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異世界でロボットに乗るよう頼まれたんですが  作者: しんとうさとる
第二部 とある地下組織にて
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39. バルダーとともにある日常(その2)

初稿:2018/11/18


宜しくお願い致します<(_ _)>

「さて、と。全員いるわね? ビビってクソをモリモリひり出しそうになってるヤツはいないでしょうね?」

「姐さん、ンなの伊澄くらいだっての? なあ?」

「そこで僕に振らないでくださいよ……

 大丈夫です、マリアさん。さっき腹の中身は全部出しきってきましたから」

「むちゃくちゃビビってんじゃねぇかっ!?」


 伊澄のため息混じりの返答にクーゲルがツッコミを入れると室内に軽く笑いが起きた。

 マリアも小さく喉を鳴らして笑い、そしてBRブリーフィング・ルーム内にいる面々の顔を見渡していく。

 ノイエ・ヴェルト格納庫近くにある小さなBRにいるのは、今回作戦区域に赴く計六名。

 ノイエ・ヴェルト隊からは副長であり今回の小隊指揮責任者でもあるマリア、それとクーゲル、伊澄の三人。いずれも黒を基調としたパイロットスーツに身を包んでいる。

 その他に、戦闘には参加しないが作戦行動を補助するための制服姿のスタッフが一人、機体不良時の対応のための作業員が一人。

 さらにもう一人――


「いい心がけ。それじゃブリーフィングを始める……前に。

 本当にドクターも参加するんですか?」

「そりゃもちろん。任務の内容が内容だからね。非公式とはいえ、歴史的な瞬間になるかもしれないんだから私だって参加したいじゃなぁい?」


 壁にもたれたまま、ルシュカが答えた。いつもどおりヨレヨレの白衣を着て、これまたいつもどおりのニヤケ顔をマリアに向けている。

 任務の詳細をまだ聞かされていない伊澄は、彼女が口にした「歴史的な瞬間」という言葉に、なにやら重大な雰囲気を感じて緊張した。


「可能性が低いとはいえ、一応私たちも戦闘想定区域に行くんですが……まあ、ドクターですからね。どうせ何言ったって聞かないんで好きにしてください。その代わり自分の身は自分で守ってください」

「分かってるぅって。君らに迷惑は掛けないよぉ。それにぃ? 相手が相手なんだし、万が一の時にある程度バルダー(組織)の意思を示せる人間がいた方が君らも安心でしょ?」

「否定はしません」


 二人の会話から、伊澄はややこしい現場に行かされるらしいことを何となく悟りった。


「前置きの話が長くなったね。

 んじゃ改めてブリーフィングを始める。今回私たちが担当するのは、交渉時における護衛だ」

「護衛?」


 マリアが手元の端末を操作すると、正面にある大きなモニターに作戦内容の詳細が表示される。


「当然だけどこれから話す内容の口外は禁止されているからそのつもりで。

 この度、獣王国の再興に関する非公式会談が実現することになったわ。再興を皇国側の一派が支援するということで、本日、獣王国の代表団とその内容について調印を行う予定よ。そして我々バルダーは、非常時に備えて獣王国代表団の護衛依頼を受注。その契約を履行することになる。

 詳しい説明はサキちゃん、よろしく」

「はい、承知しました」


 マリアがサキと呼んだ女性を促すと、バルダーの制服を着たロングヘアの女性が前に進み出て一礼した。


「戦闘オペレーションサポート課のサキ・エルズベリー一曹です。今回の任務がアルヴヘイムで行われるということもあり、規定によりサポート課から私が派遣される事となりましたのでご承知ください。

 では、今回の作戦詳細について説明致します。まず背景から簡単に説明しますのでこちらを御覧ください」


 淡々とした口調でサキの説明が始まる。

 ある程度アルヴヘイムについてはエレクシアから話を聞いていたが、あちらの世界の国際情勢などさっぱりであるため伊澄は話についていくのがやっとの状態だった。

 かなり理解に自信がないが、伊澄なりにサキの話をまとめると、伊澄の推測も含め以下の様であった。



 獣王国というのはアルヴヘイムにある国々の一国であったが、とある事情で崩壊。国民は難民となって様々な国に散ったが、一部は長らく再興のために動いていたらしい。

 だが他の国々の支援を受けられず、苦難の道を歩いていたのだがこの度、皇国と呼ばれる国との交渉が成功して再興の支援をしてもらえる目処が立った。すでに下交渉はほぼ完了していて、正式な会談を残すだけとなっており、本日めでたく皇国と共和国の国境付近にある小さな村で正式に調印式が行われるとのことだ。

 バルダーは、獣王国側から要人の護衛依頼を受けており、すでに現地には護衛を専門とするチームが派遣されているが、万が一に備えて追加でノイエ・ヴェルト隊からも人員を派遣する運びになった。これが大まかな話であった。


