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左の拳で、敵を打て!―超大怪獣ラームベ登場―

 「てめぇキサラギぃ!またボロボロにしてきやがったな!!」

 「はっ!勝ちゃいいんだよ勝ちゃあ!勝てば官軍って言うだろうが!」

 ゴウン、ゴウン、ゴウン…………。

 見るからに悲惨な状態で格納されたのは、獅子奮迅ロボ・ユメノマタユメダー。

 全長100m。体重800トン。その雄々しい巨体は、激しい戦闘の末にボロボロだった。

 いや、戦いの熾烈さだけが問題ではない。何よりも考慮すべきは、そのパイロット自身の性格だった。

 「うだうだ言ってねぇでさっさと直しやがれ!この世界がぶっつぶされても知らねぇからな!」

 吐き捨てて去っていくのは、この鬼神のパイロット・如月自王(きさらぎ じおう)。格納庫にいる誰もが彼を嫌いながらも、彼が乗る機械にだけは底無しの愛情を注いでいた。

 「野郎、またいっちょ前に生意気な口叩きやがって……!

 「親方ぁ!やっちまいましょーよ!もう我慢ならねぇ!」

 整備員A,Bが声を上げると、周囲の者達も彼らに賛同した。

 「やめろぉ!」

 しかし、親方と呼ばれた男が放った怒声は、暴徒化しつつある部下達を瞬く間に沈めた。

 「いいかぁ!野郎に口叩く暇があったら、さっさと整備しやがれぇ!俺達あってのコイツだってことを忘れんな!!!」

 「親方ぁ!」

 「くぅ~!さすが親分だぜぇ!!」

 「おやっさん!俺ァ、やるぜぇ!」

 「おい、スパナ持って来い!ぱぱっとやっちまおうぜぇ!!!」

 ならず者たちが一斉に盛り上がる。単純な頭しかもたない彼らは、もうひたむきに努力する未来しか見えていなかった。

 「それにしても、ひどいですね……」

 一人、冷静な声を上げる者。血の気の多い男達に紛れて、華奢な男が呟いた。

 「これじゃあ、とても時間が掛かります…………」

 彼がそう結論を出すのは当然だった。

 足、胴体、腕、頭。その全てが、それぞれ砕かれ、ひしゃげ、内部が見えている部分もあれば、割れているところもある。引き上げられたのが不思議な程、その姿は見るも無残に破壊されていた。

 「これじゃあ、可哀想ですよ……」

 ぽんっ。彼の頭に、親方の大きな手が乗せられた。

 「おい、ター坊!そんなに悲観するんじゃねぇよ!」

 「親方ぁ……」

 「確かにこいつは、泣いている。オイルも流れて、まるで死にゆく戦士のようだな。だがなぁ、俺達が頑張れば、こいつはまた、俺達を、いや世界を守ることができる!……そうだろ?ター坊?」

