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第50話(ギルドからの依頼1/服を買おう!)

[五十]


 昨日、冒険者ギルドから、訓練場へ毎日通っているカロエ経由で、ギルドへ顔を出して欲しいとの連絡が入ったことで、朝食を済ませた後、前日の騒動を引きずって不機嫌なままのアスピスも連れて、4人は冒険者ギルドへ顔を出す。

 内容によっては、フォルトゥーナやルーキス、シェリスにも声を掛ける予定ではあるが、まずは内容の確認と言ったところだろうか。

 受付窓口にいる女性に声を掛けたところ、すでに話が通っていたらしく、別室に案内されると、そこにはSクラスであるエルンストでも偶にしか顔を合わせる機会のない、ギルドの上位に立つ者が待っていた。

「よう! ひさしぶりだな。お前ら」

 性格は陽気なようで、巨体な髭面の30代も半ばくらいの男性は、エルンストたちに向けて手を掲げる。

「まぁ、そこに座ってくれ」

「久しぶりだな、ピスタ。呼び出してきたってことは、仕事の依頼か?」

 ソファーに腰を落としながら、エルンストは男性の名前を口にしながら、本日の要件を聞き出そうと問いかけていく。

「まぁ、そう急くな。今、茶を用意してもらっているところだ。って、タイミングいいな」

 カラカラと笑いつつ告げたのとほぼ同時に、女性の事務員がノックと共にトレイに湯気の立つカップを乗せて部屋に入ってきたことに気が付いたようである。そして、4人と、ピスタとエルンストが呼んだ男の前にカップを並べていくと、女性は頭を下げて出て行った。

「まぁ、そういうことで。折り入って頼みがあるんだが」

 ギルドの事務員に、どうやら話を聞かせたくなかったということなのか。女性がドアの前から離れていく足音を確認すると、ピスタは身を乗り出すようにして話し始める。

「ギルドが持ってくる話は、ろくなもんじゃねぇからな」

「まぁ、そう言うな。Sクラスが複数名揃っている。しかも、身元が保証されて信用のおけるパーティなんてそうはねぇんだ。頼むよ」

 ピスタは拝む仕草で、エルンストに語り掛けていく。

(まぁ、確かに六剣士2人に六聖人2人の計4人も王国の上位職に就いていて、身元が保証されているメンバーが揃っているんだもんね。そうなると、信用も付いてくる訳だ)

 ここまで王国の上位職が集まっているパーティは珍しいだろう。と、アスピスでさえ思う。

「んで、内容は?」

「赤道で、護衛だ。報酬はかなり弾んでくれている。はっきり言えば破格だ。それに、こちらからの依頼だ、赤道での護衛だが、道中で何事もなくても、通常より功績もそれなりに出してやる。お前らに損はないはずだ」

 エルンストの質問に、ピスタは簡潔に答える。

「ずいぶんと気前がいいな。対象は貴族か」

「あぁ、ピーヴァ伯爵家の令嬢だ。で、名前はミュケース。成人済みの16歳だ。外見も結構可愛いぞ。んで、今回結婚のために、コージャの町の町長ポルソの元へ連れて行って欲しい。結婚の相手は、息子のクシポスだそうだ」

