第96話(アーダの泉に行こう11/薬草採り3)
[九十六]
夜も遅くに、ファナーリの町に到着する。そこで一度カサドールは馬車をしまい、馬をしまう。そして、壁に囲まれた町の四つある内の一つの門。アーダの泉と通じているところから入ると、エルンストは寝ぼけたアスピスを抱きながら他のみんなと一緒に、十字路状の中央通りを進んで、冒険者ギルドへ入って行った。
「ほら、レフンテ。依頼完了の報告をして来いよ」
「え?」
「依頼をもぎ取ったのはお前なんだ。最後まで責任を果たしてこい」
「あ、はい」
エルンストに言われて、レフンテは大きく頷き、夜も遅い時間ということでガランとしているギルド内の受け付け窓口に依頼書を差し出した。
「これなんですが」
レフンテはそう告げながら、アイテムボックスを開いて指定されているスパーチ草と呼ばれている薬草が入っている採取ボックスを取り出し、それも一緒に差し出した。
「あら? この依頼を受けたのって、他のパーティじゃなかったかしら? ギルドカードを貸してくれますか?」
「あ、これ……」
レフンテは慣れない。というより、前回は完全に他人任せであったことで初めての経験に戸惑いながら、言われるままにギルドカードを差し出す。
そして、それを受け取った女性が、ノートを取り出して依頼を受けた人と違うことを確認すると、レフンテを見つめてきた。
「申し訳ないけど、説明してもらえますか? 場合によってはこの依頼は無効となりますから」
「えっと。その……、4人の男性が依頼を受けていたんですが、アーダの泉で薬草が見つからないって騒いでまして。そこで、採取の方法を確認するよう助言したところ、精霊使いがいないと薬草が採れないことに気づきまして、慌ててそこで精霊使いを募集したんです」
「あら、そんなことになってたの。ちゃんと精霊使いを連れて行くようにって助言しておいたのに。で、それでどうして、あなたの手にこの依頼書が渡ったのかしら?」
「彼らの主張は『病気の子供が薬草を必要としてるから、手を貸してくれ』ということでした。しかも、『奉仕の精神』で手助けしろとのことでした」
「つまり、無料で手伝えってことね?」
「はい。そういう意味だと思います。でも、だれも応じることがなかったので、彼らには達成することができない状態に陥ってしまっていて、俺の所属しているパーティには精霊使いもいたので、依頼書自体を譲ってもらいました」
「それで、支給している採取箱と違った訳ね」
「その採取箱ではダメでしょうか? 病気の子がいるのは本当なんですよね? その薬草が1本あれば、眠り病は治せるはずなんですが」
「あら、詳しいわね。もしかしたらだけど、あなたは採取方法も最初から知っていたのね」
「はい。本で読んで知っていました。それに採取箱も、貴重な薬草を見つけたとき採取できるように常に持ち歩くようにしています」
「ところで、この依頼書は買い取ったの? 奪い取った訳じゃないわよね?」
「お金は支払っていません。彼らには達成できない以上、依頼放棄とみなされて、ギルドでのパーティの評価が下がるだけでなく、ペナルティとして功績も引かれるので、お金を払って依頼書を買う必要性は感じませんでしたし、以上のことを伝えたところ、手から手へ譲ってもらう形で受け取りました」
「そう。なら、いいわ。あそこにしか生えない貴重な薬草だから、採取箱はもっと小さなものだったんだけど、市販の採取箱でも依頼の達成自体には問題はないから。依頼は達成したということで、薬草を受け取らせてもらいますね」
「はい。お願いします」
「それじゃあ、功績と報酬だけど」
「そいつ1人にまとめていれてくれ」
パーティで分けるのか問われたところで、エルンストが口を挟んだ。
「分かりました。では、功績はレフンテさんにまとめて入れさせてもらいますね」
受付の女性はそう言うと、傍らの箱へレフンテのカードを入れる。瞬間、箱から光が発せられる。
「あら、ポイントがいっぱいだったのね。Bクラスへ昇級しました。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「それにしても、よく無料でこの依頼書を受け取ったわね。あの4人組のパーティ、守銭奴の上にけちん坊で有名なのよ。しかも、説明もろくに聞かないし、事前調査もしないから、突っ走って行った先で大抵問題を起こすのよね。そろそろカードを没収しようか話し合われているところだったの。今回も病気の子が待っている依頼だったから心配していたんだけど、掲示板に貼られた依頼に関しては、私たちは依頼を受ける受けないに口を出せないから、助かったわ。本当にありがとう」
