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17. 模擬戦(その5)

初稿:2018/10/06


宜しくお願い致します<(_ _)>

 夕陽に染まりかけた森の上を一機のノイエ・ヴェルトが疾走る。

 F-LINKと接続したおかげでハッキリと見えるようになった足元の赤い木の葉を眺めながら、世界の色が昼間と夕焼けがそこまで変わらないことを伊澄は残念に思った。

 やはり夕焼けがキレイなのは青い空が朱に変わるそのコントラストが明確だからなのだろう。ニヴィール(自分の世界)が鮮やかな青を失って久しいが、それでも世界の色彩が異なることに気づき、アルヴヘイム(見知らぬ場所)はやはり違う世界なのだと改めて感じる。

 それでも、景色がどうであれやることは変わらない。伊澄は王城を飛び出す前にクライヴと交わした短いやり取りを振り返った。


(伊澄、もし君が責任を感じているのなら……)

(違いますよ、クライヴさん。それが最も合理的だから(・・・・・・)ですよ。僕はこれでも技術者の端くれなんで、何でも合理的に考えるクセがついてるんです)

(つまり、どういうことだ?)

(今すぐに出撃できる僕が時間稼ぎをして、その後で十分準備を整えた皆さんで敵の容積を鉛玉でカサ増し(・・・・)する。それが城の人たちを守る、一番冴えたやり方法だってことですよ――)


 合理的、と言ってしまったが正直なところ、伊澄が感じていたのは責任感の方が強い。もちろん合理的に考えても自分が出ていくのが最も可能性が高いと判断したのは確かだが、そうでなくてもあのまま他人に任せて逃げ出すことなどできようもなかった。

 自分が無茶をしなければクライヴがそのまま出撃できた。災害級というのがどの程度のモンスターなのかはこの世界にまだ馴染みのない伊澄にはよく分からないが、きっとクライヴ一人で何とかできるレベルなのだろう。


「だったら……!」


 模擬戦とはいえ、自分は彼に勝ったのだ。なら足止めくらいはしてみせる。伊澄は機体を走らせながら左手で右手の震えを押さえ、右モニターの隅に表示されている自身の武装リストに眼を走らせた。

 時間が無かったため、準備できた武装は近接戦闘用の長剣(ソード)と魔法銃一丁のみ。

 魔法銃はその名の通り魔法を閉じ込めた弾丸を発射する武器だ。普通はノイエ・ヴェルト搭乗時でも魔法の威力を増幅させることができるライフルを使うらしいが、伊澄が手に入れたそれは魔素が切れた時のための非常武器として携行されているものに過ぎない。

 ただそうは言っても威力はそれなりで、魔法が使えずともF-LINKで手を貸してくれる妖精との相性次第では災害級どころか大災害級のモンスターであってもダメージは与えられるだろう、と整備班のひげもじゃスタッフが出撃間際に教えてくれた。

 欠点は弾数。元々が非常武器であるから予備弾も含めて二発のみだ。無駄撃ちはできない。


(大丈夫、大丈夫だ……僕ならやれる)


 ゲームでは命中率百パーセントだって何度か出している。ダメージが通るなら、どんな奴だって倒すチャンスはある。あるはずだ。

 それに。


「――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」


 ふと思い浮かんだ、クラシックと呼べるくらいに昔のアニメのセリフを伊澄は口にし、コクピット内で顔を赤くした。いつか言ってみたいセリフではあったが、まさか本当に使えるタイミングがあるとは思わなかった。実際口にしてみると思った以上に恥ずかしい。マイクをオフにしておいて良かった、と伊澄は思った。

 だが思いのほか緊張を解す効果はあったらしい。レバーを握る手の震えは治まり、恥ずかしさのせいもあるが自覚できるほどだった体の強張りもなくなっている。

 伊澄は左モニターのワイプ画面を拡大させた。出撃してまもなく一分。そろそろ敵モンスターと出くわす頃合い。敵の予想進路と自機のここまでの進路を重ねても、外れていないはずだった。


「……いない?」


 だがモニターで周囲を確認する限りだと、それらしい影は見当たらなかった。外部マイクも、周囲の雰囲気も敵がいる様子はなく、ただ風に揺られる葉擦れの音だけが届いてくる。


「おかしい……」


 敵のサイズがどの程度かハッキリと聞いていないが、曲がりなりにもノイエ・ヴェルトで相手するような相手。人間サイズであるはずがない。

 ならば相対距離で考えても何らかの兆候が見えるはず。にもかかわらず前後左右どこを見てもそんなものは無かった。


「っ、なら……!」


 伊澄は機体を跳躍させた。枝を弾き飛ばし茜色の空に舞う。そしてすぐに三六〇度周囲を見回した。しかし空は穏やかな雲が流れるばかり。妖精の五感を通じて伝わる風も心地よいばかりだった。


