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第74話(ユークの森へ7/魔物退治2)

[七十四]


 アネモスに抱きつくように丸くなってしまったアスピスの機嫌を直させるために時間を要し、少し遅くなっての出発となった、本日の魔物退治。

 昨日とは逆の方へと進み、魔物の痕跡を探しながら、ルーキスが先頭となって進んでいく。そして1時間も歩き続けたところで、ルーキスが屈みこみ地面の確認をし始めた。

「まだ、そんなに経ってねぇな」

「集団か?」

「数的にはそんなじゃねぇと思うけどな」

 そう告げると、これまでよりも慎重になってルーキスは歩き始める。けれども、そこからしばらく進んでいたら、ルーキスが歩みを止めた。

「やべっ、囲まれた!」

「あ?」

 不意に言い切り、ルーキスが腰の剣を取り出すと、エルンストやレイスも六剣士用の剣を籠手から取り出す。カロエもそれに倣って、剣を構えた。そして、体勢を整えようとしたところで、魔物たちが襲い掛かってきたことで、乱戦が始まってしまう。

 反射的に、フォルトゥーナがアスピスをアネモスごと引き寄せると、みんなから中央辺りになる位置に、防御結界を張り、2人と1匹で閉じこもる。他の4人の邪魔をしないための配慮のようだ。その後、魔物たちがいる範囲に結界を張ると、ルーキス、エルンスト、レイス、カロエ、結界内の結界部分の除外。範囲全体化と条件を付けた後、フォルトゥーナは精霊術を唱える。

「鈍足、弱体化、攻撃力低下」

「フォルトゥーナ、サンキュー」

 一番身近にいたカロエが、フォルトゥーナへお礼を告げると、魔物と対峙し、数度切りつけながら止めを刺すして、次のターゲットに移っていく。ルーキスやレイスやエルンストは、靴に仕込んである法陣カプセルにてジャンプをし素早さを上げて、魔物の頭上から魔物の弱点に狙いを定めているのか、一撃か二撃で止めを刺し、次々と倒していく。レイスやエルンストと異なり、普通の剣を使用しているルーキスなどは、剣にも法陣カプセルを差し込んでいるようで、剣の鋭さを増しているらしく剣全体にオーラを纏っていた。

 そして4人は、アスピスたちを取り囲みエサとしようとしていたらしい魔物たちを、一通り倒し終えると、それぞれ剣についた油や血を払い、法陣カプセルの効果なのか、剣に輝きを取り戻させると、それぞれ鞘や籠手に収めて行った。

 その後は、いつも通り、倒した魔物をルーキスの魔物用のボックスに放り込んでいく作業が待っていた。

「カロエ、腕を上げたじゃんか」

「でも、切込みの数が多いんだよなぁ」

「そこは経験するしかねぇな」

 ルーキスが、カロエの倒した魔物を見ながら感想を述べると、カロエが残念そうに呟き返す。そこへ横からエルンストが口を挟む。

「ここは、ランク的にカロエの練習にもいいはずだ。アスピスに手を出さないでもらって、地道に体数を稼いでいくのが堅実の方法だな」

「だよなぁ」

 その辺は、カロエも了承済みなようで、素直に頷く。

(つまりは、なにか? あたしになにもするなってこと?)

