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第92話(アーダの泉に行こう7/憩い5)

[九十二]


 熟睡しているらしいエルンストの傍らで、アスピスは腹ばいになり恋愛小説を読んでいた。

 足は極力ばたつかせないよう気を配っていたのだが、つい癖でたまにパタパタさせてしまう。その都度、エルンストが掛けてくれた大判のバスタオルが翻りそうになっていた。

 風はほどほどに吹いていたが、心地良い感じのもので、本のページを捲るほどでもない。

 そして、たまに思い出すようにしてエルンストの方を見るのだが、エルンストは常に目を閉じ眠っていた。そんなエルンストへ、サマーベッドをくっ付けた状態の傍らにアスピスがいるのもかまわず、たまに声を掛けてくる女性がいたが、エルンストが熟睡していることを知ると、諦めて去って行くのだ。

(もしかして、半分は狸寝入りか?)

 ナンパ避けも兼ねての熟睡なのではないだろうか、なんて邪推をしてしまう。

 しかし、行動を取らなくても分かってしまうことがあった。

(絶対に、あたしが動こうとしたら、目を覚ますんだよ。そして怒るんだよ)

 賭けてもいい。と、アスピスは思ってしまう。

 なので、エルンストを寝かせておいてあげるために、アスピスは大人しく本を読んでいた。

(だとしてもさぁ、熟睡はひどいよね)

 監視役のはずのエルンストがまったく構ってくれないので、泉への誘惑も生じ始めているのは事実である。

 いっそ、エルンストの胸の中に入り込んで寝てやろうかとも思ってみるが、サマーベッドのサイズ的なものもあるのだが、サマーベッドの中央にデン横たわっているエルンストの隣に潜り込む隙間はほとんどなく、アスピスはその野望を即座に諦めざるを得なかった。

 今読んでいるのは三角関係もので、いつもだったらもっとワクワクして読んでいる話なのだが、気が散っているのだろう。どうにも小説に入り込めずにいるのだ。

(そんなに沢山って訳でもないけど、人が行き交うこの場所が落ち着かない原因だと思うんだよね)

 そんなことを思っていたら、またひとりチャレンジャーがやってきた。

 もちろん、エルンストに声を掛けるために、ここまで来たのである。そして、エルンストが寝ていることを確認していながら、甘ったるい声を出してエルンストを誘うのだ。

「ねぇ、そこのお兄さん。一緒に泳がない?」

 女性の言葉に突っ込みを入れるならば、エルンストの服装を見てから言え! と、思ってしまう。

 ただ、その女性のスタイルは抜群で、ボンキュボンをそのまま体現した体つきであった。

 そのため自信があったのだろうか、しゃがみ込むと、エルンストの顔の脇に胸を乗せて、大きな胸を強調するようにしながら、エルンストに触れようと女性が腕を伸ばした瞬間、エルンストが即座に反応するようにして、その手を払いのけていた。

