始まりの4月(1)
4月3日(水)
世の中的には新生活が始まったばかりの日。
俺は今部屋に閉じ込められてしまった。
それも自分のせいで、だ。
といわれても何か分からないと思う。なぜここにいたってしまったのか。
今自分がいる部屋はいろいろあって内から開けるには鍵の必要な部屋にいる。
そこまで言えば大体は察せるだろう。そう、俺は鍵を今持っていない。
というよりはいつのまにか無くなっていてそれに気づかずこの部屋に入ってしまった、というオチである。
「まったく…わからないこともあるもんだな」
しかしこうしていてもラチがあかない。必死にない頭をひねってみる。まぁないものはないんだから意味ないけど。
沈黙が場を支配する。
「…………」5分経過。
「…………」10分経過。
「…………」20分経過。
「…………」30分経過。した時である。
____バタン
「もぅ何をしてるの」
泉だった。
彼女の名は泉梨花。幼稚園、中学校、高校と一緒だった。いわゆる幼馴染と呼ばれるものだ。まぁ俺はそんなの関係ないが。
とはいえ彼女にも一番助けられているかもしれない。今日もそうだった。
「せっかく泊まりに来て、温泉入ってハイテンションで話そうとしたのに…
テンションさがっちゃうじゃん」
「はいはい私が悪かったです」
「まぁ大学まで一緒に来られた時点で私のテンションは上がりっぱなしだけどね!」
そう。俺たちは世間一般的には高校を卒業して、大学に入学する前の微妙な時期、いわゆる春休みを利用して温泉宿へ泊まりに来ていた。
「それなら良かった。泉の機嫌も損ねなくて済んだし」
「まぁ、それで許されるわけがあるはずがないでしょうからねー覚悟しておきましょうねー」
おぉ、怖い怖い。
というわけで泉との思い出がまた一つ増えたのだった。
4月4日(木)
「もしもし?おはよー」
「あぁ、おはよう」
「今から部屋向かうけどいい?」
「どうぞご自由に」
念のため言っておこう。俺と泉は付き合っていない。確かに仲はとてもいいし異性の中で一番仲はいいだろうが、その程度だ。
というわけで部屋は別の部屋を取っている。
(来る前このことを泉に言ったら「同じ部屋が良かったのにー」と拗ねられてしまったが)
ドンドン ガチャ
「おはよー」「おはよう、泉」
「昨日はよく眠れた?悪夢にうなされずに済んだ?」
ニヤニヤしながら聞いてきた。昨夜のこと覚えていやがる。
「誰かさんのせいですぐは眠れなかったが、悪夢にうなされずに済んだな」
「ちぇー、つまんないの」
「こんなとこまで来て悪夢にうなされるとか恐ろしいだろ」
「まぁ、そうだけどさー。ところで荷物整理は済んだ?」
「あぁ、あとは着替えるだけで出れるが…聞いてきたってことはすぐ出てどっか行きたいってことか?だったらすぐに用意する…」
「あ、いや、そういうことでなくてですねー」
あのニヤニヤした顔が焦りの顔に変わった。
そうだった。片付けというものがとことん出来ない人だったこの人。
「分かったよ。準備してすぐ向かうよ。毎回毎回言っているのにどうして上手くならないのかねぇ」
「ありがとうございます!!!流石は私と仲のいい雷鳥君です!!では私の部屋で!!」
人の話を遮ってまで追求されるのを避けたかったらしい。