 「お、親方アl」

 「わかったらさっさと働けこの軟弱野郎ォ!お前ら!一週間で直すぞ!」

 「う、嘘だろ!?どう見たって半年はかかるぜ!」

 「む、無茶です親分!俺達、死んじゃいますよぉ!」

 「バカ野郎ォ!ダメになりそうな時と女とデートする時くらいは暇出してやるからさっさと仕事しねぇかぁ!!!」

 「「「「ウィっす!親分!!!!」」」」

 一目散に散らばる男達の目には、希望と、そして熱い涙が流れていた。

 ここ、超弩級戦艦整備工房、通称『リペア』は、今熱い熱気に包まれていた。


 「うぉ!!??」

 「な、なんだぁ!!!」

 『緊急事態発生!緊急事態発生!都市『ガイオネラ』にて、怪獣出現。繰り返す、怪獣出現!』

 「な、なにぃ!?早すぎるぜぇ!!」

 数百キロは離れた都市からの地響きが、羽を休めていた戦艦を揺らした。

 「おいっ!ユメダーはどうした!?」

 「キサラギぃ!」

 「なんだこりゃ……全然なってねぇじゃねぇか!!!」

 飛び込んできた人類の希望が見た愛機の姿は、帰った時から比べても殆ど直っていなかった。

 「なんだこれは!おい整備班!お前ら、さぼってやがったなl!」

 「ふざけんな!俺達のこのクマが見えねぇのかよ!」

 「いい気になってんじゃねーぞクソパイロットがぁ!」

 「なんだ……うぉぉぉおお!!!!???」

 激震が走った。

 「なんだ!?どうなってんだ!?」

 「おい!モニター回すように伝えろ!」

 整備員Cが叫ぶと、工場天井に取り付けられた巨大モニターがやっと都市の様子を映し出した。

 「お、おい……」

 「なんだ、ありゃあ……!」

 超高層ビルと並び立つ、巨大な生命体。

 禍々しい顔つきは、人類に牙をむく悪魔であることを嫌でも知らしめてくる。

 その巨体の後ろ。悠々と伸びる黒い一筋。高々と掲げられた極太の尻尾。それは、その巨体と比較しても三倍はあろうかという長さだった。

 「くそが!もう出てきやがった……!!!」

 「お、お、親方ぁ!!!一体どうし……!!!!」

 モニターの悪魔が、その尻尾を地面に叩き付けた。

 その数秒後には、こちらにも大きな揺れが伝わり、屈強な男達でさえその身を支えることが不可能な程だった。

 「うぉあ!!!」

 「おい!工具に気をつけろ!下手したら死ぬぞぉ!!!」

 「くっ……!ユメダーが……ユメノマタユメダーが五体満足ならあんな奴……!」

 この世界は危機に晒されていた。圧倒的な力を持って、人類を滅亡に追いやろうとする謎の超巨大生命体。宇宙から迫る、理屈と常識の通じない侵略者。次元を超えて脅かす、謎の異次元生命体。陸、海、空。場所を問わず我々を食い荒らさんとする神の眷属たち。それらから平和を守り続けてきた機械仕掛けの神は、今は沈黙を守り続けている。

