第14話 ~O ewiges Feuer, o Ursprung der Liebe~
遅くなりました。
どーぞお楽しみ下さい。
綺麗に晴れ渡った日曜日、誉は朝起きると身支度を整えてまずは渋谷へ向い、昨日頼んでおいた指輪を受け取ると、その足で悠の家に来た。
二人はいつも通りに会話を楽しむ。しばらくして時計を見た悠が切り出した。
「じゃあ佐々木、俺そろそろ出かけるは、、、」
「本当に悪いッッッ!我侭聞いて貰っちゃって、、、」
「はは、いいって!佐々木が我侭言うなんて初めての事だし、よっぽどの事なんだろ?」
「、、、あぁ、、、」
誉はそう言い、この後すぐに何か聞かれるだろう、と覚悟を決めた。しかしその様子を見て取った悠は、
「なんにも聞かねぇって、、、鉄男と佐々木の問題だろ?」
とだけ言う。
「、、、悠、、、ゴメンな、、、」
「おいおい、謝るなって!人間秘密は重要だぞッッッ!」
そう言って笑う悠に誉は頭が上がらない。
「じゃぁ、俺は夕飯済ませてから帰って来るから、、、」
「わかった」
「あ、これ一応預けとく」
悠は誉に自分の家のスペアキーを渡した。
「外に出る時は鍵閉めてな、、、俺はそれとは別に自分の鍵持ってるから」
簡単に言うと、悠は外出した。
誉は時計を見る、午後一時半、、、鉄男との約束の時間まであと三十分。テレビをつけるとワイドショーがやっている。しばらくの間、全く内容の無い報道とも通販とも言えないどっちつかずの番組を何とはなしに眺めていると、
「ピンポーン、、、」
インターホンが鳴りその脇のモニターに鉄男の姿が写し出された。
誉は慌ててテレビを消すと玄関に向う。
「いらっしゃい!」
「あれ?誉クンがお出迎え?はるクンは?」
「ん、、、あぁ、、、ちょっと今出掛けてる。さ、上がって」
「うん。お邪魔しまーず!」
そう言うと鉄男は誉が用意してくれたスリッパを履いてリビングへと向った。
「相変わらず広いなぁ、、、」
「ん?あぁ、、、えっと、適当に座って、、、」
「プッ、、、あははは」
「なに?何か俺変なコト言った?」
「違う、違う!笑っちゃってゴメンね!だって、なんか誉クン、自分の家に居るみたいなんだもん!」
「え?、、、そう?」
照れて頭を掻く誉と目が合って、鉄男は視線を逸らした。
誉が鉄男のその癖に気が付いたのはいつの頃だっただろうか?とにかく、覚えている限りでは鉄男はいつも自分と目が合うと視線を外す。自分が嫌われているのか、はたまた鉄男が相当な恥ずかしがり屋さんなのか、最初はどちらか悩んだ誉だが、知り合って五ヶ月、ほぼ毎日一緒に居るところを見ると答えは後者なのだろう、と今では勝手に決めつけ納得している。
少し間があって、コーヒーの入ったマグカップを二つ持った誉がキッチンから出て来た。
「あ、勝手にコーヒー入れちゃったけど、川村は紅茶の方が良かった?入れ直そうか?」
「ううん、僕コーヒー大好き!ありがとっ」
そう言って微笑む鉄男と目が合い、今度は誉が視線を逸らす。その後はずっと、相手を見つめるクセに目が合えばお互いに視線を逸らしてしまう、という不思議な会話の場がもたれた。
「あ、、、指、もう大丈夫?」
「うん、、、有難う。ピアノはまだ無理だけど、、、」
鉄男はチラッと、二ヶ月程前に自分が途中までバッハを引いた隣室のピアノを見た。
「でも、僕にはこの指輪もあるしッ!、、、有難うね、、、
本当」
そう言うと鉄男は右手を広げ、誉に指輪を見せた。
「あぁ、、、でも、ゆっくりでいいんだからな、、、」
「え?」
「一気に前みたいに戻る必要ないから、、、川村は今回の事で沢山傷付いてるだろうし、、、だから、ゆっくり自分を取り戻せばいいから、、、」
「、、、うん、、、」
その後も二人は様々な事を語り合った。学校のこと、皆のこと、昔のこと、恋愛のこと、、、そうこうしている内に時は瞬く間に過ぎ、気が付けば夕方の六時になっていた。
「あっ!もうこんな時間、、、僕そろそろ帰らないと、、、」
「えッッッ?嘘だろ?」
「?」
誉のあまりの驚き様に、鉄男は不思議そうな顔をしている。
「、、、誉クン?どうしたの?」
「い、、、いや、、、あ、コーヒーお代り入れようか?」
「え?有難う、でももういいよ、本当、僕帰らなきゃ。、、、にしても悠クン遅すぎない?どうしちゃったんだろ?」
そんなコトを言いながら帰り支度をする鉄男を誉は無言で眺めている。
「、、、、、、」
「ね、誉ク、、、」
鉄男がコートを来て自分の方に向き直ろうとした瞬間、誉は彼の唇を奪った。ビクッと震える鉄男。
誉はそのキスが永遠である事を願う。もし、唇を離した後で見つめた彼の表情が侮蔑や失望のそれであったのならば、、、そう考えると、今この瞬間が長く続く事を願わずにはいられなかった。
次回更新は3/15(金)の予定です。