さらば如月!さらばユメダー! ―異次元人ルーパ、破壊魔神エーア、異獣グラン=タイラン登場―
「ああっ……オーバードリーム・ブラスターが……」
輝きは、一瞬で消えた。後には何もない。今、ユメノマタユメダーの胸部パーツが消失した。
絶望の声が響くここは、無残な姿に変えられた超弩級戦艦を支える瓦礫の山。
戦艦の近くには、黒く、禍々しい人型の生命体が静かにそびえていた。
「クソぉ……!頭部に続いて胸部も無くなっちまった……!!」
頼みの綱であった巨大ロボットの各部は、右腕を残して全てが無くなっていた。
その右腕も、カタパルトが壊された今、無用の長物と化している。
船を預かる艦長、『リペア』をまとめる親方、そしてロボット操縦士の如月までもが、戦場から離れた場所で最後の抵抗を見守っていた。
命を懸けて攻撃を仕掛けた数人が、艦から生命体『エーア』に向けて必殺の一撃を叩き込むことに成功したが、一歩も退くことなく受け止めきった異常な怪物には恐れを抱くことしかできなかった。
反撃もせず、ただ淡々と、壊れ果てた戦艦を見つめる暗い瞳。
一度も叫ぶことなく制圧し終えた謎の生命体は、肢体をだらんと垂らしながらも臨戦態勢を崩さず、緊張を纏っていた。
誰もが非情な一部始終を見届け、呆然としたその時。空から声が響いた。
「ハァッハァッハァ!思い知ったか地球人どもよ!」
「この声……異次元人ルーパ!」
「貴様らが度々行ってきた反撃も、これで終いよ!しかし哀れだ!実に哀れだ!あれほどのロボットを持ちながら、絶望にひれ伏すことなく生き延びてきた好敵手よ!情けをやろう!」
「何言ってやがるんだアイツは……!ゲームでもしてるつもりか!」
「一週間!一週間時間をやる!七日後の正午!再びエーアを向かわせよう!ぜひとも私達に、貴様らの怯える様を見せてくれ!ハァッハァッハァ……!!」
消えた。絶望を告げる悪魔の声が、空に響き、そして止んだ。
エーアは、その身を動かすことなく、一瞬で虚空へと去った。誰もが、その素早さに目を見張った。
「クソがぁ!バカにしやがって!!」
「しかし、一週間かぁ……もうダメかなぁ……」
「弱音を吐くんじゃねぇよ!俺達がなんとかしないで、どうするんだよ!」
「でもよぉ……。ユメダーはもう右手しか残ってないし、戦艦はボロボロ、工場も使えないし……どうするんだよ」
「そ、それは……」
絶望が、肩を沈めさせた。重い、重い闇の魔の手が、見えざる手となり彼らの身体を地面へと押し付けた。
誰もが頭を垂れ、足元に散らばる瓦礫を見やる。
何とか顔を上げた物も、母艦の有様に目を背け、もくもくと上がる煙に諦めを強めた。
全員を引っ張る艦長でさえ、同じだった。
もう、地球を守る者は、どこにも、誰もいなくなってしまった。
ガァン!