「いいえ。報酬を受け取ってしまった時点で、奉仕ではなくなり、仕事になりますから」
「そうね。でも、病気の子供を心配してくれて、依頼書を彼らから取り上げてくれたんでしょ。それだけでも私としては嬉しいわ。これからも、冒険を頑張ってね」
「はい。まだ始めたばかりですが、頑張りたいと思ってます」
嬉しそうに薬草を受け取った受け付けの女性に、レフンテは真面目に応じると、最後に一礼して、報酬を手にしてエルンストの元へ戻って来た。
「この報酬ですが」
「お前が勝ち取ったもんだろ。お前がもらっておけ」
「でも、アスピスがいてくれたからこそ……」
「こいつの好奇心を満たさせてもらっただけで十分だ。これからも相手をしてやってくれ。こいつは知りたいことがいっぱいあるんだ」
「そうね。アスピスにはレフンテの持っている知識を分けてあげるのが、いいと思うわ。そのお金は、あなたが貰いなさい。そして、依頼の重みをしっかり噛みしめてちょうだい」
「わかった。それじゃあ、これは俺がもらいます。その代り、アスピスには彼女の望むものを上げることにします」
「そうしてくれ」
エルンストはそう告げると、レフンテの頭を掻い操った。
「とにかく、今回は自力でよくやった」
「本当によく頑張ったわ。レフンテ偉かったわよ」
フォルトゥーナも笑みを浮かべて、レフンテを満足そうに見つめる。
そして、この日は屋台で簡単な軽食と飲み物を買って、宿屋を探しだし、部屋の中で食事を済ませると、寝ることにした。
翌日も、朝は早かった。今日も1日馬を走らせて、アーダの泉へ帰る予定なのだ。その途中、町を出る前に、フォルトゥーナが朝市で色々な食べ物や飲み物を購入して、それらを冷蔵棚や食料棚にしまい込む。その間に、アスピスも欲しいなと思っていた一品を偶然に見つけたことで、即座に購入しておいた。
それが終わると、門を出て、昨日同様にカサドールに馬を2頭と馬車を出してもらい、御者をエルンストが買って出たのだが、カサドールがいつものことだからと、自分が御者をする旨を伝えて、昨日同様の形で馬車に乗り込み、馬を走らせる。
馬の疲労度によっては、アネモスに引かせるようかと思ったが、丈夫な馬だというだけあって、昨日は無理させてしまったのだが、今日も問題なく走り続けていた。
そして、その途中で泉で騒動を起こした4人組とすれ違ったのだが、当然向こうは気づくことはせず、こちらからも声を掛けることはなく、どんどんと離れていった。
昼休憩は、馬が草を食んでいることで、いつもよりも長めに休憩時間を取り、のんびりと外の空気を堪能する。アネモスは昨日同様にだらしなく寝そべりお腹を半分みせていた。そこへアスピスもだらしなく寄りかかり、寝そべる。そして、アスピスがうとうとし始めたころ、出発の時間となったことで、エルンストに抱え上げられて、馬車に放り込まれてしまった。
思わず、苦情を言いたくなったが、みんなの前ということで、アスピスはぐっと堪えて口を閉じていたら、エルンストが腿の上にアスピスの頭を乗せさせ、毛布を掛けてきた。
このまま寝ていいということらしい。アスピスはそれに甘えるようにして、あと半日はかかる行程を眠って過ごしたのであった。
そして、アーダの泉に戻って来たのは、夜もだいぶ深くなってからのことであった。
行楽地であり、キャンプ場も備えていることで、照明具があちこちに建てられていて、暗い夜道を照らし出してくれていたことで、迷うことなく自分たちのコテージへと到着する。
そして、ドアを合鍵で開けようとしたら、先にドアが開かれた。
「おかえりなさいです。みなさんお疲れさまでした」
「レイス、起きてたの?」
「今日中に帰って来ると言っていたので、みんな起きてますよ」
レイスは笑顔で応じると、みんなが入って来られるよう、場所をずれる。そして、みんなが入ったことを確認すると、扉を閉じて鍵を閉めた。
帰宅早々に、アスピスとフォルトゥーナとアンリールが行ったのは、お風呂に入ることであった。昨夜はお風呂のない宿屋だったので、なんとしてでも入りたかったようである。
疲れているだろうアスピスが途中で眠ったりしないか心配だったが、フォルトゥーナやアンリールが気を付けてくれるだろうと判断し、エルンストが3人へお風呂へ入ってくるよう勧めた。
