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第75話(ユークの森へ8/魔物退治3/依頼達成)

[七十五]


 森に閉じこもって1週間以上が過ぎていた。

 アスピスも援護する術を身に着け、魔物を1人で退治するようなことはなくなってきていた。それでもたまに、数が多かったり、強い敵が出ると、慌ててしまって攻撃をしてしまうことがあったが、回数は減ってきていた。

 そして、そろそろ一度ラカノンの町へ戻ろうかという話しになり、ベースとしていた野営地を片付け、帰宅の準備を整える。

 そして、アスピスが結界を解こうかとしたところで、結界との境目に巨大な魔物が目を赤く光らせてこちらを見ていることに気が付いた。

「うわっ!」

「どうし――ッ」

 ルーキスもエルンストもカロエも気づくことをしなかった、魔物の存在に、3人は慌てて剣を手に握る。

「カロエは手を出すな」

「えぇ!」

「SSランクなんだよ。魔熊の希少種だ!」

 ルーキスがそう言うと、アスピスに指示を出す。

「あれを中心に結界を張って、援護を頼む」

「わ、分かった」

 言われるままにアスピスは右目を使い「結界」と唱えると、ルーキスが魔熊と呼んだ魔獣を中心に広めの結界を張り、ルーキスとエルンストとレイスにのみ効果の発生。と条件を付け、急いで精霊術を唱えていく。

「鎧強化。ウォーターガード、スピード倍化、回避力アップ、頑強、命中力アップ、攻撃時HP回復、落下衝撃緩和、物理攻撃防御強化、物理攻撃強化、急所ガード」

 これまで見つけたレシピを読み上げ、条件を切り替える。

「条件クリア、魔物のみ効果発生。攻撃魔法一点化」

 新たに、魔物を対象に条件を変えると、アスピスは精霊術を唱え続ける。

「ベタベタ、空気破壊、防御力減少、回避力ダウン、命中率ダウン、弱体化、拘束、ダークネス、武器破壊、攻撃力減少、ポイズン、石弾、ライトニング」

 思いつくままに精霊術を唱え、最後に攻撃魔法を添えておく。

 3人で、しかもエルンストとレイスは六剣士の剣を携えているのに、魔物の息の根を止めることがまだできないことに、アスピスは再び口を開こうとして、それをフォルトゥーナに止められる。

「3人に任せましょう。レイスとエルンストには、あなたの恩恵があるし。ルーキスだって、アスピスからって程じゃないけど、シェリスからの恩恵があるのよ」

「うん」

 アスピスが頷くと同時に、魔熊の膝が折れ、地面に下肢が崩れていく。

「もう少しよ。カロエもよく見てなさい。あれが冒険者ギルドが認めたSクラスの実力よ。今のあなたがあの中に加わっても、アスピスに負担を掛けるだけなのがわかる?」

 ルーキスは正確には未だだが、おそらくこれでクラスがアップすることだろう。

 それを加味してフォルトゥーナがカロエに伝えた台詞に、カロエは悔しそうに頷いた。

 同時に六剣士までの道のりも遠いことを感じてしまったようである。無言のまま、3人の戦いを、睨み付けるように見つめ続けていた。

 そんな中、アネモスが口を開く。

「我が最後の締めをしてきてもいいぞ。時間の掛けすぎじゃ」

「それは、アネモス。やめてあげて」

 まもなくケリがつくだろうという段階で、立ち上がろうとしたアネモスへ、アスピスが苦笑と共にアネモスを止める。

 同時に、SSランクだというアネモスのもつ強さの理由も理解した。

(アネモスが、強い訳だ)

 同じSSランクだという魔熊の希少種に、3人がかりでこれだけ時間がかかるのだ。まもなくケリが付きそうだとはいっても、油断はできない状況である。

 アスピスの精霊術の効果があってこれである。しかも、SSランクの魔熊にどこまで効果が出ているのかは不明なのだ。

 最後のあがきをみせる魔熊に、ルーキスが法陣カプセルを利用して勢いよくジャンプすると、魔熊の首の後ろから魔剣化させた剣を立て差し込んでいったことで、魔熊の動きがそこで止まった。