「……なるほどな。報酬額が良い訳だ」

 エルンストはピスタの話を聞いて、若干眉を歪めつつ、得心いったと呟いた。

「正直なところをバラしちまうと、お前らのパーティを護衛役とするよう、お嬢様直々のご指定な訳だ」

「六剣士としてなら分かりますが、よく、俺たちが冒険者ギルドに登録していると知っていましたね」

「は? お前らこんだけ堂々と、騎士学校に入った頃からずっと、出入りしまくってんのに、知られてないとでも思ってたのか?」

「えっ? あ、あぁ……それもそうですね。うっかりしていました」

 珍しく、レイスが他者から指摘されて体裁悪げにしている姿を見つめつつ、やはりカロエと血の繋がった兄弟なのだと、アスピスはこっそり笑みを浮かべてしまう。

 微笑ましいことである。

 そんなことを思いながら、エルンストとピスタの話に耳を傾けていた。

「コージャの町となると、馬車で4日ってところか。貴族が同行となると、休憩を増やすようだから、さらに半日分くらいは軽く増えそうだな」

「そういや、お前ら馬車を買ったそうじゃねぇか。随分と気前がいい真似をしたもんだな」

「都合があったんだよ。それより、貴族を乗せられるような馬車じゃねぇぞ」

「大丈夫だろ。どうせお前らのことだ、金には不自由してねぇから、補強と補整は徹底的にしているんだろ。だったら、下手な馬車をレンタルするより乗り心地がいいはずだ」

「それはそうだが」

 ピスタの台詞に、正直に肯定しつつ、それでも戸惑いをみせるエルンストに、ピスタはあっさりと言い切った。

「馬車なんて、乗れりゃいいんだ。それだったら、形なんかよりも乗り心地のいい方がいいに決まってんだろ。お前らを指名したのは向こうなんだしよ、お前らの流儀で連れて行けばいい」

「分かったよ。馬車はこっちのを使わせてもらう」

「って、受けてくれるって訳だな」

 エルンストの返しに、即座に反応するよう、ピスタは笑みを深めた。

「なにを考えているのか知らんが、情報を受ける前に開示してくるし、俺たち以外に頼む気がないことも言ってくるってことは、色々と好条件を重ねて無理矢理にでも押し付けてくる気だろ。お前のことだ」

「さすが、付き合いが長いことはあるな」

 よくお分かりで。と、ピスタは意地の悪い表情を作ると、エルンストに手を伸ばしてくる。それを、エルンストは軽く音を立てて叩き落とした。

「これで、交渉は成立だ」

「ったく。いつもお前らは面倒な依頼しか持ち込んでこねぇんだから、嫌になる」

「そういうな。利点だってあるんだからよ」

 カラカラと笑うピスタは、エルンストに大きめの封筒を手渡しながら、気軽に語る。

「詳しい内容はそこに書いてある。終了時のサインをもらうのは、依頼書でもいいが、その封筒でも構わねぇ。ただし、一応貴族が関わっているから重要案件になるんでな、王国の上位職に就いているメンバー以外には見せないようにしてくれ」

「分かってる」

 エルンストはあっさり応じると、アイテムボックスを開いて、受け取ったばかりの封筒をすぐにその中にしまい込んでしまった。

「それはそうと、メンバーはこっちに任せてもらっていいんだな」

「六剣士のお前ら2人と、六聖人の内どちらか1人は、必ず入って欲しい。他は、まぁ、任せるよ。そこのお嬢ちゃんもそうとうメチャクチャなことやらかすらしいしな」

 頼もしいこった。と、笑いながら、カップを手にして紅茶を勢いよく飲んでいく。

「って。そういえば、SSランクの聖獣様は、今日はいないのか?」

「ちょっとな」

 本日はリハビリを兼ねて歩いてきたことで、アネモスは家で留守番しているのだ。

 どうやら愛用している毛足の長い絨毯と大きなクッションの上で、アスピスから奪い取った形となるふわふわもちもちの犬型の抱き枕と共に、朝寝をむさぼりたいらしい。

 もし必要になったら、そのとき召喚しろとのことだった。

「かーッ。生で見たかった。つーか、触ってみたかったぜ」

「触らせてもらえるかどうかは、知らんがな。聖獣だけあって、主人第一の、かなり不遜な気紛れ屋だ」

「まぁ、使い魔としては、主人第一はいいことだ」

 なぁ。と、エルンストに向けてにやけた笑みを洩らすピスタは、なにをどこまで知っているのだろうか。なにか見透かされているような気分にさせられる、笑みである。

 子供であるアスピスでさえ、油断ならない人だと思わされてしまう。

 後で聞いたことだが、ピスタとは冒険者一本でSクラスになった、元凄腕の冒険者だそうだ。だからこそ、冒険者ギルドの上位職に就いていられるのだろうが。

「それで、用件はこれで済んだのか?」

「あぁ。出発は三日以内で頼む。10日後には式を上げたいらしいからな。急いで連れてきて欲しいらしい」

「ずいぶんと、急いでいるな」

 ピスタの台詞に、エルンストは嫌そうな表情を浮かべたが、依頼主の指示である。従うしかないと思ったのだろう。すぐに「三日後には出る」と了承してみせる。それを受けて、ピスタが明るく告げてきた。

