第61話(六聖人のお仕事Ⅱの3/到着)
[六十一]
目を覚ますと、アスピスを纏う空気が一転している気がした。
それは、見張り役の時間が終わり、朝食時に露見する。
昨日の残りを朝食に回したアスピスが、お茶に固いパンを浸しながら食べ終え。固く乾燥された果実をナイフで一口サイズに切り分けようと、ナイフを取り出したら、エルンストがそれを取り上げ、アスピスがなにか言うより先に、アスピスの希望していた通りに干した果物を切り分けてくれたのだ。
昨日の夕食時は完全無視だったことを思うと、何事が起ったのかと、不審に感じてしまう。
「ほら。危ねぇから、お前はナイフを使うな」
「ありがとう」
少しはナイフになれないと。と、思ってチャレンジする予定だったのだが、その機会を奪われるどころか、使用を禁止されてしまった。
とにかく、いかな経緯にせよ、目的は達成されたことで、アスピスは干した果物を口へと運ぶ。
気分は飴を舐めている感じである。口の中でコロコロと転がしている内に、柔らかくなっていき、歯で噛み砕くことができるようになっていく。
それを切り分けてもらった回数分繰り返し、アスピスは朝食を食べ終える。
その頃には、他の同行者であるエルンストもプリヨームもエウリュも朝食を食べ終えていて、アスピスを待っているといった状態であった。
そして、アスピスが「ごちそうさま」と呟くのとほぼ同時に、待っていましたとばかりにカップを回収され、隅っこの方でエルンストがカップを洗い始めると、他の2人は寝床の回収を開始する。
それを見て、アスピスも慌てて寝床を回収し始める。今回は防水シートと毛布だけだったので、すぐに片づけは終わり。そのついでに、その際木の陰に隠れて、コンタクトを交換する。
準備はこれで問題ないはずである。
そう思い馬車の方へ行くと、待機していたようにエルンストに腰を抱えられて、馬車に乗せられた。
いつものことなのだが、無言でされているのが違和感である。
そう思いつつ、「ありがとう」と告げて、アスピスは馬車の奥の方へ入って行く。それを見届けると、エルンストは御者席へと向かって行った。
そして、それほど間を置くことなく、エウリュとプリヨームが馬車に乗ってくる。
「エルンスト、今日も御者をすみません。なんでしたら、俺がやりましょうか? 赤道を通っていけばいいので、俺でも十分御者できますよ」
「気持ちは嬉しいが、動かしているのがアネモスだからさ。馬と違って、アネモスに慣れてないと却って難しいところがあるから。気にせず、乗っていてくれ。退屈だろうけどな」
「そう言うことでしたら、お願いします」
お役に立てずにすみません。という感じで、プリヨームは告げると、そのままおとなしく席に座っていた。
それを機に、馬車が動き出す。
昨日も感じたが、馬車の中の空気が微妙な感じなのが、ちょっと疲れる感じである。
いっそのこと御者席に行きたいと思ってしまうが、普段ならまだしも、今は仕事中である。我が儘は厳禁だと、アスピスは自分に言い聞かせる。
そして、二回目の野営を迎えたのだが、今回はアスピスに見張り役が回されることはなく、エルンストとアネモスがアスピスの分も見張りをおこなうということで、終わってしまう。
そして、朝食に保存食を食べると、それぞれ寝床を片付けて、出発の準備を整えると、目的地となるロトンドの町へ向けて出発し、昼になる前に到着した。
視界に収まるほど近くはないが、この町が、キセオーツ王国との境界線となる大きな壁となる、国境を行き来する者たちの審査の役目も担っている砦に最も近いとされている、町である。この先にはもう町や村は存在せず、キセオーツ王国に向かって赤道の上を馬車を半日も走らせれば、キセオーツ王国とイシャラル王国の境となる関所に到着するそうだ。
そんな位置に作られた、ロトンドの町の入り口前で馬車をアイテムボックスへしまうと、アネモスを解放し、町の中へ入って行く。
場所柄もあるのだろう、王都と同じくらい立派で頑丈そうな高い壁で町が囲まれていて、町に入ることの出来る場所は、今アスピスたちが入って来た門と、キセオーツ王国側に作られた門の2つだけらしい。
