第1話 とある道化にまつわる話
戦いと策略に疲れたとある国がありました。
その世界では人々はみな疲れていたため、自分たちの心を慰める存在が必要でした。
だから人々は、自分たちを笑わせてくれる道化を望みました。
道化は望まれた役割を果たします。
精いっぱい自分たちの務めを果たして、人々を笑顔にしていきました。
暗く沈んでいた国は明るくなり、人々は少しずつ幸せになってきました。
そして前を向いて、よりよい未来をつくるために、互いに手を取り合って生活していきます。
けれど、それからしばらく経った後。
幸せになった人たちは道化を捨てました。
自分たちとは異質な存在。
こっけいでおかしい。でもそれだけ、なんの益にもならない。
だから、無駄を省くことにしました。
人々は不要になったごみに石を投げます。
ごみは、すぐに痛み、腐っていきました。
しかし道化は、道化である事をやめようとしませんでした。
道化は道化らしく、道化を演じ続けます。
なぜなら道化としてふるまう事が、道化を道化とするための在り方だったからです。
やがて、国中の人が道化を疎んじ、差別するようになりました。
道化は、それでも道化であり続けます。
いつか彼の存在を再び受け入れる人間は現れるのでしょうか。