「やっぱ、SSランクは違うな。SランクとSSランクの差、ありすぎ」

 念のため、魔熊の首を落とすエルンストの脇で、ルーキスが溜め息を吐く。

「アスピスの精霊術と、3人でやっとだな」

「でも、これでルーキスのSクラスは確実ですね。これを持って、町に戻りましょう」

「あぁ」

 汗でびしょびしょになってしまった3人は、それぞれタオルを取り出すと、一度防具を外して汗を拭い、シャツを着替えて再び防具を身に着ける。

「よし。片付けも済んだし、アスピス防御結界を解いてもいいぞ」

「はーい」

 ルーキスの台詞に応じるよう、アスピスは結界を解除する。同時に、それまで閉じられていた結界の中の空気と、外の空気が交じり合った。



 アネモスに乗り、ラカノンの町に向かう。そして、町の門に近づいたところで、エルンストに抱え上げられた。

 SSランクのすごさを見せつけられた後である。アネモスが注目を浴びる理由も、改めるように実感できてしまう。

 しかも、下アトラエスタでは数の少ない聖の血を持つ聖獣なのだ。そういう意味では、見た目では人間と変わらず、人間として生活している聖族のレイスやカロエも希少な種族なのだろう。出会ったころ、どこかから逃げ出してきたようなことを言っていたような気がして、アスピスと似たような境遇だったのだろうかと思ってしまう。

 そして、町の中へ入り大通りを通っていると、大通りの中央付近に冒険者ギルドを見つけた。

「とにかく行くぞ」

 クラスが上がるかどうかの問題となる、ルーキスは緊張した面持ちで、冒険者ギルドに足を踏み入れる。

 広さは、冒険者が多いこともあり、王都の冒険者ギルドとそう変わりなかった。

 アスピスたちは受付に行き、順番を待ち、自分たちの番になったら、先ずはヘルツ草の依頼から、片付けることにする。

「すみません、王都で2枚受けたんですけど。薬草の採取の依頼で、発注先が違うんですが」

「それなら大丈夫よ。依頼の達成はどこでも受け付けているし。薬草の依頼だったら、薬草を採取してくれたケースを発注者のいるギルドへポストで送るから、あなたたちが移動して依頼者のいるギルドに到着するより早く依頼者の手元に届くはずよ」

「わかりました。ありがとうございます。それで、この2つのケースに入っているのが依頼のヘルツ草になります」

「お疲れ様です。確かにヘルツ草ですね。ずいぶんたくさん集めてくださいましたね、ケースがまんぱんだわ。ありがとうございます」

 受付嬢は嬉しそうに笑うと、アスピスが差し出した依頼書に依頼達成の印を押す。そして、功績や報酬を計算しようとしたので、慌ててもうひとつの依頼書を差し出した。

「ごめんなさい、別々に出しちゃって」

「あら、ユークの森の魔物退治も受けていたのね。それなら、先ずは地下にある解体室の方へ魔物を提出してください。計算はそれからになりますので」

「わかりました」

「計算が終わりましたらご連絡しますので、身分証明書をお預かりしてよろしいですか」

「はい。これでお願いします」

 カードケースに入れたまま、それを差し出すと、中身を確認した受付の女性は「それでは、地下の解体室へ行って。こちらからお呼びするまでお待ちください」と告げ、後ろに並んでいる冒険者の対応を始めてしまった。

「じゃ、ちょっと地下に行ってくるから。エルンストにレイスにカロエ、ちょっと頼む」

「わかった!」

「2人とも、ちょっと行ってくるからイートインコーナーで待っていてくれ」

「では、行ってきますね」

 アスピスとフォルトゥーナに断りを入れ、4人が地下へ向かって行くのを見守り、アスピスとフォルトゥーナはイートインコーナーに向かう。

「なにか飲む? アイスモカなんて生クリームが乗っていて、アスピスが好きそうな感じよ。ちょうどお昼のおやつの時間だし」

「じゃあ、自分で買って来るよ。フォルトゥーナはなにがいい?」

「アスピスは、席を取っていて。私はメニューを見て決めるから」

「わかった。席を取っているね」

 そこでフォルトゥーナと別れて、アスピスは数席続けて空いている場所を見つけると、フォルトゥーナの分として、隣の空席に鞄を乗せて、フォルトゥーナを待つことにする。

 そして、しばらくすると、フォルトゥーナがトレイに飲み物と軽食を乗せて、アスピスの元へ戻って来た。

「はい、アイスモカよ」

「ありがとう」

 生クリームがたっぷり乗っているのを見て、目をキラキラさせるアスピスに、フォルトゥーナが笑みを零す。

 ついているのはストローだけだが、先が小さなスプーン状になっていて、生クリームを掬って食べられるようになっていた。

 軽食はジャガイモを薄くスライスして揚げたものと、薄い皮でチーズを包み揚げたものと、小麦粉と水と卵を混ぜて揚げ、その上に砂糖をかけたドーナツのようなお菓子であった。