 それはそれで不満だと思ってしまうアスピスに、フォルトゥーナが笑みを零す。

「そういう時は、援護に回ればいいのよ。相手を弱らせるか、味方を強くしたり防御力を上げたりするの」

「そんなレシピあったっけ?」

「あると思うわよ。六聖人(赤)のレシピをもっているんだから」

 あっさりと言い切るフォルトゥーナは、にこりと笑ってアスピスを見る。

「攻撃するだけが、精霊術じゃないの。大勢でいるときは、精霊使いは援護に回る方が喜ばれるわよ。もちろん例外はいるけど」

「わかった。今度レシピ探ってみる」

「それがいいわ」

 フォルトゥーナはにっこり微笑むと、アスピスの頭を優しく撫でる。そして、意識を男たちの方へ向けていく。

「かなりの数に囲まれていたみたいね」

「あぁ、俺としたことが失敗じったぜ。でも、おかげで今日の目標もクリアできそうだけどな」

「でも、魔物が増えているっていうのは本当みたいね。以前来たときは、こんな風に大量の魔物に囲まれるなんてなかったもの」

 率直な感想を述べるフォルトゥーナへ、レイスが応じる。

「そうなんですよ。どうやら、この依頼は多数の方が同時に受けているみたいですからね」

「広いから、他人とぶつからなくて助かるぜ。でないと陣地争いが起きるからな」

 ルーキスはレイスの台詞に反応するよう口を開く。そして、みんなを先へと促すよう呟いた。

「まぁ、もう少し進もうぜ。まだ時間があるしさ」



 途中、数匹の魔物の集団と何度か遭遇したことで、本日の目標も達成でき、ルーキスを先頭にベースとなる野営地に戻って行く。

 そして、陽が傾き出す前に夕食の用意が始まった。

 思い出すのは1日目のことだろうか。見事に魔獣が取り囲んでくれたことで、功績的にはかなりのものになったはずである。つい勢いで、アスピス1人で倒してしまったのだが。

「レイス、なにか手伝える?」

「そうですね。いつも通り、お湯を沸かしてもらえますか」

 決して、ナイフを使わせたり、火を使う料理をさせてくれないレイスは、かなり過保護なのだと思う。

「分かった」

 本日倒した魔獣を一体解体し、新鮮な肉を手に入れたことで、本日はその肉の料理になるらしい。癖があるのでハーブで臭みを取るらしく、脇にハーブが用意されていた。

「アスピス、あまり顔を近づけないでくださいね。危ないですから」

「はーい」

 まじまじとレイスの動きを見ていたら、レイスに注意されてしまい、アスピスは数歩下がった位置から見守ることにする。

 せめて見て覚えようと思ってのことである。

 そして、スープをかき混ぜつつ、お湯が沸くのを待ちながら、レイスの動きを見守っていたのだが、手早すぎてなにがなんだか分からなかったというのが、事実であった。

 気づいたときには、下処理を済ませ、焼き始めていたのである。

 その間に、お湯が沸き、アスピスは急いでお茶の用意を開始する。このパーティのときは、カップはすべてレイスが用意していてくれて、茶葉がカップに入らないように、やかんへ、茶葉をいれたラインティーバッグを入れることで、みんなのカップにお茶をいれていくのだ。そして、入れ終わると、ラインティーバッグを捨てて、食後のコーヒー用のお湯を沸かすために中を一度洗い、ピッチャーから水を注いておくのである。

 そんなことをしている内に、肉が焼き上がり、簡単なサラダやパンと共に肉を仕切られたプレートに乗せ、トレイに乗せるとスープを盛った皿とお茶の入ったカップとフォークやナイフやスプーンなどを乗せて、それぞれに配っていく。

 食器類が日々進歩している気がするのは、気のせいではなく、レイスが必要だとか便利そうだとか思って買い揃えているからなのだろう。

「いただきます」

 みんな揃って口にすると、それぞれ食事を開始する。

 初めて食べた魔物の肉は、丁寧な下処理とハーブの香りで食べやすいものになっていた。



 残した食事は、エルンストに押し付け、食べてもらう。その間に洗い物を始めつつ、コーヒー用のお湯を沸かす。

 家ではドリップするのだが、野営では粉のコーヒーを使用していた。

「お前、少な目に盛ってもらってるんだから、自力で食えよな」

「仕事の邪魔をしないでください」

 トレイで頭をたたかれて、アスピスは頭を擦りながら、洗い物の手が止まってしまったことでエルンストに文句を言う。

 野営での洗い桶は、大き目のバケツを使って、一度全部汚れを落とし。もう一度きれいな水を入れ直し、食器をゆすいでいく形を取っていた。基本、トレイは大きいので、拭いて汚れを落としていく方法を取っていた。

 そして、アスピスが食器をゆすぎ終わると、レイスやルーキスが次々水分を拭いていき、あっという間に片づけが終了する。

 その間、フォルトゥーナがコーヒーを用意してくれていた。それを、全員に配っていく際に、アスピスに聞こえないよう小声でエルンストに忠告するのを忘れなかった。

「今日は、馬鹿なことやってないで。見張りをするならちゃんとしなさいよ。する気がないなら、必要ないんだし、引っ込んでなさい」

「悪かったよ。あんなに怒るとは思ってなかったんだ」

「怒るに決まっているでしょ。なんで分からないのかしら」

 呆れたように肩をすくませ、フォルトゥーナは冷たい目線をエルンストに向ける。

「好きだからって、なにをしてもいい訳じゃないんだからね。アスピスだって、もう12歳の年頃の女の子なのよ」

「変なところばっか、年頃になりやがって」

 ぼそりと洩らしたエルンストの言葉に、フォルトゥーナは遠慮なくエルンストの頭を叩く。そして、エルンストが反射的に「痛てぇ」と洩らした台詞は、フォルトゥーナがにっこりと笑ってみせたことで、エルンストがなにかやらかしたのだろうと判断され、みんなから聞こえなかったことにされてしまった。

