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第63話(六聖人のお仕事Ⅱの5/寄り道)

[六十三]


「やぁ。約束通り見学させてもらっていたよ。無事終わったようで、良かったね」

「シュンテーマ。本当に来てたんだ」

 精霊が見えないのに、なにが面白くて見学に来るんだろうと思いつつ、昨日エルンストに相談をしていなかったことを深く後悔してしまう。

「あたしたち、もう帰るけど」

「時間はまだたくさんあるんだろ。今日はお茶でもしないかい?」

 和らかく笑うシュンテーマを見るかぎり、悪い人とは思えない。アネモスも、そう感じているから、傍に来ることをしないのだと思う。

 でも、なにか普通の人とは違うような匂いを感じて、アスピスは戸惑いを覚えていた。

(キセオーツ王国側の人間、とかじゃないよね)

 頭に浮かんだのは、今回の2つ目の依頼。

(でも、そうだとしたら、あたしに絡んでくる理由はつくよね)

 そう思い、飛び込んでみるか。と、アスピスはお茶をすることを了承することにした。

「いいよ。時間もあるし、お昼のおやつも食べたいし」

「アスピス。戻った方がいいですよ」

「少しだもん。平気だよ。気になるんだったら、プリヨームは先に帰ってくれて大丈夫だよ」

「いえ。今は俺がアスピスの対ですから」

 プリヨームはそう言うと、責任感を前面に出してきた。

 雰囲気としては、当然俺も同行します! という鼻息荒いものである。

「では、3人でお茶をしに行きましょう。美味しいパンケーキのある店があるんですよ」

 にっこり微笑み、プリヨームの勢いを削ぐように、シュンテーマは告げると、町の中へと入って行く。その後を追うようにして、3人は中央通りにあるちょっとおしゃれな作りをした食堂へ入って行った。

「ここは、お茶やお菓子が専門の食堂。というか、喫茶店なんだ。パンケーキが人気で、お勧めだよ」

 そう告げてくるシュンテーマの説明通り、埋まっている席はほとんど女性で、お茶や、パンケーキ。焼き菓子、パフェなどがテーブルに並んでいた。

「喫茶店なら、王都にもあるから分かるよ」

「あぁ、そうか。知らない人も多いから、つい説明してしまうんだ」

「大きな町でないと、ないらしいからね」

 シュンテーマと話しつつ、周りを見る限り、アスピスの好みとしては、見事に的を射てる感じの店であった。

「誘ったのは、俺だし。俺の奢りだ、好きなものを頼んでくれていいよ」

 アスピスの瞳がキラキラしているのに気づいたのだろう、メニューが書かれている表をアスピスに手渡して来る。

「いえ、お金は自分で……」

「俺が奢りたいと言っているんだから、こういう時は、男に奢らせてくれるものだよ」

 そう告げると、黙ったままシュンテーマを監視というのか観察というのかをしているプリヨームを無視して、店員を呼び寄せる。

「俺と彼にはホットコーヒーを。アスピスはどうする?」

 話を振られて、慌ててアスピスはメニュー表を見直す。

「えっと、イチゴのジュースと、パンケーキをお願いします」

「はい分かりました。ホットコーヒーを2つに、イチゴのジュースとパンケーキですね。しばらくお待ちください」

 店員は手元のメモに素早く文字を書き込みながら、確認を取り、お辞儀をすると店の奥の方へと入って行った。

「さて、それじゃあ、注文したものが届くまで。アスピスでも口説いてみようか」

「え?」

「ちょっと2人で、デートでもしないかい?」

「それは無理です。まだ仕事が残っているもの」

 正直に打ち明けると、シュンテーマは嬉しそうに笑みを深める。

「真面目だね。いいことだ」

「真面目だったら、今頃ここにいないよ」

「確かに。それもそうだ」

 穏やかに応じるシュンテーマは、決して悪い印象を与えてこない。それどころか、人のよさそうな青年である。

「そうだな。それなら、仕事が終わった後、デートしないかい」

「仕事が終わった後でなら」

 いいよ。と言おうとしたところで、プリヨームに言葉を遮られてしまう。

「今日は、俺の方が先約ですから。諦めてください」

 嘘をつき、シュンテーマとの約束を破棄させようとしているらしい。

 プリヨームとしては、現在は、アスピスの対であり、危険を回避させるのが役目なのである。行動としては頷けるものがあった。

 なので、そこは嘘であることを指摘せず、敢えて黙っていることにする。

(実際に、どういう人なのか興味はあるんだけどなぁ)

