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第87話(アーダの泉に行こう2/往路)

[八十七]


 一回目の野営は無事終わり、野営後の後始末を終えると、翌日はレイスとイヴァールが御者席へ着くことになった。

 武力大国のキセオーツ王国にて、イヴァールはしっかり御者の方法を学んできたということであった。戦闘力も六剣士に劣らぬほど強く、王女の婚約者でありキセオーツ王国からの賓客である恩恵もあってのことだが、冒険者クラスもSだというイヴァールに、さすがは武力大国の王子だとみんな感心させられる。

 正直、あの忙しいシェーンと共にいつ冒険しているのか聞いてみたいのだが。

 そんなシエンも、恩恵なしでちゃっかりと冒険者クラスがAだというのだから、本当にいつ冒険しているのか知りたくなるというものだ。

 そしてみんなが馬車に乗り込むと、アネモスに頼んで走り始めてもらう。

 今日も、昨日同様に、アンリールとカサドールは肩を並べて手を握り合い、しっとりとした雰囲気で2人並んで座っていた。

 たまに小さな声で話している様子はあるが、基本は無言である。

(それにしても、誰がどんな手を使って、この2人を誘ったんだろう)

 こういう娯楽に同意する2人とは思えないのだが。

 アスピスはそう思いながら、前かがみになり膝の上に肘をつき、手のひらの上に顎を乗せるようにして、2人を見つめていたら、目の前を覆われるようにして、後ろへ引かれてしまった。

「お前、見すぎだぞ」

 失礼になるからやめろ。と、エルンストに言われて、アスピスは慌てて反省をする。

 悪気があってのことではないのだが、確かに凝視しし過ぎていた気はするのだ。

 ただ、大人の恋人同士ってこういうものなんだなぁ。と、思って見ていただけなのだ。

 でも確かに失礼な行為だったと、視線をずらすと、フォルトゥーナとレフンテが視界に飛び込んできた。本日のレフンテは、本を読んでいた。

(そういえば、昨夜からなんか一生懸命本を読み始めてたっけ)

 寝る場所が近かったので、たまたま視界に入って来たのだが、そのことを思い出すようにして、レフンテを見つめてしまう。

 前回は、初めての冒険に向け、初心者の冒険者のための本を必死に読んでいた。それを思うと、意外と真面目な魔族だと思えた。フォルトゥーナのことも、レフンテなりの方法で、マスターとして大事にしているようである。

 それに、直接的な戦力はないかもしれないが、知識という点では、かなり有力な存在だと思うのだ。

(それにしても、今度はなにを読んでいるんだろう。泳ぎ方とか、かな)

 アスピスも泳ぐのは初めてである。浮き輪というものを以前もらっていたので、それを活用させてもらう気でいた。

 すると再び、エルンストが視界を邪魔してきた。

 もしかして、他人ばかり見ているのが気に入らないのかもしれない。と、アスピスはふと思う。

(仕方ないなぁ)

 アスピスはそう思うと、背中を壁に押し当てるよう座ると、エルンストの肩に額を押し当てた。

(これで、満足だろう!)

 と内心でふんぞり返っていたら、手を握られてしまう。

(うおっ……)

 これってもしかして、アンリールとカサドールが羨ましかったとかいう気なのだろうか?

(大人って、分からない……)

 アスピスのまだ小さな手を、エルンストは弄ぶようにして指を絡んだり外したりして遊び始めてしまった。

(まぁ、これで満足してるなら、それでいいか……)

 アスピス的には、いまいちエルンストの求める恋人像というものを理解できないが、エルンストが現状に不満を抱いていないなら、それが一番だと思うことにした。



 寄りかかっていたせいもあり、いつの間にかうつらうつらとしてしまい、気づいたら眠っていたようだ。エルンストに抱かれて、馬車を下ろされると、声を掛けられ起こされる。そして、地面に立たされた。

 昼の休憩時間らしい。

 フォルトゥーナが王都の屋台で購入しておいた食べ物を、精霊術で温め直すと、シートを敷いた上に適当にみんなの前に並べ始める。お湯は馬車についている台所で沸かし、レイスがみんなにコーヒーを配っていく。