町へ入る通行料は、王都と同じく銀貨1枚らしいが、王国からの仕事で来たことを証明することで通行量は免除され、あっさりと通される。とはいっても、定期的に結界棒への精霊の補充と結界の強化が義務付けられているこの町へ、仕事で何度も来たことがあるらしいエルンストとエウリュの顔を門兵たちが覚えてしまっていることが、手続きを簡素化された理由であるようだが。そんな待遇に慣れてしまっているエルンストとエウリュは気にすることなく、それが当然であるかのように門を通過していったのであった。
「とにかく、この町の町長のところへ行くぞ」
アスピスに説明しているのだろう。わざわざ声にして、エルンストが言ってくる。
そしてみんなが歩き出したのだが、いつもならみんながアスピスの歩調に合わせてゆっくり歩いてくれるのだが、現在はそんな雰囲気ではなく。アスピスはアネモスを呼ぶと、アネモスに乗って、みんなの後について行く。
いつもなら、大勢の前でアスピスがアネモスに乗るのを反対するエルンストだが、今回はアスピスがアネモスに乗っても何も言わずに歩いているだけであった。そのおかげ、というのも変だが、町の人の好奇の視線と、冒険者の奇異な視線を一身に受け止めながら、みんなの後ろをついて行く。
これで立ち止まりでもしたら、冒険者に声を掛けられまくりそうな雰囲気である。
家の中ではまるで飼い犬状態であることから忘れがちだが、下アトラエスタでは聖なる血を引く種族は数が少なく、聖獣の。しかも聖狼の希少種であるアネモスは非常に珍しいのだと、実感させられる。
冒険者クラスも上位の者にもなれば、それなりに観察していれば、アネモスが魔獣ではなく聖獣であることを見抜き、それを使い魔にしているアスピスの精霊使いとしての実力も、自動で推し測ってくれるらしく。子供だからという理由では甘く見ることをしてくれないようだ。
ただし、子供だから扱いやすそうだとは思われはするだろう。
とくに現在は、いつもと異なり借りてきた猫状態のアスピスである、すたすた歩く3人の後ろを必死に付いて行っている感が強く。見ている者にも、4人をパーティとして見ても、アスピスの存在が浮いていることが分かってしまうようで、これはチャンスだと思われてしまうらしい。仲間に引き込んで損はないという判断から、声を掛けてみたくて仕方がないという雰囲気の冒険者がうようよしていた。
エルンストは、こうなるのが嫌で、普段、大きな町ではアネモスに乗ることを嫌がっていたんだなと実感はするが、どうしようもない。
そして、大通りの中央に到着すると、大通りとそう変わらない大きな道がまっすぐ伸びていて、その先に大きな屋敷が立っていた。場所が場所だからか、この町の町長は爵位持ちとのことだ。
そんなどうでもいい情報を頭の中で思い出しながら、アスピスはみんなの後ろを付いて行き、道を曲がってからしばらく歩き続けると、ようやく豪邸に到着し、正門を通り抜け、馬車も通れるよう整備された前庭をまっすぐ通っていくと、正面玄関へ到着する。そこでみんなはいったん止まり、アスピスがアネモスから下りるのを待って、エルンストがドアノッカーを数度叩く。
それに反応するように、数呼吸間を置くようにして、玄関がゆっくり開かれる。その中から現れたのは執事の格好をした老人であった。
「これは、エウリュ様にエルンスト様。それから、王国管理室所属の方々でしょうか?」
「あぁ。定期の結界棒の確認と補充に来た」
「いつも本当にありがとうございます。そろそろ来られるころだと思い、旦那様がお待ちになっておりました」
「いや、今回は他にも用事があって、宿屋の方で世話になることになっているから、到着の報告に寄っただけで。正式な挨拶は、終了したら、その時はきちんとさせてもらいたい。サインも必要だしな」
「分かりました。では、旦那様にはそのようにお伝えしておきます。確認と補充の方、よろしくお願いします」
執事が頭を下げながらそう言うのを聞き、エルンストは「数日内にまた来る」と残して、他の同行者へ目配せし、その場を立ち去る。そして、玄関から少し離れたところで、執事に見送られる中、アスピスは急いでアネモスに乗ると、3人の後を追いかけて行った。
この町に来たら、ここ。と決めている宿があるようで、エルンストとエウリュは迷うことなく道を進み、ひとつの立派な宿屋の前に止まると、中に入って行く。その脇には宿屋の造りの印象を損ねない立派な動物小屋が建てられていた。
(今回は、アネモスは入れないかもな)
そんなことを考えながら、アスピスはアネモスを外に待機させて、3人が入って行った宿屋の中へ入って行った。