「空にもいないっ……?」


 まさか、敵の予想進路が外れたのか。そんな考えが頭を過り、索敵の範囲を広げてみるか、と機体の向きを変えてみる。その時、閃きのようなものが走った。

 妖精が騒いでいる。そんな感覚が伊澄の肌を這う。ざわざわとして落ち着かない。

 妖精の言葉など分からない。けれども今、伊澄と繋がっているはずの妖精が何かを言わんとしていることは分かる。この場所を離れようとした瞬間に何かを主張しだすということは、敵はこの近くにいるということだ。けれども、何処に――


「もしかしてっ……!」


 伊澄は足元にメインカメラを向けた。地面に異常はない。だが一度意識を地面に向ければ、不自然に木々が揺れているのが見えた。


「地中ってことかよっ!!」


 即座に伊澄は魔法銃を取り出した。脚部の格納スペースから飛び出したそれを握り、短い銃身を地面に向かって構える。

 弾は二発。一発も無駄にしていいものはない。


「だからって……あんだけ啖呵きってモンスターと行き違いましたって言ったらただの馬鹿だもんな」


 それに自分の持てる武器がどの程度役に立つのか。その威力を知っておくだけでも無駄ではないはずだ。レバー横のスイッチカバーを外し、伊澄はスイッチに親指を掛けた。

 伊澄の脳が作り出した仮想ではない、本物の照準器がモニター上に映し出される。そこに映されているのは何もない地面だ。対象物はなく、したがって照準器も定まらずピピピピ……と電子音を奏でるだけ。

 伊澄は迷わずオートロックオンシステムをオフにし、指先で繊細な操作をしながらマニュアルでロックオン先を合わせる。


「武器の威力、早速お手並み拝見って――っ!?」


 重力に引かれて機体が下がり始める中、伊澄は引き金を引いた。瞬間、光の奔流がほとばしり衝撃が伊澄の体を襲った。

 メインカメラが白く焼き付き、コクピット内まで一瞬で真っ白に染まっていく。光量が自動調整され、変わって外向けの集音マイクが爆音を拾って届けてくる。あまりの大きさに伊澄は思わず目と耳を塞いだ。

 激しく機体が揺らされ、目をゆっくり開ければ眼下に巨大な爆炎と煙が広がっていた。


「……なんて威力」


 光と爆音が収まり立ち上る煙が風に流されていく。その後で露わになった着弾跡に伊澄は言葉を失った。

 出来上がっていたのはノイエ・ヴェルトが丸々収まろうかというくらいに大きなクレーターだ。隕石でも墜ちたかと思うくらいで、直径十数メートルに渡って土砂ごと抉り取られている。クレーターの縁は黒く焦げ、周囲にあった木々はみな吹き飛ばされて無残な姿を晒していた。


「何がただの非常武器だよ……とんでもない威力じゃんか」


 豆鉄砲か、せいぜいが弾痕を残すだけだと思っていたのに。伊澄はただただその威力に圧倒される。

 ともかく、威力は測れた。伊澄は気を取り直して着地して見回すが、肝心のモンスターの姿が何処にもない。

 発射のタイミングは通過予想と合わせた。だから想定通りにモンスターが通過していれば直撃のはず。クレーターを覗き込むもそれらしい跡は無かった。


「まさか、直撃してバラバラに吹っ飛んだとか?」


 威力からするとその可能性もありそうだ。だが、その程度ならばクライヴたちもそう慌てる必要もないはず。伊澄が気を引き締め警戒し始めた。

 やがてすぐに、その考えを裏付けるようにクレーターの壁にヒビが入った。


「ほら、やっぱ――……!?」


 ぼやくように声を漏らした直後、壁が砕けた。けたたましい音を立てて瓦礫が飛び散っていき、それらが雨となって降り注ぐ。機体の装甲板に当たってカンカンと軽い音が響き、地響きが遅れてやってくる。穿たれてぽっかりと覗いた黒い穴から前足らしいものがヌッと現れ、クレーターの縁を足場にその姿を露わにした。


「……マジ?」


 伊澄は呆然と目の前に現れた敵を見上げた(・・・・)。夕陽でまぶしいくらいだったモニター画面は影で暗くなり、風もひんやりしてきたような、そんな気がした。


「……災害級って言うくらいだから、ちょっとは覚悟してたけどさぁ」


 まさかノイエ・ヴェルトよりもでかいとは思わなかった。

 そううそぶいた伊澄の見上げた先で、巨大な獣がノイエ・ヴェルトを見下ろしていたのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございました。

ご指摘等ございましたら遠慮なくどうぞ<(_ _)><(_ _)>

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