第83話(万障の森3/薬草探し1)
[八十三]
翌朝、アネモスに朝食を与えると、汚れた口元をタオルで拭ってやり、その後みんなと朝食を摂りに行く。そして、手近な食堂で簡単に済ませると、レイスとフォルトゥーナが朝市で食料を主に色々と買い揃え、その後アネモス用の肉をアスピスとレイスがそれぞれ購入し。アスピスの方は店に頼んで適当な大きさに切ってもらってから、それをアイテムボックスの冷蔵庫に補充する。
そして、必要と思われるものを一通り買い揃えたことで、宿屋へ戻ると、それぞれ冒険装備に着替えて、宿を後にした。
向かうは、これまでの冒険とは違い強い魔物が住んでいるという、万障の森である。そのため、森がある側の丈夫に作られた門へ向かい、そこから外へ出ると馬車を出す。
これまで、馬車をアイテムボックスにしまっている冒険者と遭遇したことがなかったのだが、さすがにここは上位冒険者の集まりというだけあって、ところどころで同じ行為がなされていた。しかも、馬車を引くのはどこも精霊使いの使い魔となる魔物の役目らしく、馬を使っているパーティはどこにもいなかった。
生き物をしまっておける特殊なアイテムボックスがあるらしいのだが、それはとても貴重で、滅多に出回ることをしないらしい。もちろん値段の方も、他のアイテムボックスに比べて、かなり高額で取引されるそうだ。
そのため、生き物用のアイテムボックスを持っている者は上位冒険者の中でも数が少ないため、冒険中に馬の扱いに困るということなのだろう。
そして、それぞれのパーティが使い魔に馬車を引かせて走らせ始める中、アスピスたちのパーティも馬車を動かし始めた。
それから半日もしたころになると、森の入り口が見えてくる。
それで、少し手前で馬車を下りて、アイテムボックスに馬車をしまうと、そこで昼の休憩を取り、休憩の終了と共にアスピスはアネモスにまたがると、みんなで万障の森へと向かって行き、入り口と思われる、濃緑に覆われた森の一部に大きな口が冒険者を誘い込むように広がっている空間から、他の冒険者たち同様に、アスピスたち一行もゆっくりと入って行った。
先頭はルーキスとレフンテの役目であった。
本来なら、レフンテは中央部分に並べておきたかったのだろうが、薬草の生える条件や薬草の形を知っているのがレフンテだけだったので、前に出てもらうしかなかったのである。
しかも、初めての冒険ということで、危険に対して身構えるという発想が足りないのか、ルーキスが周囲に注意を払っている間に、スタスタと前へ進んで行ったりするため、その後ろに控えているエルンストが何度もレフンテの襟首を捕らえて、動きを止めていた。
「だから、何度も言わせんな。魔物の気配を読んでいるルーキスより、先に進んで行くなって教えてるだろ。魔物がいたらどうする気だ? 確認しないで進む場合、一歩先は闇なんだぞ。特にここは万障の森なんだ。冒険が初めてのレフンテには分からないだろうが、危険度が本当に他と違うんだからな」
「すみません。つい……」
薬草を探すことに夢中になってしまうのだと、レフンテはエルンストに謝罪する。
冒険者の初心者用の本を読み、多少覚えたことがあったのだろう。謝るという態度は、出会ったころのレフンテからは思いつかないものであった。
(それにしても、万障っていうだけあって、空気がすごく淀んでいるな……)
長時間いたい場所ではないと感じてしまう。そうはいっても、目的とするドゥーフ草が見つかるまで万障の森から出ることはできないのだが。
「アスピス、結界オーラで空気を浄化しなさい」
「え? でも他のみんなが……」
「あなたはまだ子供なの。それに体が小さいし、とても細いの。他のみんなよりも瘴気に侵されやすいのよ。みんなのことを気にするより、自分が倒れないことを優先してちょうだい」
「うん、わかった」
みんなに申し訳ないと思いつつ、一番先に倒れるとしたらアスピスだと言われてしまっては言うことを聞かない訳にもいかず、アスピスは結界オーラで身を包み、条件に空気の浄化と記入する。