 そして、みんな草の上に直に座ると、それそれ飲み食いを始めた。

 けれどもアスピスは睡魔の方が強くて、エルンストに寄りかかり、再び眠り始めてしまう。

「仕方ねぇなぁ……」

「まぁ、移動は退屈ですものね。レフンテみたいに本が読めたら話は変わるんでしょうけど」

 午前中、ずっと本を読んでいたレフンテの方を見つつ、嘆息してみせるフォルトゥーナを無視して、レフンテはお茶を飲みつつ適当に食べ物を摘まんでいく。

 体は細いし、いざとなれば保存食で何日間も過ごしていられるそうだが、食が細い訳ではないらしい。普段は年相応に食べることができるようだ。

 そんな様子を見ながら、アンリールが自分たちの冒険と大夫雰囲気が違うことに驚きながら、そんなところも楽しんでいるようだった。

「次に機会があれば、私も食べ物を用意してこなくちゃ」

「えぇ、ぜひまた一緒に。今度はちょっとした冒険とかしましょ。薬草採りとかならアンリールもできるでしょ」

「えぇ、そうね。薬草採りくらいなら、大丈夫だと思うわ」

 フォルトゥーナの誘いに嬉しそうに応じるアンリールは、これまでウロークという後ろ楯という名のしがらみに雁字搦めにされてきていて自由がなかった分、カサドールという後ろ楯という名の恋人に守られている現在、とても楽しんでいるようであった。

「ところで、アンリールも馬車を持っているのよね? 私、それでみんなに馬車を買うように勧めたんだけど」

「えぇ。私もアスピスと同じで、こんな足だから。私の方がアスピスより腱の切られ方はきれいだったし、その後の処置も早くてきちんとしてもらえたから、普通の速度だったら王都の中を歩き回るくらいのことはできるけど、足を捻らせたりすることや、早足以上の速度は出せないし、冒険のような長距離の徒歩移動は無理ですもの。それでカサドールが買ってくれたの。私たちのパーティは少人数だから、もっと小さな箱型だけど」

「馬はどうしているの?」

「カサドールが、馬用に、生き物が入れるアイテムボックスを買ってくれて……」

「え? それってものすごく数が少ないから高いのよね」

「え。えぇ。とても高いし、貴重品で滅多に出回らないしならしいのだけど。手に入れてくれて」

「それって、餌とか世話とかどうするの?」

 好奇心に駆られたフォルトゥーナが、身を乗り出してアンリールに訊くと、カサドールが笑みをこらえて答えてくれる。

「生き物だから、他の馬たちと同じさ。どういう風な条件で築かれているのかはしらないが、特殊な空間にちょっとした草原付きの馬小屋ができたって感じだな、おかげで馬にストレスがかかることはないようだ。ただ、ボックス内でも時間が経過するらしく、毎日の世話や食事や水は欠かさず上げなければならないようになっている。それに、生命に異常はないと言われているが、王都にいるときは普通の馬小屋に移して、馬場で普通に散歩させたりして過ごさせるようにしている。それに馬小屋に敷く枯草や食事や水を入れておく専用のボックスと、汚れた敷き藁や糞などを一時的に入れておくための専用のボックスが必要だな」

「やっぱり、生き物用というだけあって、作りが違うのね」

「あぁ、俺も買ってみて数日ほどボックスの中で暮らしてみたんだが、時間が経過することには驚いた」

 さらりと、とんでもないことを告げたカサドールに、みんなの視線が向けられていく。

「なに? カサドールってば生き物用とはいっても、アイテムボックスの中で生活した訳?」

「当然だろ。大事な馬を入れておくんだ。確認は必要だろ」

「や。そうかもしれませんけど……」

 勇気があるというか、無茶苦茶だというか。さすがはカサドールといったところである。

「今度、時間があるときに見せてもらえるか?」

「あ。俺も見たいです。是非、よろしくお願いします」

「それはかまわないが。たいしたことないぞ?」

 カサドールはあっさり言うが、十分大したことある品である。みんな興味津々である。

 そのため昼休憩が、想定外に長くなってしまったが、その間アスピスはゆっくり眠り続けていて、後でその話を聞き、初めて聞く種類のアイテムボックスの存在に興味を持ってしまったアスピスは、とても悔しがったのであった。



