のこりもの
のこりもの
今の時代から百年後の世界。
よりシンプルに、より無駄を排除する風潮が訪れた。その風潮に従ったかのような無機質の新築の一軒家があった。
外壁は銀色の金属が隙間無く張り詰められていた。その日は、この家にある家族が引越しの作業を進めていた。一家の娘であるあかりが、搬入を終え二階の収納スペースで荷物整理を行っていた。
金属性の箱が山のように積もっており、あかりはそれを目に溜め息がもれてしまう。
「あかり、早く片付けて!」
一階に居る母親から大きな声の指令が、あかりの耳に届く。
「わかってる!」
渋々、あかりは脚を前に進め、眼前の箱の整理を始めた。なんとか整理は進み、箱の山も、脚の脛程の高さになった。作業に集中し取り組んだ為、多くの時間が過ぎていた。
「こんなものかな」
他の部屋に運ぶ最後の一箱が残っていた。
「これなんだっけ?」
この箱はあかりが作業して荷物を詰めた箱ではなかった。あかりは、手を近づけ箱の側面にあるカメラに右手を翳した。カメラであかりを認証した箱は、蓋が開く。
その中には一個の木箱が、他の品物と一緒に納められていた。それを手に持つと、また右手で上蓋を引き上げ木箱を開けた。
木箱の中には、赤色をした小さな座布団の上に、ガラス製の器のようなものが底の部分を上に保管されていた。
よく見ると中央に穴のようなものがあり、そこから一本の赤い紐が垂れていた。
「何これ?」
あかりは、右手でその紐を握り、上に引き上げると、器の中から紐をが垂れ下がり、底から短冊が垂れ下がっていた。
あかりはそれを人生初めて目にし、それが何か理解できなかった。
「わかんないな」
手に持っているその品をあかりはまじまじと見ながら観察した。
椀状の形をした部分は、ガラス製で製作されており、数匹の赤い魚や、数本の青い線が装飾されている。また、そのガラス自体も薄い緑色をしており、あかり自身が今まで目にしたものに比べると、これもあまり目にもした覚えが無いものだった。
あかりは、これが何をする為のものなのかを推理しはじめた。まずはガラス製の部分に注目した。椀状の開口部分を上に向け中をじっと見つめる。中には小さな金属が見えた。
「これが中にあるってことは、食器類じゃないよね」
最初に食器の一つと仮定したが、椀状の中にある金属と繋がっている短冊がその仮定を覆した。あかりは、その仮定を捨て、次の仮定を考えてみた。
椀状の部分の開口部を下にむけた。今度は、垂れ下がった短冊に注目した。
「これ七夕の短冊ってやつなのかな?」
しかし、その推理もしっかりと納得をさせてくれるものではないものだった。今度は椀状の部分がその推理を否定する。
あかりが傾けたると、高いの少し音がした。
「もしかして、音で人を呼ぶのかな」
その推理も音が小さすぎて、納得させるには不十分だった。
「まあ、懐かしい」
あかりの耳にある人の声が届く。
「おばあちゃん」
あかりが声の方向へ顔を向けた。そこには、あかりのおばあちゃんがいた。
「おばあちゃん。これなにをするもの?」
「あかりは、これを知らないのかい」
そう言うとあかりからその品を受け取ると、窓のほうへと歩いていった。そして、窓に手の平を近づけると、ランプが点滅し、一瞬で窓が開いた。
「これは風鈴というの。そして、これはここに引っ掛けるの」
そう言うとおばあちゃんは窓の淵にその風鈴を引っ掛けた。
「それでどうするの」
あかりが質問を述べたと同時に、風が吹き、高音が何度かした。
「この音で涼むのよ」
風鈴が奏でる音は心地よいものがあった。
「あっ、なんかこの音好き」
「昔は音で暑さを凌いでいたのよ。今の風潮にあわず、無駄に思う人もいるみたい」
それでもあかりの心に涼しい風がふいた。
あかりは笑顔を浮かべる。
「これくらいの無駄あってもいいかも」
風鈴は軽やかに音色を奏でる。
終