「六剣士の仕事に関しては、王国管理室の方へこちらから連絡入れておくから。依頼受領中は仕事が入らないよう手配しておく。他の2人も同行するなら、手を回しておくぞ」

「だったら、こいつ。アスピスへの仕事も回さないように手配しておいてくれ」

「お? なんだなんだ。その嬢ちゃん、もう王国管理室の所属になったのか?」

 ほぉぉ。と、感心するようにして、アスピスの方を見つめてくるピスタに、アスピスは戸惑うように視線を外す。

 知られてはならないことまで、ピスタの瞳は、探り当ててくれそうな気がしてしまったのだ。

 でも、さすがにそこまでは至らず済んだようである。

「まぁ、最初の冒険でBクラスになっちまうような娘だもんな。しかもAクラス級の働きをしたそうじゃないか。そりゃ、王国が放っとかねぇよな」

「そんなところだ」

「了解。アスピス嬢ちゃんの分も手を回しておいてやるよ」

「頼んだぞ。他のメンバーに関しては、確認を取ってから、改めて手紙を送る」

「わかった。んじゃ、赤道で行ける町だから、危険は少ないと思うが、相手は貴族だ。よろしく頼んだぞ」

 ピスタがそう言うと、エルンストは「すべきことをするだけだ」と告げ、立ち上がる。それに倣うよう、レイスもカロエも立ったことで、アスピスも急いで立ち上がる。

「なんだ、紅茶くれぇ飲んでいけばいいだろ」

「お前が仕事を入れてきたせいで、急用ができただけだ。これで失礼する」

「俺のせいかよ。ったく、相変わらず愛想がねぇな」

 んじゃ、よろしく~。と、踵を返し部屋を後にするエルンストたちに向け、ピスタは陽気に見送ってみせた。



「んじゃ、オレは上で訓練してくっから」

 部屋を出てすぐ、カロエは親指で上の階を指しながら告げると、その足でさっさと階段のある方へ向かって歩き出す。

「帰りはいつも通りくらいだろうから、夕飯よろしくなー」

 そんじゃあ。と、階段を駆け上がり、他の冒険者と特訓するために、上の階へ行ってしまった。

 その後、冒険者ギルドから外へ出ると、エルンストがアスピスをいきなり抱き上げる。

「レイス、俺たちはこれから用事があるから。悪いが、先に帰っていてくれ。先ほどの件は、今夜にでも話し合おう」

「え? あぁ、そうなんですか。わかりました。では、詳しくは今夜にでも」

「留守は、頼んだぞ」

 エルンストはそう言うと、何事が起ころうとしているのか分からずに驚いているアスピスを抱き上げたまま、レイスに背を向け大通りの人混みの中へと入って行ってしまった。

「どこ行くの?」

「服を買いに行くんだよ」

「だれの?」

 レイスから離れた所までくると、地面に下ろされ、その代わり手を繋いでエルンストと並んで歩く。

 大通りは人が多くて、こうでもしていないと、足の悪いアスピスは頻繁に人波に飲み込まれてしまうのである。

「お前のだろ。休日が返上されちまったからな、ハンガーラック一本分以上は、これから買いまくるぞ」

 妙に力が入っているエルンストに、アスピスは余計なことを言ってしまったと、昨日のことを後悔してしまう。

「そんなにいらないっていうか、対抗心なんかを出すところじゃないでしょ」