誰もが振り向いた。その先には、一際大きな破片に拳を打ち付けた、如月の姿があった。
「キサラギ……」
「……こんなことって、ない。あっていいはず、ないだろう!?」
誰の耳にも痛みを走らせた。悲痛な男の叫びは空に響いた。皮肉にも、からっとした晴天は湿り気無く輝いた太陽を青の海に浮かべていた。
「……親方」
「なんだ、キサラギ」
「……俺を、ユメダーに乗せてくれ」
「! なに言ってるんだキサラギ!お前現実が見えねーのかよ!こんなことに……!」
「見えてるよ!だけど諦めきれないんだ!俺が、ユメダーが居れば、絶対負けない!あんな奴らの好きなように、絶対にさせないんだ!!!」
操縦士として。一度たりとも負けたことのない天才操縦士の意地。機体を顧みず、とにかく相手を倒すことだけを優先してきた戦士の心が、整備員達の胸に響いた。しかし、絶望は拭えない。誰の目にも、未来は暗く見えていた。
「……お前、乗れば、勝てるというのかぁ……?」
いつの間にか、ミカヅチが近くに立っていた。隻眼のベテランが、研ぎ澄まされた鋭利な視線で操縦士を見やる。周囲がたじろぐ程の剣呑。しかし、如月は睨み返していた。熱い、炎が静かに内に燃えていた。
「勝てる。俺は、必ず、勝てる」
「そうか……」
「だからお願いだ。俺にも、ユメダーの修理を手伝わせてくれ!!!」
「な、なにぃ!?」
「あの傲慢なキサラギが、頭を下げただとぉ!?」
「一体どうなってんだ!?」
「俺は!俺は、この数か月、ユメダーに乗れないことでようやく分かった!俺は、ユメダーに乗れなければ何の役にも立たないただのお荷物だってことが!悔しかった!情けなかった!操縦士を辞めようとさえ思った!でもやっぱり捨てきれなかった!だからこうして頼む!ずぶの素人だから、荷物運びでも雑用でもなんでも構わねぇ!俺を乗せてくれ!俺にも、皆と一緒にユメダーを復活させる手伝いをさせてくれ!」
沈黙が降りた。この状況下で無茶な頼みをする若者は、頭を下げて沈黙を保ち続けた。ユメダーに乗ってから一度たりとも頭を下げたことのないこの青年が、今、自分を曲げてまで人に頼みごとをする、その光景に誰もが胸を揺らされていた。
「……。ター坊」
「はい」
いつの間にか来ていた、華奢な整備員が声を返した。
「地下の整備工場は、どうなっていた?」
「はい。少し破損がありましたが、大丈夫です。使えます」
「よぉし!お前らぁ!ユメダーを修理するぞぉ!!!」
「な、なんだってぇ!!??」
「こんな部材も少ない中で、どうやってやるんですか親方ぁ!!!」
「いいか!俺達は皆、無いところから有るものを作り出す力を持っている!それを今、この絶望の世界に叩き付けてやるんだぁ!!!誰も持ちえないような場面で、熱い希望を作り上げるのが男ってもんじゃねぇのかぁ!!!!」
響いた。確かに、彼らの胸に。途絶えた灯が、小さく、しかし次第に大きくその焔を燃やし始めた!
「う、う、うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「親方ぁ!親方ぁ!」
「おやっさん!俺もやるぜ!絶対に、何が何でもやってみせるぜ!!」
「親方」
「なんだ、艦長」
「私も手伝おう」
「本当か」
「ああ。船の無い艦長など、最早飾りでしかない。それならば、私も如月を見習って汗を流して働こう」
「へへへっ。光栄ですぜ!」
がしっと、熱い握手が結ばれた。それは、上司部下、組織の隔たりを超えて結ばれた、尊い友情の証だった。
「あの、親方!」
「ター坊」
「僕に、総指揮を任せてもらえませんか」
驚きの発現に、周囲のならず者達はター坊へ喰いかかった。
「な、な、何言ってんだター坊!こんな大変な時に冗談抜かすんじゃねぇよ!」
「冗談じゃありませんよ!本気の本気です!」
「お前頭はいいけど経験がまだないじゃねぇか!」
「そ、それは……そこは、皆さんに、頼ります!」
「おいおいまじかよぉ……親分!どうするんですかぁ!?」
腕を組んでいた筋肉の塊は、しかし、次の瞬間、悪戯する子供のような笑顔を覗かせ、ター坊の肩を叩いた。
「痛って!?」
「お前らぁ!今回はター坊の指揮下に入れ!俺とミカヅチが技術面をサポートする!意義のある奴はいるかぁ!」
静まった整備員達は、しかし、言葉に反してその顔に不満を見せてはいなかった。
親方が言うなら。ター坊がそこまで言うなら。培ってきたお互いの信頼が、賭けのような編成に頷きをもたらした。
「で、策はあるのか、ター坊」
「あります。みなさん、聞いてください……」
そして。一週間が過ぎた。
未だ瓦礫の山と化した地上には、捨て置かれた戦艦しかいない。
十一時五十五分。六分。七分。しかし、以前変化は訪れない。
八分。九分。しかしそこで、変化が起きた。
揺れた!大地が揺れた!地面に四角い穴が開き始めた!
そして、十二時!正午きっかりに、穴の下からせり上がった舞台が、今から始まる戦いの主役を白日の下に晒した!
体長50m。体重450トン。ユメダーに比べ半分の高さを持った人型の姿が、そこに現れた!
力強さを印象付けるユメダーとは真逆の、シンプルかつ曲線が目立つ巨大ロボット。
太陽の輝きを銀の腕が反射し、身軽さを伝える腰と、その下を支える意外にも太ましい脚。背中に大剣を背負うその姿は、まるで物語の勇者のようであった!
