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第95話(アーダの泉に行こう10/薬草採り2/ファナーリの町)

[九十五]


 4人の冒険者である男たちが去って行ったのを見送ると、レフンテがエルンストの元へと駆け寄ってくる。表情はとても明るいものであった。

「これが依頼書でいいんだよな!」

「あぁ、それが依頼書だ。お前の意思で、その依頼書を手に入れたんだ。お前が責任を持って、薬草を採取して来いよ。失敗したら俺たちのパーティがとばっちりを受けるんだからよ」

「あぁ、分かってる! アスピス行くぞ」

「うん!」

「って。アスピス、お前――ッ」

 引き止めようとしたのだが、エルンストはすぐに諦める。

 アスピスの瞳もとてもキラキラしていたのだ。レフンテの瞳に負けることなく。

 エルンストの腕の中で大人しくしてはいたが、依頼書を手に入れるよう要求したのはアスピスであった。それは、アスピスなりに、冒険者というものを理解し始めていたからである。そして、依頼書の重さを分かり始めている証拠であった。

 けれども、心の中では、レフンテ以上に、そわそわしていたのだ。

 アスピスとは異なり、時間が止まっていない状況ではあったが。眠りから覚めることができなくなってしまった子供のことを、この場に居る誰よりも、助けてあげたいと感じていたのだ。眠っている間に過ぎていく時間の恐ろしさを、アスピスは身をもって知っているのだ。

 原因が病気だと分かっている上に、過ぎた時間も十分に取り戻せる程度ならば、一刻も早く助けてあげたいとアスピスは思っていた。

「仕方ねぇ奴だな。ったく」

 そして、エルンストの胸元から抜け出すことに成功したアスピスは、レフンテに手を取られて、泉の方へと向かって行く。本当なら走り出したいだろうに、アスピスの歩調に合わせてくれているのは、レフンテの優しさなのだろう。

 そして、アスピスはお気に入りのワンピースのまま、泉にどんどん入って行くと、レフンテの誘導で、泉の中へと潜っていく。その際、アスピスは自分とレフンテに結界オーラを纏わせて、泉の底を歩けることと、呼吸ができることを条件にしておいた。

 そして、レフンテとアスピスは薬草となる藻が生えている場所を必死に探す。泉はとても広くて、遊泳可能区域だけでもかなりの広さがあることで、見えなくなるほど別れる訳にもいかず、適度な距離を保ちつつ、2人は泉の底を端から順に巡って行く。

 そんなことをしてどれくらい経っただろうか。藻の群生が、2人の視界に突然という感じで飛び込んできた。

 ここからはアスピスの出番である。

 素地陣を使って藻が生えている中心からそれなりの広さを、「結界」と唱えて外界から隔離する。結界オーラを纏っていたおかげで、発音は完ぺきではなかったが、結界を作ることに成功すると、二重の円を築き、マナを使って精霊語で水の排除、空気の生成、レフンテとアスピスの出入り許可と条件付けて、2人は結界の中へと入って行く。

 泉の水はどんどん消えていき、その空間に空気がどんどん生成されていく。

 後は水がすべて排除され、結界内を空気が満たすのを待つだけである。

「ねぇ、採取用のケースとかってどうするの?」

「それくらい持ってるさ。ていうか、冒険者なら持ち歩けよ」

 レフンテはそういうと既に空気で満たされいる空間にアイテムボックスを開くと、中からいくつかの薬草の採取用のケースを取り出して、アスピスに渡してきた。

「やるよ。しまっとけ」

「ありがとう! 今度から用意しとくね」

 アスピスは素直にお礼を言うと、アイテムボックスを開いて、貰ったばかりの薬草の採取用ケースをしまい込んだ。

 それからさらに数分待っていると、水が完全に結界から抜けていったようである。同時に結界内が空気に満たされた。

 その瞬間に、底から生えていた藻が急に変化した。

 足元に生えている藻がキラキラと光り出し、葉をまっすぐに伸ばし茎がしっかりと立ち、実のようなものがプツンと音を立てて割れるように開くと花を咲かせていく。

 そして、レフンテは完全に花が咲いたものから順々に、根っこごと採取箱へ摘み取り始める。それを真似て、アスピスも、花が全開になったものを選んで根っこから採取していき、レフンテが用意してた採取箱へと次々と入れていく。そしてそれが満たされると、レフンテが満足そうに笑った。

「これだけ集まれば大丈夫だ。っていうか、眠り病には、子供なら1本もあれば足りるんだけどな」

「そうなんだ。詳しいね」

「以前、本で読んだだけさ」

 レフンテはそう言うと、採取箱の蓋をしっかり閉じて、アイテムボックスにしまうと、アスピスに結界の解除をしても大丈夫だと告げてきた。

「ねぇ、このまま解除しちゃっていいかな?」

「え? あぁ、そっか。でも、まぁ、いいんじゃないのか?」

「やったー」

 アスピスは喜ぶと、結界オーラを2人分改めて強化させて呼吸できるよう条件をしっかり補強して、その場に寝ころび、「解除」と唱える。同時に、空気の気泡が大量に生み出され、四方へ飛び散るように広がっていくと、くるくると回転しながら水面へと向かって昇っていく。その気泡の姿は、水辺から入って来る光を受けて、輝いていて。水中で本当に踊っているように見えた。そして、それらがすべて水面へ吸い込まれるように消えていく。