 心地よい日差しと適度に吹く風の中を通り抜け、その日の午後も草原を順調に走り進んで、この旅での2回目の野営の時間が訪れる。

 適当な木を探し、その下の側に馬車を止めて、本日の野営の場所が決まった。

 エルンストは早速薪を取り出し、小さな斧で適当な太さに薪を裂くと、野営の中心となる焚火を起こす。そして、その周辺にエルンストたちが冒険をする度に考案して作り出していった、鍋を掛ける場所や焼き物をする場所ややかんを置く場所を設置して、夕食を作るための場所を作り出す。

 その間に、レイスは水と洗面器を焚火から少し離れた場所に設置して、足元に大き目のバケツを置く。

 アスピスにとっては、最初からこの状況だったので、これが冒険の際の野営の仕方だと思っていたのだが、以前にレイス抜きで王国からの仕事で移動したときの保存食での食事や、今回同行しているアンリールやカサドールらの反応から、やはりこれは異例の野営となるらしいことを実感する。

 ちなみに、シエンやイヴァールは2度目の同行であったし、シエンやイヴァールは特殊な地位にいる上に、冒険する際の同行者がシェーンの専属騎士団員だったりすることから、やっぱり野営時の食事が豪勢だったりするようで、アスピスたちの野営に関して別段驚くことはないようであった。

 ただ、前回の経験があるのでかなり慣れていたのだが、大人数に対応すべくなにをするにも量が必要であるため、常の気分でいるとお茶用のお湯などが足りなくなってしまうので、その辺に注意が必要であった。そのため、料理の手伝いのひとつである、お茶係を買って出ているアスピスは、お茶用のお湯も、茶葉も、通常の倍近く必要なのだと頭に入れておく。そのためラインティバックを2つ用意して、やかんに水をたっぷり入れてお湯を沸かす。

 そして、スープの入っている鍋をオタマでかき回しながら、本日のメインを作り始めたレイスの手の動きをじっと眺めていた。

 なのだが、やっぱり早すぎて、よくわからないというのがアスピスの感想である。

(このままじゃ、料理がまったく上達しないじゃん)

 正直、目標の達成がどんどん遠のいているような気がしてしまうアスピスの心境をよそに、レイスはフライパンで肉を焼き出した。今日は間にチーズとなにかの葉っぱをはさんでいるようだった。しかも、一度では人数分焼けないので、二度に分けて焼いていた。

 そして、ランチプレートに肉と、丸い大きなやわらかいミルクのパンと、刻み野菜の簡単なサラダを乗せ分けると、トレイに乗せて、その上にスプーンとフォークとナイフとお茶とスープの入ったスープ皿を乗せて、みんなに回していく。

 それが全員に行きわたったことを確認すると、「いただきます」の言葉と共に食事が始まった。

 そして、食べるのが早い人から次々と食事を済ませると、ピッチャーの置かれている下にセッティングしておいたバケツに次々と汚れた皿を入れていき、みんなが食べ終わるのをしばし待つ。

 毎度のことだが、アスピスは残った分をエルンストに押し付けると、暫し食べてもらうのを待っていた。

「お前、これくらいちゃんと食べろよ」

「パンは食べたじゃん」

「四分の一をな」

 エルンストは文句を言いつつ、それでもアスピスの残した分を食べてくれる。

 アンリールにも多かったようで、アスピスを真似て、カサドールに食べてもらうことにしたらしい。カサドールがアンリールの残した分を食べていた。

 そして、半数以上の人が食べ終わると、徐々に片付けが始まり、それが済むとコーヒーを作っていたエルンストが、みんなにコーヒーを渡していく。

 その後は焚火の前に集まってしゃべっているか、寝るところへ向かって行くかである。

 アスピスは、迷わず、アネモスが横になっている、すでに防水シートが引いてある場所に向かって行った。そのすぐ側にはレフンテの寝場所があるらしく、先に到着していたレフンテが本を読んでいた。

