⑨ゆるっとお散歩
異世界転移からもうすぐ2ヶ月。大変順調に異世界生活を送っている。
屋敷の敷地内から出ていないし、ほぼ掃除しかしていないので当然と言えば当然だが。
週末の約束はミヒャエルさんの用事で流れてしまったが、服はあるので問題は無い。問題は、彼が『約束を反故にしたこと』をいつまでも気にしているようであることくらいだろう。
ミヒャエルさんはほぼ毎日魔導院(職場)に行くようだが、その時間は一日2~4時間程度。服装はいい加減だ。
週一程度で丸一日の時もあり、その日だけは制服らしきものと綺麗なローブを身にまとっている。また、その日の前日は、この間のように真剣な顔でひたすら机に向かっている。
それ以外も大抵書斎に籠っているので、昼頃なんだかんだ理由を付けて散歩に連れ出すのが日課になっていた。
「いい天気ですねぇ」
今日はムースっぽい謎の鹿と、飼われている普通の馬二頭の放牧をさせるついでに散歩に出た。
屋敷だけでなく、所有している敷地も実はめちゃくちゃ広かった。ミヒャエルさんは「一応目印があるんですよ~」と言っていたが、サッパリわからない。とりあえず、だだっ広いことだけは確か。
「でも夕方には天気が崩れます」
「そうなんですか?」
「ええ。 雷雨になりそうです」
なんでわかるのかはわからないが、ミヒャエルさんの天気予報は私の知る限り100%で当たっている。以前なんでわかるのかと聞いたが、彼の口から出たのは『魔素がどうのこうの』というもので、説明されてもいまひとつわからなかった。
「それより明後日は久しぶりに一日休みなんです。 今度こそ買い物に行きましょう? 勝手に買ってこようかとも思いましたが、ご趣味に合うかわかりませんし……」
「着られればなんでも良い方ですが、あまり高いものを買われても困るので、そうしていただけると」
「アナタ、最初と変わりませんよねぇ……」
「……まだ2ヶ月程しか経ってませんよ?」
呆れた顔をしてそう言うと、ミヒャエルさんは「それもそうですね」と笑っていた。
「毎日一緒に過ごしているからでしょうか。 この2ヶ月で何年も共にした気がします」
「ケビンさん達とはどれくらいです?」
「ここを貰い受けてからですので、まだ三年程……暮らしてからは二年半くらいでしょうか。 考えてみれば、ケビン達もそうだったかな。 知ってます? 獣人は嘘や隠し事が苦手なんですよ。 だから彼等を選びました。 もっともケビンとエルゼは、性格的にも私に合っていたとは思いますが」
当初ケビンさんに『旦那様は他人に興味を示さない』と評されていたミヒャエルさんだが、私はそれが信じられないくらいそんな彼を目にしたことは無い。
夫妻の他、御用聞きの雇いの人くらいしか来ないのでわかりようもないのだが……それ自体が特定の人としか関わろうとしない証拠なのかもしれない。
「わかったとは到底言えないでしょうが、慣れ親しんだような……そんな感じがアナタには出会った時からあります。 隠し事はありそうなのに、不思議ですね」
「……何年一緒にいても馴染めない人っていますからね。 不思議じゃありませんよ」
ミヒャエルさんは微妙な顔をしたが、「私がそうでなくて良かったです」と笑顔で言うと苦笑で返され、話はそこで終わった。
──ミヒャエルさんに対する不思議な感覚は、私もなんとなくある。
だが、そんなものは勘の範疇のことだ。
なんとでも言えることにグダグダ理由をつける必要はないし、なにもやらないでただ甘える理由にもならないし、隠していることを話す理由にもならない。
仮にミヒャエルさんがなにか重大な隠しごと(もしかしたら機密とか)を誰かに話したいと思っていて、その理由を作りたいとしても……聞くのは構わないが、私は自ら話さないので悪いが同意はしない。
そもそも性別については、隠しているというより、敢えて言っていないだけである。必要性もなく自らは話さないが、聞かれたら話すつもりでいる。
それが大分今更な気がするのは、ミヒャエルさんの言う通り慣れ親しんだ感覚からだろうか。
この2ヶ月程の間に……仮に彼が同性愛者であったとしても、少し前に想像してたように『なんですって?! 男の子だと思ってたのに! 出てってください!』等と言われる不安はもう抱いていない。ちょっとしか。
「そうそう、明後日は折角ですから色々寄り道しましょうね! そろそろ家具も入れたいところですし。 お陰で綺麗な部屋が増えましたよ~。 ありがとうございます」
「いえ、まだまだです!!」
ミヒャエルさんは相変わらずなにかにつけて『庇護欲スイッチ』をONにさせている。尚、押しているつもりはない。
なので「この人はこういう人だ」と諦め、私は労働力で返すことにしている。実際は掃除以外にもお手伝いできることがちょいちょいあった為、目標の一日~三日で一部屋という訳にはいかなかったが、なんとか左側は先週終えることができた。
「なんだか気合いが入ってますね」とミヒャエルさんは笑ったが、彼の言葉通り、私は今とても気合いが入っている。
今週になって、ようやくコの字の中央部分である、大広間に取り掛かったのだ。
大広間の壁や天井は潔く諦めた。届く訳がない。業者を呼ぶべきである。
なのでひたすら床を掃き、ようやく磨く段階に到達した。
他の部屋もそうだが、床は石で出来ている。デッキブラシでひたすら磨き、モップで拭く作業を繰り返すととても綺麗になる。
薄汚れていてよくわからないが、大広間の床はパーティ等を開く場所らしく、中央から円を描くようにモザイク模様が広がっているようだ。
パズルを作るように……と言うにはあまりにも力仕事だが、その模様がいずれ美しく浮かび上がることを考えるとやり甲斐があり、いつも以上に気合いも入る。
「ふふ、週末までには終わらせてみせますよ!」
「素晴らしいです! じゃあご褒美を考えておかなくては……」
「いや、要りません」
そんなわけで、散歩を楽しんだ後は馬達を馬屋へと戻し、私もその作業の続きの為に、大広間へと戻った。
ソノさんの想像上のミヒャエルさんの台詞、『なんですって?! 男の子だと思ってたのに! 出てってください!』は、鷹羽飛鳥様の8部分の感想から使わせて頂きました。
鷹羽さん、ありがとうございました!
♡☆(´▽`)☆♡
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