「なぁる。それでドクが来たがってるってわけか」

「ふっふーん、ま、そゆことだよ」


 そして今はさらに詳細な話へと軸足が移っており、モニターでは現地の3Dモデルが表示されていて、ノイエ・ヴェルト隊の待機場所や有事の際の作戦行動をサキが説明している。

 伊澄はそれを聞きながらも、前に座るクーゲルに小声で話しかけた。


「なんか……ただの調印式にしては物々しすぎじゃないですか? 護衛が必要だってことはわかるんですけど、ノイエ・ヴェルトまで持ち出すなんて……」

「んあ? まあそりゃ相手が相手だからな。皇国ってことで獣人連中も警戒してんだろ」

「なんで皇国だと警戒するんです?」

「あー、えっとだなぁ、俺もアメリカ人でアルヴヘイムの事情に詳しいわけじゃねぇけど――」

「こーら、そこ。ブリーフィング中の私語は慎みなさい」


 めんどくさそうにしながらもクーゲルが説明しようとした時、マリアがそれを見咎めて注意する。伊澄はすぐに「すみません」と謝罪し、マリアもそれを受けて表情を緩めた。


「だけど、そうね……まだ出発まで時間もあることだし、伊澄のためにも簡単に向こうの事情を説明しておこうかしらね。

 獣王国側がここまで警戒をしているのは、平たく言えば皇国と獣王国は仲が悪かったの一言に尽きるわ」

「皇国ってのはいわゆる宗教国家でね」ルシュカがいつの間にか伊澄の後ろにやってきていた。「基本的に人族至上主義を掲げていて、獣人やエルフなどを下に見てるのさ。獣王国が滅ぶまでも何度も何度もちょっかいを掛けてくるし、逆に獣王国側も頭がお花畑な連中でね、彼らも彼らで獣人こそが最も優れた種族であるって思想が昔から根強い国でねぇ」

「つまりお互いが同じ思想なわけですか……でもなんでそんな国が支援を?」

「さぁてね。そこは私も聞かされてないから正しいところは分からないけれど、ま、彼らも一枚岩ではないというじゃないかな?」

「情報分析チームも同じことを推測しています。元々皇国自体は神の存在を広めることを第一義としています。人族至上主義が主流ではありますが種族関係なく神の教えを広めようという一派も存在しており、今回獣王国側に打診してきたのも彼らと思われます」

「モニターを見てもらえば分かるとおり、正式な会談だってのに人気の無いチョー辺鄙な場所だろう? つぅまるところ、今回の調印式も正式なものではあるんだけど、非公開なのさ。余計な横やりが入らないようにね」


 つまり、獣王国側としては後ろ盾が欲しい。だが相手の信条が気に食わないし信じられない。だからこそ過剰なくらいに警戒して、ノイエ・ヴェルトまで持ち出してきたということか。

 説明には伊澄も納得した。だが、話を聞けば聞くほど不安になる話だ。そんな疑心暗鬼な状態で何事もなく終わるのだろうか。


「そう不安そうにすんなって、伊澄。

 キナ臭い話ではあるんけどよ、下交渉は無事に終わってるって話なんだし、単にセレモニーとして責任者同士がサインするだって。何もありゃしないって。

 姐さんだってそう思ってるから伊澄の初陣として選んだんだろ?」

「まーね。戦時じゃあるまいし、危険な可能性が高いところに新人を放り出すなんて真似はさすがにしないわよ」


 マリアは軽く肩を竦めてクーゲルに応じてみせる。だがすぐにキリッと引き締まった眼差しで釘を指すことも忘れない。


「とはいえ、何事にも『絶対』はないわ。もちろん何も起きないに越したことはないけど、いい、伊澄? いざって時は自分で身を守りなさい。いいわね?」


 彼女の言葉に伊澄は黙ってうなずいた。マリアはそれを見て作戦の説明を再開する。

 伊澄は彼女の説明に耳を傾けながらつい一月前の出来事を思い返す。シルヴェリア王国もそうだった。逃げ出せこそしたが、あのままだとエレクシアたちにいい様に使われていたかもしれない。最後に自分を守れるのは、結局自分でしかないのだ。


(それに……)


 やっと、やっと自分がいるべきと思える場所を手に入れたのだ。非合法な組織とはいえ、バルダーのように楽しく過ごせる場所はきっと他には見つからないだろう。そんな場所を自分から手放すような真似、したくない。

 右手で握り拳を作る。そして左手でグッとそれを握りしめた。

 押し寄せてくる不安。それを息を大きく吸い込んで押し留め、せっかく見つけた道を失うまいと彼は意識をマリアの話に集中させたのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございました。


ご指摘等ございましたら遠慮なくどうぞ<(_ _)><(_ _)>

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