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⑦ゆるっとお仕事

 

 昼食の片付けを手伝うていで、なんとかエルゼさんと二人きりになった私だが、割と心は折れていた。

 お姫様抱っこの経緯は一応説明したものの、全く説得力を持たないであろうことに、気付いていたからである。




 昼食時、とにかくミヒャエルさんは過保護で


「具合が悪いのでは? そうだ、ジュースなら……」


 とオロオロしながらエルゼさんに野菜ジュースを作らせようとし、


「いや! 大丈夫です!! ……元々1食、朝食ぐらいの量しか摂っていなかったので」


 と告げると、何故かシュンとしたあと全てのおかずを少しずつ取り分けようとして、エルゼさんに


「好きなモノを好きなように食べさせて差し上げてください!」


 と怒られていた。


 ……とにかく世話を焼きたい様子。


 ケビンさんはもう私の皿におかずを盛ろうとはしてこなかったが、相変わらず勧めてくるミヒャエルさんを生温かい目で眺めていた。



 異世界から来た私は、ミヒャエルさんにとって大事な『研究材料』である。

 しかもこの世界で私は子供に見えるらしいので、必要以上に気遣われるのは仕方ないのかもしれない。


 ──ただ、それを説明したくはない。


 ミヒャエルさんは言っても構わない風だったが……私が彼に性別を明かさないのと同様に、わからなくていいことは言わない方が賢明である。

 多少の誤解は甘んじて受けようと思う。



 エルゼさんは私の説明にまた思案顔をした後「大丈夫です!」と私の肩を叩き、力強く親指を上に立てると、仕事があるからとどこかへ行ってしまった。


 なにが大丈夫なのか、サッパリわからない。

 ……とりあえず、この世界の『サムズアップ』も日本と変わらないような意味であることだけはわかった。




 やることが無くなってしまったので塔に戻ると、書斎に灯り。石の柱のかげから覗くと、真剣な様子でミヒャエルさんが机に向かっていた。


 手伝えることがあれば手伝いたいが……声を掛けて邪魔をするのは憚られる。それを聞くのは暫くあと、休憩用にお茶でも持っていった時にすることにし、そっとその場を離れた。




「ケビンさん、なにかお手伝いできることありませんか?」


 再び本棟へ。エルゼさんの作業部屋へ行ってみるつもりだったが、廊下でケビンさんに会ったので彼に聞いてみることにした。


「やることは無限にあるが……旦那様はいいんかい?」

「ミヒャエルさんは集中してらしたので……暫くしてからにしようと」

「そうか、旦那様は明日ご出勤の日だったな……うん、いい判断だ。 そうだなぁ~、ソノさんの部屋の掃除でもしてもらうか!」

「部屋の掃除ですか?」

「ああ、塔じゃないぜ? 新しく部屋になるところのだ」

「……わかりました」


 別にあの部屋のままでいいのだが、この屋敷には放置してあるだけの部屋がいくつもあるらしい。どのみち掃除をした方がいいのだろうと思う。



 この屋敷本棟は、大広間を挟んでコの字型になっていて、向かって右側奥だけが3階建てである。そこが住み込みの使用人の住居になっているようで、そこの一部にケビンさんとエルゼさんは住んでいる。


 1階玄関ホールと中央に位置する大広間は完全な吹き抜け。


 コの字、左側が家主家族の居住スペース。

 中央の階段を登った正面から塔に繋がる2階端までが主の部屋。

 角の寝室で繋がった、奥隣に奥方の部屋。その先に客室が3つ。一部子供部屋として使っていたという。


 向かいの扉を開けると使用人の休憩室とお茶用の小さなキッチン。納戸とリネン室がある奥は角に1階に続く使用人用の階段。

 降りると洗濯用の水場と裏口のあるところに出る。


 1階のメインは食堂であり、あとは応接室と小さなサンルーム。残りはキッチンと諸々の作業場である。服の直しの際は、ここの作業場にお邪魔した。




「ソノさん、こっち」

「ええ?」


 てっきり右側奥の住み込みの部屋に行くものかと思いきや、何故か左側の客室に連れてこられた。


「3部屋のうちどれでも好きなとこ、どうぞ?」

「…… ケビンさん達の方じゃないんですか?」

「なんでわざわざ? こんな空いてんのに。 実際俺らも向こうには『帰ってる』って感じだぞ、まあ近いけどな!」


 ケビンさんエルゼさんは、使用人用の扉から裏口を移動してこちらに来ることが多い様だ。食事はこちらでミヒャエルさんと済ませているし、ほぼ荷物置きと寝に帰ってるだけだとか。


「家は使わないと傷むんだよ、ソノさん。 ぶっちゃけ右側は殆ど手付かずなんだ」



 玄関から向かって右側が大広間で、向きは中庭側に面しており手前側には廊下が続く。大広間は吹き抜けだが一部がロフトの様になっているので、手前の廊下は2階に別れている。


 コの字右側には1階にパーティ用の厨房と応対用の小部屋。2階が客室なのだが……

 最奥の3階建て、使用人の居住スペースの一部……つまり自分達が使用しているところにしか手を付けてないらしい。




 奥の部屋の扉を開けてみると、思っていたよりは綺麗。


「入居前に人を雇って一度全部軽く掃除はしたんだが、ガラクタを取り除いて履くだけで相当時間がかかってね。 なにしろ無駄に広いだろ? ある程度で諦めて、使う部屋だけ綺麗にして家具を入れたんだよ。 あとは定期的に少しづつ。虫とかわいたら面倒臭ぇし」


 ため息混じりにそう言うケビンさんだが、私はやることが決まってホッとしていた。


「じゃあ私も当面お役に立てそうですね!」


 身体も鈍っている。一日一部屋~三日で一部屋を目標に綺麗に掃除することに決めた。




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― 新着の感想 ―
[一言]  む~、子供に見えるから、世話を焼く? だけなのかなぁ…。
[一言] 転移先はいいことが待っているとは限らないから、冷静さは必要。 でも、今回は人に恵まれたかな。
[一言] >……とにかく世話を焼きたい様子。 とにかく世話を焼きたいミヒャエルきゃわわ( ˘ω˘ )
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