 時間にしたらとても短かったが、とても綺麗な光景だった。

 そして、レフンテが手を水面に向けてみせると、レフンテはアスピスの手を取る。それと同時に、アスピスは2人の結界オーラから、条件にしていた底での歩行を消去すると、2人で泉の底を蹴るようにして、水面へと上がっていき、エルンストが待っている場所へと戻って行った。



 エルンストの周囲には、いつの間にか全員が集まっていた。

 そして、レフンテとアスピスが手を繋いでいるのを見て、エルンストがアスピスを抱き寄せて、頭からタオルを被せる。

「ったく、服も傷口もびしょびしょにしやがって」

「とにかく、アスピスをお風呂に入れてくるわね。アスピスいらっしゃい」

「うん」

 フォルトゥーナに誘われたことで、アスピスはお風呂に入ることにした。

 当然だが下着までびしょびしょで体に服が張り付いているようになっている上に、包帯は泥で汚れ取れかかっていた。脱衣所につくと、それらを全部フォルトゥーナに手伝ってもらって体から剥いで行くと、フォルトゥーナと2人で露天風呂に入る。

 それからしばらくすると、アンリールも入って来た。

「あら、どうしたの?」

「明日の朝早くに、カサドールと私とエルンストとアスピスとレフンテとフォルトゥーナでファナーリの町へ行くことになったの。馬車は、たまには馬を解放したいからって、私たちの馬車で移動することになって。御者席に2人、中は6人までしか乗れないから、コテージに留守番も必要だからってことで、話が決まったみたい」

「野営は?」

「入れないで、夜に着くようにするみたい。それで、一晩向こうで過ごしたら、また野営を入れずに夜にこっちへ戻って来ることにするみたいよ」

「じゃあ、カルタモの先生には会えないわね」

「アスピスの足を治してくださったという先生ね」

「うん。恩人なの。でも、会えないのは仕方ないよ。きっとその内また機会ができるよ」

「そうね。今回は泉へ遊びに来たのですものね」

 アスピスの頭を洗ってあげていたフォルトゥーナは、アスピスの頭を軽く撫でる。そして、髪の毛を洗う続きを始める。

「でも、馬は大丈夫なの? かなりの強行よ」

「丈夫で利口な馬なの。二日間くらいなら強行しても大丈夫よ。それに、その後はまたゆっくり休ませるし」

「そう。でも、念のためにアネモスに並走してもらうべきかしら」

「アネモスを、生き物用のアイテムボックスに預けるっていうのもありかもよ。どうせ寝てるだけだし」

 アスピスが容赦なく言うと、フォルトゥーナとアンリールがおかしそうに笑い出す。

 そして、コンディショナーを髪になじませると、一度タオルで髪をまとめ。アスピスの体を洗い始める。

「傷口は、避けましょうね」

「うん」

「痛みはどうなの?」

「縫ってるから突っ張る感じはあるけど、だいぶいいよ。ズキズキしなくなったし」

「そう。ならよかったわ。今度、ナイフの持ち方から教えてあげるわね」

「ありがとう」

「あの、フォルトゥーナ。私にもぜひ教えてくれないかしら。やっぱり手料理ができるようになりたいもの」

「そうよね。カサドールに作ってあげたいわよね」

「えぇ。それに、私の使い魔たちにも食べさせてあげたいし」

 ちょっと頬を赤らめつつ、アンリールは素直にフォルトゥーナの台詞を受け入れる。

「本当は、私よりもレイスの方が上手なんだけど。2人の役に立ちたいし。是非教えさせてちょうだい」

「フォルトゥーナもレイスと同じくらい、美味しいの作るよ」

「えぇ、フォルトゥーナさえよければ、調理の先生になって欲しいわ」

「後悔しないでね」

 アスピスとアンリールに請われて、フォルトゥーナは機嫌よく承諾する。

 そして、アスピスの体を洗い終わると、頭から体の順に泡を落としていき、タオルを一度洗って固く絞り、アスピスの髪をタオルでまとめると、お湯に浸かるようフォルトゥーナは告げてきた。

 それに従い、アスピスはお湯に浸かりながら、スタイルの良い2人が互いに背中を流し合い、髪を洗う姿を眺め見る。

(あたしも、将来はあんな素敵なスタイルになれたらなぁ)