 量が多いのは、みんなが戻って来たら、みんなも摘まむと思ってのことなのだろう。

「いただきま――、アネモス? どうしたの」

「ここにいるということは、我はすでにマスター持ちだと分かりそうなものなのに、視線が鬱陶しいのでな。足元にいさせてもらうぞ」

「それはいいけど」

 外で待つことに慣れているアネモスが音を上げるなんて、どんな注目の浴び方をしたのだろうかと思ってしまう。

 けれども、気にしても仕方ないかと、再び生クリームを掬い口の中に入れると、ふわりと生クリームが溶けていく感触と優しい甘い味に、アスピスはうっとりする。

(あぁ、おいしい)

 この世にこんなに美味しいものがあるなんて、夢のようだ。と思いつつ、二口目を口にしようとしたら、後ろから男の人が声を掛けてきた。

「よぉ。その足元の聖狼のレア種、お前のなのか?」

「え? アネモスですか? 一応はあたしのですけど」

 使い魔という意味では、アネモスはアスピスのものとなるのだろう。しかし、主導権がどちらにあるかは、はなはだ疑問を感じるところである。

 なんといっても、自ら使い魔にしろと言ってきたのである。それをアスピスの実力だと言っていいのか疑問である。その上、カロエが買ってきてくれたふわふわもちもちの抱き枕を、断りもなく自分のものにしてしまったのだ。

 そんなことを考えながら応じていたら、男は不躾な視線を向けてきた。

「へー。お前みたいなガキが、この聖狼をねぇ」

 しげしげとアスピスを見下ろし、ちょっと馬鹿にするように呟いて来る。けれどもすぐに口調を改めるようにして、自慢げに自分のパーティの話を開始した、

「俺たちのパーティ、クラスがAの奴ばかりで、このあたりじゃ結構有名なんだぜ」

 思わず、それがどうかしたのかと突っ込みをいれたくなったが、アスピスはその男性を無視して生クリームを食べることにした。

「なぁ、おい。話を聞けよ。仲間に入れてやるって言ってんだよ。隣の女も一緒にさぁ」

 最高の条件だろ。と、告げてくる男は、フォルトゥーナが六聖人だなんて思いもしていないのだろう。そして、地下には冒険者クラスがSで六剣士でもあるエルンストとレイスや、本日Sになるだろうルーキスがいることも、この男と同じ冒険者クラスがAとなったカロエがいることも、知らないのだろう。

 正直、アネモスはこの男から逃げて来たと思って正解だろう。

 常識的に考えて、マスター持ちの使い魔に、嫌気を覚えさせるほどちょっかいを出す人間はそうはいないはずである。

 アスピスはこんな男の相手をしてやるものかと、完全に無視を決め込んでいたら、フォルトゥーナが男に向けて返事をした。

「申し訳ございません。私たちはすでに他の者とパーティを組んでいるので、お誘いには応えることができません」

「はぁ? この俺が誘ってやってんだぜ! 決定権は俺にあるに決まってんだろ。美人だからってお高くとまってんじゃねぇよ。俺たちのパーティは実力主義だからよ。女や子供だからって、甘やかしはしねぇぜ」

「そうですか」

 フォルトゥーナは静かにそう告げると、右目を使って「結界」と呟き、男の周りに結界を作り出すと、「裸体化」と静かに呟く。瞬間、結界の中にいた男が悲鳴を上げる。

 そして、フォルトゥーナは結界を解除した途端、防具やシャツや下着が全部脱げ落ちて裸の男が姿を現した。

(だれだ、こんなくだらない精霊術生み出したのって)

 思わず感心してしまいながら、「テメーら覚えていろよ!」と叫びつつ、防具やシャツや下着を抱えながらギルドの端っこの方へ逃げ込んでいった男を、アスピスが見守っている脇で、フォルトゥーナは冷たい視線で見つめていた。

