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第57話(ナグラーダからの招待状1)

[五十七]


 冒険者としても六聖人としても活動することのないまま、半月くらいが過ぎようとしていた。体を休めるには長すぎるが、アンリールに先生となってもらい精霊使いについて学ぶにはちょうどいい期間であった。

 足の悪いアンリールは、冒険者ギルドに一応登録はしているらしいが、冒険者としては活動しておらず。たまにギルドからの依頼を受ける程度に留まっているらしい。また、それに付き合うようにしてカサドールも冒険者ギルドに登録はしていても、アンリールとパーティを組んでいることも重なり、アンリール同様にギルドの依頼をこなす程度に留まっているらしい。

 そのため、六聖人の仕事が入らない限り、ほとんど王都から出ることのないアンリールには時間がかなりあるようで、アスピスが顔を出すと、いつも嬉しそうに迎えてくれるのだ。そして、一生懸命に先生役となっていろんなことを教えてくれるのである。

 それこそ、アンリールが持っている知識のすべてを披露してくれるように、惜しげもなくアスピスに色々なものを注ぎ込んでくれていた。そして、それをどんどん吸収して、必死に学び、教わった通りに実践してみせるアスピスを、とても愛おし気に見守ってくれるアンリールは、アスピスにとって本当に良い先生であった。

 だから、というのも変であるが。長いこと閉鎖された空間で外界と接触することなく生きて来たアスピスには、日常生活においても常識が欠落している部分が多々あるが。精霊使いに関しては更に知らないことが多すぎて、なにもかもが未知なるものばかりだったため、アンリールの教えてくれることすべてが輝いて見え、アスピスにとってもとても楽しい時間となっていた。

 そして、今日もアンリールの元へ、精霊使いに関して学びに行く予定が入れられている。

 そのため早起きをして、窓を開け空気を入れ替えながら、寝着からちょっと豪華めのワンピースに着替え、三つ編みを二本作って身支度を整える。

 それが終わると、日課にしろと教わった、手紙のチェックである。

 アイテムボックスを開き、六聖人(赤)のボックスの入り口すぐ脇に設置されているポストに手を伸ばし、取っ手を引いて蓋を開けると、大抵は空で。時々シエンからのプレゼントが入っているポストの中に、今日は手紙が入っていることに気が付いた。

「お仕事かな?」

 それにしては、前回の記憶とは異なり、豪華そうな封筒であることに首を傾げつつ、アスピスは封筒へ手を伸ばす。

 そして、それを手に取り、送り主を目にした瞬間、反射的に思わず手紙を破りそうになっていた。

 それができなかったのは、思いの外紙が丈夫で、且つ、中身がしっかりしていたからである。

 薄い用紙であったら実行されていたに違いない。

 けれども、破けなかったことで、微妙に冷静さを取り戻したアスピスは、封を開けて中を確認することにした。

(なんで、あたしにかまうのよ! 放っておいて欲しいっていうのに)

 アスピス的には絶対に近づきたくない相手であるため、腹を立てつつ、封を切る。そして、アスピスが手紙を破くのに失敗した原因となる、中に納まっていた二つ折りの固くしっかりした紙を取り出して、折り目を伸ばすようにして開くと、パーティの招待状であることが分かった。

「パーティって、なによ?」

 良い思い出のないパーティは、アスピスにとって鬼門であった。

 思わず、こんなものは見なかったことにしようかと思いたかったが、主催のトップはナグラーダとなっていたが、連名にシェーンとイヴァールの名前もあり、それなりにちゃんとした王族主催のダンスパーティであることが読み取れてしまったことで、一応王国付きの役職についているアスピスは、これの処遇について悩んでしまう。

 そして、素直に同じ王国付きの役職に就いているレイスとエルンストに相談することに決めた。



 朝食を済ませ、片付けを終わらせ、食後のコーヒータイムに入ったところで、カロエが元気よく冒険者ギルドの訓練場へ向かうのを待って、アスピスはレイスとエルンストに話しをすることにした。

「ねぇ、レイスにエルンスト。今朝、ポストを確認したら、こんなのが送られてきてたんだけど」

 そう言いながら、テーブルの中央に封筒と、招待状と書かれた縁取りに豪華な装飾が施されている、二つ折りのカードを置いてみせる。

 2人の反応は、驚いたというよりもやっぱりかといった感じであった。

「俺にも今朝届きましたから、主催にナグラーダとあったので、アスピスにも届いているのだろうなと思ってました。やっぱり届いてましたか」

「俺にも届いてたぜ。主催の欄にシェーンとイヴァールの名前もあったからな、六聖人と六剣士、六大貴族に元老院、六賢者。それとアスピスを招待する理由付けとして、王国管理室所属の精霊使いや騎士辺りは一通り招待状を送っているんじゃねぇか? あとは、会場を人で埋めるために、シェーンの知り合いや名前が知られている騎士や貴族を適当に選んで招待状を送りつけているんだろうよ」