彼が地上に出たその時、空が割れた!そして、異次元人の高笑いと共に、あの巨大生命体エーアが現れた!
100m以上はあるその身体。かつ俊敏な動きをする黒い物体が、絶望を静かに纏って現れた。
決戦が始まる。人類の存亡をかけた、一対一の決闘が。
「なんとぉ!よくぞ作り上げた!しかし、時間が足らなかったようだなぁ!?」
「いいや。これでいいのさ!」
「なにぃ!?」
「対生命体必滅エネルギー『アカツキ』を最大限に引き出す構造を取った、この機体!俺と、俺達の仲間が必死で作り上げた巨大ロボット、『ユメノマキナ』で相手してやるぜぇ!!」
「なんだと!?ユメノマキナだとぉ!?」
勝負は一瞬だった。
絶望の影は、瞬く間に消えた。
自身の二倍はあろうかという相手に対し、ユメノマキナが右手を掲げた直後、もう戦闘は終わっていた。
右手に着いた砲身から放たれた、『マキナ・キャノン』。放った一筋の煌めきが、いとも簡単に世界へ平和をもたらしたのだ。
断末魔も叫ぶ暇なく消えさったエーア。誰もかれもが、その圧倒的な強さに震えながらも、しかし盛大な喜びを上げた。
「な、なんだそれはぁ!?でたらめすぎる!!!!」
「ふっ!舐めんなよ!俺の、俺達のロボットは無敵だぜ!!!!」
「こ、こしゃくなぁぁぁぁぁああぁあああああ!!!!!」
異次元人の絶叫が轟いた。すると、地響きが訪れた。
次第に大きくなる、音。そして、ユメノマキナの前が歪んだ。文字通り、空間が歪んだ!
「今まで倒された怪獣、眷属、異星人、我らと共に全てを融合させ、今ここに来たらん!!!!」
四方から響くエコーが如月の耳を塞いだ時、新たな絶望が降りかかった。
大きい。大きすぎる。
たとえ100mあるユメノマタユメダーが居ても、その大きさには比べ物にならないだろう。
様々な生き物が、無造作に混ぜられた異形の怪獣が、現れた。
「なんてぇ……大きさだぁ……!」
隻眼が呟く。艦長は大きく目を開き、親方はいつも以上に口を真一文字に引き結んで睨み付けていた。
「ハァッハァッハァ!!!これこそが、私達の奥の手!グラン=タイランだ!」
「キサラギぃ!」
「まかせろ!全力でぶっ潰す!」
汗が伝う操縦士は、しかし地上の仲間に声を返した。
「『アカツキ』充填開始!」
「全エネルギー回路解放!」
「予備のエネルギーも使えるように回路を繋げろ!一気に叩き込む!」
「臨界!いつでも打てます!」
「ハァッハァッハァ!!!打ってみろ!待ってやるぞぉ!!!!」
「この野郎!」
「キサラギ!『マキナ・キャノン』打てるぞ!いけぇ!」
「よぉし!行くぞぉ!『マキナ・キャノン』!発射あああ!!!!!」
気合と共に、光が放たれた。ほぼ完全の状態から放たれた光流がグラン=タイランへと向かった!
当たった!確かに当たった!しかし、それはすんでの所で阻まれていた!
「な、なんだとぉ!?」
「ター坊!なんだあれは!?」
「はい!強大な力によって、次元が歪曲されているようです!」
「なんだとぉ!?当たらなきゃ、たおせねぇじゃねぇか!」
「ハッハッハ!!!このグラン=タイランが奥の手の理由がわかったかぁ?この混沌とした生命力が生み出す次元歪曲の力!それこそが、貴様たちを蹂躙する圧倒的な力なのだぁ!!!」
「うおっ!!?」
マキナが吹き飛んだ。瓦礫の山へ激突する。早過ぎて黙視できないその攻撃は、あの異形の怪物から放たれた物理攻撃とだけしか言えない。鞭のような腕で払ったのか。何本も生えている足が伸びたのか。とにかく、吹き飛ばされた。
そんな異常を一身に受け止めたマキナは、たったの一撃で瀕死まで追い込まれてしまった。
期間が短く、攻撃力に大半を割り振った結果とはいえ、超合金アストラの硬度はもちろん高い。しかし、それすらも霞むほどの威力が、人機に降りかかった。
「がふっ!?」
「キサラギさん!?」
「大丈夫だ。ちょっと口の中を切っただけだ……」
しかし、余裕は無い。どうする?