「お主、なかなかやるではないか」

「放っておくと、どこまでもつけあがるタイプだったので。お仕置きが必要に感じましたから」

「我を犬のように扱いおって、うるさい男だったからな。気分がすっとしたわ」

 アネモスが楽し気に笑う様子を見つつ、フォルトゥーナはやはりパーティの最高権力者だとアスピスは実感してしまう。

 そして、防具を再び身に着けて、仕返しにこようとしたらしい男が側に寄って来ようとしたところで、そのほんの手前でルーキスやエルンストやレイスやカロエの超美形の4人組が、フォルトゥーナとアスピスの元へ帰ってきた。

「男は顔じゃねぇんだからな! 大事なのは強さだぞ! 俺のパーティは全員Aクラスなんだぞ。後悔したって知らねぇからな!」

 ちょっと遠くから、叫ぶようにして訴えてくる男に、戻って来たばかりの男性陣4人の目線が向けられていく。それに怯んだ男は、仲間の元へと帰って行った。

 どうやら、男ばかりの6人パーティのようだ。精霊使いに慣れていないのも無理はないというところだろうか。慣れていても『裸体化』なんて使われる機会はそうないだろうが。

「なんなんだ、あの男は?」

「なんでもないわよ。気にするだけ損よ」

 にっこり微笑み、空いている席を進めるフォルトゥーナに、みんなはそれ以上深くは訊かずに、それぞれ席について行く。そして予想通り、カロエが軽食へ手を出し始めた。

「なにか飲み物買ってきますね。コーヒーでいいですか?」

「悪いな。頼む」

「俺はなんでもいいぜ」

「オレもなんでもいいよ」

 立ち上がったレイスへ、3人がそれぞれ応じると、レイスはコーヒーを買いにいく。席を離れていたのは少しで、4人分のコーヒーをトレイに乗せてすぐに戻って来た。

 その感じから、計算に時間がかかりそうなのだな。と、アスピスは思ってしまった。



 待つこと1時間くらいだろうか、ようやくアスピスの名前が呼ばれ、アネモスも一緒にみんなで揃って受付窓口へ行く。

「今回の魔物退治の功績ですが、依頼達成分を省くと、SSランク1体。魔法生物を含むSランク28体。AAランク56体。その他、Aランク、Bランク、Cランク多数となります」

 受付嬢が読み上げた魔物のランクと体数に、周囲がどよめきを上げる。一番驚いていたのは、アスピスたちに声を掛けてきた男である。

「コアや、アイテム。肉はこちらで受け取ってよろしかったのですよね」

「換金で頼む」

 アスピスには分からなかったので、返事ができなかったら、エルンストが代わりに応えてくれた。

「では、報酬はこちらになります。依頼達成分も含まれております」

「ありがとうございます」

 アスピスはそう言うと受け取ろうとしたのだが、重くてとても持てなかったので、そのままそこに置いておくことにした。後で男たちの誰かが持ってくれるだろう。

「それと、功績となりますが皆さま均等にお分けしてよろしいのでしょうか?」

「よろしくお願いします」

 受付嬢の問い掛けに、ルーキスがはっきりと言い切った。そして、みんなそれぞれギルドカードを差し出すと、功績を分けてもらう。

 その中で2度、カードが光を放った。

「アスピス様、冒険者クラスがAとなりました。最年少記録ですね。おめでとうございます」

「そして、ルーキス様、冒険者クラスがSとなりました。こちらも、冒険者のみの活躍で、恩恵なしとしては最年少記録となります。おめでとうございます」

 2人のクラスの上昇に、周りが「おめでとう」といい拍手してくれる。そして、声を掛けてきた男たちのパーティは、逃げるようにして冒険者ギルドから出て行ってしまった。

「小さすぎる男だったわね」

 ぼそりと呟かれたフォルトゥーナの台詞に、アスピスは、『フォルトゥーナって強すぎ』だと感想を抱いてしまった。

「そういえば、フォルトゥーナはSにはまだならないの?」

「冒険を始めた当初、なんの役にも立ってないからって功績を拒んでいたからな。ちゃんと分かち合うようになったのは最近になってからなんだ」

 ふと疑問に思って呟いた台詞に、ルーキスが肩をすくませ苦笑を零す。

「でなけりゃ、六聖人の恩恵もあるんだ、疾うにSクラスになってるって」

「そうなんだ」

 真面目なフォルトゥーナらしいといえば、らしいのかもしれない。

「とにかくさ、宿屋に戻ってこれ分けようぜ」

 なんとか担ぎ上げて、ルーキスがアイテムボックスに報酬をしまうと、みんなで借りっぱなしであった宿屋に向かって歩いて行った。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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