「いいだろ。買いてぇんだから」

「無駄遣いしすぎ。これもらったばかりだよ! すごく高いんでしょ」

 手を結んでいる右手とは逆の左手をエルンストに向けながら、注意してみせたのだが、効果はゼロであった。

「これまで節制してきたんだ。好きな奴のために使うくらい、自由にさせろ」

「あのねぁ。あたしこれでも成長期なんだよ。すぐに着れなくなっちゃうでしょ」

「そのときは、また買ってやる」

 だめだ。と、瞬時にアスピスは観念する。

 エルンストの何かに火をつけてしまったようである。

「ところで、お前って好みのブランドとかあるのか?」

「は? なに、ブランドって。そんなもんないよ! 極々普通のお店で十分なんだからね」

「女って、ブランドもん好むって言うだろ」

「知らないよ! そういうことはフォルトゥーナとかシェリスに聞いてよ」

 妙なところで女性扱いするらしいことが、たった今判明してしまった。

「んじゃ、子供用の服を扱っている店にでも入ってみるか」

「もう、好きにして……」

 反論するだけ無意味だと、アスピスは力なく項垂れた。そして、エルンストに引きずられるようにして、エルンストの目についた店へ入って行く。

「……」

 エルンストが選んで入った店内は、とてもヒラヒラキラキラしていた。

「エルンスト! あたしがいつも着ている服、知っているよね? っていうか、今着ている服をよく見てよ!」

 家で着るものよりは、ヒラヒラしているが、持っている中でもおとなしめなものを選んで外出用にしているのだ。

 それなのに。

「女って、ヒラヒラキラキラしてんのが好きなんじゃねーの? 特に子供とかって」

「仮に、買ってくれるっていうなら、もっとおとなしめなのにして!」

 これ以上、アイテムボックスの中をヒラヒラキラキラの服で満たしたくないと、アスピスは必死の思いで主張する。そうすると、意外にすんなりと受け入れられた。

「そっか」

「うんうん」

「でも、パーティ用のドレスは買うぞ」

 ダメだ。分かっていなかった。アスピスの主張が通じたと思ったのは、アスピスの過ちだったと、力なく肩を落とす。

 そんなアスピスを引き連れて、エルンストはパーティ用のドレスが置かれている場所へと向かって行く。

「どんなのがいいんだ?」

「だから、そういうのはもうたくさん持っているんだって」

「そいつらの服を着せたくねぇから、買うっていってんだろ」

「は?」

 どんな言い草だと思いながら、訳の分からない主張をするエルンストを見つめてしまう。

「誰が買ったものでも、着れば同じじゃん」

「買った方としては、全然違うんだよ」

「面倒くさいね、大人って」

 はぁ。と、吐息し、アスピスは店内に飾られている豪華なドレスたちを眺め見る。

「適当に試着させてもらうか。アスピスはどんなのが好みなんだ?」

「あたしに聞かないでよ。っていうか、エルンストはどういうのを着てほしいわけ?」

「あ?」

 仕返しとばかりに訊いてみたら、意外にもエルンストが真面目にドレスを眺めはじめてしまった。

(これは、ちょっと失敗じったかも)

