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第88話(アーダの泉に行こう3/到着/憩い1)

[八十八]


 昼休憩を入れ、最後の野営を済ませると、翌日は早朝に出発して、昼よりもかなり前に目的地となるアーダの泉に到着する。

 馬車の入れる場所まで進んでいくと、そこで馬車をしまい、アネモスに何時ものサイズに戻ってもらうと、その上にアスピスを乗せて、みんなでコテージへ向かう。

 大き目のコテージを見つけると、部屋番号を確認し、違うと分かると先に進むよう歩いて行くと、湖の側に何件か建っている内のひとつが借りたコテージだと判明した。

 泉にかなり近い位置のコテージを借りられたようである。

 そして、事前にアネモスも入れていいという許可も貰っていたことで、みんなで中へ入ると、リビングの広さと、その前に広がっている泉の景色に、みんなで感動する。

 リビングの窓から出られるベランダ。さらにそこから、泉に直接出られると言われていたが、この近さなら納得である。

 キッチンの造りもそれなりで、法陣カプセルを利用したコンロや流し、物置き場。それに法陣カプセルを利用した冷蔵棚が置かれていて、フォルトゥーナとレイスが何故かとても満足げだった。そして、キッチンのすぐそばに設置されているテーブルも10人が余裕で座れる大きなものだった。

 説明通り、トイレも2つ付いていて、お風呂も脱衣所を介して大き目の内風呂が1つと、3人から、頑張れば5人くらいまで入れそうな露天風呂が1つあった。そして、脱衣所には大きな洗濯ボックスも設置されていた。

 それらに感動しているメンバーを置いて、フォルトゥーナとエルンストが2階に上がる。そして、昇っり切った瞬間、途端にぽっかりとした広々とした空間が広がっているのを、2人は視界に収めていた。

 端の方に布団がたたみ重ね置かれていて、その脇に藤製の衝い立てが申し訳なさそうに置かれているだけである。衝い立ては、一応、男女の仕切りとして使えということらしかったが、冒険で一室に泊ることに慣れていることで、その辺に抵抗は感じなかったようである。衝い立ては、女性の着替え用に使われることにされた。

