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第一話 転生

 最後まで無意味で無価値な人生だった。

 客観的に、そう思う。

 自棄になっているわけじゃなく、冷静に評価しているつもりだ。

 生まれつき難病を患っていた俺は、この病室から出たことがない。この先も出ることはないだろう。

 なぜなら、俺はそろそろ死ぬからだ。

 医者や家族は励ましてくれたが、自分の体調は自分が一番分かっている。

 もう長くはない。

 それは、今日までずっと死線を潜り抜けてきたからこその直感だった。

 むしろよく耐えた方だと思う。

 毎日のように激痛に襲われるのは生き地獄に等しい。もう解放されたかった。

 こんな世界に未練はない。

 病室と窓から見える景色が世界のすべてだった俺にとって、読書だけが救いだった。

 主人公になりきって、俺とは違う人生を過ごせる物語が好きだった。

 特に好きだったのは、英雄譚だ。

 ベッドの上で暇を持て余す俺とは違い、必死に戦って生き抜いていく英雄たち。

 その鮮烈な生きざまを見て、俺もそんな風に在りたいと思ったのだ。


「叶うことなら、物語に登場する英雄のようになりたかった」


 ぽつりと呟く。

 仮に俺が病気じゃなかったとしても、この望みが叶うことはないだろう。

 だったら、本当にこんな世界への未練なんてない。

 もっと早く死んでおくべきだったのだ。

 俺が生きているだけで家族の大切なお金が減っていく。

 数々の医者も匙を投げ、今では死を待つ俺を厄介そうに扱うだけ。

 この世界に俺は必要のない存在。それどころか、迷惑ばかりかけている。

 だから、もう終わっておくべきなのだ。

 俺が命を諦めた瞬間、それまで続いていた灼熱のような痛みが急に引いていった。

 意識の輪郭が曖昧になり、まるで命が溶けていくような感覚。

 そして徐々に、視界を闇が浸食していく。

 どうやら俺の予想よりも少しだけ早く、この命を終わらせてくれるらしい。

 逆らう理由のない俺は、そのまま運命に身を委ねた。


 ……ああ、神様。

 もし、もう一度だけ人生をやり直せるとして。

 今度は健康な体で、外の世界を駆け回ることができるとするなら。

 ――俺は、英雄になりたい。


 その思考を最期に、俺の意識は闇に鎖された。



 ◇



 目を覚ますと赤ん坊になっていた。


 ……何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起きているのか分からないのだから仕方ない。それ以外に現状を表現する言葉が思いつかない。

 いや、待て。

 落ち着け。

 混乱するな冷静になれ、よく周りを観察してみよう。

 もっと情報を集めれば、何か分かってくるかもしれない。


 温かい肌に包まれている感覚。

 俺は誰かの腕に包まれているようだった。

 目を動かすと、綺麗な女性がやたらと小さい俺を抱いていることが分かる。

 その横で、精悍な雰囲気の男性が柔和な笑みを浮かべていた。

 二人は何か喋っているが、理解ができない。俺の知らない言語のようだった。

 暇な病室でさまざまなことを学んだはずの俺でも、まったく聞き覚えのない言語。

 いったい、どこの地域で使われている言葉だろう?

 気になるが、今はそれどころじゃない。

 もっと気になることがたくさんある。

 さらに観察を続けると、どうやらここは家の中のようだった。

 そう広くはないが、きちんと掃除されている。

 俺がいた病室よりは少し広いだろうか。

 そこで、俺を抱いていた女性が急に動く。

 身構えたけれど、この小さい体では何もできない。

 試してみたが、そもそも力がまったく入らなかった。

 柔らかい感覚に包まれる。女性は俺を布団の上に乗せたようだった。

 彼女の背中を目で追うと、台所らしき場所に立って包丁を動かし始める。

 その間も、近くの椅子に腰かける男性と何か言葉を交わしているようだった。

 俺はなんとか体を動かせないかと苦心したけれど、横たわったまま手足をわたわたさせるのが限界だった。声も「あぁ」とか「うぅ」みたいなものしか出てこない。

 その様子を見かねたのか、椅子に腰かけていた男性が俺の頭を撫でてくる。


 ……やはり冷静に観察してみても、赤ん坊になっているという状況しか考えられない。

 考えられるのは、いわゆる転生というやつだろうか。

 俺はあのまま死んだはずだ。だというのに今は別の肉体を得て生きている。

 つまり前世の記憶を保ったまま生まれ変わったという説なら、この状況に辻褄が合う。

 ……荒唐無稽すぎて信じられないけれど。


 何にせよ、情報が足りなすぎる。

 これ以上考えたところで結論は出ないか。

 正直この状態では何もできないし、しばらく様子を見ることになるだろう。


就活のストレスから唐突に始まった新連載です……。

一昔前な感じのコテコテ異世界転生ものですが、書きたくなったので仕方がない。

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