中の造りも豪華である。
受付カウンターに立っている男性も、ピシッとスーツを着用していて身だしなみが整えられており、いつも泊る宿屋とは全然違うと感じてしまう。
「4人と、今回は聖狼が1匹いるんだが」
「それでしたら、聖狼の方は隣の動物小屋でお預かりさせていただきます。お食事は、生肉でよろしいので?」
「あぁ、頼む」
「では、朝と夕にお出しさせていただきます」
どうやら、食事付きの宿らしい。それも、魔物にも与えてくれるようで、サービスが行き届いた宿屋のようだ。
「それと、お部屋の方ですが」
「1人部屋を2つと、2人部屋を1つ用意できるか?」
「あ、はい。少々お待ちを」
そう言うと、ノートを開き確認を行い始める。そして、少し経つと宿屋の受付の男は、笑顔を浮かべた。
「ご希望のお部屋3室ともご用意できます」
「じゃあ、それで頼む。会計はいつも通り王国管理室宛に請求してくれ」
「かしこまりました。では、ここにサインをお願いします」
受付の男がそう告げると、用紙とペンをエルンストの前へ向けて差し出し。エルンストは慣れた手つきでサインを記入する。
「聖狼は、宿屋の前にいる黄金色の狼でよろしいので?」
「あぁ」
「では、まずそちらからご案内させていただきます」
「あ、いや。そこにいる女生と男性は、それぞれ個室へ案内しておいてくれ。聖狼は俺とこの娘のなんでな。2人部屋は、俺とこの娘で使わせてもらう」
「では、そちらのお2人は他の者へ案内させましょう」
そう言うと、一度礼をして、受付の奥へ入って行くと、スーツとスーツと同じ色のシンプルなドレスを着た男女二人を連れてきて、プリヨームとエウリュをそれぞれの部屋へ案内するように指示すると、受付の男は再びエルンストの前へ戻ってきた。
「では、まず、動物小屋の方のご案内からさせていただきます」
男はそう言うと、宿屋の入り口を開け、聖狼の前へ向かって行き、エルンストの方へ振り返ると、隣にある動物小屋までアネモスを移動させるようお願いしてきた。
アネモスが案内された場所は、綺麗な藁が敷き詰められた、清潔そうな場所で。水も常時飲めるようにしてあった。
そのため、安心してアネモスをそこに預ける気になれた。
アネモスも、王城で何度も動物小屋で世話になっていたことで、こういう場所にも慣れてしまっていたようで、ここで過ごすよう告げると、文句を言うことなく、藁が敷き詰められた場所に移動していくと、丸くなって横になってしまった。
「お食事の時間は朝は7時、夜は6時となります。生の牛の肉を与えることになりますが、量はどのくらいがよろしいのでしょうか?」
「えっと、このくらいのスープ皿にいっぱい入れるくらいで」
といいつつ、アスピスは慌ててアイテムボックスを開くとアネモス用の皿を取り出し、受付の男に見せると、納得したように男は頷く。
「わかりました、そのサイズのスープ皿にいっぱいですね」
「はい。お願いします」
アスピスはそう言うと、皿を戻してアイテムボックスを閉じる。
「では、こちらの方のご案内はこれくらいで。お部屋の方へご案内させていただきます」
男は2人を先に歩かせるようにして、動物小屋を後にして、素早く動いて宿屋の戸を開けて、2人を通すと、今度は男が前に立ち、2人を先導するようにして、2人に宛がわれた2人部屋に案内してくれた。
「お部屋のご利用方法は、いつも通りということで大丈夫でしょうか?」
「あぁ」
「それから、朝食と夕食は、1階にある受付脇の廊下の突き当りにあります食堂にてお取りください。お時間は午前6時から12時までの間でしたらいつでも朝食をおとりになれます。夕食は午後5時から夜中の12時までの間でお願いします」
「わかった。ありがとう」
男は頭を下げると、エルンストの言葉を受け、扉を閉めて部屋を去って行った。
部屋はいつもより装飾がほどこされた感じで、部屋の中央にメインとなるベッドが2つ並べられていて、その間にサイドテーブルが置かれ、その上にベッドサイドランプが載せてあるといった感じなのだが。それ以外に、窓の前に、1人がけのソファーが四角いガラスのテーブルを挟んで2つ並べられていた。カーテンもレース状のカーテンと布のカーテンが二重に掛けられていて、タッセルでまとめられ、房掛けに引っ掛けられていた。
しかも、室内にトイレとお風呂がついていて、アスピスはそれに驚きを隠せなかった。