「親方!」
「ター坊!なんだ!」
「今こそ、修理したカタパルトで右腕を飛ばすときです!」
「本気でやるのか!」
「本気です!僕を信じて下さい!」
「ター坊……」
頑固おやじを絵に描いたような親方の前に、仁王立ちで立ちはだかる少年。
しかし、もうその顔はただの少年ではない。それは、戦士の顔だった!たとえ直接闘わなくても、平和を願い、悪を挫こうとする熱い魂の男だった!
「ター坊……。いや、もう坊主じゃねぇな。猛!やってやれ!」
「はい!カタパルトに右腕を固定してください!あの位置なら、戦艦を動かす必要はありません!」
「りょ、了解しましたぁ!」
「おい!猛が男を見せたぞぉ!俺達も頑張るんだァ!」
「待ってろ!すぐに終わらせてやるからなぁ!」
「キサラギさん!」
「なんだ!」
「あと一分、耐えて下さい!」
「一分?たった一分だと?任せてろよ!」
ボロボロの身体に鞭を打って、銀の機体が瓦礫から這い出た。
「うああああああああああああああ!!!!!!!」
左腕はもがれた。頭部は既にない。右足はひざ下から吹き飛び、左足は関節がもう動かない。
圧倒的すぎるグラン=タイランの前に、ユメノマキナは機能を停止しようとしていた。
むしろ、動いているのが不思議なくらいだった。あの知覚できない攻撃に、驚異的な反射神経と勘、そして卓越した操縦技術で耐え凌いだマキナも、圧殺せんとする未来に屈する目前だった。
しかし。一分。きっちり一分。男は、耐え抜いた。
今、咆哮を響かせて約束を果たした仲間の拳が、鎮座した母艦から怪物目がけて発射された。
それは、やはり、獲物を目前に空間が堰き止め、そのまま消えた。
最後のユメダーの右腕も、これで消えた。
全てが、終わった。
如月も、目を閉じた。
終わる時は呆気ないものだ。いつか、教官が言った言葉。異常な自信が嘲笑したその言葉も、今の彼には頷きを持って迎えられた。
終わった、か。
だが。諦めの悪い男が、一人、ここに加わった。
「如月さん!」
声しか届かない操縦席に、猛の声が響いた。
「如月さん!」
「な、んだ……!」
「来ますよ!」
「何が!」
「僕らの夢が!」
思わず、コクピットを解放した。目前に広がる異形の顔。顔。顔。しかし、すぐに遮られた。
如月とグラン=タイランの間。空間が捩じり曲がった。そして!手だ!手が現れた!そして、腕、肩、頭!そう!来た!待ち望んだ我らの愛機!たとえ揃わなくても、正義に殉じた機体の身体が!今、完全な姿となって君臨した!
「な、なぜだぁ!?なぜユメノマタユメダーがここにおるのだぁ!?」
「当たりましたね!」
「猛、よくやったぁ!」
猛が喜び、親方が称賛を告げる。
「『アカツキ』には多次元からエネルギーを引っ張ってくる次元超越の性質があるんです!つまり、オーバーヒートした時に、パーツは吹き飛んだのではなく、異次元に連れていかれていたんです!」
「細かいことはいい!わかりやすく説明しろお!」
「『アカツキ』をプラスとするなら、僕はマイナスの『オウマ』を作り出しました!これはある一線を越えなければ、まるで磁石のように『アカツキ』をひきつけます!」
「だからぁ!?」
「だから!右腕に『オウマ』を仕込みました!そしてバーストさせ、次元超越させたところで、『オウマ』による引力で飛んで行ったパーツをひきつけます!そしてOSとプログラミングされたコードによって、合体を整理させました!後は自動操縦で次元を超えるように『オウマ』を暴走させました!これが顛末です!」
「意味わかんねぇ!」
「次元を超えたパーツを回収して元に戻しました!」
「ありがとう!わかった!」
「なぁ、なんだとぉ!!??!?」
「異次元人ヤーパ!あなた達は、機械をどうにかする技術がありませんね!?その合体獣を見ても、機械がどこにも使われていない!僕たちが脈々と築き上げた技術が、あなた達には使えない!そこが、僕たちの勝機だ!」
完全に姿を現したユメノマタユメダーが、飛び出した猛を迎え入れた。
今ここに、僕たちのロボットが揃った!