その返事を待ってましたという感じで、アスピスは脱衣所へ向かって行き、その後をフォルトゥーナとアンリールがついて行く。そして、3人はゆっくり時間をかけて入浴を済ませると、3人揃って『乾燥』の精霊術を使って体の外側についている水分を飛ばすと、下着を身につけてから、それぞれ私服に着替えた。
その後、汚れ物を洗濯ボックスへ入れると、3人は脱衣所から出てきたのだが。2人揃って下着をださなかったことへ、アスピスは首を傾げていた。
「どうかして?」
「なんで下着を出さないのかなぁ、って」
「あぁ、そういうことね」
「女性の下着って、繊細に作られているの。だから、自分で精霊術を使って洗う人が多いのよ。洗濯ボックスを使うと、すぐにボロボロになってしまうから」
「そうなんだ!」
エルンストやレイスやカロエと異なり、2人にはちゃんと理由があったのだと、アスピスは納得すると満足げな笑顔をみせる。
「でも、じゃあ、あたしも自分で洗うようなの?」
「アスピスは未だ大丈夫よ。もっと違う下着を付けたいと思うようになったら、その時は自分で洗うようになるから」
「わかった。じゃあ、未だ出して平気だね」
「えぇ、問題ないわよ」
フォルトゥーナとアンリールがそれぞれ答えをくれ、アスピスな納得したという感じで、みんなの方へと向かって行く。
その後、交代で、エルンストとカサドールとレフンテがお風呂に入って行き、女性たちがかけた半分くらいの時間で出て来てしまう。
しかも、精霊術がないので、みんな頭が濡れていた。
そこへ、アンリールがタオルを持ってカサドールの元へ行き、頭を拭いてあげていた。
家では知らないが、外ではいつもこんな感じなのだろう。みんなが2人の仲の睦まじさに見入っている中、気にすることなくカサドールはアンリールに頭を預け、アンリールは当然のように頭の水分を拭っていく。
この2人を見ていると、結婚も秒読みだなと思いたくなってくる。
ちなみに、レフンテのびちゃびちゃな髪を見兼ねて、フォルトゥーナがバスタオルでレフンテの髪を拭いていたのだが、それは保護者と子供な感じで、微笑ましくはあったが、恋人同士と見るには会話も雰囲気も程遠いものであった。
そんな2組を見ていて、アスピスも真似てみたくなる。
そこで、リビングで肩にタオルをかけて座り込んでいたエルンストの頭を、アイテムボックスから取り出したバスタオルで勢いよく拭い始める。
「ちょっ!」
「だってびしょびしょなんだもん」
「いつものことだろ。それに、お前らみたいに精霊術が使えねぇんだから仕方ねぇだろ」
アスピスの乱暴な手の動きに、エルンストがやめろとばかりに口を開くが、アスピスとしては、恋人同士であるカサドールとアンリールを真似ているつもりでいたことで、文句を言われる筋合いはないという気分であった。
なのだが途中でバスタオルは奪われてしまい、アスピスには不満が残ってしまう。そんなアスピスにエルンストは苦笑すると、頭を掻い操り脇に座らせた。
「お前はまだ手が小さいんだから、難しいだろ」
「そんなことないよ」
「あるんだよ」
エルンストの台詞に、あっさり否定をしてみせるアスピスへ、エルンストは自身の広げた手をアスピスの手に押し当てて、2人の手の大きさの違いをはっきりさせる。
瞬間、アスピスは手を隠してしまう。
「エルンストが大きすぎるの」
「まぁ、俺の手の方が大きいのは当然として。それでも差がありすぎるだろ」
「それと頭を拭くのとどう関係があるの」
「小さな手でごちゃごちゃに拭かれたら、髪がぼさぼさになるだろ」
前髪を掻き揚げ、乱れた頭を直しつつ、エルンストは率直に意見を述べる。
「エルンストの意地悪!」
「お前、最近その単語お気に入りだな」
「だって意地悪なんだもん」
「はいはい、意地悪でかまわねぇから、もうちょっと手が大きくなってから拭いてくれ」
アスピスが完全に拗ねてしまったことで、エルンストはアスピスを膝の上に乗せて、左腕でアスピスの上半身を支えるようにしながら、優しい声で訴えてくる。
「そのときは、存分に拭かせてやっから」
「今が良いのに……」
「それはちょっと我慢してくれ」
エルンストは笑いながらもあっさり拒絶すると、右手をアスピスの体に回して、甘やかしあやすように、アスピスを抱きしめた。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