「なに、この贅沢仕様は」
「エウリュと一緒に仕事するときは、泊る宿屋はいつもこんなもんだ」
「そうなんだ」
正直信じられないと思いながらも、もらっている給料を考えれば、貴族。それも上流の方の生活に合わせた額をもらっているそうなので、これでも控えめと言えるかもしれない。
とはいえ、少しずつ常識が増えつつあるアスピスの持つ、未だまだ数の少ない知識の中で、貴族には土地が与えられていて、そこで町や村を統治して税金を集め、国に納めているそうなので、王都の王城で国のために働いている貴族は別にして、国からお金を貰うよりも支払っている額の方が多いみたいなのだが。
「それより、今日はもう仕事はしないから。明日のために休んでおけよ」
「え? だって、まだお昼になったところだよ」
「仕方ねぇだろ、それがエウリュのペースなんだから」
結界に関しては、完全に六聖人任せで、六剣士にできるのは護衛くらいなのだ。しかも、これくらい大きい町だと一本の結界棒に対して使うマナの量も半端なく、一度で済ませることは不可能なので、数日掛けて結界棒へ精霊を注ぎ入れていくのである。
その間、ただただ見守るのが、護衛の役目である。
「俺は、明日からエウリュと組んで結界棒の確認と補充をしていくから、お前はプリヨームとアネモスと一緒に結界棒の確認と補充をすることになるんだが」
「うん。分かってるよ」
「うん。じゃねーよ。この間みたいに、1人でアネモスに乗って、補充しまくるんじゃねぇぞ。エウリュだと、この町の規模だと、1日2本のペースなんだからな。マナを使いすぎて倒れるくらいなら、日数掛けて元気でいてくれる方が、こっちは安心だし、楽なんだ」
「分かったよ。明日、エウリュに聞いて、補充本数決めるから」
口うるさいなぁ。と思いつつ、いつものエルンストに戻っていることにアスピスはホッとする。
「それから、なんとかエウリュにキセオーツ王国側の結界棒を担当してもらうようにするから、お前はなるべくキセオーツ王国側には行くなよ。なんか怪しい動きがあるらしいからな」
「うん」
エルンストに注意され、アスピスは素直に頷く。
アスピスにはピンとこないが、キセオーツ王国では、アスピスは死んだことになっているらしい。ただし、キセオーツ王国の現王の子供で、イヴァールとは双子ということらしいのだ。
そして、キセオーツ王国は軍事大国である反面精霊術には長けておらず、国内にいる精霊使いの数は少なく、アスピスの存在がバレれば、絶対に返せと言ってくるだろうというのが、大人たちの見立てである。
なんといっても、王の子である証を持ってしまっているので、それがキセオーツ側に知られてしまったら誤魔化しようがないらしい。
ただ、殺したことになっている上に、イヴァールと年齢が合っていないこともあり、アスピスを返す必要はないと踏んでいるシェーンたちは、向こうがなんと言ってきても返す気はないと言ってくれてはいるのだが。
「脅しすぎたか?」
「ううん。大丈夫」
アスピスが考え込んだ様子で黙り込んでしまったため、エルンストが心配するようにアスピスの顔を覗きこんでくる。
そのため、アスピスは笑顔を作って否定してみせた。
「気を付けるから。コンタクトもしっかりつけてるし」
「本当に、大丈夫かよ。プリヨームもいい奴っぽいが、気を許すなよ」
「えー。いい人じゃん」
「それとこれとは別なんだ。絶対にアネモスの傍から離れるなよ。俺は明日は一緒にいられないんだ」
念には念を入れるよう、くどく告げてくるエルンストに、さすがにそれは気にしすぎなんじゃないかと思い呆れてみせるが、エルンストはそれなりに真剣らしい。笑って聞き流せる雰囲気ではなかった。
「分かったよ。ちゃんとアネモスの傍にいるから」
「まぁ、アネモスも自分しかいないとなったら、お前の護衛を最優先にするだろうけどな」
とにかく、先ずは、結界棒の確認と補充が優先ということなのだろう。
追加の仕事は、その後に改めて行うことになるみたいである。どうやってなにを調べるのか、アスピスにはよくわかっていないのだが。そっちの分野はエルンストたちに任せるものなのだろう。
「ねぇ、それより。お風呂入ってきていい?」
「あぁ、好きにしろ。好きな時に入っていいらしいからな」
「そうなんだ?」