一方は、夢のまた夢という遠い彼方から遥々来てくれた超巨大ロボット!
そしてもう一体は、戦うことなど想像もされていなかった僕らの機神!
今、ユメダーがボロボロのマキナに手を貸した。背中に巨大な手を突くように、失われた『アカツキ』を分け与えた!
「こしゃくなぁぁあああああぁあぁぁあぁ!!!!これだから人間はァ、人間はァ!!!!!」
「いけますか!?如月さん!」
「行けるぜ……!なぁ、マキナ!」
返事は無い。だが、瞳の輝きが声に応えた。
機体を愛することに目覚めた如月の声が、確かに相棒の心に届いたのだ!
「行きますよ!胸部パーツ解放!」
巨大な胸部が、左右に割れた。目!二つの巨大なレンズが現れた!破邪の誓いを宿す、巨大な瞳!
「やるぜ、マキナぁ!」
一撃必殺を掲げた、右腕の砲身が今再び、光を収束し始めた。魔を貫く意志!平和への咆哮を溜める隻腕!
「『アカツキ』充填開始!」
「回路解放!肩、腰、リミッターパーツパージ!」
「貴様らぁ……葬ってくれるわぁあああああああ!!!!!」
目にも留まらない猛攻が迫る。無数の手が及ぶ!しかしそれらは彼らの目前で動きを止めた!
「なにぃ!?」
「今の僕らの周辺には『アカツキ』が起こした次元断層があります!言ってみれば、貴方がたと同じです!」
「それならぁ、攻撃もできまいぃぃいいいい!!!!」
「さて、どうですかね!やってみましょうか!」
いつになく強気の猛が、吼えた。その轟きは、たった一人の人間の言葉は、対峙する巨大な異形を揺らした!
「く、くそがぁ!一度退却だァ!!!」
揺れる。陽炎のように揺れて、その身が次第に薄くなっていく。逃げた!怪物は逃げ始めた!
しかし許さない。二体の輝くスーパーロボットが、悪魔の逃亡を見逃すはずは無かった!
「かかりました!如月さん!背中の剣をあいつに投げて下さい!」
「おう!」
背中の鞘が半転し、そして発射された。運よく破壊を免れた背中の機械は、鞘ごと標的へ突き刺しにかかった。
そして、その身が怪物の身体へ着弾した瞬間!
次元が歪んだ。
今まで、怪獣を倒してきた時に見た光が、その剣から放たれた!
「次元が繋がりました!今です!」
「『アカツキ』、臨界!」
「「「「いっけぇえええええええ!!!!!!」
「オーバー・ドリーム・ブラスタァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!」
「マキナ・キャノン!穿てぇぇぇぇぇえぇぇええええええええ!!!!!!!!!!!」
胸から!右手から!必殺の一撃が一条の希望となって光に放たれた!吼える猛!吼える如月!
彼らの想いは、整備員、艦を共にした仲間、そして世界中の人々の願いを引き連れて次元の彼方へ注ぎ込まれた!
「う、うぉ!?う。あ!うあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
最後の断末魔が、響き渡った。
爆発は無い。ただ、瓦礫の山があるだけだ。
しかし、彼らは確信していた。異次元からの侵略者が。全ての黒幕が。邪神、宇宙人、怪獣をけしかけていた悪魔が、今この瞬間を持って消え去ったのだ。
「おぉ~い!」
夕日が沈む。激闘を終えた二体の勇者が、片方は雄々しく聳え立ち、もう一体は片膝をついて平和を甘受している。
如月が見上げる愛機の疲れ果てた姿は、しかし、やはりどこか満足げだった。
猛が走ってくる。右腕を大きく振りながら、その無邪気な少年は共闘した操縦士の元へ駆け寄ってくる。
瓦礫の山に囲まれた、平地。誰もが、高く積まれた理不尽な暴力の跡に腰かけながらも、戦い抜いた二人の青年に暖かい視線を送っていた。ミカヅチも、艦長も、秘書も、そして親方でさえ、オレンジ色に照らす夕日の中で、二人を見守っていた。
その視線を受ける二人は、満足げに頷いた後で、どちらからともなく差し出した手で熱く握り合った。
愛に目覚めた操縦士。
直向きさで危機を救った整備士。
彼らの戦いは、この逢魔の時に完全に終息し、そして、輝かしい未来が暁より生まれようとしていた!