 乙女の理想だよね。と、アスピスは思いながら2人を見つめていたら、段々のぼせそうになってきたので、一度シャワーで体を流すと、先にお風呂から上がることにした。

 そして、いつものように『乾燥』の精霊術を活用して、体を乾かすと、下着を身につけて、お出かけ用ではないシンプルなワンピースに着替えると、水着を先に洗うためにタオルだけ洗濯ボックスに入れて、脱衣所を後にした。



 翌朝、レイスが作ってくれた朝食用のお弁当を持って、朝も早い時間に、馬車を使ってもいい場所まで移動すると、カサドールが馬を最初に二頭出してきて、それに馬車を引かせるようにして、アイテムボックスから6人用のボックス型の馬車を出してきた。

 そして、念のためアネモスも連れて行くことにしたので、生き物用のアイテムボックスでくつろいでいるのと、並走するのとどちらがいいか真面目に問いかけたところ、並走を選んだのであった。

 久々に風を切って走りたいようだ。

 なので、はぐれないように言い聞かせた後、御者をするカサドールを残し、エルンストとレフンテとアンリールとフォルトゥーナとアスピスは、前後に設置されているイスに向かい合うようにして、3人と2人に別れ座る。

 出入り口や、その反対側の壁の上部部分と後席の後ろ側にはガラスがはめ込まれていて、外の風景が覗けるようになっていた。そして、前後の席の両側と前席の後ろは開閉できるガラス窓となっていて、前席の後ろ側の窓を開けると御者席とやり取りできるようになっていた。

 また、前席と後席の間には、折り畳み式のテーブルがあるらしく、朝食を食べるためにアンリールがテーブルを広げてくれた。

 揺れ方は、アスピスが載っている馬車同様に、補強も補整も最大限に行っているらしく、レンガで整えられた道の場合、ほとんど揺れはなかった。お陰で、レイスが用意してくれた食事をみんなでゆっくり取ることができ、御者席に座っているカサドールにも手渡すことができた。

 しかも、二頭の馬で馬車を引いてもらうと、結構速度もあるようだ。アネモスが馬車の速度に関して、もう少し上げてもよさそうだ的なことをぶつぶつと呟きつつ、気持ちよさそうに並走していた。

 そして、昼休憩に入ろうかと話していたところで、昨日の騒動の4人を追い抜いてしまった。

「もうちょっと先まで行きましょうか?」

「そうね。絡まれても嫌だし」

 アンリールとフォルトゥーナが二人で話しているのを、カサドールは聞いていたようで、馬車の速度をあげて、しばらく走った後、ちょっと遅めの昼休憩に入ることにした。

 邪魔にならないよう、補整されている道から外れた上に、馬車の陰に隠れる形で休憩を取ることにする。

 半分は女性で、しかも人数が少ないこともあり、シートの上に並べられた軽食は種類がちょっと少な目にしてあった。そして飲み物は、フォルトゥーナが事前に王都にて買っておいてくれた、冷たいものが出されてきた。

 馬は草を食み、アネモスはアスピスの傍で、気持ち良さそうなのだがだらしなくお腹を出して寝ている。

 危険な空気が感じられない。ということだろう。

 そんなアネモスに寄りかかりながら昼休憩を取っていたら、すぐに出発の時間になってしまった。

 そこで、広げた荷物をフォルトゥーナが片付けると、再びみんなで馬車に乗り込み、カサドールが馬を走らせ始める。

 ガラス窓から覗ける景色は、自分たちの箱型にはないものだったこともあり、アスピスは興味深く眺めてしまう。

 アネモスが並走しているのも良く見れた。

 午前中は許可をもらい、窓を解放させていたので、アネモスとのやり取りも可能であったが、風が強く当たってくることで、それはそれでアスピス的には面白かったのだが、他の人に迷惑が掛かってしまうので、午後は窓を閉めて外を見ていた。

 そして、日も暮れてくるころになると外の景色も見えなくなってきたことで、御者席と繋がっている窓を残し、他のガラス部分は厚手の布を天井から下ろすことで馬車の中の見えなくして、法陣カプセルを差し込まれた照明具をつけて馬車の中を明るくする。

 そして、到着が夜遅くなるということで、未だ数時間はかかるため、みんなの小腹がすくころだろうと、フォルトゥーナが事前に王都で買っておいた飲み物と手掴みで食べられる軽食を精霊術で温め、みんなに配っていく。それをアンリールが御者席のカサドールにも手渡すと、みんなで談笑しながら食べ始めた。

 そんな中、適当にお腹が満たされ、水分も補給されたことで、渡された食べ物が半分くらい減ったところで、アスピスがうとうとし始める。

 朝は早くから起こされ出発したことも原因の一端だろうが、いつもと違う馬車だったことで、はしゃぎすぎたのが最大の原因だろう。

 その様子から、エルンストがアスピスの手から食べ物を取り上げて、自身の腿の上にアスピスを横たわらせて、アスピスの眠気に任せることにする。

 そして、大人たちがどうでもいい話題に花を咲かせているのを、アスピスは遠くで聞きながら、アスピスは目を閉じると眠り始めてしまったのだった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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