 その勢いが強すぎて、女性は後ろへ倒れ込み、尻餅をついてしまう。

「なにするのよ!」

「それはこっちの台詞だ。寝ているところに手を伸ばしてくるなんて、冒険装備をしていたら切っていたところだぞ」

「あなた、冒険者なの」

 エルンストの台詞に興味をもったように、女性は再び胸を強調するように、エルンストの顔の横に胸を乗せると、肘をサマーベッドに乗せて、両手のひらで顔を支える。

「ねぇ、どんな冒険してきたの?」

「寝ているんだが。見て分からないのか?」

「いいじゃない。いい女がおしゃべりを楽しもうって、誘ってあげているんだから」

「あんたが、いい女かどうかを決めるのは、俺の方だろ。ついでに言うなら、俺からすれば単なるうるせぇ女にしか見えねぇよ」

「なっ……」

 2人の会話を聞いていた、主にエルンストを狙おうとしていた女性たちが、くすくすと笑い出す。

 エルンストの台詞に加え、そんな周囲の声に対し、女性は羞恥心と屈辱から真っ赤になって立ち上がると、「最低な奴!」と言って去って行った。

 確かに、最低な奴かもしれない。と、アスピスも女性に同意してしまう。だからと、女性を応援なんてしていなかったのだが。

「ったく。ここじゃのんびり昼寝もできねぇな。カサドールみたいに、アンリールのような女避けになる彼女もいねぇし」

「それは、喧嘩を売っていると受け取っていいんだよね?」

「売っちゃいねぇだろ。現実だ」

 エルンストは酷いことをあっさり言うと、立ち上がり、アスピスを抱え上げるとコテージの方へ向かい始める。

「やっぱ、お前を抱いて寝てる方が落ち着くわ」

「どういう意味よ?」

「お前がいつうろちょろするか気にかけておく必要がねぇだろ。その分、気を張らないですむからな」

「エルンスト、さっきから酷いことしか言っていない」

 容赦のない言葉で追い打ちばかりかけてくるエルンストへ、アスピスは苦情を洩らす。

「そうか? 真実しか言ってねぇんだけどな」

 エルンストはそう言いながら、コテージのベランダにあるリクライニング式の木製のロッキングチェアに腰を落とすと、アスピスを膝の上に乗せて、左腕で支えるようにしながら、アスピスの頭を左の肩に押し当てる。

「やっぱ、これが一番安定するな」

 さすがに、コテージのベランダに入って来てまでナンパしようとする女性もいないだろうに、アスピスを女避けのように使うとは、失礼にもほどがあると、アスピスはエルンストの額を手のひらで叩く。

「なんだよ。寝てぇんだけど」

「あたし、女避けじゃないもん」

「あ? 誰がんなこと言ったよ。つーか、お前がいたって声を掛けてくる無神経な奴なんて沢山いるだろ」

「うっ……」

 それはそれで、腹が立つ言い分だと思いながら、アスピスは言葉に詰まる。そんなアスピスの頭にエルンストは手を添えると、小さく吐息した。

「お前、深く考えすぎだぞ。普通に、好きな奴を抱いて寝たいってだけだろ」

「本当に?」

「こんなことで嘘ついてどうするっていうんだよ」

「じゃあ、許す。寝ていいよ、見張っててあげるから」

「そいつは頼もしいな。それじゃあ遠慮なく寝かせてもらうぞ」

 アスピスの許可を得たことで、エルンストは目を瞑ってしまう。そして、しばらくすると、安定した寝息を立て始める。

(うわっ。エルンストの寝息を聞いたのって、初めてかも)

 ちょっとドキドキしながら、ワクワクするようにして、胸に抱いていた恋愛小説本をきつく抱きしめる。

(人の寝息を聞くって、こんな感じなんだ)

 ちょっと落ち着くかも。と、アスピスはエルンストの肩に完全に頭を持たれかけてしまうと、しばらくじっとしている。

 遠目から、あれはなんなのだろう的な、邪魔なアスピスの存在に向けられてくる視線を感じるが、気にしないでおく。

(仕方ないじゃん。これでも、本当なら同い年なんだから……)

 アスピスは心の中で言い訳しながら、エルンストに顔をくっ付ける。

(未だまだ、恋人同士には見てもらえそうにないなぁ。当然なんだろうけど)

 アスピスはなんとなく傷つきながらも、それでも10年の差を埋める方法なんてない上に、アスピスが通常よりも幼く見えてしまうせいで、より正しい関係が相手に伝わらないことに諦めを抱く。

(せめて、エルンストにつり合うくらいには、なりたいなぁ)

 成人したら、とエルンストは言っているが。それまでにも後3年はあるのだ。そして、15歳は成人とはいえ、未だまだ成長期の段階なのである。

 ついでに言えば、アスピスの年齢が上がると同時に、エルンストも年を重ねてしまうので、結局距離は縮まることはないのだ。

「どうかしたのか?」

 不意に、エルンストが目を開き、アスピスに問いかけてくる。

「どうもしないよ? ただ、あたしも眠くなってきたなって」

「じゃあ、寝ろ。かまわねぇから。どうせ、あいつらは夕方までばっちり遊んでくるだろうからよ」

 エルンストはそう告げると、再びうとうとし始める。

 それを見ていて、アスピスもなんだか本当に眠くなってきた気がして、エルンストに寄りかかりながら、目を閉じた。

(そっか、周囲なんて見なければいいんだ)

