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第72話(ユークの森へ5/ラカノンの町/依頼開始)

[七十二]


 途中休憩を挟み、夜まで馬車を走らせ続けたことで、その日の内にラカノンの町に到着する。

 王都ほどではないが周囲は丈夫そうな壁に囲まれていて、入り口となる門は、アスピスたちがいる近くの門と、ユークの森の側にある門の2つだけということであった。

 いつも通り、馬車をエルンストとアネモスにしまってもらい、審査窓口にて身分証を提示して通行料に1人銀貨1枚を支払い、町の中に入っていく。

 中は、冒険者でいっぱいであった。

 ラカノンの町のそばにあるのは、ユークの森だけでなく、森の中央には。更に高ランクの冒険に挑もうとしている冒険者のパーティを待ち構えているエウテイア山脈が存在していることで、多くの冒険者たちを迎えることで活気のある町であった。

 冒険者ギルドもそこそこ大きく、冒険者ギルドが運営している食堂も存在していた。

 ここ最近のなんとなくの癖で、アネモスに乗ろうとしたら、エルンストに無言のまま抱きあげられてしまう。

「とにかく、宿を先に探すぞ」

「その方がよさそうだな」

 多くの冒険者は、食堂付きの宿屋を好むが。アネモスがいるアスピスたちは、食堂付きの宿屋を避けていることで、部屋が空いている確率が高かった。今日も1件目で空室を見つけることができた。ただ、この宿屋にはお風呂はなく、また空いているのは10人用の大部屋であった。ベッドが足りなくなったら、赤の他人が4人ほど入って来る可能性があるという。そこで一応、部屋を取ってもらっておいて、他の宿も探してみることにした。

 そして、3件目にして値段はちょっと高めだが風呂付の6人部屋を見つけたことで、最初の宿にキャンセル料を支払い、3件目の宿に半月分の宿代を先払いして、長期間滞在の準備も兼ねて部屋を確保する。

 ユークの森まで、この町から歩いて約30分程度なのである。そのため、森側の門はかなり頑丈に作られているそうだ。

 だから、行き来もかなり気軽で、長期間籠るつもりでも、気軽に町に戻ってきて足りなくなったものを補充したり、宿屋に泊って英気を養ったりするらしい。

 ちなみに、エルンストとルーキスが頑張って交渉したことで、追加料金が発生したが、アネモスも部屋へ入れることができることになった。

 そこで、外に待機していたアネモスを呼び込み、宿屋の店員に部屋へ案内してもらう。

「お風呂とトイレは、ご自由にお使いください。ですが、お風呂は夜の12時から朝の6時まではご使用をお控えください」

 案内してくれた店員の説明で、想定外に、部屋付きのお風呂であったことにみんな内心で驚きつつ、平静を保つ。そして、一通りの説明を受けた後、みんなはそれぞれのベッドに別れて腰を落とした。

「高額なはずだわ」

「まぁ、風呂がないよりマシだろ」

「それはそうね」

 フォルトゥーナはルーキスの台詞に、素直に頷く。

「とにかく、宿屋が決まったんだから、夕食を摂りに行きましょうか」

「お風呂が12時までってことでしたので、食事は屋台で買ってきた方がいいかもしれませんよ。もう遅いですから」

「そうだな。とにかく、アスピスとフォルトゥーナに入ってもらって、その間になにか買ってくるか」

「この間も、それで任せちゃったじゃない。大丈夫?」

 レイスとルーキスに、フォルトゥーナは申し訳なさそうに告げる。瞬間、気にするなとばかりにルーキスがあっさり応えた。

「ちょっと外へ出て、大通りにある屋台の食い物買って来るだけだぜ。気にするほどのことじゃないって」

「店が開いてるなら、食料も補充したいですしね」

「そう? じゃあ、おねがいするは。とにかくアスピス、お風呂に入ってきちゃいなさい」

「うん」

 そう言うと、レイスとルーキスが外へ向かって行くのと同時に、アスピスはそのまま踵を返して、風呂場に向かう。

「あら、今日は脱がないのね。いいことだわ」

 冒険から帰ってからお風呂に入るとき、装備一式を脱ぎ捨てて下着1枚で風呂場へ向かうアスピスを知っていたので、フォルトゥーナは満足そうに笑みを浮かべる。

 それを見ていたエルンストが、小さく苦笑を浮かべた。

「あら、どうしたの?」

「恋愛小説を読みたいって言うから、下着1枚でうろつくのを禁止したんんだ」

「あら、そういうこと」

 それは効果覿面ねと、フォルトゥーナは笑みを零す。

 そんな2人のやり取りを背後に、面倒臭い約束事をしてしまったと思いながら、アスピスは脱衣所に向かって行った。



 翌朝、みんなは冒険装備を着用すると、結局昨日は店が開いていなくて食料を補充できなかったレイスは、朝市にて食材やパンを色々と補充して、ユークの森に向かうことになった。

