~2014.5.16
「僕と、ドアノブを繋ぐ、一本のそれ」
空のプラスチックを握りながら嘔吐を繰り返す。
口の奥でカプセルが粘つく。喉に引っかかっていて、反射でそれをまた吐き出そうとして喉が大きく脈打った。
吐き出される液体は全部苦い。胃液の酸っぱさを感じさせないくらいに、粉っぽくて渋い。
ミキサーで砕いた錠剤が消化しきれていないみたいだ。吐瀉物を見てみる。つぶつぶしててドロドロしてる。
身体中の血管が湧いている。薬の大量摂取のせいで、臓器全部が赤信号だ。頭の中では警告音が響いてる。
ああ、これじゃあ死ねない。なんで吐いてしまうの。
バスタブに沈む刃物と、広がる血液と、項垂れる僕
遮断機の と
喧けたたましい警告 と
誰かの叫ぶ と
僕の破裂 。
【夜の海と灯台の光】
こうしてあなたの事を抱き締めているだけで、僕はすごく幸せになれる。
あなたの体温、息遣い、心臓の音、震える両手。
どれも、僕が欲しかったものだ。全部、僕から奪われたものだ。
「好きなんです。まだ、どうしようもなく、貴方が好きなのです」と声を漏らしても、貴方は頭を撫でるだけだ。
どうせなら突き放して欲しかった。貴方の優しさに甘えてる、ああ、僕はなんてみっともないんだ。
「もう私の事は嫌いになってもいいよ、楽になってもいいよ」と貴方は泣きそうな顔で微笑んだ。
何てことだ、僕はこの残酷さすらも愛してしまいそうだ。
切なくて、悔しくて、遣る瀬無くて。ポロポロ落ちた涙が砂浜に点々と跡を付けていく。
「なんで、なんでぼくのじゃないんですか、なんであなたは、……」
なんで僕は、人の恋人を好きになってしまったのだろう。
いや、好きになったのは、この人に彼氏が出来る前だ。だから、ノーカン。
「ねえ、泣かないで…?」
僕の震えてる肩を、彼女がそっと撫でた。優しい手だった。
「よーしよし…いい子いい子…」と、撫でながら微笑む彼女。
…僕は本当に良い子なのだろうか。確かに、あなたから見れば、僕は子供かも知れない。でも、僕は、貴方にそんな風に見て欲しくない。
僕は、貴方に守られるのではなく、貴方の傍で、貴方を守りたいのです。
どうしたら僕を認めてくれますか。
僕があいつより優れていれば良いんですか。
僕の方が人間的に優れているのに。なんで貴方は、あいつなんかと。
モヤモヤと、黒い感情が純粋な恋を汚していく感覚。
子供のように泣いていた僕は、ふと、冷静さを取り戻した。いや、下手したら、同時に野性的な本能を取り戻してしまったのかもしれない。
そうだ、彼女は、今ここにいる。一人で、守り人も付けずに、無防備に。
僕の目の前にいる。
今なら手が届く、話せるし、抱き締められるし、……
「…ごめんなさい、僕、もう、耐えられないです。」
僕は、目の前の獲物に。噛み付くように、自分の物になる様に、唇を近付けた。