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第51話(ギルドからの依頼2/出発)

[五十一]


 翌日の夜。連絡を入れておいたシェリスとルーキスが、家を訪れてきた。

 今回、フォルトゥーナは、冒険者ギルドが手を回す前に仕事が入ってしまい、対のノトスと既に仕事に出てしまっていたために、一緒に依頼を受けることができなくなってしまったのである。

 きっと今頃、ノトスは幸せ絶好調なことだろう。

 アスピス的には寂しいのだが、仕方がない。

 そんなことを思いながら、コーヒーを飲んでいたら、王国の上位職にのみ閲覧が許された資料に目を通していたシェリスが、一通り読み終わったようで、用紙の束を封筒に戻してエルンストに返した。

「ご指名というなら、受けてあげるのが一番よ。フォルトゥーナが今回は参加できないようだし、六聖人が1人いないとダメみたいだから、今回は私も参加させてもらうわ」

「そう言ってもらえると、本当に助かります。でないと、今回の依頼を受ける条件が揃わなくなってしまいますし。仮に、アスピスに六聖人として仕事をしてもらうとなっても、女性が1人に――いえ、その。2人に……」

「えぇ、そうね」

 くすくすと、レイスの失言を笑いながら、シェリスはルーキスの方へ視線を向ける。

「あなたはどうする? 私は参加するけど」

「男が多すぎると、相手がお嬢様だからなぁ。怯えられても困るしなぁ」

 参加はしたいが、状況を考慮すると、躊躇いが出るという感じである。

「でも、アスピスの傍にいたいんでしょ」

 にっこりと微笑みながらシェリスが告げた台詞に、ルーキスが困った顔をしてみせる。

 経験がないので、アスピスには使い魔の感覚というものがまったく分からないのだが、使い魔に関して記された書物によると、初めて仕えた主人に対する執着心というものがかなり強くあるらしい。たとえ、契約を切られていたとしても。新しい主人がいたとしても。初めての主人の存在は、いつまでも心に刻み付けられ続けるそうなのだ。

 そういう意味では、アネモスにも、そういう相手がいるということである。寿命の問題で、生きているかどうか、ものすごく怪しいのだが。

「そういえば、シェリスとルーキスとは、まだ冒険はしたことなかったね」

 シェリスとは、人様の屋敷に忍び込んだ仲ではあるが。冒険はまだしたことがなかった。

「えぇ、そうね。今回が初めての一緒の冒険になるわね。アスピス、よろしくね」

 フォルトゥーナとは違った、大人の美しさというのだろうか。とても綺麗な人だと、改めるようにシェリスを見ながらアスピスは、見惚れてしまう。

「出発は、明日にでもしたいのよね?」

「あぁ。もらった期限は3日以内だからな」

「じゃあ、明日の午前中に出発しましょう」

 行動力は、かなりすごいようである。躊躇いなく、指示してくる。

「ルーキスも、行きたいそうだから。貴族のお嬢さんには悪いけど、いざって時は盾になるし、連れて行ってもいいかしら?」

「それはかまわないが、急な用事で、ロワの方は大丈夫なのか?」

「えぇ。お隣に頼めるから。ちゃんと逆のときもあるし、お互い様って感じで助け合ってるわ」

「ならいいが、ルーキスは他の機会もあるんだし、ロワをちゃんと優先しろよ」

「えぇ、分かってるわ。愛情を注げるのは子供の内ですもの。でも、男の子だもの、たくましく育ってもらわないとね」

 エルンストの心配ももっともだと同意をしつつ、シェリスはやんわりと問題ないことを伝えてくる。

「それじゃあ、ロワを預ける準備も必要だし、明日の朝にここへ来るわ。貴族のお嬢さんの方への連絡はお願いね。急だけど、向こうも急ぎみたいだから、問題はないと思うわ」

「だな。連絡先を教えてもらっているから、手紙を送っておく」

 シェリスの台詞に、エルンストは同意してみせ、連絡を入れておくことを約束した。

 そんな会話を聞きながら、アスピスにできることを考えてみたのだが、やれることと言えば明日を待つだけである。

 しかし、寝るにはまだ少し早いこともあり、本気でハンガーラック1本分の服を買うつもりでいたらしいエルンストが用意しておいたというハンガーラックをもらい、アイテムボックスにそれを入れると、レイスやカロエが買ってきてくれた服をそこに掛けていく。