 「おい!なんとかならねぇのかよ!このままじゃ世界が終わっちまうぞ!」

 キサラギが、普段以上に厳つい顔をした親方に食ってっかかった。

 周囲にいる整備員達も、彼を不安げに見つめる。

 親方の鋭い眼は、モニターを見続けていた。

 すると。

 「いるかね?『親方』」

 モニターが切り替わり、画面には艦長の姿が現れた。

 「艦長」

 「親方。整備の進捗は?」

 「……左腕のみ、修復が完了しています」

 「そうか。一週間で、いや、大したものだ」

 沈黙が、工場を包んだ。

 「……親方。どう思う?」

 「……艦長。俺達の守護神、ユメダーは完全懲悪です。悪は許しません。これは絶対です」

 「ふむ」

 「なので、例え左腕だけでも、アイツを沈めることは、出来ると信じています」

 「オイイイイイ!!!!!!親方ぁ!!!!!」

 「なんだキサラギ」

 「左腕一本でだと!?何考えてやがる!!??腕一本だけでどうしろってんだよ!!!」

 「なにビビってんだキサラギ。お前、普段あんだけ大口叩いといて、腰が引けてんのか?」

 「な、何言ってんだこんな状況で!?普通誰だってそうだろ!?自分の手足が動かない状況で、襲いかかってきた奴をどう倒せってんだよ!!!」

 再び、沈黙が降りた。

 かに思えたが、筋骨隆々の工場長は、次の瞬間、有無を言わせぬ勢いで声を上げた。

 「おいお前らぁ!!準備しろぉ!左腕一本で、あの化け物をぶったおすぞぉ!!!」 

 「な、なんだってぇ!!??」

 「正気かよ親分!!??」

 「ついに頭いかれちまったのかよぉ!!!」

 頭を抱え、絶望にむせび泣くもの。親方が命じた指令について行けず、困惑して右往左往する者。しかし、一人握りの男達だけは、その眼を爛々に光らせていた。

 「……親方。ひとつ、いいですか?」

 隻眼の男が、口を開いた。

 「なんだ。ミカヅチ」

 「……親方はァ……」

 全員が、息を飲む。滅多に口を開かない実力者の動向を、その見張った目でしかと見届けていた。

 「……勝てると、本気で思ってるんですかい……?」

 視線が、隻腕の男から、仁王立ちしてはばからない、岩のような巨体へと移った。

 厳つい顔が、その言葉を聞き届けた次の瞬間。

 にぃっ、と。白い歯が見えた。

 「当たり前ぇだろうが。左腕一本でも、俺達は、いや、俺達の愛機は、アイツを地の底に沈めて見せるぜ」

 「…………………ふっ」

 隻眼が、笑った。

 「お前らぁ!悪魔に一つ、拳を叩き込もうじゃねぇかぁ!!!」

 「ま、マジかぁ!?」

 「いや、だがこの流れ的に、もうやるしかねぇだろぉ!!!」

 「うおおおおお!!!燃えてキタァ!俺はやるぜ!やってみせるぜ!!!!」

 高まった士気を満足げに見渡した後、親方は吼えた。

 「お前らぁ!左腕をカタパルトに固定しろぉ!超長距離ロケットパンチであいつを沈めるぞぉ!!!!」

 「「「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」」

 揺れた。今度は、漢達の雄叫びが、この超弩級戦艦を盛大に揺らした。

 それは、人類の反抗。

 理不尽な殺戮に抗う、憤怒の咆哮だった。

 熱き男達の野望を一身に受けたその拳は、普段鬼神を発射させる巨大カタパルトへ瞬く間に装着された。

 「方位、北西へ修正、五度!高度よし!」

 「固定完了!対生命体必滅エネルギー『アカツキ』充填完了!」

 「総員退避!各ブロック閉鎖!各員、衝撃に備えろォ!」

 「親方ぁ!いつでもいけます!」

 「ちょ、ちょっと待てよぉ!!!」

 全ての準備が整った今、キサラギは親方へと詰め寄った。

 「ほんとに左腕だけで、アイツを倒せるのかよぉ!!!」

 「……やってみなければ、わからん!」

 「やめろ!多少の被害が出てもユメダーを完成させろ!そうすれば絶対……」

 「坊主」

 「!」

 「いいか。俺達はな、ロボットを完成させることが仕事じゃないんだぜ」

 「じゃあ、なんだってんだよぉ!」

 「俺達はなぁ!モノづくりを通して未来を照らすことが仕事なのさぁ!!!!!」

 「なんだそれはぁ!!!!」

 「いくぞぉ!獅子奮迅ロボ・左腕ロケットパンチぃ!!!!」

 「親方ぁ!」

 「なんだぁ!」

 「名前、決めていいですかい!!!」

 「よぉし!発射と同時に叫べ!」

 「あいあいさー!!!」

 「やめろぉ!わけのわからない考えで左腕を飛ばすんじゃない!ユメダーが、ユメダーがぁ!!」

 「秒読みぃ、開始ぃ!!!」

 「五!」

 「「四!!」」

 「「「三!!!」」」

 「「「「二!!!!」」」」

 「「「「「「一!!!!!」」」」」

 「くらぇええ!!!!!!天誅必滅!『ロケット・パンチ』ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!」

 「まんまじゃねーかぁあああああああああ!!!!!!」

 衝撃が貫いた!整備員D,E,Fが吹っ飛び、英雄キサラギも壁に激突した!

 カタパルトが自身も顧みず撃鉄を弾かせ、熱い希望を握りしめた左の剛腕を空へ発射した!

 そして、静寂。

 誰もが、今終えた行為に喜びも見せなければ、泣きもせず、ただ、暗い画面から復帰した液晶を食い入って見つめ続けた。

 そして。巨体が、その長い尻尾を再び打ち鳴らさんと振り下ろしかけた時。

 奇跡が起きた。

 彼方より飛来した左腕の拳が、超巨大怪獣のその胸に渾身の一撃を見舞ったのだ。

 瞬間、光が炸裂し、一瞬の輝きを瞬かせたそれは、煌めく粒子と暴力的な爆風を後に残し、消えた。

 塵も残さず、瞬殺した。

 あの左腕を共にしながら。

 誰もが、その光景に目を見張り、そして、次には歓喜の涙を流した。

 「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」

 誰かが勝利の宣言を打ち鳴らした後、艦内は人類が超えたアポカリプスへの安堵と喜びをあらん限りに沸かせた。


 これは、序章。

 その圧倒的な力で全ての脅威を慄かせた必滅ロボ・ユメノマタユメダーが、圧倒的な力を取り戻すまでの物語。

 その失われた五体全てを取り戻した時、彼は再び世界を守る守護者足り得る。

 が、それまでに。失われた腕、足、胴体、頭。

 迫りくる脅威が、五体揃うことを許すだろうか?それは、彼らもまだ知らない未来だけが知る。

 五体揃えば人類の勝ち。五体揃えられなければ、彼らの負け。

 そんな勝負の火ぶたが、今日、この日、幕を開けたのだ。

 戦え!整備員!未来は君達の手にかかっている!

 戦えない!パイロット!君はロボットが完成するまで、何一つ役に立たない主人公となった!

 いつかその身を太陽の下に!獅子奮迅ロボ・ユメノマタユメダー!五体揃うその日まで、その力を沈めるのだ!

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