 レイスの台詞に、エルンストが付け加えるように告げてくる。

 そんなエルンストの意見に、レイスも同意であったようである。「ですよねぇ。俺もそう思います」と続けた。

 そんな2人に向け、アスピスは問いかける。

「ねぇ、これって無視ってできないの?」

「王族主催だからな。王国関連から仕事が入ったとかいうなら不参加の理由にはなるが、それ以外は参加するようだろうな。そもそも、王族主催のパーティへの参加を嫌がる人なんて、普通に考えたらいねぇだろうよ。それどころか、多少体を壊していても、パーティへの参加の方を優先する輩ばかりだろうな。王族に会える機会なんて、貴重なんだ。なにげに色々あって俺たちはシェーンやイヴァールとそれなりに会ったりしているが、本来は高貴とされる王族だ。滅多に会える存在じゃねぇからよ。こういうのは、覚えめでたい対象になるのに絶好の機会だろ。それも、王族から招待してくれたんだ、自慢にもなるし」

「まぁ、本来でしたら成人する15歳になったときに、お披露目も兼ね、そこで初めて主催となってパーティを開くものなのですが。よほどアスピスに会いたいのでしょうね。ナグラーダ様は未だ12歳のはずですから。それに、ここ最近、毎日アスピスが王城へ通っているのに、ナグラーダ様に遭遇せずに済んでいるのは、王族は基本として王族が暮らすスペースからは出ないことになっていて、国政に関わっている王族は別ですが、職場となる側への出入りは禁止とされているからなんですよ。ですから、このような手を考え出したんでしょうね」

「そんなことどうでもいいの。あたしは、あんな奴に絶対に会いたくないの!」

 感心するようにもらしたレイスの呟きに、アスピスはきっぱりと言い切った。

「だから、こんなパーティにも出たくないの!」

「それは無理だろ。表向きはどうであれ、お前は王国所属の六聖人なんだ。王族は王国において支配者側だ。それに仕えている身で逆らうことは許されないだろ。それこそ、仕事でも入らない限りな。ついでに、シェーンが付いているってことは、裏に手を回してでもパーティに参加させる気でいるだろうから。アスピスに仕事を回させないくらいのことは、すでにやっているだろうしな」

「ナグラーダ様は、兄弟のいないシェーン様にとって、弟のような存在らしいですからね。それはもう可愛がっていられると聞いていますし。ある意味、盲目状態になりがちでしょうから。頼られたりしたら、全力で応えるくらいのことはしそうですよね」

「――ッ! シエンの指輪って外せないんだよね」

 舌打ちし、さり気に怖いことをアスピスは呟いた。

「アスピス、ペアリングを外そうなんて試みたことがあるんですか?」

「だって、強制なんて癪じゃんか。なのに、外せないの! これ、呪われてんじゃないでしょうね」

「まぁ、強制的に契約させる指輪ですからね。シエンでないと解除できないように作られているじゃないでしょうか。特注品だそうですし」

「あー、もう。シェーンのばかー。シエンなんて大嫌いだー。なんで、あんなガキに肩入れしちゃってんのよ!」

 アスピスが、叫びながらテーブルに突っ伏す。

「アスピス、あなたの気持ちは分かりますが。こればかりは俺たちにもどうしようもないというか。パーティを開催する目的が、ナグラーダ様にアスピスと会わせてあげるためのものなのでしょうから。どう足掻いても、逃げるのは先ず無理だと思いますよ」

 諦めてください。と、宥めるように告げてくるレイスに、アスピスは怒りの炎をメラメラと燃やしていた。

(絶対に、思い通りになんてさせないんだから!)