「今回は、泳ぎ方の本でも読んでるの?」

「まさかだろ。アーダの泉についての本を読んでるんだ」

「なんか楽しいことでも書いてあるの?」

「そこでしか取れない薬草のこととか、貴重な石とかあるみたいだな。もちろん勝手に取るのは禁止されているらしいけどな」

 知識について語ることは好きなようである。自慢げにアスピスに語って聞かせてくるレフンテの本を覗き込むようにして、アスピスも文字を追っていた。

「へー。結界で、水をなくして。空気に触れさせると、葉や茎が伸びて花を咲かせる薬草か。この間と似ているね」

「あぁ。っていうか、この間は悪かったな。俺がお前に頼まなければ、倒れたりせずに済んだかもしれないのに」

「早いか、遅いかだよ。気にしなくて平気だよ」

 どうやらずっと気にしていたらしく、謝罪してきたレフンテに、アスピスは簡単に応じると笑みを零す。

「それより、次のページ」

「あ、あぁ」

 アスピスに催促されるまま、レフンテはページをめくると、2人は新たな文章を読み始めた。そして、この日は寝る時間になるまで、それが続いたのであった。



 朝食を済ませると、みんなで食器などを片付け、その後寝床を片付けたり、野営の始末をしたりして、三日目の出発の時間を迎えた。

 シエンが御者席に座って、御者を習いたいと言い出したので、正直みんな困ったのだが。基本はシェーンで王族である。ある意味我が儘にできていたことで、譲歩してくれる様子がないことから、本日担当のカサドールの許可の元、シエンを御者席に同席することになった。

 もう少し走らせると、ファナーリの町が見え、町に添って馬車を走らせていくと、アーダの泉に続く補整された道が現れるらしい。

 それもあっての、許可であったようだ。

 そして、みんなが後ろへ乗り込むと、御者席に座ったカサドールとシエンが、アネモスにお願いして、馬車を動かし始めた。

 予定通り、ほどなくするとファナーリの町が見えてきて、その壁に沿って通っていくと、アーダの泉に続いていると思われる、補整された道が現れる。

 馬車が十分すれ違えることができる幅が取られていて、その道を馬車で通っても大丈夫そうであることから、その補整された道へ馬車を移動させる。

 同時に、振動がほとんどなくなった。

「乗合馬車も走っているそうだし、人が多そうね」

 アスピスたち以外にも、馬車を走らせている者もいるし、のんびりと歩いてアーダの泉へ向かう集団も複数存在していた。

「楽しみだね」

「今回は、事前にちゃんとコテージも抑えておいたし。送金も済ませておいたから、部屋番号と鍵も今朝贈られてきたからな、問題ないぞ」

 エルンストがそう言うと、周りが一気に楽しみにしている表情を浮かべてみせる。

 アスピスもすごくワクワクしていた。

 昨日、レフンテと読んだアーダの泉についての本に、色々と書かれていた事柄が頭に浮かぶ。載せられていた情報は、ほとんど全部、禁止されている行為ばかりであったが。

 夢だけは広がっていた。

 底に生えている海藻のようなものは、実は薬草だったり。割ると七色に光る石があるとか。水中で泡を発生させ、それを一気に解放させると、踊るようにあちこちへ広がり、回りながら水辺に上がっていくとか。

(実際に見れたらなぁ)

 禁止されていると書いてあったが、興味は尽きない。

「今日は元気だな。昨日、遅くまであいつと本を読んでたのに」

「え? うん。そう言えば、眠くないかも」

 最大の理由は好奇心である。

 でも、下手なことを言ったら、アスピスのことだからなにをやらかすか分からないとばかりに、そんなことに興味を持つなと言われそうで、そのことは黙っておき、アスピスは夢をどんどん広げていた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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