最終話 ~Unser Mund sei voll Lachens~
なんとか最終話まで辿り着くことが出来ました。
■■■
「九十九円になります」
いつの間にか自分に廻って来た会計を済ますと、鉄男
より一つ前に会計を済ませて待っていた環が言った。
「てっちゃん、大丈夫?」
「ん?なんで、、、」
「顔、赤いよ、、、」
その質問に、とても『誉とのコトを思い出したから』
などと答えられるはずもなく、
「うん、全然平気、、、なんともないよ」
と鉄男は無難な解答をした。
「そう?ならいいけど、風邪に気を付けてね、、、さ、き
っと皆待ってるから早く行こうッ!」
そう言って駆け出した環に鉄男も続く。
「あっ、居た居た、、、誉ちゃん!」
「おぉ!早かったな、、、ん?どうした川村、顔赤いぞ、、、」
環と同じ質問を誉にもされ、鉄男は少し腹立たし気に
答えた。
「何でもないったら!」
「なぁ~に、ムキになってんの?変なヤツ、、、」
首を傾げる誉に環が聞いた。
「ねぇ、千伽井ちゃん達は?」
それまで携帯で誰かと話していた悠が電話を終えると誉の代わりに答えた。
「チーちゃんからで、ついさっき、山戸の授業が終ったんだってさ。今こっちに向ってるって、、、」
「あっ、そうなんだ、、、さすがパンキョー、一年生イジメが激しいなぁ、、、」
「ま、俺達も去年散々やられたしな、、、」
「それよりさ、、、この天気といい、この組合せといい、、、なんかこの状況思い出さない?」
そう言って環がニヤリと笑うと、他の三人も同じ事を感じていたらしく、誰からともなく二年前の秋の日、、、六人が始めて高校のガクショクで出会った、運命のあの日を再現し始めた。
「あっ!誉ちゃん、、、久し振りッッッ!」
「おぉ!環ぃ~!」
「高校になってから殆ど会えないねぇ、、、」
「まぁ、、、俺達は部活忙しいから、、、」
そう言って誉は隣に居る悠の肩を掴む。
「誰?」
「クラスも部活も俺と一緒で、なんと!この慶泉に去年アメリカから編入してきた山室悠くん、、、こっちは、、、」
そう言って誉が、環を悠に紹介しようとしたその時、
「プリンスくん、、、だろ?」
初対面のハズの悠の口から出た、幼い頃の自分のあだ名に環は驚いた。しかし少し考えて、
「あ!、、、アメリカからの編入って言ってたケド、ひょっとして山室くん、、、」
「悠でいいよ、、、」
「じゃあ、、、悠ちゃんはひょっとして、、、St・ジョージ高校出身?」
「当りッ!」
「やっぱり、、、美弥ちゃんめぇ、、、海を越えてまで僕の恥ずかしいあだ名を広めるなんて、、、さすが永遠のライバル!」
「誰?美弥ちゃんって?」
環の隣に立っている鉄男が尋ねる。
「あぁ、、、鈴木美弥ちゃんって言ってね、僕の幼馴染みなの、、、。幼稚園が一緒でさ。小学校から中学まで三葉女子学園だったんだけど、高校からアメリカに行っちゃったんだ、、、」
「ふ~ん、、、あ、そう言えば、この間の教律大学付属高校との二校親睦会で会った女の子、、、えっと、、、」
「麻生由依子ちゃん?」
「そうそう、麻生さん。あの子もたまちゃんの事『プリンス』って呼んでたケド、、、もしかして?」
「そう。由依子ちゃんに聞いたら、何の事はない由依子ちゃんも幼稚園から中学まで三葉なんだってさ!」
「凄いね、、、その鈴木美弥ちゃんて子、、、」
「こっちはいい迷惑だよ、、、」
そんな環と鉄男のやり取りを悠は笑いながら聞いている。
「おいおい、そっちばっかで話してないで、環の連れも俺達に紹介しろよ」
「あ、ごめん誉クン、ちゃんと紹介するから怒らないでよ、、、」
「怒ってないだろ!」
「彼は川村鉄男くん、僕と同じクラスなんだ!彼の弾くピアノ、、、最高だよッッッ!」
「へぇ、、、今度ぜひ聴かせてくれよ。俺、佐々木誉、、、」