 やはり、ヒラヒラした服が多いことに、アスピスは疑問を抱く。

(あたしに、ヒラヒラの服って似合わないと思うんだけどなぁ)

 男にとって、未成年の女の子がヒラヒラしている服を着るというのは、なにかのロマンなのだろうか。

 そんなことを思いながら、全部の服を掛け終えると、最後にエルンストが買ってくれたドレスを掛け。その脇にドレスに合わせた靴の入っている紙袋とアクセサリーが入っている紙袋を並べ置き。そして、一番手前にエルンストに買ってもらったお気に入りの服と、その下の方にエルンストがそれに合うだろうと買ってくれた靴を4つ並べていく。

(騎士学校に入ってたころに付き合っていた女性へ、プレゼントしまくってたとか言わないよね?)

 なにげに、センスが良いと思われる品選びに、アスピスは妙な疑問を抱いてしまう。

 しかし、ふと我に返って、寝なければならない時間になっていたことで、慌ててアイテムボックスから出て、アイテムボックスを閉じると、急いで寝着に着替え、ベッドに飛び込んだ。



 いつもより早めに朝食を済ませ、冒険用の装備に着替えて、エルンストにもらったカバンを肩に掛けると、アスピスの準備は完了である。

 コンタクトも、シェーンの気配りのおかげで、目に優しいものになり、支給もしてもらえることになったそうで、遠慮なく毎日使い捨て状態で利用させてもらっていた。

 そして、一階に下りて行くと、既にシェリスとルーキスが到着していることに気が付く。

「おはよう。シェリス、ルーキス」

「アスピス、朝早くからごめんなさいね。まだ子供なのに」

「アスピス、おはよう。今日からしばらくよろしくな」

 子供がいることでアスピスを気遣ってくれるシェリスと、陽気なルーキスの対照的な挨拶に笑みを零しながら、アスピスは一階に到着する。

 これで、全員が揃ったようであった。つまり、アスピスが一番遅かったということになる。

(ちょっと、屈辱かも)

 いつもであったら、レイスの次に早起きなのは、アスピスのはずなのだ。

 しかし、そんなアスピスの苦悩など関係なく、状況は進んでいく。

「じゃあ、今回護衛するピーヴァ伯爵家の令嬢のミュケースを迎えに行くか」

 名前を覚えろよ。という意味を込めて、敢えて詳しく語ったエルンストの含有を、どれだけのメンバーが理解したであろうか。ちょっと怪しく思いながらも、アスピスは『ミュケース』と何度も心の中で繰り返す。

 失礼があっては、ならない気がしたのだ。なんといっても、相手は貴族なのである。

 そう思いながら、貴族の邸宅が並ぶ住宅街へ入って行くと、ひとりの少女がポツンと立っているのに気が付いた。。

「エルンスト、迎えに来てくれたのね。ありがとう。今日から護衛、よろしくね」

 そう告げると、豪華なドレスを身に着けたミュケースと思われる少女は、脇目も触れずに、エルンストの腕に手を絡めてしまう。

 それを見て、他の全員がちょっと唖然としてしまったが、相手は貴族様である。粗相があってはならないと考え、2人の様子を黙って見守りながら、2人の後を追いかける。

 一方、そんなことなど気にもとめていない様子で、絡めた手でエルンストを引っ張るようにしながら、ミュケースは町の入り口へとどんどん歩いて行ってしまう。

 ――早い。

 貴族の令嬢とは、こんなに早く歩くものなのだろうか。

 ペース的に、アスピスにはついて行けない速度であった。そのため、みんなから遅れ始めていたことで、急いでアネモスに乗せてもらう。そこからは、問題なくみんなに付いて行けたことで、無事に王都の入り口を少し出たところへ到着した。