 なにしろ、アネモスが敵対行動を示すことなくいるのが、気になる。気を許している訳ではなさそうだが、アスピスをアネモスに抱いて乗せるときなど、素直に受け入れていたし、現状は完全に見守り体勢と言った感じなのだ。

 それを考えると。

(キセオーツ王国関連じゃあ、なさそうなんだよな)

 しかし、アネモスの性格などを知らないプリヨームとしては、心配してくれる気持ちはよく分かるし。アスピスの対として守ってくれようとしていることは、とても有り難いとも思う。

(今日は、プリヨームの顔を立てることにするか)

 そう決心し、アスピスは口を開いた。

「ごめんなさい、シュンテーマ。今日は、プリヨームと約束があったんだ。また今度誘って」

「それは、残念だな。では、またの機会に誘わせてもらうか」

 そんなやり取りをしていると、ホットコーヒーが運ばれてきて、続いてイチゴジュースとパンケーキが目の前に並ぶ。

 生クリームがパンケーキの脇に添えられるよう皿の上に乗せられていて、パンケーキにはバターが乗せてある」

 量的にはお持ち帰りコースだろう。

 そんなことを考えながら、パンケーキをひと切れ口に入れた。最初はバターを塗っただけの状態のものを食べてみる。

「んー。美味しい」

「それは、連れて来た甲斐があるね」

「うん。ありがとう」

 素直にお礼を言うと、アスピスはパンケーキを食べ続ける。

 それを、シュンテーマは面白そうに見つめていた。

「本当に、美味しそうに食べるね」

「こういう美味しいものがあるって知ったの、最近なの」

 ケーキの存在は眠りに就く1ヵ月くらいの間に何度も出してもらって知っていたが、当時は味が感じられず、食欲もわかず、なんとも思わなかったのだ。それが甘くて美味しいものだと分かったのは、エルンストたちに引き取られてからである。皆で食べたとき、ケーキの味が初めて分かり、感動したのである。そして、アスピスがケーキが好きだと分かったみんなが、機会があると、色々とお菓子を買ってきてくれるようになり、美味しいものがいっぱいあることをアスピスは知ることができたのである。

「へー。まぁ、子供に甘いものを食べさせたがらない親も多いみたいだからね」

「うん。そんな感じ」

 わざわざ理由を語る必要がないことで、アスピスはシュンテーマの感想に、乗っかる感じで肯定しておく。

 けれども半分くらい食べ終わると、アスピスの手が止まってしまう。

 それを見て、シュンテーマが問いかけてきた。

「量が、多すぎたかな」

「うん。ここってテイクアウトできるのかな」

「ここは、ちょっと無理かな。俺が食べてあげるよ。残すのは嫌なんだろ」

「ありがとう」

 シュンテーマが手を伸ばしてきてくれたことで、アスピスは素直に甘えることにする。

「いや。俺もここのパンケーキの味が気になっていたから、ちょうどよい機会だよ」

 アスピスに気を遣わせないための台詞なのだろう。

(やさしい人だよね)

 それを疑うのは、申し訳なくなってくる。

 そんなことを考えながら、シュンテーマを見ていたら、あっという間にパンケーキが消えていった。

「ごちそう様」

 そう告げると、アスピスの口元へ手を伸ばして来ると、人差し指の背でアスピスの口を拭い、それを自身の舌で舐めとった。

 瞬間、アスピスは、ちょっぴり動揺してしまう。

(行動レベルは、レイス系だ)