 王族だからって、なんだというのだ。負けてたまるかと、アスピスは心の底から思ってしまう。

 そんな闘志を燃やすアスピスへ、エルンストが不機嫌そうに呟いた。

「どっちにしろ、一週間後にはパーティだ。六聖人のお披露目パーティと異なり、俺たちもフリーでいられるし、シェリスもフォルトゥーナもフリーだしな。なんだったら、アンリールやカサドールにも協力を頼むって手もある。あいつらには貸しがあるからな、頼めば協力してくれるはずだ。だから、絶対に、お前ひとりになるんじゃねぇぞ」

「エルンストも、本気ですねぇ」

「レイスがのんびりしているんだろ」

「いえ、そうでもないのですが。でも。恋愛小説を恋愛指南書にしているような方らしいので。なんとなく、大丈夫なんじゃないかなと思えてはいるんですよね」

 エルンストが力説する傍らで、レイスがのんびりと呟きながら、コーヒーを一口飲んだ。

「ただ、アスピスが本気で嫌がっているのを知っていて。尚且つ、この件に関して今後の対応策を話し合う約束をしていたというのに。その場を設ける前にこのような行動に出たシェーン様とイヴァール様には相応の怒りは感じていますよ。もちろん」

 にっこりと告げてくるレイスから、心の底の方で沸々と湧き上がっているらしい怒りが感じられ、エルンストはちょっぴり逃げ腰気分でレイスを見つめる。

「あー、うん。一度、シェーンに手紙でも送ってみるか」

 急に怒りの熱が冷めたように、冷静に告げたエルンストの発案に、レイスも異論がないらしい。そもそも、エルンストもレイスもどういう経緯によるものなのか知りたくもあったため、エルンストがシェーンに手紙を出すことで話が決まり、この場は一度お開きとなる。

 そして、アスピスは残念に思いながらも、アンリールに今日は勉強をしに行くことができなくなった旨の手紙を送ると、服をいつもの質素なものに着替えたのであった。



 午後になり、軽食を摂りつつお茶を飲んでいたら、玄関がノックされた。

 それを待っていたかのように、エルンストが玄関を開くと、シエンが中へ入ってくる。

「失礼します。シェーンに手紙が届いたので、お邪魔させてもらいに来ました」

「あぁ、待ってたぞ。きちんと説明してくれるんだろうな」

「もちろん。誤解されたままでは、俺の方も困りますから」

 シエンはそう言うと、レイスが出してくれたお茶が置かれた席に着くと、一口お茶を口にしてから、謝罪から入ってきた。

「この度は、突然の招待状の送付に、さぞ驚かれたと思います。すみませんでした」

「それはいいから、詳しい経緯を話せよ。アスピスが、あのガキのことを嫌っていることくらい、この間の様子から分かっていたはずだぞ」

「それなんですが、メイドのアンが、ナグラーダに妙な入れ知恵をしてくれちゃいまして。パーティを開かざるを得なくなってしまったんですよ」

 シエン。というより、シェーンとして本当に困ったという感じで、シエンは呟く。

「ナグラーダやアンの中では、アスピスは平民ということになっていて。パーティに着て行くドレスも靴もアクセサリーもなにも用意できないだろうから、パーティ当日にアンがパーティに出席するためのドレス他一式を持ってくる予定みたいです」

「いや。アスピスの周りに六剣士や六聖人がいる時点で、仮にアスピスが平民だとしても、パーティに出るためのドレスなりを用意できることくらい想像できねぇのか……」

「そこは、もう、恋愛小説脳のアンの直伝といいましょうか。とにかく、王族にパーティへ招待される平民なんて、そうはいませんからね。自分がいかナグラーダに想われているか、そこで実感して感動するだろうと。しかも、ドレスまで用意してくれるなんて……って感じで、アスピスの気持ちがナグラーダに完全に傾くはずだと」

「その前に、パーティ止めろよ!」

 しみじみと、ナグラーダがシェーンを相手に力説しただろう事柄を口にするシエンに、エルンストは容赦なく言い切る。

「俺だって、本音は止めたかったですよ。それになにより、ナグラーダはまだ12歳ですから。主催をするには早すぎますし。それで、シェーンやイヴァールが連名する羽目になってしまった訳です」

「訳ですじゃねぇだろ。そうなる前にストップ掛けるのがお前らの役目だろ」

「止めたりしたら、アンと一緒になって、更に状況を悪化させて暴走しちゃうような子なんですよ。ナグラーダって」

 シエンでありながら、口調や仕草がシェーンになっていることに気づいてないのか、シエンはほとほと困った様子で告げてくる。

「っつーか。その、なんだ。恋愛小説脳の持ち主であるアンっていうメイドから、ナグラーダを離した方がいいんじゃね?」

「それが、ナグラーダの両親っていうのが、困ったことに、自分の子供に興味が無い人で。そのせいで、使用人やメイドからも遠巻きにされて育ってきた子なんです。そんな中、メイドのアンだけは、ずっとナグラーダの傍にいてくれて、色々と面倒をみてきてくれてたんです。そんなんだから、シェーンとしても放っておけなくて、こまめに顔を出すようにしていたんです。そのため、物心つくころには、シェーンやアン以外には心を開かなくなってしまっていて。それが、先日花祭りで会ったアスピスに一目惚れしてしまって、初めて芽生えた感情が暴走してしまって、歯止めが利かなくなっているみたいなんです」