 エルンストが服を買ってくれると言ってきたとき、アスピスは気軽に受け止めていたのだが、エルンスト的にはかなり真剣な事柄のようである。

 アスピスが見守る中、アスピスの髪の色に近いドレスを選び手に取ったかと思ったら、その後も続けて可愛い色のドレスを数枚手に取った。

「これを試着してみろ」

「こんなに?」

「いいから、急げ。一日かける予定が、半日近く他の用事で潰れたんだ」

 命令口調で告げてくるエルンストに、アスピスは渋々従い、渡されたドレスを次々と着てみせた。

「どれがいい?」

 自分じゃ決めかねて、エルンストに訊ねると、とんでもない返事が戻ってきた。

「全部でいいだろ?」

「は? なにそれ。有り得ない」

「ハンガーラック一本分だろ」

「そこは、こだわる部分じゃないでしょ!」

 変な対抗心を燃やしているらしいエルンストを窘めるよう、アスピスはきっぱり言い切る。

「譲歩して、2着。それ以上は却下だからね」

「細かい奴だなぁ」

「エルンストの金銭感覚のが、おかしいでしょ。っていうか。普段だったら、全然普通の金銭感覚しているのに、なんでおかしくなるかな」

「それは、好きな奴へのプレゼントだからじゃねぇの」

「だとしても、狂いすぎ!」

 好き好き言われすぎて、そこを意識するのは止めることにしたアスピスは、思い切りスルーする気分でエルンストに注意する。

「とにかく、この中から2着だけ選んで。それ以上は貰わないからね」

「わかったよ。んじゃ、これとこれか」

「これと、これね」

 最初に選んだアスピスの髪の色と似た色のドレスと赤い色が基調となっているドレスを選んだエルンストにそれを持たせると、アスピスは他のドレスを元に戻しに行く。

(あー。やばい、足が痛くなってきた)

 無理はしたくないなぁと思っていたら、後ろから伸びて来た手に抱え上げられてしまった。

「今日はまだ付き合ってもらうからな。音を上げるのは早すぎだぞ」

「うへ~」

 いつものように抱えられ、会計カウンターに向かったエルンストが、会計を済ませるのかと思ったら、店員に向かって話しかける。

「これに合う靴を教えて欲しいんだが」

「あー。それでしたら、こちらへ」

 店員はにこやかにしながら、エルンストを靴が置かれている場所へ案内すると、それぞれのドレスに合わせて数種類の靴を選び出す。

「アスピス、どれがいい?」

「もう、エルンストが選んでよ」

「なら、そうだな。こっちはこれで。こっちはそれか」

「一度、履いてみてはいかがですか?」

 店員に勧められ、アスピスをイスに座らせられると、ドレスを体に当てる形で、靴を履くこと2回。

「どちらもとてもよく似合ってますね。足のサイズもちょうどよさそうですし」

「なら、このドレスと靴で会計を頼む」

「はい、ではお預かりしますね」

 兄妹かなんかだと思っているのだろう。微笑ましそうに2人を見ていた店員が、エルンストの選んだドレス2着と靴2足を手に、会計カウンターへ戻って行くと、丁寧に包装していく。

「あぁ、そうだ。アスピス、ドレスの下に着る下着なんかは……」

「いらないから! フォルトゥーナにそれは買ってもらってるし、コルセットなんて冗談じゃないっていうか!」

「フォルトゥーナになら、いいか」

 ふむ。と、ひとり納得してみせるエルンストがなにを考えているのかさっぱり分からないアスピスは、エルンストに抱きかかえられた状態で嘆息してしまう。

 そして、やたらに嵩張っている、丁寧にドレスを包んだ布紙と靴をしまい入れた箱が入っている紙袋を、ふたつも渡されてしまったアスピスは、店の端でこそこそとアイテムボックスを開き、それらを中にしまうと、急いで閉める。