 そこで改めて、アネモスから下りると、エルンストが「馬車を用意しなければならないので」とミュケースの腕を外して、アネモスを連れてアイテムボックスの中へと入って行き、アネモスに牽引具を装着させて、中から馬車を引いてもらう形で、アイテムボックスから出てきた。

「ルーキス悪いが、今回は赤道を走るだけだし、専属で御者を頼めるか?」

「あぁ、任せておけ。つっても、アネモスが頑張るんだよな。アネモス、よろしくな。頼りにしてるぜ」

 エルンストがアイテムボックスを閉じ、自由になった途端、再びエルンストの腕に手を絡ませてしまったミュケースを、エルンストは特に拒むことはせず。常なら率先して行う御者をルーキスに託す。

「じゃあ、乗りましょう。素敵な馬車ね。補強も補整も可能な限りしているみたいだし」

「えぇ、折角買うのでしたら丈夫で長持ちしてもらわないと。それに、乗り心地もよくないと乗りたくなくなってしまいますしね」

 シェリスの台詞に応じるよう、レイスが当然とばかりに笑みを零す。

 そして、アスピスが馬車に近づくと、レイスが両手で腰を持って、アスピスを馬車へ乗せてくれた。

「ありがとう」

 そう告げて、奥の方へ入って行くと、後ろの方でミュケースがエルンストに、今と同じ行為を自分にもして欲しいと強請っているのが聞こえてきた。

(まぁ、エルンスト鍛えているし……)

 150センチも半ばくらいの身長の、スタイルは決して悪くない体形をした16歳の女性を、子供扱いするのには躊躇いがあるのでは? と思いつつ、なんとなく見つめていたら、エルンストはミュケースの望み通りに、腰を両手で掴むと、馬車の中へ入れるよう持ち上げた。

 その際の、ミュケースの笑顔はとても可愛く、嬉しそうであった。

(護衛のときって、こんな感じなのかな?)

 仕事として守らなければならない対象がいるという意味を、アスピスは実感する。

(だとしたら、あたしはなにをすべきなんだろう)

 いつもとは確実に違う空気の中、エルンストやレイス、カロエにシェリスも馬車に乗り込むと、御者役のルーキスが確認を取り、馬車を走らせ始めた。

 今回は、整備された赤道を通っていくということで、道なき草原を走るときは、いくら揺れの少ないよう補強補整されているとはいえ、地面の凸凹などの都合もあって、それなりの振動はあるのだが。今日は馬車の車輪が動いていることによる振動がちょっと伝わってくる程度でほとんど揺れを感じずに済んでいた。

 馬車の動きはとても軽快に感じられる。

 アネモス的には、草原を走るときより、足に負担がかかるだろうが。

 そんなことを考えつつ、馬車の中央へ目線を向けると、レイスとエルンストの間に挟まれるようにして座っているミュケースは、相変わらずエルンストの腕に掴まり、肩に頭を寄りかからせていた。

「アスピス、気になっちゃう?」

「え?」

「ごめんなさいね。今回は、これも仕事の内だから」

 小さな声で脇に座っていたシェリスが、申し訳なさそうに語り掛けてくる。

 それに対して、アスピスは笑顔を向ける他なかった。

「だって、これが護衛っていう仕事なんでしょ?」

「そうね。そうなるわね」

 アスピスの問いに、シェリスは頷くと、アスピスの頭を緩く撫でる。

「今回は、あなたも留守番させるべきだったのでしょうけど」

「え? なんで?」

「だって、退屈でしょ。それに、数日経てばフォルトゥーナも帰ってくるはずだし。それまでの間、王城のあなたの部屋で過ごしている方が良かったのかもしれないわ」

 今更のように後悔をするシェリスは、そっと溜め息を洩らしだす。

「ごめんなさい。こんなこと言っても、もう遅いものね」

 アスピスを混乱させるだけだと気づき、シェリスは子供をあやすようにアスピスの頭を撫で続ける。その意味をアスピスは分からず、ただ心地よさに身を任せるようにしてシェリスの好きにさせていた。