「まぁ、説明通りだったってことで、いいんじゃないの?」

「あぁ、そうだな」

 フォルトゥーナの台詞に、エルンストが素直に頷く。

 これで、全然形が違っていた方が問題である。

「んで、今日はどうする?」

「とにかく水着に着替えて、遊ぶんじゃないかしら? 私、そのためにビーチマット買っちゃったのよ。レフンテの水着を買いに行ったついでに」

「遊ぶ気満々だな」

「そりゃそうよ。せっかくだもの。そのためにシエンも連れてきたんでしょ、仕事が回されないように手を回す目的で」

「まぁな。アスピスをなるべく長く休ませてぇからな」

「休めるといいけど。遊び疲れそうよ、ここじゃ」

 フォルトゥーナがくすくすと笑うと、エルンストが肩をすくませる。

「とにかく、女は二階で着替えてくれ。男どもは一階で着替えさせるから」

「分かったわ」

 2人はそこで会話を打ち切り、一度一階に戻ると、フォルトゥーナは女性陣を連れて二階へ向かい。一階では、リビングのカーテンを閉めて男性陣の着替えが開始された。

「タオルとかって、ベランダにでもおいておけばいいよな?」

「あぁ、それでかまわないだろ。下手に持ち歩くと無くすだろうしな」

「おーし。今日は泳ぐぞ!」

「って。カロエ、泳げるのか? 初めてだろ、こういうとこくるの」

「そこは、気合いっていうか。浮き輪っていうか……」

 てへ。っと笑って、カロエが浮き輪と空気入れをアイテムボックスから出してきた。

 いつの間にか買っていたらしい。18歳とはいえ、大人の男性である、浮き輪もそれに合わせてかなり大きなものであった。

「俺はフォルトゥーナと色違いのビーチベッドを持ってきた」

 レフンテが自慢げに、ビーチベッドと空気入れを出してみせる。

 すると、カサドールが自慢そうに口を開く。

「俺は、2人分のサマーベッドをテーブルを用意してきたぞ」

「どうせ、アンリールと寝てるんだろ。好きにしてくれ」

 エルンストは段々馬鹿らしくなってきて、みんな勝手にしてくれと思い始めてしまう。

「安心してください、ちゃんとエルンストの分のビーチベッドも買っておきましたから」

 まるで拗ねている子供を相手にするよう、レイスがエルンストにビーチベッドを渡してくる、もちろん、レイスの手にも違うビーチベッドが握られていた。

 そうやら、この手の道具を用意していなかったのは、エルンストだけのようであった。



 フォルトゥーナとアンリールは色も形も違うが、ブラとお尻が分かれているビキニの水着を身につけていた。2人ともスタイルがいいので、それがよく映えている。

 アスピスは、前回同様、腰の辺りがフリルとなっているのだが、お尻の部分の布地が丸見えの水着を着ていた。

 そして複数ある空気入れをみんなで交互に使いながら、それぞれ持ち込んできたビーチマットや浮き輪を手に、ベランダにタオルを置いて、泉に入って行く。

 最初こそ「冷たい」とわいわい騒いでいたが、それにもすぐなれ、エルンストやレイスの足がつく程度の深さまで泉の中へ入って行く。

 その様子を、泉の側にサマーベッドとテーブルを置いたカサドールが、アンリールと共に寝そべり、眺め見ていた。

 美形と美女のカップルに周囲は目を奪われつつ、その中にナンパを試みたがっている人たちの姿も垣間見れた。

「まぁ、カサドールがいるから大丈夫でしょうね」

「問題なのは、フォルトゥーナだな。あんまり遠くへ行くなよ」

「あら、私は平気よ。そんなもの好きなんていないから」

 にっこり微笑み告げてくるフォルトゥーナは、自身の魅力にまったく気づいていないようであった。

 とはいっても、気づいていないのは、男性陣も一緒であるが。

 魔族のエルンストもレフンテも、聖族のカロエもレイスも、超が付くほど美形なのだ。血筋として、もう確定されている美しさを持っているのである。

 アスピスは、そんなみんなとは無縁の関係だと言わんばかりに、ぴちゃぴちゃと足を動かして、遠くへ離れようと試みていた。

 けれども、素早くそれを察知したエルンストに、浮き輪をしっかり押さえられてしまった。

「お前もうろちょろするなよな」

「……」

 こんな注目される集団にいたくない。と思って、無言を貫いていたら、再び同じ言葉が繰り返される。

「いいか、うろちょろするんじゃねぇぞ」

「はい」

 迫力満点のエルンストに言われてしまったのでは、頷くほかなかった。

 しかし、周囲の目線や盛り上がり方から、エルンストやレイスやカロエやレフンテ。それにフォルトゥーナを狙っている女性や男性は多そうであった。それを思うと、前回の温泉のときを思い出し、あまりいい気分がしないのだ。

アスピスにはちょっと大き目な浮き輪にしがみつきつつ、足を動かしぴちゃぴちゃと泉の中を動いて行く

 ちなみに、エルンストとレイスとレフンテとフォルトゥーナはビーチベッドに乗り、水面の上で寝転んでいた。泳いでいるのは、浮き輪のアスピスとカロエだけである。

 しかもカロエは自由奔放にあちこちを泳ぎまくっていた。

 奥の方は、釣り専用区域なようで、網で区切られて、侵入できないようにされていたので、カロエもそこへは近づくことをしなかったようだが、それ以外は、関係なく泳いでいるという感じである。とはいえ、泉はとても広くて、遊泳可能区域内だけでもかなりひろく、それを制覇するのは容易なことではなかった。

 それを見つつ、アスピスは足のこともあり、ぴちゃぴちゃとエルンストたちの周りを泳いでいた。

(お。勇者)

 カロエに声を掛けている女性を発見し、アスピスはちょっとワクワクする。

 容姿はすごくいいのだが、何故か、アスピスの中でカロエと女性が結びつかいないでいたのだ。しかも、騎士学校のときはそれなりに交際してたとはいっていたが、どうもピンとこなかったのだ。

 望遠鏡でも買っておくべきだったと、本来なら冒険時のお役立ち品を、目的を違えて使用したいと思ってしまうアスピスは、ニコニコと女性に応対しているカロエを見つめつつ、ドキドキしながら、結果を待っていた。

(あ。なんか残念そうに離れていく女の人に対して、カロエはすごくいい笑顔している)

 なにがあったのだろう。と、思いつつ、それを機に、カロエに声を掛ける女性が増えたのだが、しばらく雑談した後、常に女性たちは残念そうに離れていき、カロエだけがニコニコしているのだ。

 いったいあの中になにが隠れているのだろう。そう思い、身を乗り出して見つめていたら、エルンストがいつの間にかすぐ脇に来ていた。

「あいつは、相手に期待させるのが得意なんだよ。そんで、最後にぶち壊すんだ」

「え?」

「すげー迷惑野郎って話だ。本人が口で言うほど、未だ女性に興味がないんだろうな。っていうか、あいつの中にお前っていう存在がいるから、他に気が向かないってだけかもしれねぇが、交際を申し込まれたりしたときなんか、途中まで何気ない会話で相手に気があるように匂わせておきながら、最後にまったくその気がないって断っちまうんだよ。それで何人の女が泣いてたか……」

