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第九話 冒険の書

 それから、また一年が経過した。

 最近、夜中は屋根上で魔術の練習をしているものの、アルマやサンドラの目がある昼間はそこまで自由に動くわけにもいかない。よって、それなりに暇な時間がある。

 もちろん体内で魔力を動かす魔力制御の練習は常にしているが、これは考える必要も体も動かす必要もないので、けっこう手持ち無沙汰なのだ。

 だからライアスの部屋に籠り、『冒険の書』を精読している。

 家にある三冊の本のうち、『魔術の書/基礎編』は修行に使っており、『王国の歴史』は最初にざっと読んでいる。まだ手を出していないのは『冒険の書』だけだ。

 ちなみに『王国の歴史』はほとんど初代王様の英雄譚だったが、けっこう面白かった。


「……さて、読むか。今日で最後までいけそうだな」


 しばらく文字を読み進める時間が流れる。

 そして最後のページをめくった時には、もう夕方になっていた。

 これまで読んでいなかった理由は、単に『魔術の書/基礎編』に夢中になっていたせいで他のことが疎かになっていただけなんだが、もっと早く読んでおけばよかった。

 内容は冒険者という職業に役立つ知識・雑学といった感じか。

 前世でファンタジー系の小説やゲームが好きだった身としては、読んでいるだけでワクワクしてくる。ゲームの攻略本を読んでいる感覚に近い。

 おそらくライアスが冒険者時代に購入し、活用した本なのだろう。


 分かったことはいろいろある。

 まずは冒険者が主に相手をする魔物という存在について。

魔物とは、魔石臓を持つ獣のことをそう呼んでいるらしい。魔力を使える分、普通の獣に比べると強力で、異形な姿をしていることが多く、人々に怖れられている。

 魔物は普通の獣に比べて非常に好戦的な性格をしており、人々が平和に生活するためには定期的に狩る必要がある。そのために生まれた職業が冒険者だ。冒険者は魔物を狩ることで街を守り、狩った魔物の肉や毛皮、そして魔石を売ることで生計を立てている。


 特に魔力の蓄積と放出の性質を持つ魔石は非常に有用であり、高値で売れる。魔石は魔道具の製作に役立ち、王国の現代文明を支えている生命線そのものだ。

 たとえば夜でも街を照らしている灯り。あれは魔石灯という名前で、内蔵している魔石から魔力を消費して光を放つ魔道具だ。その利便性から王国中に普及している。

ゆえに性能が良い魔石ほど高値で売れるが、そんな魔石を持つ魔物は総じて強い。だから良い魔石を取れる「強い」冒険者ほど収入が上がるピンキリの職業なんだとか。


 また冒険者は魔物を狩るだけじゃなく、依頼を受けることでも収入を得ている。

 たとえば商人が街から街へ移動する道中の護衛が欲しいとか、農夫が魔物に畑を荒らされるので討伐してほしいとか、ある魔物の爪が魔道具の製作に必要だから獲ってきてほしいとか、領主がとある魔物の被害を問題視して討伐してほしいとか、そんな感じだ。


 なお冒険者は冒険者組合という組織に管理されており、人々の依頼はいったん冒険者組合に集積され、その金額や難易度によって冒険者たちに振り分けられる。

 冒険者はその力量や実績によって初級、下級、中級、上級、超級といった感じで、属性魔術と同じように位階が決められている。位階が高ければ高いほど、難しいが報酬は高い依頼が回ってくる仕組みだ。位階が高い冒険者ほど、たくさんの依頼を成功させてきたという実績があり、つまりは「信用」がある。信用は大切だ。もちろん冒険者組合にも規則はあるけれど、もともとは荒くれ者の集団だ。金だけ奪って逃走しても不思議じゃない。

 人々の心情としては、できるだけ信用できる冒険者に依頼したい。だから可能な範囲で報酬を上げる。その報酬の一部を回収することで冒険者組合は運営されている。

 よくできた仕組みだ。


 冒険者組合は王国の管理下にあり、各地に支部を置く許可を得ている。支部は王国の各地に散らばっており、規模はバラバラなものの大抵の街には存在する。

 この街にも冒険者組合の支部は存在する。夜の鍛錬によって街の構造はだいたい把握しているのだが、おそらくは街の中央付近にある二階建ての建物だと思う。


 冒険者という職業の説明をまとめるとこんな感じだ。

 本の中盤以降は、冒険者として活動する上で役立つ知識が書かれている。

 出現率が高い魔物の説明と対処法とか、魔物ごとの解体のやり方とか、臭みが強い魔物肉の調理法とか、食用可能な野草の判別方法とか、そんな感じだ。


 ……うーん、なかなか面白い。


 たとえば最弱の魔物と名高いゴブリンの生態と対処法。

 ゴブリンは緑色の肌に醜悪な顔つきをしている小柄な人型の魔物だ。生存能力と生殖能力が高く、どこにでも棲息しており、いつの間にか数を増やしていく。

 基本的に十数体の群れで巣を作っており、外に出る時も二、三体で活動する。一体だけなら子供でも追い払えるほど弱いが、群れで現れると厄介だ。

 熟練の冒険者ほどゴブリンの群れを甘く見ない。個々は弱くても、数の力は強い。囲まれて身動きが取れなくなる前に迅速な各個撃破をすることがゴブリン討伐のコツらしい。


 ……なるほどな。

 まだ俺は街の外に出たことがない。

 体も小さいし、ある程度強くなるまでは危険だと判断していた。

 しかし『冒険の書』の魔物の説明を信じるなら、今の俺でも倒せそうだ。

 練習中の三つの魔術、『ウインドブースト』、『ウインドサーチ』、『ライトニング』もだいぶ形になってきた。つまり、実戦で使えるレベルになってきたということだ。

 正直、今の俺は街で見かける冒険者たちよりも強いと思う。もちろん実際に試したことはないので感覚の話だが、慢心ではなく客観的な分析だと信じたいところだ。

 ただ俺は実戦を経験したことがない。もし冒険者と戦うことになったとして、実力的には俺が勝っていると思うけれど、今のままでは経験の差で負ける可能性がある。

 そろそろ実戦で魔術を使う感覚を知ることも必要な段階だろう。

 そして単純に、今の俺がどこまで戦えるのかを試してみたいという子供心もある。

 よし決めた。

 今日の夜中は街の外に出て、実戦を経験してみよう。


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