「シェーンがナグラーダに甘い理由は分かったが、だからと言ってあのガキにこれ以上振り回されるのはごめんだぞ」

 あの日、アスピスを落ち着かせるのに結構時間がかかったのである。

 そのことを思い出しながら、エルンストが言い放つと、シエンもそれは分かっているようで、素直に頷いた。

「ナグラーダを主催のトップにしているとはいっても、ナグラーダは未だ12歳の未成年ですから。事実上はシェーンとイヴァールが開催するパーティだと、招待客たちは解釈されているでしょう。ですが。形式上とはいえ、主催の代表者ですから、挨拶周りでかなり拘束されると思うんです。だから、アスピスに構っている時間はほとんど取れないと思ってくれていいかと」

 楽観的感想を述べるシエンの台詞を、本当に信じていいものか。エルンストを初めレイスもアスピスも疑い深そうにシエンを見つめる。

 瞬間、シエンが心外そうに3人を見返した。

「俺を責めたい気持ちも分かりますが、これでも、俺だって巻き込まれた側なんですからね! パーティなんて開く予定も時間もないのを、なんとかやりくりして開催時間を作り出したんですよ。それに、俺としても、アスピスを見初めるなんて、想定外すぎて。まさかナグラーダがライバルになるなんて」

「そんなこと知るかよ。つーか、いい迷惑でしかねぇぞ」

 シエンのグチに、エルンストは吐き捨てるように言い返す。

「そうは言いますが、半ば脅されてパーティを開くことになったんですからね。アスピスにこれ以上会えないようなら、アスピスが住んでいる家の方へ会いに行くって言い出して。こっちはそれを必死になって止めたんですから、感謝して欲しいくらいですよ」

 血気盛んなナグラーダと恋愛小説脳のアンのタッグを、イヴァールと共に言葉巧みに丸め込み、なんとかそれだけは止めさせたのだ。そのために結局はパーティを開くことになってしまったのだが。それでもとても大変な思いをしたシェーンを褒めてくれてもいいはずだと、シエンは力説する。

「とにかく、花祭りの人混みの中どうやって見つけ出したのか知りませんが、初恋の上に一目惚れらしくて、なにがなんでも手に入れたくて仕方がないみたいなんですよね。しかも、やたらと反抗的で、とても威勢がいいところも気に入ったみたいですよ」

「趣味悪りぃな」

 速攻で呟かれたエルンストの呟きに、アスピスは心の中で『悪かったわね!』と叫んではみたが、現実は話しの邪魔になるので黙っていた。

 ちなみに、シェーンが聞いた話しによると。

「なんでも、そういう娘ほど、想いは一途だと思っているみたいで。振り向かせたら、自分だけを見てくれると信じているらしいです。もちろん。っていうのも変な話しですが、これも恋愛小説からの受け売りらしいのですが」

「この世から、恋愛小説ってのが消えてくれねぇかな……」

「えー。それは困るよ! 楽しいんだから」

 シエンの台詞に、エルンストの本音がポロリと零れ出た瞬間、アスピスがエルンストに文句を言う。そして、改めて宣言するように、シエンに向けてきっぱりと言い切った。

「とにかく、あたしは行きたくないから!」

「アスピス。あなたはまだ小さいから、よく分かっていないのかもしれませんが。こう言ってはなんですが、この国の支配者である王族からの正式な招待状なんですよ、本日アスピスの手元に届いた招待状は。たとえ主催者の代表が、未だ子供であるが故に、王族であること以外なんの権力も持たされていない、ナグラーダであったとしても。支配される側に立っているあなたには拒むことはできないと思ってください。特に、ナグラーダの目的はアスピスなのですから。逃げることは許されません」

 真面目な顔で告げて来たシエンに、アスピスは小さく息を飲む。

 口調は優しかったが、含まれた意思はとても強いものであることが、伝わってきたのだ。

「俺も、当日はシェーンとして、できる限りナグラーダを監視するつもりでいますが、なにぶんすばしっこくて。挨拶めぐりが飽きてくるころ、隙を見つけて逃げ出すと思います。ですので、エルンストたちもアスピスをひとりにしないよう心掛けておいてください」

 それが最良の策だろうとシエンは告げると、コーヒーを再び口にした。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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