「そうなんですよねぇ。自分がモテているって自覚が微塵もないんですよねぇ。騎士学校に通っているとモテるってカロエが言っていたじゃありませんか。それは、本当なんですけど。本人は、俺やエルンストの方がモテていたと思っているんですが、カロエはあの性格ですから。実は一番モテてはいたんですよ。でも、最終的に自らでその気がないって断っちゃうんですよね。そして、そういうのを数に入れていないんです。それに運よく交際することができた人も、泣いたり、団体で追い詰めたり、理詰めで追い込んだりと、カロエが了承せざるを得ない状況を作り出して、交際にいたったんですよね」

 いつの間にか、エルンストとは反対側に浮いていたレイスが、しみじみと自分の弟に関して語ってかせてくる。

 しかも、いつのまにかフォルトゥーナまで寄ってきていた。

「そうなのよねぇ。泣かせた女性の数からいうと、カロエが一番多いのよねぇ。本人はまったく自覚がないんだけど」

 フォルトゥーナも、カロエの情報を知っているらしい。

 騎士学校内のみでなく、騎士学校の外までカロエの噂が広がっていたということなのだろうか。

 そんなカロエは、次々と、声を掛けられてはいい顔をして受け入れるのだが、最後にはしっかり断りまくっているようであった。

(知らなかった。カロエにこんな一面があったなんて。でも、カロエらしすぎるというか)

 勿体ない。と、言ってやりたいが、ここで彼女を作っても遠い場所に住んでいたら、そこで終わりである。

「噂では、冒険者ギルドの訓練場で3人くらいの女性からモーションを掛けられているらしいんだけど、誰にも均等に接して、なびくことがないから、なんか3人の女性の内の誰がカロエを落とすかって、周囲で賭け事まがいのことをしているって話よね」

「そんな話があったんですか? 毎日普通に通っているから、気づきませんでした」

「そりゃ、あいつ自身は気づいてないんだろうから、普通に通うだろ」

 なんかぼろくそに言われているカロエである。

 でも、もしかしたら、三人の女性の内誰かを選んで、恋人として家に連れて来ることがあるのだろうか。そうなったとしたら、それは、素敵なことかもしれない。

 ルーキスに続き、アスピスの使い魔が、アスピスに捕らわれることなく、自分の幸せを見つけてくれることに繋がるのだ。

 そう思い、この場は遊びに夢中になっていてくれればいいや。と、思い、鑑賞を止めようとしたら、レイスがひとこと呟いた。

「まぁ、カロエもアスピスを待ち望んでいた一人ですからね。そう簡単に気持ちは切り替えられないでしょうね」

「エルンストとレイスに引っ張られてってところがあったみたいだけど。その気持ちは本物だったものね。他の女性に目を向ける気にならないわよね。レイスやエルンストと違って、本当に一途だから」

「ぶっ!」

「げほっ!」

 にっこりとフォルトゥーナが放った爆弾が、見事エルンストとレイスの頭上に落ちたようである。

 どうやら、この2人は本当に、騎士学校にいたころそれなりに遊んでいたようだ。

(フォルトゥーナがいたっていうのに、なにしてんのよ。ふたりとも!)

 アスピスは、冷めた視線を2人に向けると、2人が慌てて「騎士学校の頃の話で、何年も前のことだから!」とアスピスを説得し始める。それを笑って鑑賞していたフォルトゥーナは、満足してようにレフンテの方へと戻って行った。

「アスピス。本当に、若気の至りっていうか。騎士学校の頃の話で。それ以降は、本当に遊んでねぇからな」

 エルンストが、アスピスの浮き輪を捕らえながら、真面目に訴えてくるのを聞きながら、アスピスは言い訳なんていらないのにと思ってしまう。

(たださぁ、フォルトゥーナの傍にいてあげるのに必死で、他の女性に目を向けている余裕なんてないだろうと思っていたんだけど。現実はそうじゃなかったってことに、ちょっと驚いているだけなんだけどねぇ。でも、盗賊団にいたころのことを考えると、男の人って女の人を襲いたい願望があるみたいだし。エルンストもレイスも、そういうのを抑えられなかったってことなんだよね、きっと……)