 アスピスは変に納得するようにして笑みを零すと、意識を少しずつ沈めていった。



 目を覚ますと、陽が暮れ始めていて、そろそろみんなが戻って来る時間になっていた。

 なのだが、ぐっすりと寝入ってしまっているエルンストにがっちりと捕らえられてしまっていて、思うように身動きが取れず、アスピスは困ってしまっていた。

 しかも、こんな風にエルンストが深い眠りについていることなんて珍しく、起こすのが申し訳なく思われてしまい、余計に動きが取れなくなっていた。

 そんなアスピスが困惑しまくっているところへ、みんながぞろぞろと戻って来る。

「あら、アスピス。どうしたの? 困ったような顔して」

「エルンストが寝てて、腕から抜け出せないの」

「起こせばいいんじゃないんですか? 時間も時間ですし」

「でも、本当にぐっすり寝ているの。こんな風に寝ているエルンストって珍しいから、起こすのも気の毒でしょ」

「それもそうね。私たちがいるのに目を覚まさないなんて。よほど安心しているのね」

 フォルトゥーナはくすりと笑って、アスピスの頭を撫でる。

「エルンストにとって、アスピスは気持ちのいい抱き枕みたいなものなのね」

「それはないと思うけどなぁ」

 以前、完全に拒否されたのだ。抱き枕に向いていないと。

 なのだが、その事実を知らないみんなは、微笑ましそうにアスピスのことを見つめてきた。

「夕食まで、寝かせておいてあげるのがいいかもしれませんね。それまで、アスピスが付き合ってあげていてください。アスピスを奪ったら、目を覚ましてしまうでしょうから」

「えー……」

 誰も助けてくれないのかと、アスピスは悲惨な気分に陥っていく。

 だけでなく、置いてけ堀な気分まで味わってしまう。

「さて、アンリール。私たちはお風呂に入ってきましょうか?」

「えぇ。アスピスごめんなさい。でも、エルンストのために、アスピスはそこにいてあげた方がいいと思うの」

「私もそう思うわ。時間は未だまだあるのだから、今日は後でゆっくり入ってちょうだい」

 フォルトゥーナとアンリールはあっさりと告げてくれると、2人で脱衣所へ向かって行ってしまう。

 ひとりで入るのが怖いとかではないが、置き去りにされた気分で、ちょっと悲しくなってしまう。

 けれども、いつもアスピスが寄りかかったりしているときに黙って見守ってくれているエルンストを起こしてまで、お風呂に今入りたいかと訊かれたら、そこまでではないと答えることだろう。そう思ったら、諦めがつき、アスピスは体の力を抜くと、エルンストに寄りかかり、起きるまで耐えることにした。

 ――いつものお礼、だからね。

 べつにエルンストの寝顔が見ていたいとか、寝息を聞いていたいとか、心音を感じていたいとか、そういう理由ではないのだと言い訳しながら、アスピスはエルンストの左腕に抱えられ、右腕に抱きしめられながら、エルンストの胸元に耳を押し当てつつ、寝顔を下から覗き込むようにして、顔を上向けていた。



 泉で遊んでいたグループは、一通りお風呂に入ったようである。露天風呂から響いてくる声が、一定時間ごとに変化していくのを聞いていて、アスピスとエルンスト以外の声を耳にしていたことで、それを理解する。

 そして、その後は夕食の準備が始まったのだろう。いい匂いが流れてきていた。

 ――未だ、起きない気かな。

 珍しい。と、視線を上げると、エルンストと瞳がかち合った。

「あ、やっと起きた」

「あー、悪りぃ。完全に寝てた」

「うん、寝てたね」

 自分でもよく寝たという気がしているのだろう、右手を上に上げて伸びをすると、エルンストが体を完全に預けていたリクライニング式の木製のロッキングチェアから体を起こすと、ようやくアスピスを解放してくれた。