エルンストの台詞に、高い宿屋は色々と違うんだなと思いながら、アスピスは冒険装備を脱いでいく。そして、下着一枚になると、替えの下着と質素な膝丈のワンピースを手にしてお風呂に行こうとしたら、エルンストから待ったがかかった。
「服に着替えるのはいいが、王宮に行くときくらいのワンピースにしておけ。一応、高級宿屋だからな。夕食に行くときにあまり質素な奴だと変に目立つぞ」
「えー。分かったよ」
嫌だとは言えず、渋々とアイテムボックスの中に入って、王宮へ行くときに着る程度にはレースなどの装飾がほどこされ可愛らしい見た目となるワンピースを選ぶと、アスピスは改めて風呂場に向かった。
入るときはなにも言わなかったのに、お風呂から出てきた際、熱くて下着一枚でいたら、怒られてしまった。
「なんでそう、デリカシーにかけてるんだ?」
「パンツ一枚の人に言われたくないんだけど」
「男はいいんだよ、男は」
「男女差別だ」
アスピスはぷくりと頬を含ませる。そこを、エルンストは容赦なく人差し指で突いてきた。
「拗ねてる暇があったら、服を着ろよ」
「分かったよ。お風呂に入って、体が熱かったから涼んでいただけじゃん」
「開き直ってねぇで、さっさと着ろって言ってんだろ」
これは実力行使をするしかないと思ったのか、エルンストはアスピスの脇に置いてあるワンピースを手に取ると、無理矢理アスピスに着せにかかった。
「つーか。これもレイスに買ってもらったのか?」
「ん?」
ふと思いついたように、エルンストに問いかけられ、瞬時には意味を解することができず、アスピスは訊き返す。が、間をおいてエルンストが言っている意味が分かったことで、正直に答えた。
「うん。レイスが買ってくれたやつだよ。可愛いの見つけると、買ってきてくれるの」
ワンピースは質素なものを選ぶのに、キャミソールやショーツは裾に可愛くレースが付いているものや、可愛い動物の絵柄がついているものを好んで着るので、そんなアスピスに合わせ、レイスが買ってきてくれるのである。
洗濯してくれているときに、アスピスが好んで着ている下着を見て、アスピスの趣味を把握しているのだろう。それなのに、服を買ってきてくれたときは、何故にアスピスが普段着たりしないヒラヒラキラキラだったのか聞いてみたいものである。
「なにげに、勇気あるよな。レイスは」
「なんで?」
「なんでも、だよ。つーか、下着は自分で買うようにしろよ。男に贈らせてねぇで」
「だって、買ってきてくれるんだもん」
エルンストの台詞に、アスピスは反論しつつ、エルンストがなにも言わないのでボタン掛けをエルンストに任せてしまう。
「もしかして、エルンスト、妬いてるんだ?」
なにげに冗談で言った台詞に、思いの外真顔で返されてしまう。
「悪いか?」
「悪くはないけど、驚いた」
まさか、本当にそうなのだとは思っていなかったのだ。
「せっかく一緒にいるって言うのに、今回は別行動になるしな」
すべてのボタンを掛け終えたところで、アスピスの額に口づけてくる。
「好きな奴が、他人の買ったものを着ているのは、面白くねぇだろ」
「変なところにこだわるよね。エルンストって」
「普通だろ、こんなの」
自分が特別に嫉妬深い方だとかいうようなことは、エルンストは思っていないようである。
実際のところ、どうなのか、アスピスにも分からなかった。
「さてと、昼寝でもするか」
「エルンストはお風呂入らないの?」
「夕飯を済ませたらな。精霊使いとは異なり、六剣士や王国管理室所属の騎士は、基本として、仕事中はそれぞれ専用の冒険時用の服を着用することになってるからな」
「そうなんだ」
「あぁ、だから同じ服が何着もあるぞ。しかも、冒険用と王城用と正装用と種類も豊富だ」
「……」
エルンストは笑いながら告げてきたが、想像するとあまり笑えない気がして、アスピスは無言になってしまう。そんなアスピスを抱き込みながら、エルンストはベッドに横たわってみせた。
「本当に、なにも無いんだ? 午後は」
「あぁ。だから、体力は温存しとけ。俺もそうする」
そう言うと、アスピスを腕の中に収めたまま、エルンストにしては至極珍しく昼寝を始めてしまう。
(仕方ない。付き合ってあげるか)
アスピスはちょっぴりお姉さんぶるような気持ちで、エルンストの腕の中で寝心地の良い態勢を見つけ出すと、そのまま目を閉じた。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