「あ!アメフト部の?」
鉄男が最後にその台詞を言うと、四人はどっと笑った。
「あー、面白いくらい完璧ッッッ!二年前出会った時は俺達こんなにギクシャクしてたんだっけ?」
誉は笑い涙を拭きながら言った。
「そりゃそうだろ、、、お互い面識ねぇーんだもん!」
悠が続く。
「本当、今日みたいな小春日和の日だったよねッ!」
環がそう言うと、四人は外を眺めた、、、。
「そうそう、それでこの後に千伽井ちゃんが凄い登場の仕方をするんだった、、、ね?たまちゃん?」
鉄男がそう言った瞬間。
「プリンスーーーーーーッッッ!」
千伽井のあり得ないほど大きな声が大学食堂にこだまする。
「ちょ、、、千伽井ちゃん、やめなよ恥ずかしい、、、」
山戸がすかさず千伽井に注意した。
「、、、ちかちゃん、何度言えば解って貰えるのかなぁ、、、僕は環だって。都大路環!」
周りの視線を一気に浴びた環が千伽井に抗議する。
「だからぁ、都の『王子様』でプリンス!間違ってないじゃない!」
「、、、はぁ、、、さいですか、、、」
環はそこまで言うと笑い出し、さきほどから『再現』をしていた残りの男性陣三人も声を出して笑った。
「ちょ、、、何なのよ?何笑ってるのッッッ?」
全く状況を掴めない千伽井が戸惑う。
「どうしたの?」
山戸が悠に尋ねると、
「いや、山戸達を待ってる間俺達で、六人が出会ったあの時をそのまま再現してたの。ほら、丁度今日みたいな秋の日だったじゃない?」
悠は外を指さしてそう答えた。
「なるほど、、、そういう事だったの。うん、でも確かに言われてみれば今日みたいな日だったわ、、、」
外を眺めてからそう言った山戸はさらに一言付け加える。
「つまり、千伽井ちゃんの登場の仕方もタイミングもバッチリだったわけね!」
「そーゆー事!さっすが絵理さんッ!」
誉が山戸の出した答えに正解の反応示すと、この場で解っていないのは千伽井だけになった。
「なによ、、、別にいいもん、、、。あたしは『千』のお『伽』話に『囲』まれて育った繊細でおおらかな乙女なの、気になんてしないわ!」
「そうじゃないだろ、、、千伽井の場合は『井』の字が表してる様に、モラルという『囲い』の周りのサクが取れちゃったって事だろ、、、」
「ちょっと!誉ッッッ!なんてことを、、、ムキィいいいいッッッ!」
「まぁまぁ、千伽井ちゃん落ち着いて、、、」
そうやって千伽井をなだめる山戸の姿を見て悠は言った。
「でも本当、山戸は俺達より一コ年下なのにチーちゃんのお守役だなんて偉いねぇ、、、」
「あ!ゆうまでそーゆー事言う?えりちゃんは皆と出来が違うの!絵理子の『理』の字は、天野千伽井の良き理解者って言う意味の『理』だも~ん!」
そうやって上手いこと逃げた千伽井にトドメをさしたのは山戸、その人である。
「違いますッ!私の『理』の字は誰かさんと違って、理性的な人間という意味の『理』です!」
「えりちゃんまで、、、ヒドイ~、、、」
そんな千伽井の様子に五人は笑って、直ぐに千伽井もその笑いの輪の中へと溶け込んだ。
笑いが治まると何か思い付いたらしい誉が言った。
「皆!次の授業はッ?」
すると残りの五人が答える。
『あるー!』
「さぼる気、、、?」
『満々ッッッ!』
「よしっ決まった!今日は俺達六人が出会った二周年記念だッ!パーッと学校の外に食べに行きますかッッッ!」
『おぉおおおおおッッッ!』
そう言うと六人は揃って大学食堂を後にした、、、。
六人は思う、、、自分達は最高だと。
六人は思う、、、自分達は最強だと。
六人は思う、、、自分達が集まれば何だって出来ると。
六人は思う、、、自分達が集まれば、
何処までもいける、、、と。
【 完 】
お楽しみ頂けたでしょうか?
またどこかでお会いしましょう!