「抱き枕には向いてないって言ってたのに」

「だから、好きな女を抱いて寝てただけだろ」

「どこが違うの? 似たようなもんじゃん」

「全然違うだろ。好きなら、抱き心地が最悪でも抱いていたいもんだろ」

「抱き心地最悪って……」

 さり気に酷いことを言っている自覚が、エルンストにはあるのだろうか。

 アスピスは腹いせにエルンストの足をけってやったが、大した効果はなかったようである。痛がる素振りすらみせなかった。

「とにかく、みんなはどうしてる?」

「みんなお風呂に入り終わっちゃったよ。今、夕飯を作ってくれているところじゃないかな」

「もう、そんなか」

 自分に対して呆れた感じに呟くと、エルンストは室内に入って行く。

「あら、起きちゃったの?」

「起こしてくれれば良かったじゃねぇか」

「エルンストが熟睡なんて珍しいですからね。そっとしておいたんですよ」

 調理をしているフォルトゥーナとレイスが、それぞれエルンストに声を掛ける。

「それより、お風呂に入ってくればどうですか? 内風呂と露天風呂があるんですから」

 脱衣所が一緒なのは、思考の外になっているようだ。それとも、相手がアスピスだと思って構わないと思っているか、である。

 そのため、エルンストに先にお風呂へ入って来るよう勧めようとしたのだが、その前にエルンストがアスピスを抱え上げてしまった。

「そうだな。入ってくることにするか」

「えっ!」

「一緒に入る訳じゃねぇんだから問題ねぇだろ。つーか、アスピスはどっちに入るんだ?」

「露天風呂!」

 自棄になって告げると、分かったと言って、アスピスを抱き上げたまま、エルンストは脱衣所へと入ってしまった。

「俺が、風呂の準備をしている間に、服脱いで、露天風呂の方へ行っていろ。それから、バスタオル何枚か持ってんだろ?」

「そりゃ、泉に遊びに行くって言われてきたんだもん。持ってきてるけど?」

「だったら、それを体に巻いてろ。それと、包帯を水につけるなよ」

「無茶苦茶いうなぁ……」

 エルンストは指示だけすると、アスピスの不平には耳も貸さず、浴槽にお湯を入れに、内風呂の方へ入って行ってしまう。

 この間に、服を脱いで露天風呂へ行けということらしい。

 忙しない! と、アスピスは心の中で主張しつつ、エルンストの指示に逆らうことなく、急いで服を脱ぎ裸になると、バスタオルを巻いて露天風呂へ入って行った。

 その音で、エルンストにも、アスピスが露天風呂へ入ったことが分かったのだろう。露天風呂の方の扉をノックしてきた。

「ちゃんと言われた通りしたんだけど」

「だったら入るぞ」

「えっ」

 有言実行するように、アスピスが驚いているところに、構わず扉を開いて露天風呂の方へ入って来た。

 そして、最初に行ったのは左手の包帯を濡らさないように、左手にビニール袋を掛ける作業であった。手首のところを少しきつめにひもで縛られる。

 ――これって、今、ここでやる必要があること? 女の子が裸になってからやることなの?

 大きな疑問を抱きつつ、エルンストを見ていたら、エルンストがイスを湯で流すと、そこにアスピスを強引に座らせる。

 そして、無言のまま頭にお湯を掛けてきたのであった。

「ちょっ!」

「その手じゃ、頭が洗えねぇだろ」

「なんとかするもん」

「いいから、暴れるな。俺の服がびしょ濡れになるだろ」

 想定外のエルンストの行動に、アスピスが抵抗したら、頭を一発殴られる。軽くではあったが、効果は覿面であった。アスピスは渋々抵抗を諦める。

「頭、下げろ。シャンプーはこれでいいのか?」

「うん」

 髪全体をお湯で濡らすと、エルンストは両手で泡立てたシャンプーをアスピスの頭に塗り込み、後頭部から洗い始めた。慣れてないので当然だが、洗い方はへたくそと言ってやりたい感じであったが、エルンストとしてはかなり丁寧に洗っているつもりなのだろう。時間だけはかけて、頭の隅々から、毛先まで全体的に洗ってくれる。