途端に、息が楽になった。
それからさらに歩き続けること2時間。途中3度も魔物に遭遇したが、Sクラス総出で合計13体の魔物を倒し、それをルーキスの魔物用ボックスに収納しておく。
Sクラスにもなるとクリティカルヒット率が上昇するのか、他のクラスに比べて、みんなの剣の切れ味が他のクラスと違って見える。腕そのものが、他のクラスとは違うからと言われてしまったら、それまでの話しなのだが。
もちろん、シェリスも剣で戦っていた。
(精霊術の特訓をしているとか言っていたけど)
戦闘方法はやはり前戦なのだなと、アスピスは思ってしまう。しかも強いのだから、すごいと思う。
(まぁ、本人はあまり語りたがらないけど、暗殺集団の中でもトップクラスの腕前だったらしいもんね)
それでも捨て駒として簡単に扱われ、王城にいるシェーンの暗殺を命じられたのだから、暗殺集団の中でのシェリスの扱われ方はろくなものではなかったのだろうと、容易に想像ついてしまう。
「ルーキスさん、できればあちらの方へ向かってください」
「ん? そりゃいいけど。『さん』はいらねぇぞ。一緒に冒険しているパーティの仲間なんだ。対等にいこうぜ」
「わかりました。これからはそう呼ばせてもらいます」
レフンテは素直に応じると、改めて理由を口にする。
「実は、ここに来ることが分かってからなのですが、俺の頭の中に万障の森の地図を叩き込んでおいたんです。それで、薬草が生えていそうな場所が向こうの方にあるはずなんです」
レフンテは奥の方を指さしながら、キッパリ告げる。
「なるほどね。そういうことなら、後ろからを指示出してくれ。エルンスト、入れ替われ、奥へ行く」
「わかった」
エルンストは即座に、レフンテを後ろへ下げると、自身が前へ出る。そして、レフンテの横にはシェリスが控えていた。
しんがりはレイスとノトスが請け負っている。
本当なら、アネモスに乗っているアスピスでもいいのだが、念には念を入れての並びであった。
奥に行くにつれ、瘴気も濃くなっていく。視界も、深く生い茂った濃緑の木々の葉や草木に飲み込まれてしまい、決して良くはない感じであった。だからこそ余計に、ルーキスは周囲への注意を細心の者にしていた。
魔物もランクが上がると知恵がついてくるそうで、意図して見えにくい場所の中に紛れ込んで獲物が近づいて来るのを待ち、油断すると一撃でなぎ倒されてしまうという。
そんな状況を、ルーキスのおかげで何度か回避し、魔物たちを一掃しながら、前へと進んでいく。
「ここの辺から、右の方へ向かってもらいたいんですが」
「すげーな。本当に頭に地図が入ってんだな」
ルーキスは感心するように告げると、レフンテの頭を思い切り掻い操る。
「っていっても、そろそろ陽が傾きかけてきている時間だ」
木々が生い茂り、葉が暑い屋根を作っていて、空を覗くことができないが、ルーキスは体感的に感じているようだ。
「野営を張れる場所を探そうぜ」
「分かった」
「あの辺りなんか、よさそうですが」
ちょうど平らになっている場所を指し示し、レイスが告げると、ルーキスが即座に頷く。
「お、よさそうだな。じゃあ、今日はあそこで野営しようぜ。アスピス結界を張ってくれるか。丈夫なヤツを頼むぜ。ついでに瘴気も追い払ってくれると助かるんだが」
「わかった」
レイスが指定した場所へ行くと、素地陣を使って、「結界」と唱えると平らな場所を中心に少し大きめに結界を作り出す。そして、二重の円を作り出すと精霊語でパーティメンバーの名前を記入してそれ以外の出入りを禁じた。そして空気の清浄化を加え、結界を透明化して、他の条件をいくつか書き加えると、結界を完成させる。その後、マナで結界を丈夫に編み込む。
今回はこれまで出て来た魔物から、クラスの高い者たちの戦いの場であることを実感したことで、結界の強化は念入りに行っておいた。
「ついでにさ、ちょっと魔物を引き寄せるから。アスピスいつものを頼んでいいか?」
「いつものって?」
「この周辺に寄ってきた魔物を一掃して欲しいんだ。そうでもしなきゃ、夜中に何度も起こされちまうからさ」