 アスピスは自分なりの解釈をすると、仕方ないなぁと思ってしまう。

 それに比べて、やはりカロエは子供ということなのかもしれない。そういう欲求がまだ芽生えていないということなのだろう。

 そんなことを考えながら、ぴちゃぴちゃ遊んでいると、エルンストが背後から抱き着いてきた。

「お前、信じてないだろ」

「なにが?」

「確かに、ちょっと脇道にそれたことは認めるが、俺がずっと思っていたのお前――」

 だけなのだと、言葉は続こうとしたのだろう。けれども、見知らぬ女性の声でそれは遮られた。

「妹、さん? と遊んでいるところ悪いんだけど、私たちと遊んでくれないかしら」

 エルンストと同じようにビーチベッドを用い、その中央に足を崩して座るビキニ姿の女性は、自分のスタイルに自信があるのだろう、前かがみになって声を掛けてきた。

(顔もスタイルも、フォルトゥーナやアンリールの方が上だな)

 シェリスだってこの場に居たら、さぞかし美しいスタイルを披露してくれたことだろう。

(まぁ、ご自由に……)

 そう思いながらぴちゃぴちゃとこの場をゆっくり去ろうとしたのだが、エルンストが許してくれなかった。

(修羅場に混じれと?)

 ちょっとそれは控えたいと思ったアスピスであったが、状況は希望とは異なる方向に進んでくれていた。

「人が他の奴と遊んでいるときに、声を掛けてくるなんて非常識なんじゃねぇのか? それに、こいつは妹なんかじゃねぇし」

「だったら、余計都合がいいじゃない。他人の子の相手をしているくらいなら、私たちの相手をしなさい。私、見てわかると思うけど貴族なの。あなたたち、平民よね? だったら、貴族のいうことを聞くのは常識よね?」

「いつ、そんな常識ができたんだ? なぁ、カサドール」

 大きな声を出し、カサドールを呼ぶと、何事かと思ったらしいカサドールがこちらを見つめてきた。

「どうかしたのか?」

「こちらの貴族のお嬢さんが、平民なら貴族のいうことを聞くのが常識だっていうからよ。お前ら貴族の間に、いつそんな常識ができたのかと思ってさ」

「俺は、そんな常識なんて聞いたことはないがな。エルンストが気になるなら、どこの家の令嬢か聞いておけ。後日確認してやる」

 カサドールはそう告げると、興味を失ったように、再び横になってしまう。

 ちなみに、手はしっかりとアンリールと繋がっていた。完全に2人の世界である。

 そんな2人から視線を外したエルンストが、女性に向かって口を開く。

「あいつは、エフィリス公爵家の本家筋の男だ。あんたの家名と名前と爵位を教えてくれるか?ブラックリストに載せてもらうからよ」

 エルンストが楽し気に告げると、女性は真っ青になって、「今のは冗談よ」と叫んでその場を去って行った。

 ちなみに、エルンストがカサドールの正体を明かしたことで、周囲にいた人物たちはいっせいにカサドールに視線を向けていく。

 気持ちとしては、あれが六大貴族のエフィリス家の人間なのか。という感じなのだろう。

ついでに、そんな貴族と一緒にいるエルンストたちにちょっかいを出すのはやめておこうと、心に決めた人たちが多数いるみたいであった。

 エルンスト的に、カサドールを利用して、鬱陶しい女性たちを排除したという感じなのかもしれない。少なくとも、これで貴族だからとふんぞり返って声を掛けてくる人はいなくなっただろう。

「さてと、邪魔もいなくなったことだし。お前もこっちに乗ってこねぇか?」

 エルンストが乗っているビーチベッドは大判で、アスピスくらいなら一緒に乗れそうなサイズであった。そのための誘いなのだろうが。

「浮き輪で間に合ってます」

「って、お前拗ねてんのか? さっきの話で」

「そんなことないもん」

「ったく。そういうところだけ、一人前って……」

 仕方ねぇなぁ。と言いたげに、エルンストは強制的にアスピスを抱え上げると、ビーチベッドに乗せてしまう。

 浮き輪は、ビーチベッドについている紐で括りつけていた。

「あたし、間に合ってますっていったよね」

「拗ねてな」

「――ッ」

「ったく。過去の話しなんてほじくり返すんじゃなかったな」

 エルンストは後悔したように呟くと、ビーチベッドに横たわり、アスピスをその傍らに無理矢理寝かせると、抱え込んでしまった。

「まぁ、のんびりしようぜ」

「拗ねてないもん」

「分かったから、その話は終わりにしろ」

 エルンストはそう告げると、アスピスを抱き込んで、泉が風で小さく波立つ中、泉で遊んでいる内の半数くらいがしているように、ビーチベッドに横になり。時間を優雅に使うようにしてただただ水の上を揺蕩っていた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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