 最強なのは、フォルトゥーナかもしれない。

 みんなの反応を見つつ、エルンストとフォルトゥーナがなにを話していたのか分からないが、アスピスはそんなことを考える。

「はい、アスピスのコーヒーよ。角砂糖ふたつにミルクたっぷりで作っておいたわ」

「ありがとう、フォルトゥーナ」

「なるべく早めに飲むのよ。寝る直前は飲むのは止めなさいね」

「うん。気を付ける」

 アスピスは大きく頷くと、すでにアネモスが待機している自分用の寝る場所へ、コーヒーを持って向かって行った。

 いつもの野営ならば、コーヒーを配られる頃は、アスピスにとってはもう寝る時間になっていて、小説を読むようなことはできないし。読もうとしたところで、誰か彼かに注意されてしまうのだが。現在の魔物狩りでは、連日森に籠っていることで、休息の時間が多めに取られていて、ベースとなる野営場所に戻って来るのも早めなので、まだ少し小説を読む時間があるのだ。

 そのため、アネモスに寄りかかりぬくぬくとした感触に身を任せながら、膝に毛布を掛けた状態の上に本を置き、アスピスは機嫌よく栞の挟まれたページを開く。そして続きを読み始めた。



「もう、寝る時間だぞ。読書は終わりだ」

 不意に本を手から奪われ、アスピスは慌てて顔を起こすと、エルンストが目の前で、アスピスと目線の高さを合わせるようにしゃがんでこちらを見ていた。

「わかったから、エルンストはあっち行って」

 今朝の恨みは忘れていないのだと、アスピスが警戒心露わにしてみせたことで、エルンストは肩をすくませる。

「今日は、なにもしねぇよ。お前が望むなら別だけどな」

「なにもしなくていいから、あっちに行ってて」

「まだ怒ってんのかよ」

 まいったなと言いたげに困った顔をしながら、アスピスの手に本を返す。

「悪気はなかったって、今朝ちゃんと言っただろ」

「普通、年頃の女の子を抱きながら、見張り番なんてやらないでしょ」

「自分で、年頃って言っちまうんだ?」

 おかしそうに笑うエルンストに、アスピスはムッとするように頬を軽く膨らませる。

「だったら、もうちょっと男心も理解しねぇとな」

 あっさり告げると、エルンストはアスピスの頬を軽く突く。

「なにすんのよ!」

「いや。可愛いなと思って」

「――ッ」

 さらりと応えられて、アスピスは言葉を失う。まるで遊ばれているような気さえしてきてしまう。

「子供だと思って、馬鹿にして」

「年頃の女の子なんだろ? そう思って接してやったつもりだぜ」

「どこが? 揶揄って遊んでるだけじゃん」

「心外だな。本音を言ったっていうのに」

 エルンストは苦情をもらすよう告げると、アスピスの頭を掻い操る。

「子供なんだか、年頃なんだか、難しい年齢だな」

「両方なんだから仕方ないじゃん」

「両方、ね」

 開き直るように告げられてきたアスピスの台詞に、エルンストは苦笑を浮かべる。

「確かに、両方だな。女性扱いすると逃げるし。子ども扱いすると怒るもんな」

「そ、それは……」

 エルンストが極端すぎるからだと、アスピスは言いたい。子供を相手にする要領で、その上で女の子として扱ってくれればいいのだと、アスピスは思うのである。

「まぁ、いいさ。そういうところも含めて、意見をすり合わせていくもんだからな」

「なにが?」

「付き合っていく上での、うまくいく方法だよ」

 エルンストがなにを言い出したのかが分からず、訊ねてみたら、想定していない返事が戻って来た。

「こうして手に入れた以上、お前を他の奴に渡したりなんて、絶対にしねぇからな。そうなると、お前に一生寄り添ってかなきゃならねぇだろ。なら、譲歩もそれなりにしてやるさ」

 エルンストはそう言うと、アスピスの頭を掻い操って、和らかな声音で告げてくる。

「今日は邪魔しないでやるから、もう寝ろよ」

「お休みのキスはいいの?」

「今日は止めといてやろうと思ったんだけどな。して欲しいのか?」

「んー……、うん」

 エルンストの問いに、アスピスはしばし悩んだ末に、笑みを浮かべて頷いた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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