「要するに、結界を張って倒せばいいんだね」
「あぁ、アスピス任せで悪いが。頼む」
「いいよ。気にしないで」
ルーキスの頼みに素直に応じると、ルーキスは藁のようなものに薬を掛けて火をつける。やたらと煙が出るのは、意図してのものなのだろう。煙が排出されるよう設定してあったので、その煙がどんどんと外へ出て行き広がっていく。それから30分もすると、魔物がどんどん結界の周りに集まってきた。
「そろそろ頼む」
結界にガリガリと爪を立てたり、牙で齧ったり、脚で蹴ったりする魔物たちを含め、素地陣で「結界」と呟き大きめに結界を作り出すと、条件に、結界内の結界の除外。結界内の人間や魔族、聖族、使い魔の除外。魔法の全体化。魔法の強化、死体の形状保持等々と思いつくものを条件に掲げると、アスピスは精霊術を唱え始めた。
「ベタベタ、防御力低下、魔法抵抗低下、知力の低下、アイスカッター、トルネード、裁きの雨、ブリザード、アースクエイク、スターダスト、灼熱の雨、光の槍、アイススピア、津波、熱の光線、ウィンドカッター、魔力弾、風刃」
思いつくまま術を唱え、周囲の魔物が倒れているのを確認する。
「アネモス、残りを頼める?」
「マナを食わせてくれるのだろうな?」
「うん、いいよ」
「ならば交渉は成立じゃ。ちょっと魔物を集めてこよう」
アネモスはそう告げると、巨大化して、結界内を何往復もして魔物を集めて来た。あれだけの精霊術を放ったのに、最後の方はアネモスが止めを刺したと思われる魔物が複数混ざっていることで、ここの魔物の強さを改めて実感させられる。
そして、アネモスが最後に連れてきたのは人間のパーティであった。
「魔物を退治しようとしたら、倒されちゃったんだけど」
戦士風の女性が、結界内に向かって告げてくる。それに対して、ルーキスが結界の外へ出て相手をすることにしたらしい。
「それは知らなかったもので、悪いことをしてしまいました。でも、魔物は、先にやっつけた者の功績になるんですよね。冒険者ギルドの決まりでは」
「そうだけど。あんな広い結界を作って、魔物を退治するなんてずるくない?」
「それだけの実力があるってことじゃないですか? うちのパーティの自慢である精霊使いには」
にっこり笑いつつ、折れることをしないルーキスに、アスピスはハラハラしてしまう。
そして、謝りに行こうかとしたところを、シェリスとエルンストに止められた。
「こういうのはね、折れたら甘く見られるの。強気に出ないとだめなのよ」
「確かに無茶苦茶ではあったけど。先に倒した者勝ちっていうルールは本当にあるんだ、まぁ、手に余る魔物に手を出した冒険者を守る意味で、助けた側に功績が入るようにって理由から作られたルールなんだけどもな。できるだけ、生存者を増やしたいっていう冒険者ギルドのはからいでな。そういう意味じゃ、今回のはちょっと意味合いが異なるんだが、ルールを破った訳じゃねぇんだから、黙って見ていろ」
2人にそう言われ、アスピスは祈る気持ちでルーキスを見つめる。
そんなことを話している間も、結界の外では数人対ルーキスでやり取りが行われていた。
「大体、聖狼の希少種なんかを魔物集めに使う? 卑怯じゃない?」
「使い魔の使い方は、精霊使いの自由ですよね」
「そうだけど……」
「いちゃもんを付けてきたところで、こっちはルール違反はしていません。そちらに譲る気はないので諦めて帰ってください」
「同じことされて、あなたは黙って帰るの?」
「うちの精霊使いは、結界内に結界を築くことを禁止していませんでした。確保したかったら、倒したい魔物を即座に結界で囲って確保すればよかったんではないですか? 条件に、結界内の結界は除外するようにあったはずですし」
「気づかなかったのよ! あんたのところの精霊使いって何式よ」
「八式と六式です」
「――ッ」
「もし、俺たちが同じ目に遭ったら、自慢の精霊使いに頼んで即座に倒したい魔物たちを結界で取り囲むと思いますよ。たとえ、結界禁止のルール違反の条件があったとしても。その場合、張られた結界を破ってしまうかもしれませんが」