 そして、それに満足したように、お湯を流していった。

「この、コンディショナーってのはどうすんだ?」

「つけるよ。じゃないと、髪がごわごわになっちゃうもん」

「シャンプーと同じでいいんだな」

「まぁ、だいたい」

「っていうか、面倒だからリンスインシャンプーにしろよ。手間が一度で済むぞ」

 エルンストは、もしかしたら、その手のシャンプーを使っているのかもしれない。可能性として、十分あり得る気がした。

 しかし、髪が長いと、やはり別々でないと効果が薄いのだ。

 フォルトゥーナやアンリールみたいに香油をこまめに髪に塗っているとかいうならともかく。とはいいつつ、2人が使っているのは、アスピスが使っているシャンプーやコンディショナーよりも高価なものだったのは、確認済みである。

 そんなことを考えながら、エルンストにコンディショナーを髪に塗り込んでもらい、しばらく放置してもらうことにする。最低でも流すまでに5分くらいは時間を置きたい。

 そう希望を述べたら、背中を出すように言われてしまった。

「さすがに、片手じゃ背中は洗えないだろ」

「なんとかするから、いいって」

「いいから、背中をだせって。隠しておくほどのもんじゃねぇだろ」

「失礼すぎ! 年頃の女の子に、そういうこと言っちゃダメなの」

「悪かったって。だから、兎に角背中を洗ってやるから」

 謝罪と行動が一致しないのは何故なのだろうか。押し問答の末に、アスピスは負けていた。

「ボディソープとタオルは?」

「タオル? 手で洗うんだよ。肌に傷がついちゃうじゃん」

「は?」

 アスピスの台詞に、エルンストが一瞬固まる。

「だから、べつにいいって言ってるでしょ」

「うるさい。やるって決めたからにはやってやろうじゃねぇか」

 これが22歳の行動だろうか。素直に失言を認めて引き下がればいいのに、むきになってボディソープを手に取ると、アスピスの背を手で洗い出す。しかし、これもやはり慣れていないせいだろう。指先に力が思い切り込められて、ツメが背に引っかかる。

「エルンスト、力入れすぎ! つか、痛いって」

「これぐらい力いれねぇと、汚れが落ちねぇだろ」

「逆に肌が傷つくでしょ!」

 なんのための手洗いだと思っているのか、ちょっと確認してくなる。

 そうこう言い合っていたら、露天風呂の戸が開く音が響いてきた。

「あなたたち、なにやってるのよ」

「フォルトゥーナ、助けて! エルンストが爪を立てて背中を洗うの」

「そうじゃねえだろ、そのくらいしなくちゃ汚れが落ちないから仕方なく力をいれてるんじゃねぇか」

 エルンスト的には、もっと固い布とか使ってゴシゴシと洗いたいらしいのだ。そこを、手で洗うという行為に譲歩したため、少しでも希望に近づけるべく、背中を洗う手に力が籠ってしまうらしいのだが。

 アスピス的には最悪であった。

「エルンストは、もういいから、内風呂の方へ入ってきて。アスピスの手のことを失念していたのは、私の落ち度だわ。続きは私がしておくから」

「でも、もうすぐ終わるんだが」

「エルンスト。アスピスは女の子なの。背中にミミズ腫れなんて何本も残ってみなさいよ、可哀想でしょ」

「や。でも……」

「でも。じゃありません! さっさとお風呂に入ってきて、夕食の準備は順調に進んでるわ。2人が出てくるころに完成するはずだから、こんなことしてないで、急いでお風呂に入ってらっしゃい」

 ぴしりと言い切り、露天風呂の出入り口をピッと指先で指し示すフォルトゥーナの勢いに圧され、エルンストはやり残した気分のまま、仕方なさそうに露天風呂を後にした。

「あれで、アスピスの手のことをとても心配してのことだから、今回は大目に見てあげてね」

「それは分かってるけど……」

「そうよね。その前に、気づいてあげられなくてごめんなさい。一緒に入るべきだったわよね。手が治るまで、これからは、ちゃんと一緒に入りましょう」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、体を洗ってあげるわね。髪は後で香油を塗ってあげるわ。エルンストなりに頑張ったんでしょうけど、ぐちゃぐちゃだもの」

 フォルトゥーナはそう言うと、優しい手つきでアスピスの背を洗い直してくれ、左手では洗えない場所などを丁寧に洗ってくれる。そして、アスピスの体が洗い終わると、頭からシャワーをかけて全身の泡を取り除き、左手を濡らさないように気を付けながら、きれいにしてくれたのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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