元"が良いからねー」
"元"とは俺じゃないアレン様の地頭のことだ。
さらに元からあった知識だったせいか吸収力はあった。
俺からしたら地獄だったけど。
「あ、噂をすれば光の聖女候補様ですよ」
「んー………!?」
一瞬の既視感のち少しの確信。
ふわふわのボブカットに青薔薇の髪飾り、そして周りの派手な男性陣
初めて見た筈なのに俺は"こいつら"を知っている。
『こんなキャラいねーよ』
『うっさい。ゲームのキャラにリアルを求めないで』
『ふーん…。「青薔薇の奇跡~リーンハルト皇国編~」…。面白いの?』
『聞く?聞いちゃう?この"アレン様"が私の推しなんだけど~…』
鮮明に思い出される記憶。
姉ちゃんとのやり取り。聞き流していたけどゲームのパッケージは見てたから覚えてる。
「まさか、この世界って」
「?どうされました?」
クリスの不思議顔、今日めちゃくちゃ見るなと思いながら
俺、この後の展開知ってるわと遠い目をしながら近づいてくる『青薔薇の奇跡』集団を見つめるしかなかった。