「もういいわ! 話にならない」
「って。折れるのかよ!」
「だって、八式と六式よ。六式を仲間にするのだって大変なのに」
戦士風の女性は怒鳴るように言い放つと、自分たちの精霊使いをキッと睨みつける。
その精霊使いが何式かは分からないが、これまで精霊使いとして冒険してきて、少なくともAクラスにはなっているはずである。
Dクラスでこの森に入って来るレフンテの方が例外すぎるのだ。
そして、女性はもうやってられないといった雰囲気で、結界内を睨みつけて、その場を去って行った。その後を、戦士風の男性が3人精霊使い風の女性が2人ほど続くようにして、先に歩いて行ってしまった女性を追いかけて行った。
「って。結界くらい用が済んだら解いてよ」
「あ! ごめんなさい。今解きます」
アスピスは慌てて謝罪すると、結界を解いた。
それを見て、そのパーティのみんなが呆然とアスピスを見つめ。しばらくするとハッとするようにして、立ち去って行った。
「アスピスのことは秘密にしときたかったんだけどな。ちょっとまずいかもな」
「あいつらが口が堅い方だといいんだが」
「無理じゃね。あの女戦士、絶対町の居酒屋でぼやくぜ」
ルーキスが素直な感想を口にする。
「キセオーツ王国にまで話が及ばなければいいんだが……」
「その前に、アスピスを欲しがる奴が増えるだろうな。未だ子供だし、思うように扱えると思っちゃう奴がいるだろうから」
まいったなぁ。と、ルーキスがぼやきながらも、「とにかくあの山を片付けるか。男ども手伝え」そういうと、レフンテも連れて、ルーキスは魔物を収納しに、アネモスが集めてきた魔物のところへ向かって行った。
それと交代に、体の血を払ったアネモスが、アスピスにマナを食べさせるようにねだってきたのだった。
自分のせいで大事になってしまったと、しょぼんとしていたら、ルーキスが傍へ来た。
「悪かったな、俺が頼んだせいで、嫌な思いをさせちまって」
「ううん」
「でもな、こういうのって。冒険してると何度もあんだよ。それに、ルール違反した訳じゃねぇし。アスピスが落ち込む必要はねぇからさ」
そう言って、アスピスの頭を笑いながら掻い操ってくれる。
「謝るのは、ルール違反をしたときと、失敗した時だ。あと、マナー上どうしても必要な時くらいに抑えておけ。下手に謝ると、足元を見られる原因になるし、二度目からは向こうが上だと最初から見下して来るからさ」
「なんか難しいね」
「そうか? それより、町に戻ったら、もしかしたら、アスピスの話題が噂に昇っている可能性が出てきちまったからよ。黄金色の狼付きだしな。誤魔化すことはできねぇから、覚悟を決めて堂々としてろよ。俺たちのパーティの一員だって自信もって顔を上げておけ」
「うん」
「ちゃんと俺らもカバーに入ってやるから。隙見せたらちょっとやばいからさ、頑張ってくれよ」
「ルーキス、お前、アスピスを脅すの好きだろ?」
「本当のこと教えるのって大事だと思うんだけど。俺は」
「そうかもしれないが。俺はアスピスを誰にも譲る気はねぇんだよ」
「そりゃ、仲間って意味では俺だって同じだぜ。だからこそ」
ちゃんと事前に説明しておいた方が、アスピスも覚悟が決まると思って。と、続けた台詞は完全にエルンストに無視される。
「バレちまったもんは仕方ねぇ。町では俺から離れるなよ」
「わかった!」
エルンストがきっぱりと言い切ったのを聞いて、アスピスははっきりと返事した。
とにかく、薬草探しの方が優先だし。町に戻ったら、その時はいろいろ言われても、エルンストにくっついていればいいのだと、アスピスは解釈した。
そして、夕食の準備ができたことを知らせる声が響いてきたことで、3人は焚火の方へと向かっていく。その際、エルンストはアスピスを抱き上げると、少しきつめに抱きしめてきた。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




