日常から非日常へ
まだ薄暗く日が登り切っていない時間に稽古場にて日課をこなす少年がいる。
近所の学校に通う高校2年生の神崎利久17歳である。
この道場は義理の祖父たちの道場であり、門下生は沢山いるが現在ここに暮らすのは利久しかいない。
「ふぅ…日課終了っと。今日から学校だから朝ごはん作らないといけない時間だな。」
数年前まで一緒に暮らしていた祖父達は亡くなりそれからは1人暮らしだ。
「朝ごはん作る前に風呂はいってくるか」
誰かが聞いている訳でもないが、朝のスケジュールを口に出しながら確認する。
利久はお風呂からあがり時間があまり無いのを確認すると簡単な朝ごはんを作って行く。
料理をしだしたのは1人暮らしになってからだか祖婆に小さい頃から教えられていたため料理の腕前はかなりある。
昔一度だけ門下生に作った事があるが皆んな大絶賛だった。
朝ごはんも食べ終わり食器を洗い、制服に着替えに自室に戻る。着替え終わると家を出る前に仏壇に手を合わせる。
「じいちゃん、ばあちゃん、行ってきます。………よし!火の元よし、戸締りよしと。」
家から出る確認をして玄関のドアの鍵をしめて近いからと言う理由で選んだ高校へ歩いていく。
家から学校までは徒歩で10分程度しかない道を歩いていく。
しかし周りには他の生徒はいない。
何故かというと単純に他の生徒より早くに学校に行っているからなのだがそうしないと学校に着いた時には自分の色々な物がなくなるからだ。
いわゆるイジメである。
利久は学校に行く時に長い髪で顔を隠しているのだが雰囲気が根暗である。それだけの理由でイジメられている。
利久は学校に着くと上履きに履き替えて靴を持って教室に行く。
教室に着くと窓側一番後ろの自分の席にホームルームまで突っ伏す。
しばらくすると他の生徒が教室に入ってきてざわざわと騒音が鳴り響くなか利久に声が掛けられる。
「あ〜朝からイライラするわ〜〜神崎〜ちょっとストレス発散に付き合ってくれよ〜」
利久を呼ぶ大柄で金髪の髪のいかにも不良ですと言う風貌の男太田健二
利久はその声を聞いて素直について行こうとすると横合いから健二を止める声がはいる。
「太田君、さすがに見ていて不愉快だからやめてくれない?」
声の方に目線を送るとそこにいたのは、キリッとした目に鼻筋の通った小さい鼻、そして桜色の可愛らしい唇の黒髪黒目の女性でこの学校でいわゆるマドンナ的存在の中川琴葉であった。
するとそこに新たな声が掛けられる。
「そうだぞ健二。イジメなんか辞めないか」
その言葉と共に現れたのは物語に出てくるような爽やかなイケメンでこの学校にファンクラブがある渡部悠人である。
そしていつものように正義の味方を演じつつ学校のマドンナである琴葉にアピールする。
そう、これは高校に入ってからほぼ毎日行われる悠人が仕組んだ琴葉へのアピールの為の会話である。
実際に利久をイジメている主犯は健二ではなく悠人であるのだ。
そんな会話をしていると朝のホームルームのチャイムが鳴りそれぞれが席に戻っていく。
教室のドアが開き担任の男の先生が入ってきて、出席を取っていく。しかしその中に利久の名前は無い。それも自然に飛ばしている為誰も気づかないし、気づいた所でそこを指摘するものはいない。
このクラスは担任もイジメに加担しているし、逆にイジメないのは琴葉ぐらいのものである。
しばらくして今日の予定を教師が伝えようとした時それは起こった。
目が開けられないぐらいの眩しい光が辺りを埋め尽くし利久は慣れてきた目を開いてみると床に幾何学模様の何が浮かび上がっていたがそれを確認してすぐに意識が遠のいていく。