 夕刻になり、馬車を赤道から外れた木の下へ移動させると、そこを野営地として、焚火の準備をエルンストが始めた。

 レイスは夕食の準備を開始する。

 その間、ミュケースは、傍にいたら危険だからという理由で、エルンストから離れた場所に座らされ、すぐそばにシェリスが見張り役として立っていた。

 ここにくるまで、ミュケースはエルンストから一時も離れることはしなかった。また、エルンストもそれを拒むことをしなかった。

 だから、2人が距離を作ったのは、ミュケースと出会い馬車に乗ってからは、これが初めてのことであった。

 そのせいなのか、ミュケースの機嫌はいまいちそうで、膨れっ面をしていた。

(そういえば、今朝以来、エルンストともレイスとも話してないや)

 こんなこと、馬車で移動中にアスピスが眠り惚けてしまったときを除き、無かったことである。

 そう思いながら、レイスに食事の手伝いをするよう告げようとしたアスピスを、ルーキスが留めるように手を伸ばしてきて、アスピスを捕らえてしまう。

「明日は、アスピスも御者席に座ってみないか? 座ったことなんてなかっただろ」

「え? いいの!」

 なんで動きを止められてしまったのかが分からず、戸惑っていたアスピスに向け、まるで提案でもするように告げて来たルーキスの台詞に、アスピスは瞳を輝かせる。

「もちろん。御者席は見える景色も違うから、気分転換にもなるからな」

 そう言うと、牽引具から解放したアネモスと共にアスピスを木の根元の空間に連れて来ると、ルーキスはアイテムボックスから防水シートを取り出して、下に引くと、そこにアスピスを座らせる。

「今日はここで寝るといいよ。アネモス、頼んだぞ」

 そう告げると、ルーキスはシェリスの方へ寄っていき、その代わりという感じでアネモスがアスピスのすぐ脇で横になり、瞼を閉じてしまった。

 気分はお客様、という感じだろうか。

(今日は、見張り番の数に入れてもらえるのかな……)

 期待半分、諦め半分。そんな気分で、エルンストやレイスの動きを見守る。

 そんなことをしていたら、普段は見学者に徹しているカロエが、レイスの手伝いをしていることに気が付いた。

(やっぱり、なにかがおかしいよ)

 アスピスは落ち込むようにして、野営の中央から視線を逸らせるように、アネモスに抱きついてしまう。

(もしかして、レイスやエルンストに話しかけるのも禁止なのかな)

 それで、ルーキスが止めに入ったのだとしたら、頷けるものがあった。

 だとしても、理由が分からなかった。

(護衛って、こんなもんなの?)

 経験がないのでまったく分からないのだが、どこか変だとは感じてしまう。

(そもそも、ミュケースさんって、結婚するためにコージャの町に向かっているんだったよね?)

 それなのに、まるでエルンストの恋人のように振る舞い続けている理由が、アスピスにはまったく分からなかった。

(婚約者に悪いと思わないのかな?)

 結婚を前提とした相手がいながら、どうしてそんな振る舞いができるのか。それが不思議に思えてきてしまう。たとえ、仮に、王城で目にするエルンストのファンと同様に、エルンストに憧れているのだとしても。結婚相手がいるのならば。それも8日後には結婚するというのに、その相手を裏切るような行動を取れる理由が、アスピスには本当に分からなかったのである。

 ただ、なんとなく察したのは、ミュケースが同行している間は、レイスやエルンストと話すことは禁止らしいということであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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