 町の門まではエルンストに抱かれる形で、そこから出ると、アネモスに乗せてもらって移動を開始する。

 そして、30分くらい経った頃、森の入り口へと辿り着く。

「先ずは薬草を2件分集めてしまいましょう。群生地を知っているから、そこへ行けば簡単に収集できるはずよ」

「うん。ありがとう」

「さてと、魔物はどうかなぁ」

 フォルトゥーナにアスピスがお礼をいう傍らで、ルーキスが腕を鳴らす。エルンストとレイスは万が一の時のために、六剣士の剣が収まっている籠手を、それぞれ利き手とは反対の手に付けていた。

 そして、フォルトゥーナの案内の元、ヘルツ草の群生地へと向かって行く。

 魔物が増えているというだけあって、その途中、魔物化した動物や魔物に遭遇したが、ルーキスやカロエが前線に立ち、レイスやエルンストが補助に回る形で難なく倒していく。

 現状、精霊使いの出番はないようである。というか、やりすぎるアスピスは使用を禁止されていた。

 そして、森の中を2時間くらい歩いたところに、ヘルツ草の群生地が広がっていた。

 岩場に隠れていて見えにくい場所のため、この場所を知っている人が少ないのかもしれない、採られた跡はほとんどなかった。そこで、アイテムボックスから指定の採取箱を取り出すと、みんなで手分けして、箱いっぱいにヘルツ草を摘み取っていく。

「これくらいでいいんじゃないか?」

「そうね。十分すぎるほどだわ。これで依頼が2件分達成ね。後は、ギルドに渡すだけだわ」

 フォルトゥーナの台詞に、アスピスが首を傾げる。

「あれ? 届けなくていいの?」

「これは、届け物の依頼じゃないから。ギルドに渡せば、ギルドの方から依頼者に連絡が行って、向こうからとりに来るのよ」

「へー。そうだったんだ」

 感心したように呟いたエルンストへ、フォルトゥーナは呆れた視線を向けていく。

「まさか、エルンストも知らなかったとか?」

「や。採取系って受けたことがなかったからさ」

「嘘。私が時々受けていたわよ」

「そうだったか? 採取系はお前任せだったからな。大抵王都の依頼だったし」

 エルンストが笑って誤魔化すようにしながら告げると、フォルトゥーナは肩をすくませる。

 その間に、アスピスは大事なヘルツ草が入った採取箱を2つアイテムボックスにしまいこんだ。

「次は、魔物退治でしょ」

「あぁ、何日かは閉じ困らせてもらうぜ」

「倒した体数やランクに応じて、通常より依頼の報酬分が加算された功績や報酬がもらえるんだったよな。今回のは」

「そうなんだ。だからかなり運が必要なんだよな」

 やる気満々のルーキスとカロエが、準備運動をしながら、歩き出す。

 道は決まってはいないので、他のみんなは2人について行く格好となる。

 そして、数体の魔物に遭遇することに成功し、やはりルーキスとカロエが前線に立ち、それをレイスとエルンストが補助する形で魔物を倒していく。

 ちなみに倒した魔物は、ルーキスの魔物用のアイテムボックスにしまわれることになっていた。依頼を受けたのはアスピスなのだが、やる気的に完全にルーキスの方が上だったからである。

 そして20体も越えた頃、陽が傾き始めたことで、野営する場所を探すことにした。



「ここは防御結界を張ってもらった方がいいかもな」

「うん。分かった」

 地面に落ちている小枝を拾い集めつつ、野営地をさがしながら、ルーキスが告げて来たことにアスピスは大きく頷く。

 薬草採りが終わってからこの方、役にまったく立っていなかったので、すべきことをもらえて嬉しかったのである。

 そして、手頃な広さのある場所を見つけると、そこを野営地とすることにした。

「防護結界を張ってもらうなら、ここをベースにしちまうのもいいな。場所的に森の中央より奥めで、エウテイア山脈までもうちょいあるし。条件に俺たちの出入りのみ許可してもらえれば、ベースとして成り立つからさ」

「うん。じゃあ、結界張るよ。ちょっと大き目にするからね」

 アスピスはそう告げると、久しぶりに素地陣を使い、中央の地面が現れている場所を中心に、みんなが寝る場所を確保できる広さの結界を張る。条件はメンバー6人とアネモスの出入りの許可。と、それ以外の生物の出入りの禁止。あと、結界の透明化。に、メンバー6人とアネモス以外の生物から見て、結界内に野営地が存在していないように見えるようにすることと、調理や焚火により発生した煙の排出。捨てた液体の排出。雨避け、風避け。それと、メンバー6人とアネモスだけに見える、野営地の位置を示す印。そして、その後、結界を更に強固するためにマナでかなり手を加える。その際、ベースとなるこの野営地の位置を示す印として、矢印型のマークを下に向け、遠くからでも見える場所に浮かしておく。