 思わずそんな事を考えていたら、シュンテーマが瞳を揺らすようにして微笑んでみせた。

「生クリームをつけている姿も可愛かったけどね。これから町の大通りを聖狼に乗って帰らなければならないからね」

「ありがとう、ございます」

 指摘してくれれば、口を拭ったのに。と思いながら、一応の親切心からの行動であったらしいことで、お礼を言っておく。

 けれども、それはシュンテーマ的に想定外だったようである。くすくすと笑い始めた。

「そこで、お礼を言ってしまうんだ?」

「だって」

「そんなに油断していると、簡単に食べられてしまうよ」

「?」

 なにを言っているのか分からず、首を傾げるアスピスに、シュンテーマは更にくすくすと笑い始めた。

「さぁ、帰ろうか。仕事仲間もそろそろ戻って来ているころだろうからね。あまり遅いと心配をかけてしまいそうだ」

 そう告げると、最初に宣言した通り、シュンテーマが3人分の支払いを済ませてくれ、店の前で解散となった。

 その後は、プリヨームと2人で宿屋へ戻って行ったのだが、その間に、プリヨームから「見知らぬ男の誘いに乗ったりしないでくださいね」といった類の簡単なお小言を受けてしまった。



 プリヨームと分かれ、アネモスを動物小屋へ戻すと、アスピスは部屋へと戻って行く。

 そこには、シャワーを浴び終えて肩にタオルを掛けた状態で、パンツ1枚のまま、なにかの資料に目を通しているエルンストの姿があった。

「ずいぶん、遅かったな」

「うん。ちょっとね」

「っていうか、ちょっとこっち来い」

 エルンストに手招きされるまま、傍へ寄っていくと、エルンストが顔を近づけてきた。

「なんか、甘ったるい匂いがする」

 告げると同時に、唇にキスをしてくる。

「なんか、食ってきたな」

 目敏く聞いてくるエルンストに、アスピスは素直に事実を語って聞かせる。

「うん。パンケーキの美味しいお店があったの」

「そういうことなら、付き合ってやったのに。プリヨームと行ったのか?」

「うん。付き合ってもらっちゃったの」

「対だからって、余り振り回すなよ。どうせ、今日はこれで仕事は終わりなんだ」

 今度から、気になる店があったら俺に言ってこい。と、言外で告げてくるエルンストに、アスピスは素直に返事をしておく。

「うん。次からそうするね」

「そうしてくれ」

 アスピスの返事に、満足したのか、エルンストは再び資料に目を通し始めてしまう。

 もうひとつの仕事関連なのだろうか?

 なにも言ってこないので、分からないが。そんな気がして、しばらくエルンストの様子を見ていたが、アスピスは自分のベッドへ戻って行く。

「エルンスト、そろそろ服を着ないと風邪を引くよ」

「んー」

 心ここにあらず。といった感じの返事が戻ってきただけで、視線は資料にむいたままである。

「お風呂入って来るね」

 どうせ耳には入っていないだろうと思いつつ、断りを入れると、約束である下着姿になることをせず、そのまま風呂場に向かって行き、狭い脱衣所でアイテムボックスを開いて、装備してた冒険着を次々脱いでいき、着替えを取り出すと、風呂場に入って行った。