 そして、エルンストに抱きかかえられた状態で、次の店に向かって行った。

 次にエルンストが選んだのは、アスピス好みのシンプルな服が置かれている店であった。そのことに安堵しながら、店内を眺める。

 基本は一応女の子である。好みの服を前にすると、目がキラキラと光ってしまう。

 気分としては、あれも可愛い。これも可愛い。あっちも可愛い。こっちも可愛い。となり、どれにしようか真剣に悩む作業が、なかなか楽しいのである。

 そんな思いで店内を眺めていたら、アスピスの視線の方向から、アスピスが欲しいと思っている服がエルンストに伝わっていたようである。

 エルンストは無言のまま、アスピスが目を付けていた4つの服を手に取った。

「これでいいんだな?」

「え? 全部?」

 どれか一着と思っていただけに、エルンストの台詞が意外で、アスピスは素直に驚く。

「気に入ったんだろ?」

「そうだけど……」

 そんな中から一着を選ぶのが、我慢を強いられて、また楽しいのだが。その辺がエルンストには通じないようである。

「さっきは、お前の指示に従ったんだ。こっちの服は手ごろな金額だし、俺の好きにさせてもらうぞ」

「本当に、いいの?」

 正直、自分が気に入った服である。それが全部手に入るのは、嬉しくないわけではない。

「いいから、言ってんだろ」

「うん。ありがとう」

 ここは素直に甘えておこうと、アスピスはエルンストに4着とも買ってもらうことになり、会計を済ませてもらう。

 個別にそれぞれ包装された服が入っている紙袋をひとつ渡され、アスピスは自然と顔がほころんでくる。

「やっぱ、好きなんじゃねぇか」

「そりゃ、好きに決まってんじゃん。エルンスト、ありがとう」

 当然とばかりに応じつつ、素直にお礼を言う。

 すると、エルンストが呆れたような声を出してきた。

「最初から、そう、素直になってればいいじゃねぇか」

「これは、好きだからなの。さっきのは、興味ないからダメなの」

「難しいな。訳が分からねぇ」

「訳が分からないのは、エルンストの方でしょ」

 不満げにぼそりと零すエルンストに向け、アスピスはとんでもないとばかりに言い返す。

「まぁ、いい。気に入ってくれたんなら」

 エルンストは折れるように、そう告げると。服の入った袋を嬉しそうに抱きしめたままのアスピスを好きにさせておき、店を後にする。

 そして、なにを考えたのか、喫茶店に入って行った。

 店内は適度に人が入っていて、その中の四人掛けの席に案内してもらうと、エルンストは、アスピスをイスに座らせる。それと同時に、アスピスは服の入った袋を隣の空席に置かせてもらっていると、エルンストが席に案内してくれた店員に向け自分はホッとコーヒーを、アスピスには果汁100%のジュースと生クリームがいっぱいのパンケーキを注文してしまう。

 エルンストが選んだ品には不満はないが、アスピスに選択権はないのかと言いたい。

 しかし、それも、現物を目の前にした瞬間吹っ飛んで行った。

「アスピス。ちょっとここで時間を潰していてくれ。どうせ、食べるのに時間がかかるだろ」

「ん? うん。それはいいけど」

「俺はちょっと出かけてくる、会計は済ませておくから、ゆっくり食え。用事を済ませたら迎えに来る」

「わかった。ごちそうさま」

 アスピスは、目の前のパンケーキに心奪われ、エルンストにお礼を告げると、フォークとナイフを手に取り、パンケーキを食べ始める。

 そして、なんとかパンケーキと格闘して、半分をようやく越えたころ、エルンストが紙袋を二種類手にして戻ってきた。

 それを、無言で差し出されてしまい、アスピスは首をかしげながらも、押し付けられるまま受け取った。

 紙袋を軽く覗くと、それぞれの袋に、靴とアクセサリーが入っていることが分かった。

「アクセサリーは、ドレスに合わせるように選んでおいた。靴は、お前が気に入った服に合いそうなやつを適当に選ばせてもらった。サイズは合うはずだ」

「えっ?」

「これ以上、動き回るのは無理そうだからな。俺の趣味で悪いが」

 エルンストはそう言うと、アスピスの向かい側に腰を落とし、ぬるくなっているコーヒーを口にする。

「本当はハンガーラック一本分が希望だったんだがな。お前と一緒に買い物するとなると、それは難しいようだからな。今回はこれで譲歩することにした」

「いや、これで十分すぎだから。こんなにいっぱい買ってくれてありがとう!」

「なら、買い物に来たかいがあってよかった」

 ようやくエルンストの笑みを見たような気がする。アスピスの笑みにつられるように、和らかく笑みを零したエルンストに、アスピスはちょっぴり見惚れる。そして、残った分のパンケーキをテイクアウト用のパックに詰め変えてもらうと、エルンストに抱きかかえてもらう形で帰路についた。

 ちなみに、2人が服を買いに行ったと知ったレイスが、翌日、店が開く時間になるとすぐに出ていき、アスピスの服を大量に買い揃えて、アスピスにプレゼントしてくれる。そして、それを見たカロエもまた、速攻で買い物に向かって行き、アスピスに大量の服を買ってプレゼントしてくれたことで、想定外なことに、アイテムボックス内にハンガーラックがもう一本増えてしまったのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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