「これで大丈夫だと思うけど。足りない条件は、分かった時足すね」

「おう、頼む」

「我がマスターの結界は、見事じゃな。我ではもう手が出せぬ」

 ルーキスの台詞にかぶせて、アネモスが感動したように呟いた。

「食べられなくなっちゃうね」

「我用にマナを編んでくれればよかろう」

「そういうのありなんだ?」

 けろりと応じるアネモスに、アスピスは笑い出す。そして、望まれるままアネモスにマナで編んだオーラをアネモスに食べさせてあげた。



 いつもより早めに野営を開始したことで、時間に余裕があったため、常よりもゆっくりとした動作でレイスが夕食用のスープを作り、肉を焼く。同時に、お茶用のお湯を沸かす。

 そんな様子をみんなが見守っていたら、結界の周囲に異様な空気が漂い始める。

 最初に気づいたのはルーキスであった。

「げっ! なんだ?」

 獣系の魔物が大量に結界の周囲に集まって来ていた。

「あっ! 煙排出の条件つけといたから」

「肉を焼く匂いにつられたってか?」

 アスピスがハッとするように呟くと、ルーキスが呆れたように呟いた。

「とにかく、始末しようぜ。こんだけいりゃかなりの功績だ」

「だな」

 カロエとルーキスは完全にその気である。

 しかし、魔物の数はかなりのもので、腹が空いているのか、みんな気が立っている様子であった、

 それを見て、思わずアスピスはベースとなる野営地を取り囲む魔物をすべて取り込むように結界を大きめに作り出すと、魔法全体化、死体の形状保持、結界内にある結界を除外と条件を付けると、精霊術を口にしていた。

「雷の矢、ウィンドカッター、津波、ファイアボール、トルネード、熱の光線」

「って、ちょっと待て。やりすぎ!」

 放っておくといつまでも精霊魔法を唱えそうなアスピスを、ルーキスが慌てて口を押えて止めに入る。

「アスピスの魔法は他より強いから、強い敵がいても、普通なら2,3発で倒れるから。それ以上強い場合、個別に狙わないと倒せねぇし」

 冷静になれと、慌てながら訴えるルーキスに、アスピスはちょっと笑ってしまった。

「死体の形状は保持するようにしてあるから」

「いや。そういう問題じゃなくてさ」

「とにかく、アネモス。あとでまた、アスピスのマナを食わせてやるから、魔物の遺体回収頼めるか?」

「分かった。約束じゃぞ」

 ルーキスとアスピスのやり取りを聞き流し、エルンストがアネモスに問いかけると、アネモスがゆっくりと置きあがった。そして、野営用の結界から出ると、アスピスが倒した魔物を回収するために巨体化すると走り回り始めた。

 そして、野営用の結界から少し離れた場所へ魔物の山を作りながら、アスピスが魔物を倒すために張った結界内を行き来すること十回以上、最後に二体のこれまで連れて来た魔物よりも数回り大きな巨大な魔物を持ってきた。

「未だ息があったので、息の根を止めてやったわ」

 自慢げに告げつつ、これが最後だとアネモスは血の付いた身体を思い切り震わせて、周囲に血をまき散らし、体から血痕を取り除くと、体を小さくして、野営地となる結界内に入って来た。

「我がマスターよ、マナを食させていただこうか」

「あー、うん」

 さっきあげたばかりなんだけどな。と、思いつつ、言われるままに再びマナでオーラを作り出すと、アネモスに食べさせてあげる。

 そして、アスピスとアネモスがそんなことをしている間、ルーキスやエルンストが、アスピスの倒した魔物の山を眺め見ていた。

「盗賊んときも思ったんだけどよ、アスピスって、功績独り占めしてたらSクラスになれるんじゃね? 1日目でこれだぜ。アネモスが倒したのも、アスピスの功績みたいなもんだろ。これ、最低でもSランクはあるぜ」

「1回目の冒険で、Aクラス並だと言われたからな」

「まぁ、パーティを組んでいるから、倒した人に関係なく、平等に貰いはするけどよ」

「いいんじゃねぇのか。本来、こっちが倒そうと思ったのを、あいつが独り占めしたようなもんだし」

 複雑そうに告げるルーキスへ、エルンストは淡々と応じる。

「とにかく、アイテムボックスを開いてくれ。これを入れるから」

「あぁ、そうだな。カロエ、レイス、悪いけど付き合ってくれるか?」

「あ、はい。今行きます」

「了解!」

 エルンストに促され、アイテムボックスを開きながら、レイスとカロエを呼ぶと、3人の使用許可を出し、山積みとなった魔物を4人でルーキスの魔物用のボックスに魔獣の死体を投げ入れて行く。

 そして、それらの作業が終わった後、うっかり忘れていた結界の解除をアスピスにするよう促した。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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