 ゆっくりお湯につかり、体を洗い、髪を洗って、お湯で流す。そして、再びお湯につかって、その後シャワーを浴びると、アスピスは立ち上がり、結界を作って「乾燥」と呟く。

 瞬間、上昇気流が生み出され、体から水滴がすべて取り除かれていった。そして、風が止むころには髪もきれいに乾いていた。

 タオル要らずで、便利である。

 そして、溜まっていた洗濯物や冒険の装備品を結界の中に収めると、条件に洗濯と汚れ落としと入れ。『洗浄』と『乾燥』を応用して洗濯も済ませてしまう。

 そして、脱衣所へ行き下着を身に着けワンピースを着ると、部屋へと戻って行った。

 それでもまだ、エルンストはパンツ1枚のまま資料受を読んでいた。

 そこそこ時間を掛けたつもりであったのだが、なにをそこまで真剣に読んでいるのだろうと興味が湧いてくる。

 そこで、エルンストの脇へ行き、肩に寄りかかるようにして、資料を覗きこんでいく。

 すると即座にそれを隠すように、ひっくり返してしまった。

「こっちは、お前ら六聖人とは関係ない内容なんだ。なんでもかんでも興味を示すな」

「だって、着替えもせずにずっと集中して見ているんだもん」

 気になりもするよ。と、訴えると、エルンストは資料を脇に置き、珍しくこの時間から私服を身に着けた。

「どうしたの? 制服じゃなくていいの?」

「こっちの仕事を、俺は六剣士だ! って宣言する格好でできるかよ」

「なるほど」

 得心がいったと頷くアスピスは、アイテムボックスの中で山となっている洗濯物に目がいった。

「じゃあ、ついでに洗濯して上げる。汚れ物が入っているカゴを貸して」

「あ? 帰ったらするからいいって」

「どうせ、洗うのはあたしかレイスなんだから、べつにいいじゃん」

「ったく」

 カゴを出し、アスピスにそれを渡すと、エルンストは座り直す。

 それを見て、アスピスは風呂場に戻ると、エルンストの洗濯物をひっくり返し、まとめると、結界を作って、先ほどと同様の条件とレシピで、洗濯を終わらせる。

 そして、再び部屋に戻ったが、エルンストは相変わらず資料に夢中であったことで、アスピスは洗濯の済んだものをいれたカゴを手に、自分のベッドへ戻ると、それをベッドの上にひっくり返してたたみ始めた。

 いつもは洗うだけで、たたむのは個々にさせているため、エルンストがどうやって洗濯物をたたんでいるのか知らないが、そこは適当である。

 アスピス流に服を次々畳んでいくと、いつもは絶対に入っていないパンツが入っていた。

「おぉ!」

 珍しい。と、感動をしていたら、アスピスの声に反応したようにエルンストがこっちを向いてきたと思ったら、慌ててこちらに駆け寄ってきて、アスピスの手からパンツを奪い取っていってしまった。

「なにやってんだ、人のパンツなんか手に持って」

「いや。暇だから、たたんであげようかと思って」

「プライバシーの侵害禁止だぞ」

「パンツ一枚で大げさな」

「年頃の男をなめるなよ。これでも一応繊細なんだよ」

 エルンストの台詞とは思えないような言葉を耳にして、アスピスは呆れた思いで肩をすくませる。

「とかいって、さっきまでパンツ一枚ですっといたじゃん」

「――ッ」

 自分でも説得力に欠けると思ったのだろう。言葉を詰まらせ、アスピスを軽く睨んでくる。

「大人を揶揄うと痛い目にあうぞ」

「揶揄ってなんてないじゃん」

「ったく」

 うるさいと言いたげに、アスピスの顎を掬い取り、上を向かせると。口にキスを落としてくる。

「少しは黙ってろ」

「あたしがねだってしてもらったなら、意味あるけどさぁ」

「小説にねぇのか、口にキスは黙ってろって意味だ!」

 こういうときばかり、恋愛小説の内容を便利に使おうとするエルンストへ、アスピスは心外そうに口を開く。

「えー、そういう意味なの? っていうか。今までそういう意味でしてきてた訳?」

「あー。うるせぇ。意味も色々あるんだよ。大人なら、それを使い分けられるんだよ」

「なんかずるくさい」

 エルンストが言い放った台詞に、不審げな眼差しを向けながら、アスピスは小さく零す。

 しかし、これ以上引きずると今度は本気でなにかされそうな気がして、仕方ないので言われるままに黙ることにした。

 エルンストはそれで一応満足したようである。アスピスの頭の上に手を乗せるとクシャリと掻い操り。自分のベッドへ戻って行ったのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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